171.逆矢の回復が危機を招き、酒虫の痕跡が疑惑を深める
鉄華は二環の精霊で、石炭を固めた玉のような形をしていた。
拳ほどの大きさで、全身が真っ黒く、表面には無数の小さな穴が開いている。
ラインが白銀精神力を注ぐと、鉄華は静かに浮かび上がった。
ゆっくりと回りながら、小さな穴から、黒い霧のような鉄粉を含んだ気体を噴き出した。
旋牙百足は、彼の足元でとぐろを巻いていた。
暗金色の背甲は傷だらけで、二列の銀色の鋸歯も、ひどく欠けていた。
気体が流れ寄り、傷を覆った。
すると、傷口が少しずつふさがっていった。
黒い霧のような気体が消費されるにつれ、旋牙百足の両側の鋸歯も、目に見える速さで生え直していった。
治療精霊にも、それぞれ役割がある。
精霊使いを治すもの、特定の傷を専門とするもの、そして精霊そのものを治すものもあった。
旋牙百足にとって、鉄華は治療精霊だった。
一時間後。
鉄華は次第に小さくなり、拳ほどあった体がビー玉ほどに縮み、ついには完全に消え去った。
消耗型の精霊だったのだ。
その消滅と引き換えに、旋牙百足は回復した。
今や、旋牙百足は見違えるようになっていた。
二列の銀縁の鋸歯は真新しく輝き、鋭い冷光を放っている。
暗金色の背甲の傷もほとんどふさがり、浅い傷痕が五、六本残っているだけだった。
この程度の傷痕は、もはや問題にならない。
旋牙百足自身の回復力で、あと数週間もすれば消える。
だが、鉄華がなければ、自力ですべての鋸歯を生えそろわせるには、おそらく半年以上はかかっただろう。
旋牙百足は頑丈だが、しなやかさに欠ける。
精神力の消費が少なく、攻撃力も高いという長所がある一方、回復力は弱点の一つだった。
万物には均衡がある。
あらゆる面で優れた精霊など、この世にはいない。
長所があれば、短所もある。
六環や七環、さらに高い環の聖霊でさえ、この自然の法則に従うのだ。
原初の血も、また同じだった。
「これで、旋牙百足の戦力は完全に戻ったか……」
ラインは手を伸ばし、その冷たい甲殻をそっと撫でた。
だが、顔色はいくらか青白く、額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいた。
「くそっ、よりによって、こんなときに……」
歯を食いしばり、無意識に左手で腹を押さえた。
意識を空界へ沈めると、白銀の霊海は死んだように静まり返っていた。
空界全体に、圧迫する力が満ちている。
ほかの精霊は、すべて片隅で押さえつけられていた。
ただ逆矢だけが、霊海の上、空界の中央に浮かび、黄色と緑の光を交互にきらめかせていた。
今や、その両翼は回復し、胴体も以前よりずっと艶を増していた。
多くの物事では、ゼロから一に至るまでが最も難しい。
逆矢の回復も、同じだった。
最初の遅く困難な段階を乗り越えると、回復はますます速まっていった。
それとともに、問題も生じた。
逆矢は六環だが、ラインはまだ三環の精霊使いだ。
その空界は、次第に逆矢を収めきれなくなっていた。
以前の逆矢は極端に弱っており、空界への負担も軽かった。
だが今、徐々に回復し、六環聖霊の力が現れるにつれ、三環の空界では、ますます耐えきれなくなっていた。
「このままでは、シュタール父娘が真相を突き止めるより先に、逆矢に空界を破られ、ここで死ぬかもしれない!まったく、弱り目に祟り目だ……」
本当の解決策は、一刻も早く修為を高めることだった。
六環の聖使になれば、空界も逆矢を収められる。
だが、それにはあまりに長い時間が必要だった。
前世の五百年でも、六環に達するまでに四百年余りを費やした。
下等資質で、修為もまだ三環にすぎない今、六環まで修行する時間など、到底残されていない。
ほかに、一時しのぎの方法が一つあった。
逆矢を空界から出し、体の外で放しておくことだ。
だが、これにも大きな欠点があった。
まず、逆矢は戦闘用の精霊ではなく、自分を守る力がない。
外に出しておくより、空界に隠しておくほうが、はるかに安全だった。
次に、六環の聖霊が外に現れれば、天地の異象を引き起こす。
一か所に長く留まれば、大勢の精霊使いばかりか、聖使まで引き寄せてしまう。
今は集落の中にいて、人目も多く、シュタール父娘にも目をつけられている。
逆矢を体外へ出せば、ほぼ即座に気づかれてしまうだろう。
ただ、苦しみながら耐えるしかなかった。
(逆矢の回復は、ますます速くなっている。このままでは、残された時間はおそらくわずかだ。コアから四万個の霊石が手に入り次第、泉母蓮を摘み取り、ここを離れる。シュタール父娘については、その場その場で対処するしかない)
ラインは心の中でため息をついた。
シュタール父娘に対しては、何とか時間を稼ぐしかなかった。
だが逆矢は、その時間すら与えてくれない。
すでに追い詰められていた。
一分一秒を無駄にするたび、生き延びる可能性が削られていく。
自らの精霊に命を奪われる精霊使いは、決して少なくない。
無理に精霊を使い、その力の反動で死ぬ例など、いくらでもあった。
遠い例を挙げるまでもない。
アオが、まさに身近な例だった。
……
「化石は六個、どれも拳ほどの大きさ。当時のラインの環位で、どうしてその場で五個も続けて開けられたのでしょう?それだけの精神力が、どこにあったんですか?」
