148.秘密を握って加担を強い、大義を掲げて職権を奪う
コア・ローデンの胸は重かった。
ラインを取り込もうと考えながら、その資質を理由に手を引いていた。
ところが今、長年の政敵であるカルが、すでにラインと繋がっていた。
種々の兆候からは、一年以上前からラインに投資していたとさえ考えられた。
今、その投資が実を結び、カル派閥には、極めて若い長老が一人加わった。
これで気が重くならずにいられるだろうか?
ただ、その重苦しさとは別に、疑問もあった。
二人は学堂を出た頃から、何かにつけて張り合い、対立してきた。
カルのことなら、好きな下着の色まで知り尽くしているほどだった。
いつものカルなら、とっくに得意になり、コアへ侮蔑と自慢の入り交じった目を向けているはずだ。
だが、目の前の男は陰鬱な顔をしている。
まるで、大損でもしたようだった。
あまりに奇妙だ!
カルとラインの間に、いったい何があったのか。
どんな取り決めを交わしたのか。
コアには、いくら考えても分からなかった。
(このラインめ、何という怖いもの知らずだ。よくも、わしを脅したな!)
カルの胸には、驚きと怒り、そして疑問が渦巻いていた。
昨夜、ラインはひそかに訪ねてきた。
そして「メル・ローデンの資質を偽っている」という秘密を突きつけ、面と向かって脅してきたのだ。
(くそっ!この秘密を知っているのは、わしとメルだけのはずだ。よそ者のあいつが、いったいどこから嗅ぎつけた?!)
メルの資質は、下等でしかない。
カル派閥全体の利益のため、カルは危険を冒し、中等資質に見せかける不正を働くほかなかった。
発覚すれば、カル派閥はかつてない打撃を受ける。
派閥の長自らが不正を働けば、人々の信用を失う。
ほとんど身の破滅に等しかった。
しかも、後継者の資質が下等しかないとなれば、派閥全体が政治的な将来性を失う。
そんな勢力に身を寄せる愚か者が、どこにいる?
ラインがこの秘密を握ったことは、そのままカル派閥全体の弱みを握ったことを意味していた。
あのとき、カルは危うく手を出し、ラインを口封じに殺すところだった。
だが、どうにか堪えた。
ほかに誰が知っているのか。
ラインが誰に話したのか。
どこかに手紙のような証拠を残しているのか。
何一つ、分からなかったからだ。
(ひとまず要求に応じ、事情を探る。それから始末する。この災いの種は、決して生かしておけん!)
それが、当時の考えだった。
だが、その後、ラインは三環の環階を露わにした。
カルは驚き、疑いながらも、妥協へ方針を変えるしかなかった。
そもそも、確実に殺せるかどうかも分からない。
三環同士が戦えば、その騒ぎを他人に隠すことは難しかった。
三環は、すでに長老なのだ。
一族の法に照らせば、長老殺しは資質の不正と同じほど重い罪だった。
発覚すれば、カル派閥の崩壊を宣告されたも同然だ。
ラインと決裂しても、カル派閥には何の利益もない。
それに引き換え、危険はあまりにも大きかった。
(弱みを握られたとはいえ、一つの秘密をともに守るのなら、それも一種の結束ではある……)
結局、そう自分をごまかし、慰めるほかなかった。
ラインの脅しは、あまりに突然だった。
どれほどの備えを残しているか分からず、不満を呑み込んで受け入れるしかなかったのだ。
そして今、ラインは何の恐れもなくカルを押し出し、自分への攻撃を引き受けさせている。
火の上に載せ、炙っているも同然だった!
