170.少女は綻びを探り、長老は助力を求める
「ライン長老、ジャック一家を惨殺したというのは、事実か?」
上座から、ハクが重々しく尋ねた。
すべての視線が、ラインへと集まった。
少年長老は冷笑した。
「確かに、事実です」
ライルは沈痛な思いで、目を閉じた。
多くの雷狼を斬り殺してきたが、学堂を出て以来、人の命を奪ってはいなかった。
今、ラインが自ら認めるのを聞いて、自分の実の兄が、まるで知らない人のように遠く感じられた。
そこには、兄の容赦ない手口に対する恐れと、自分まで無実の巻き添えになったことへの怒りが入り交じっていた。
「ライン、罪のない人たちをむやみに殺して、少しも罪悪感はないんですか?何か、やむを得ない事情があるのなら、話してください」
アキラは深く眉をひそめた。
正義感にあふれる少女にとって、ラインのような人間こそ、最も嫌悪すべき相手だった。
「殺したものは殺した。私の事情を、誰かに打ち明ける必要はない。ただ、行方不明のビッグ・ジャックが外道精霊使いだとは、事前には知らなかった。ライルが巻き添えになることも、予想していなかった」
ラインが口にしたのは、すべて事実だった。
「兄さん、僕に何か言うことはないの?」
ライルは目を開けた。
その目の縁は、赤くなっていた。
「何を言えと?慰めか、それとも謝罪か……ふん、弟よ。お前はまだ甘い」
「くっ、兄さん……長老になったからって、偉そうにするな!言っておくけど、僕はもう、三環への突破に挑めるんだ……」
ライルは歯を食いしばり、両拳を握り締めた。
手の甲には、青筋が浮かんでいた。
「もうよい!」
ハクは見かねて、低く叱りつけた。
「ライル、下がれ!この場で騒ぎ立てるとは、何たる無作法だ!」
その言葉には、別の相手への不満も込められていた。
アキラは気づかなかったが、レオンはすぐに察した。
一歩進み出て、拳を掌に合わせ、一礼した。
「ローデンの族長殿、ならびに長老の方々。娘がご一族の議場へ無断で踏み入ったのは、確かに礼を失した振る舞いであった。非礼の段、私よりお詫び申し上げる」
長老たちは慌てて立ち上がり、口々に恐縮の言葉を返した。
ハクの表情も和らいだ。
だが、レオンは続けた。
「しかしながら、こちらの若き長老殿は、ルイス・ベルナーの一件で、いまだ疑いが晴れておりませぬ。私としては、長老殿にはこの集落にお留まり願い、他の集落へ使者として赴くことは、なるべくお控えいただきたいと存じます」
ハクはこめかみを揉み、ため息をついた。
「ローデン一族としても、オスカー殿には、きちんとした答えを出したいと願っております。鉄血探偵殿からそのようなお申し出があった以上、ライン長老、疑いが晴れるまでは、ここに留まってもらうしかない。どうか理解してほしい」
ハクはラインを見た。
表情は誠実だったが、その眼差しの奥は読み取れなかった。
ラインはジャック一家を殺した。
だが、死んだのは、ただの凡人にすぎない。
精霊使いが凡人を殺して、何が悪いというのか?