アキラは手紙のその一行を見つめ、得意げに笑った。
レオンはうなずいた。
「ようやく、この疑問点に気づいたか。よい。細かいところにまで目を配ってこそ、常人には見えぬものが見えてくる。だが、ここから、お前は何を推し量る?」
アキラは目を閉じ、ひそかに霊勘を働かせた。
闇の中で、脳裏にひらめきが走った。
勢いよく目を開けた。
「第六感が告げています。ラインは、もっと前から酒虫を持っていたのかもしれません!」
「だが、第六感が誤ることもある。それを証拠とすることはできぬ」
レオンが念を押した。
「証拠なら、簡単に見つかりますよ。ふふ、酒虫を持っているなら、餌を与えなければなりません。餌を与えていれば、必ず痕跡が残ります。行きましょう。もう一度、ライルに会いに。弟なら、ラインのことを一番よく知っているはずです」
……
「兄さんの昔のことを聞きたいの?」
ライルは複雑な表情で、ため息交じりに昔を思い返した。
「兄さんは、昔から優秀だった。幼い頃から才能を見せていて、『天才』と呼ぶにふさわしかったんだ。詩もたくさん書いて、集落中の注目を集めていた。あの頃の僕は、兄さんを尊敬すると同時に、畏れてもいた。僕にとっては、越えられない山みたいな存在だった。高いところから落ちた分、痛みも大きかったのかもしれない」
少し言葉を切った。
その顔には、失望が満ちていた。
「でも、その後の覚醒の儀で、下等資質だと判定されて、長いことふさぎ込んでいた。授業中は居眠りして、夜も帰らず、一日中酒浸りで。それでようやく、兄さんも人間なんだって分かったんだ……」
「待ってください。今、酒浸りと?」
アキラはその言葉を聞き逃さず、目を細めた。
「うん。一時期は、しょっちゅう泥酔していた。はあ、現実が厳しすぎたんだろうな。自分は下等資質なのに、実の弟は上等だったんだから。すぐには受け入れられなかったんだと思う。立場を置き換えて考えれば、僕にも気持ちは分かるよ」
「では、その頃から、ラインは定期的に酒を買うようになったんですか?」
アキラがさらに尋ねた。
「そうだよ。その頃から、兄さんは強い酒を好むようになって、ずいぶんお金を使っていた。一時期は、青竹酒に夢中だったんだ。集落の特産で、とても高い酒なんだよ。学友たちに支給される霊石を好き放題に奪って、酒代にしていた。あれは、さすがにひどかった。学員で、兄さんを好きな者は一人もいなかった」
最後に、ライルは怪訝な表情を浮かべた。
「それに、何か問題があるの?」
「大いにあります。僕は今、お兄さんが酒虫を化石カジノで手に入れたのではなく、それ以前から持っていたのではないかと疑っています。泥酔したり、落ちぶれた姿を見せたりしていたのは、ただの芝居です。本当の目的は、酒虫を手に入れ、餌を与えている事実を隠すことだったんです」
アキラは低い声で答えた。
「何だって?!」
ライルは驚き、椅子から立ち上がった。
思いもよらない話だった。
「今の話で、疑いがさらに深まりました。お兄さんは、普段どこで酒を買っていたんですか?もっと調べなければ」
アキラも立ち上がった。
意欲に満ち、少しも時間を無駄にしたくない様子だった。
「青竹酒を売っている店は、集落に一軒しかないよ」
「では、これで失礼します」
アキラは身を翻し、そのまま出ていった。
「待って、僕……僕も一緒に行く!」
ライルは少しためらったのち、後を追いかけた。
一時間後。
青みを帯びた石畳の通りを歩きながら、アキラは話をまとめた。
「さっき番頭から、詳しく話を聞けました。もう明らかです。ラインが大量の酒を買っていたのは、酒虫に餌を与えるため。そのあとで、わざわざ化石カジノへ行き、酒虫を人前に出しても不自然でない状況を作ったんです。すべて、あらかじめ仕組んでいたことだったんです」
傍らのライルは、魂が抜けたように、ぼう然としていた。
真相がこんなものだったとは、思いもしなかった。
かつて、兄を見下していた時期があった。
ラインは落ちぶれ、自ら堕落しているのだと思っていた。
あのとき、かつては見上げるしかなかった高峰が、ようやく手の届くところに来たと感じていた。
ところが本当は、すべてがラインの偽装と芝居、そして事前の仕込みだった。
周囲の人々は、皆、欺かれていた。
ライル・ローデンも、例外ではなかった。
今にして思えば、兄を見下していたこと自体、ひどく皮肉な笑い話にすぎなかった。
(兄さん……兄さんにとって、僕はいったい何なんだ?酔ったふりをしながら僕を見て、可笑しいとしか思わなかったの?兄さん!そんなに深い思惑を隠していた兄さんの目には、僕は鼻で笑いたくなるほど幼稚に映っていたの?!)
ライルは胸の内で叫んでいた。
羞恥と怒りが、渦巻いていた。
ずっとラインに弄ばれ、幼稚な芝居を演じさせられた、滑稽な役者のように思えた。
ラインに見下されていると感じた。
(兄さん、どうして僕にこんなことができるんだ?!シュタールさんがいなければ、僕はまだ騙されたままだった。いったいいつまで、僕や同族を騙し続けるつもりなの?罪のない人たちをむやみに殺し、人の命なんて何とも思っていない。欺きと嘘、冷淡さと残酷さ。それが、本当の兄さんなの?)