分かっていても、どうしようもなかった。
そのとき、ラインがゆっくりと口を開いた。
「メディシン、お前が不満なのは分かる。そうだな、中等資質の孫娘は死に、死体さえ残らなかった。薬堂には後継者がいなくなり、ほかの家系へ引き継がせるしかない。それなのに、下等資質の若造である私が三環へ進んだ。腹が立ち、気に入らず、私に八つ当たりしたくなるのも理解できる」
「何ですって?!」
メディシンは目を見開き、怒りを抑えられなかった。
「この小悪党、よく聞きなさい。クスリは死んでなどいません!」
ラインは声を上げて笑い、どうでもよさそうに肩をすくめた。
「死んでいようといまいと、私に何の関係がある?メディシン、私に念を押す必要はない」
「だが!」
そこで、ラインは急に話の矛先を変えた。
「孫娘を捜すために人員を動員し、膨大な人手と物資を費やしたことは、私にも関係がある。ここにいる長老方にも、族長様にも関係がある!
皆がお前を信頼したからこそ、薬堂を任せた。それなのに、何をした?薬堂の治療精霊使いを孫捜しに送り出し、負傷した者や、体が不自由になった一族の者たちを放り出した。あまりに私心が過ぎる!
クスリが犠牲になったことは、確かに一族の損失だ。だがお前は、さらに損失を広げている。薬堂長老を務める資格などない!」
言葉の一つ一つが、メディシンの胸を抉り、痛いところを突いていた。
しかも、その非難には道理があった。
少なからぬ長老が、ひそかに眉をひそめた。
どの家系も、負傷した精霊使いを抱えている。
治療精霊使いがひときわ貴重な時期に、本来の務めを放り出させ、実の孫娘を捜すため、勝手に人員を引き抜いていたのだ。
さすがに度が過ぎていた。
「あなた……あなたは!」
メディシンは全身を怒りに震わせ、ラインを指さした。
言葉が続かなかった。
目は火を噴きそうなほどで、今すぐ、この憎い小僧の首を絞め殺してやりたかった。
ラインは冷ややかな目で、怯むことなく見返した。
彼女が使った手を、そっくりそのまま返しているのだ。
先ほどメディシンは大義を掲げ、長老たちに昇環の秘密への興味を抱かせ、その勢いで圧力をかけた。
今はラインが道理を語り、一族の規則を守る立場に立っていた。
長老たちは、知らず知らず、その主張を擁護する側へ回る。
長老にとって、組織の規則を守ることは、そのまま自分の利益を守ることだった。
メディシンのここ数日の行動は、確かに彼らの利益を侵していたのだ!
(このラインめ……ろくでなしが!本当に、ろくでなしめ!)
メディシンは怒りに震えていた。
だが、カルもまた、怒りで頭が沸騰しそうになっていることなど、知るよしもなかった。
ラインは、これでもかとメディシンを敵に回している。
憎まれるのは、本人だけでは済まない。
彼が「身を寄せた」カル派閥まで、八つ当たりを受けかねなかった。
だが、カル派閥は、本当に巻き添えに過ぎない!
カルとて、馬鹿ではない。
何の理由もなく、誰より顔が広く、最古参でもあるメディシンを敵に回すものか?
カルは思わず身を縮め、胸の内で祈った。
(わしに目を向けるな!全部ラインが勝手に考えたことだ。カル派閥には、一切関係ない!)
だが、ラインの次の一言が、その願いを粉々に砕いた。
ラインは不意に族長ハクへ向き直り、申し立てた。
「族長様、メディシンに今後も薬堂を取り仕切る能力があるのか、強い疑念を抱いております。薬堂長老の職を一時解き、改めて審査することを提案します。
一族の治療精霊使いは、一人一人が貴重な存在です。このように力を浪費させることは、決して許されません。さもなければ、その犠牲になるのは、一族のために命を懸け、血を流し、勇敢に戦っている精霊使いたちです!」
一拍置き、付け加えた。
「この提案には、カル長老も強く賛同してくださっています」
「何ですって?!」
メディシンの瞳孔が縮み、顔色が一変した。
「何だと?!」
長老たちも、大いに驚いた。
カルがこれほどはっきり態度を示すということは、前々からメディシンに不満を抱き、薬堂の膨大な利権へ手を伸ばしたがっていたということなのか?
「何だと?!」
当のカルに至っては、席から飛び上がりそうになった。
怒らずにいられるはずがなかった。
ラインのせいで、頭がおかしくなりそうだった!