まして、彼は一族の長老だった。
そのため、一族はこの件でラインに何の処罰も下さなかった。
「はい」
ラインはハクを一瞥し、無表情に答えた。
……
「くそっ、まただ!」
アキラが木の幹を殴りつけると、その衝撃で木の葉が何枚も落ちた。
少女は歯を食いしばり、怒りをあらわにした。
「人を殺したのに、みんな見て見ぬふりです。何の反応も示さない。父上、凡人は人間ではないんですか?どうして精霊使いが凡人を殺すと、誰もが当たり前のことだと思うんですか?」
レオンは傍らに立ち、彫像のように黙っていた。
空はいくらか陰っていた。
風が山林を吹き抜け、木の葉がさわさわと鳴っている。
アキラは不意にうつむき、肩を落とした。
「すみません、父上。父上の言いつけに背いて、霊勘を使ってしまいました」
「はあ……」
レオンは長いため息をつき、深い眼差しを少女へと向けた。
「お前という子は、どこまでも悪を憎み、正義感にあふれておるな。まるで若い頃の私そのものだ。父としては嬉しくもあり、案じずにはおれぬ。」
「何が心配なんですか?」
「お前の理想は、かつての私よりもなお大きい。若い頃の私は、天下の罪人をことごとく捕らえ、断罪塔を埋め尽くそうと志したものだ。だが、お前は誰もが平等で、精霊使いも凡人も分け隔てなく扱われる世を望み、法と道理を天下に行き渡らせようとしておる。その志も理想も、あまりに大きく、あまりに重い」
レオンの言葉には、長い歳月を生き抜いてきた重みがあった。
「でも、父上。公正さや正義が、すべての人に等しく向けられないなら、正義や法に、何の意味があるんですか?少しくらい大それた理想がなくて、若者と言えるでしょうか?努力を惜しまなければ、かなえられる可能性はある。僕は、そう信じています!」
アキラは熱を込めて語り、その目は憧れに満ちていた。
レオンは長い間、黙っていた。
ようやく、口を開いた。
「いずれ分かる日が来よう、アキラ。だが、それもよかろう。若者は己の道を、自らの足で歩むものだ。挫折もまた、人を育てる。父も、もう老いた。これからは、お前に口出しはせぬ。ただ、己の望むままに生きてくれ。それだけが父の願いだ」
そう言って、懐から一通の手紙を取り出し、アキラへ渡した。
「これは――?!」
アキラは手紙を開いて目を通すと、思いがけない喜びに顔を輝かせた。
「これはオスカーからの返書だ。ルイス・ベルナーの一件に関する情報が、すべて記されておる。あの長老殿がかつて化石カジノで何をしたか、いかにして酒虫を手に入れたか。愚直竹という精霊を用いた、長老殿への尋問の経緯。さらには、二度目の行商の折に長老殿が提示した値や、取引で見せた才覚、オスカー・ベルナーから勧誘を受けた事実までな。」
手紙の「ラインの提示額」に関する部分を、アキラは三度繰り返して読んだ。
その眼差しは、熱を帯びていた。
「このラインは、やり口が容赦なく、性格も残酷なうえ、並外れて頭も切れます。第六感では、かなり疑わしい。もし本当に犯人なら、少々恐ろしい相手です。いったい、どんな手を使ったんでしょう?嘘をついても愚直竹が変色しないなんて」
少女はひとりごとを言った。
「さて、次はどう動くつもりだ?」
レオンが尋ねた。
「ルイス・ベルナーの事件からは、かなりの時間が経っていますし、不審な点ばかりです。いまだに遺体も見つからず、事件の起きた場所すら推測できません。この事件は、あまりに綺麗で、どこから手をつければいいのか分からない。手がかりと呼べるのは、最大の容疑者であるラインだけです」
アキラは、意欲に満ちて答えた。
「今は、ビッグ・ジャックの線も途切れていますし、ラインがルイスを殺したと示す証拠もありません。でも、ほかに調べる相手がいない以上、第六感を頼りに、まずあの人を調べるしかありません!」
「あのラインに、疑わしいところがあると見ておるのか?」
「疑わしいところだらけです!」
アキラは即座に答えた。
「下等資質しかないのに、どうして修為の伸びがライルより速いんですか?酒虫や仏舎利の助けがあったにしても、あまりに速すぎます。ローデン一族は不自然さに気づいていないのかもしれませんが、外から見れば、これは疑問の残る点です」
少し間を置き、続けた。
