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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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16/28

16.酒飲の遺産、ことごとく手中に

「その手を動かしてみろ」

「お前はすでに、俺の精霊、毒血酒(どくけつしゅ)に侵されている」

「カ、カイ様に比べれば、私など何ほどの者でもありません!」

岩壁に浮かぶ映像は、そのまま二度目の再生へ入った。


ラインは何も言わず、黙って見ていた。

そして映像が三度目の再生を始めたところで、ようやく小さく息を吐く。

「……なるほどな」


映像と音声を岩壁へ残しているのは、おそらく酒飲のカイが仕掛けた記録の精霊だろう。


この精霊には、周囲の映像や音を記録し、それを繰り返し映し出す力がある。

記録の精霊は光と音を餌にして生きる。

なぜかこの洞窟の奥には、絶えず赤い光が満ちていた。

それに、岩の裂け目は外と繋がっている。

外の音も完全には遮られない。

今もラインの耳には、小さな滝の轟音が絶えず届いていた。


そのおかげで。

記録の精霊は三百年以上もの間、この岩壁の奥で生き続けることができたのだろう。

先ほどラインが枯れた蔓をどかしたことで。

岩壁の中に隠れていた記録の精霊を刺激し、映像が再生された。


少し考えれば。

この映像が本物であることは、ほぼ間違いない。



三百年以上前。

四代目族長は酒飲のカイを陥れようとして失敗し、戦いにも敗れた。

そのあと不意を突いて月影を使い。

酒飲のカイを追い払うことには成功した。


だが、その代償として、自分自身も命を落とした。

一族にとっては、到底誇れる話ではない。

生き残った長老たちはそこで歴史を書き換えた。


四代目族長と酒飲のカイ。

二人の立場を、ほとんど入れ替えてしまったのだ。

酒飲のカイは敗北した末に不意打ちを仕掛け、その場で討ち取られた卑劣な外道。

四代目族長は一族を守るために命を捧げた英雄。

そういう話へ。


しかし、その作り話には、大きな穴が一つあった。

もし酒飲のカイが本当にその場で殺されたのなら。

遺体はローデン一族の手に残っているはずだ。

では、なぜ後になって、別の場所から酒飲のカイの遺骨が見つかる?


おそらく、前世でこの洞窟を見つけた精霊使いもこの映像を見た瞬間に気づいたのだろう。

一族で語られている歴史と目の前の映像がまったく違うことに。

そして恐れた。


当時の長老たちは、とうの昔に死んでいる。

それでも、酒飲のカイが生き延びていた可能性に備え。

本当の経緯は、一族の上層部にだけ秘密として伝えられていた可能性が高い。


もしこの遺産を自分一人で隠して持ち帰る。

そのあと何かの拍子に、自分と酒飲のカイの遺産との関係が知られれば。

一族の上層部から疑われる。

場合によっては、口封じのために処分されることさえあり得る。


そう考えたからこそ。

あの精霊使いは独り占めを諦め、遺産の発見を一族へ報告した。

結果として、彼は一族への忠誠を示したことになり。

その後も十分な褒美を受けた。


そう考えれば。

確かに、賢い選択だったと言える。

だが、それはあの精霊使いの選択だ。

ラインの選択ではない。


(せっかく自分で探し当てた遺産だ)

ラインは冷たく笑った。

(なぜ他人と分ける必要がある?)

(知られたら知られたで、そのとき考えればいい)

(危険を避けてばかりで、大きな利益が手に入るものか)

(あの精霊使いは、ずいぶん慎重だったんだな)


岩壁では、まだ同じ映像が繰り返されている。

ラインはもう興味を失っていた。

振り返り、枯れた蔓と根を掴む。

そして一気に引き剥がした。


ばきっ。

乾いた根が裂け。

その下に埋もれていた酒飲のカイの白骨も一緒に崩れた。

長い年月が経っていたとはいえ。

それまではある程度まとまった形を保っていた骨が。

いくつかに分かれて散らばる。


ラインは気にも留めなかった。

邪魔だった脚の骨を足で横へ押しのけ。

その場へしゃがみ込む。

遺産を探し始めた。


まず見つけたのは、小さな袋だった。

開けてみて、中には霊石が十五個。

「……少ないな」

ラインは思わず呟いた。

五環精霊使いとして悪名を知られていた酒飲のカイ。

その遺産が霊石十五個。

あまりにも少ない…


だが、すぐに理由へ思い至った。

四代目族長との激戦。

さらに、何人もの長老との戦い。

そのうえ、最後には月影に侵されている。

この洞窟へ逃げ込んだあと。

酒飲のカイは当然、霊石を大量に使って身体を立て直そうとしたはずだ。


そう考えれば。

十五個残っているだけでも、むしろ多いほうかもしれない。

続いて、いくつかの精霊の死骸も見つかった。

ほとんどが植物の姿をした精霊だった。

すでに完全に枯れ果てている。


精霊も生き物だ。

当然、餌が必要になる。

しかも、精霊の多くは、食べるものをかなり選ぶ。


植物型の精霊は比較的育てやすいものの。

この洞窟には、まともな日光すら届かない。


さらに探す。

その先にはもう何もなかった。

酒飲のカイはまず四代目族長と戦った。

そのあと、さらに十人近い長老を相手にしている。


その時点で手持ちの精霊の多くを失っていたのだろう。

この洞窟へ逃げ込んだあと、

傷を癒すために酒花と米袋草を育て、

酒と食料を確保しながら、生き延びようとした。


だが、結局は月影の影響から逃れられず。

ここで死んだ。


三百年以上が過ぎ。

酒飲のカイが最後まで持っていた精霊もほとんど全部死んだ。

残ったのは、岩壁の中に潜む記録の精霊と酒虫だけ。


酒虫は、おそらく酒花が生み出す酒を飲みながら、長い間、どうにか生き延びていたのだろう。

だが酒花も一本ずつ枯れていき。

ついには餌がなくなった。


そのため、酒虫は外へ出て。

野生の酒花か、それに代わる酒を探すようになった。


そして今夜、青竹酒の強い香りに誘われ。

ラインの前へ姿を現した。


(記録の精霊は、一度記録した内容しか残せない消耗型か)