このろくでなしは、自分だけでメディシンを敵に回すのでは飽き足らず、カル派閥全体まで引きずり込もうとしている。
これまでずっと、薬堂とは親しく協力し合う姿勢を取ってきた。
その長年の努力が、ラインの一言で台無しになった!
露骨な濡れ衣だ。
しかも、当事者本人を前に、公然と嘘をでっち上げている!
それなのに、カル派閥を率いる身でありながら、このろくでなしに弱みを握られ、なすすべもなかった!
「ほう、カル長老も、同じ考えなのか?」
ハクの目が光り、問いが投げかけられた。
カルは歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がった。
首をこわばらせ、決してラインへ目を向けなかった。
見れば、怒りを抑えられなくなりそうだった。
ここまで来ては、ラインをどうすることもできない。
強く頷き、噛み締めた歯の間から言葉を絞り出した。
「メディシンを解任せよというのは、ライン個人の意見に過ぎん。今はウルフウェーブのさなかだ。突然の交代は、適切ではない。だが、メディシン殿が私情に流され、治療精霊使いの力を私事に費やしすぎているとは、わしも思う。その力を本来使うべき場所へ向ければ、一族の損失を大いに減らせるはずだ」
その言葉を口にするのは、血を吐くような思いだった。
もちろん、全面的にラインへ同調するつもりなどない。
カルにも、守るべき利益がある。
この発言は、ラインとメディシンの間で、できる限り均衡を保とうとした言葉だった。
だが、言い終わるや、鈍い音が聞こえた。
振り返ると、激昂のあまり息を詰まらせたメディシンが、仰向けに倒れていた。
(しまった!これでメディシンを、完全に敵に回してしまった!)
カルは、氷穴に突き落とされたように、胸の内まで冷えきった。
「メディシン様!」
「誰か、早く診て差し上げろ!」
「気を失っただけです。問題ありません。メディシン様は三日三晩も休んでおらず、心身ともに疲れ果てています。十分な休養が必要です」
ひとしきり騒然とした後、広間はようやく静まった。
メディシンは、担架で運び出された。
もとから高齢の身で、連日の奔走に心身をすり減らしていた。
そこへラインとカルが、立て続けに追い打ちをかけたのだ。
持ちこたえられるはずがなかった。
「メディシン殿は長年薬堂を取り仕切り、働き詰めで疲れきっておる。休ませるのは、ご本人のためでもあろう。今は意識が戻らんが、薬堂は一日たりとも、取り仕切る者を欠くわけにはいかん。ここは、ラインに引き継がせることを提案する」
カルが、不意に言った。
席の前に立ち、メディシンが運び出されるのを見ていた。
その目に、冷たい光が走った。
敵に回したのなら、もう徹底するしかない。
こうなれば、このまま押し通す!
薬堂の反撃を防ぐためにも、いっそ先に押さえ込んでしまうのだ。
これが、権力者たる政治家の老練さと決断だった。
広間に、短い沈黙が落ちた。
クスリが死に、メディシンも倒れた。
薬堂の一派の衰退は、もはや避けられなかった。
政治の残酷さは、ときにウルフウェーブよりも非情だった。
ラインも、口を開かなかった。
(私を薬堂長老に?ふふ、カルはただ口にしてみただけだ。族長もほかの長老も、よほど頭がどうかしていない限り、こんな重要な役職を、新参の若い長老に任せるはずがない)
カルがわざわざそう言ったことには、別の意図があった。
案の定、次の瞬間、ハクが口を開いた。
「薬堂は、当面ラゼル長老に任せる。ラインの環階は、確かに三環に達している。一族の法に従い、ここに正式に長老へ任ずる。この知らせを伝えよ。強大な戦力が一つ加わったことを、一族の皆で喜ぶのだ」
そう告げると立ち上がり、袖を翻して去っていった。
「おめでとう、おめでとう……」
族長が去った後、長老たちは次々とラインの前へ歩み寄った。
満面の笑みで、祝いの言葉をかけてくる。
ラインも一人一人に一礼し、笑顔で応じた。