「ほかにも、二つ目の疑問があります。運のよさです。生まれて初めて化石カジノで石を買い、六個の化石から、生きた精霊を二体も引き当てています。一体は翠玉蝶、もう一体は酒虫です。あまりに運がよすぎませんか?」
レオンはうなずいた。
「うむ、続けよ」
「このラインは、一見すると普通なのに、掘り下げるほど山の濃霧のように謎めいてきます。何気なく見せた細かな部分にも、じっくり考えるべき点がいくつもあります。たとえば、化石を開く手法もそうです。遠距離攻撃を得意とする月印を直接使い、化石を少しも傷つけていません。まだ学堂すら出ていない学員に、そんな精密な制御ができるとは、とても考えられません……待って!」
アキラは不意に何かに気づき、言葉を止めた。
その眼差しが、鋭くなった。
手紙の一行を見つめ、長い間、目を離さなかった。
「綻びを見つけました。このラインは、やはりひどく怪しい!」
しばらくして、勢いよく顔を上げ、興奮して叫んだ。
……
湯気とともに立ち上る茶の香りが、書斎に広がっていた。
ラインはゆったりと茶碗を持ち上げ、浮かんだ茶葉に息を吹きかけた。
熱い茶を一口飲み、それから悠然と息を吐いた。
コアは、そのくつろいだ様子を見ながら、懸命に堪えていた。
こめかみには、青筋が脈打っていた。
先にラインが途方もない額を要求したときは、怒りのあまり追い出した。
だが今日、また自分から招かねばならなかった。
情勢に迫られ、ほかに道はなかった。
薬堂は一歩一歩迫っており、自分の修為が二環に落ちたことも、いずれ露見する。
コア派閥は危機に瀕していて、一刻も早く長老に婿入りしてもらう必要があった。
人々の心をつなぎ留めて初めて、派閥を安定させられるのだ。
(ラインの小僧め、実に忌々しい。あんな額をふっかけおって、このコア派閥には毎日、大量の霊石が転がり込むとでも思っておるのか?)
コアは心の中で激しく罵りながら、顔には穏やかな笑みを作り、交渉を持ちかけた。
「ライン長老、提示された額は、いくら何でも高すぎる。コア派閥が負担できる限度を、はるかに超えておる。もう少し、下げてもらえぬか?」
ラインは彼を見た。
この老人は、強く出ることも、頭を下げることもできる。
その点は、敬意を払うに値した。
実のところ、ライン自身の状況も、悪化し続けていた。
シュタール父娘は、彼を追い詰めつつある。
ルイスを殺した犯人だと判明すれば、ローデン一族は必ずラインを引き渡す。
ベルナーの怒りを鎮め、ベルナー商隊との毎年の交易を確保するためだ。
そろそろ、頃合いだった。
ラインは口調を和らげた。
「なら、三割下げよう。ただし、条件が一つある。まず霊石四万個を前払いし、それから鉄華を一体、天癒草を一株、渡してもらう。それでこそ、誠意が伝わるというものだ」
コアは思わず眉間を揉み、低い声で言った。
「鉄華は先に渡せる。だが、天癒草は、このコア派閥の蔵には本当にない。霊石四万個も、すぐには用意できぬ。分割で渡すしかない」
この古狸が本当のことを言っていないと、ラインには分かっていた。
だが、これ以上追い詰めれば、かえって逆効果になることも承知していた。
「いいだろう。まずはその約束を果たしてもらい、それから婚約の話をしよう。それまでも、議会では意思を示しておく」
そう言い残し、ラインは去った。
書斎は静まり返った。
長い間が過ぎてから、コアが不意に口を開いた。
「出てきてよいぞ」
隠し扉が開き、一人の少女が姿を現した。
両目は泣いて赤くなり、顔にはまだ涙の痕が残っていた。
リリア・ローデンだった。
「お祖父様」
少女は一礼した。
コアは長くため息をついた。
「派閥の状況は、お前もよく分かっておるな。リリア、一族のために、犠牲を払ってもらわねばならん。分かってくれるか?」
「はい」
少女は声を詰まらせ、うつむいた。
どの世界であろうと、得るだけで何も差し出さずに済む取引などない。
ラインでさえ、長老として一族に多くの力を貸してきた。
ただ、何をどれだけ差し出し、何をどれだけ得るかは、人によって異なる。
恵まれた生まれの若者たちが享受する権利も、無償ではない。
一族に育てられた以上、尽くし、犠牲を払う覚悟をしておかねばならなかった。
リリアには、とっくにその覚悟があった。
ラインへの愛情など欠片もなく、むしろ嫌悪し、憎んでさえいた。
だが、分かっていた。
一族のために、自分はあの男と結婚しなければならない!