(そう考えると……)

ラインは少し考える。

(今回の最大の収穫は、やはり酒虫だな)

(前世のあの精霊使いが、一族へ報告した理由も分かった)

(得られる利益が小さかったんだ)


記憶の中にはこの場所を発見した精霊使いは、その時点ですでに三環。

それに対して、酒虫は一環精霊にすぎない。

今のラインにとっては非常に価値が高い。

三環精霊使いにとっては、わざわざ一族を敵に回す危険を冒してまで隠すほどのものではなかったのだろう。

それなら、正直に報告して褒美をもらうほうが得だ。


(私も報告するべきか?)

ラインは一瞬だけ考えた。

そして、すぐに却下した。


酒飲のカイが残したもの。

表面だけ見れば、

酒虫、霊石十五個。

それだけだ。


しかし、本当に価値があるものは別にある。


この岩壁だ。

正確には。

岩壁に繰り返し映し出されている、あの映像。


四代目族長の真実。

ローデン一族が数百年にわたって語り続けてきた英雄譚を。

真正面から否定する証拠。


ほかの一族へ売れる。

ヴェルデン山にいる、残り二つの一族。

その上層部なら、ローデン一族の威信を傷つけられるこの証拠に、十分な価値を見出すはずだ。

払う金額も、ローデン一族がラインへ与える褒美より、ずっと高くなる可能性がある。


一族の名誉?

帰属意識?

(悪いが)

ラインは心の中で笑った。

(私には、そんなものはない)


そもそも、この映像だけでローデン一族そのものが崩壊するわけではない。

四代目族長の評判が傷つき一族の歴史に泥がつき、

せいぜい、その程度だ。

実際の戦力を削れるわけではない。


そして、今のローデン一族は、

下等資質になったラインへ、それほど多くの資源を回すつもりもない。


自分で探すしかない。

自分で奪うしかない。

自分の修練に必要なものは。

自分で手に入れる。


(今さら一族を頼る?)

ラインは冷たく笑った。

(前世と同じ失敗をするつもりはない)


誰かが与えてくれるのを待つ。

そんな生き方は。

もうしない。


この世界で欲しいものがあるなら。

最後に頼れるのは自分だけだ。


洞窟の中をもう一度確認する。

使えそうなものはすべて回収した。


ラインは来た道を戻ることにした。

狭い岩の裂け目へ身体を入れ。

冷たい水の流れに逆らいながら進む。


やがて、白い水の幕を抜け、大岩の外へ出た。

夜の山。

冷たい空気。

ラインは一度、大きく息を吸った。


そして振り返る。

目の前にある大岩。


その奥には。

酒飲のカイの遺骨と三百年以上前の真実が眠っている。


ラインはふと思った。

前世で聞いた話では、

酒飲のカイの遺骨は「地下の隠し洞窟」で発見されたことになっていた。

だが。

ここは地下ではない、山の内部だ。

それも、かなり高い場所にある岩壁の中。


(なるほど)

ラインはようやく納得した。

(だから見つからなかったのか)


一週間以上。

村の周囲を探し回っても。

地下へ続く洞窟ばかりを意識していれば。

ここへ辿り着くはずがない。


そして前世この場所が発見されたあと。

ローデン一族は、おそらくすぐに動いた。

記録の精霊を処理したか。

あるいは、映像を映すこの場所そのものを壊した。


そのうえで本当の情報と嘘を混ぜた話を流し。

一族の者たちが真実へ近づかないようにした。


そう考えれば。

すべて辻褄が合う。

今夜ここを発見できたのは。

一部は運。

一部はこの一週間以上の探索で、候補となる場所を少しずつ潰してきた結果。

だが、最大の理由はやはり青竹酒だろう。

あの香りの強さはヴェルデン山でも、そうそう見つからない。


もしかすると。

前世であの精霊使いが失恋して酔いつぶれたとき。

飲んでいた酒も青竹酒だったのかもしれない。


もっとも、今となっては、どうでもいい話だ。

酒飲のカイの遺産が期待していたほどではなかった。

それも当然だった。

三百年以上も放置されていたのだ。


それでも、最初から狙っていた酒虫は手に入った。

さらに、今もっとも必要としていた霊石も十五個手に入った。

十分だ。


(次は、宿に籠もって本源精霊の錬化だな)

ラインは歩き出した。

(酒虫を本源精霊にできれば、学堂へ戻れる)

(そうなれば、生徒用の寮も使えるようになる)

(あとは一族の設備や資源も利用しながら、修練を進めればいい)


宿屋は数日泊まる程度なら問題ない、

だが、長く暮らす場所ではない。

金がかかりすぎる。


ラインは足を止めることなく。

村へ向かって歩き続けた。

もともと持っていた霊石は二個。

そこへ。

新たに十五個、合わせて十七個。


だが、

精霊使いにとって。

霊石十七個など、決して多いとは言えなかった。

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