147.三環の地位で渡り合い、証言を借りて形勢を覆す
「本当に三環へ進んでいたとはな」
「三環の気配は本物だ。白銀精神力もある。間違いない」
族長邸の広間には、厳粛な空気が漂っていた。
上座には族長ハクが座り、長老たちは左右に分かれて席に着いていた。
席の間から、低い話し声が聞こえる。
十数人の長老の視線は、堂々と顔を上げて立つ一人の少年へ注がれていた。
ラインだった。
「三環へ進んだのが、まさかラインとはな」
「この目で見なければ、信じられなかった……」
「考えてみれば、それほど突然でもない。赤鉄仏舎利を二体も手に入れていたことを、忘れたのか?」
「そうだな、仏舎利が二体だ。環位を無理やり押し上げたようなものだろう。当時の修行を思い返すと、まったく……」
長老たちは驚き、同時に疑問を抱いていた。
突然突きつけられたこの事実に、誰もが少なからず戸惑っていた。
(あのラインが、三環の精霊使いになるとは!たかが下等資質で、これほど短い間にここまで来るとは、実に意外だ)
左列の筆頭に座るコア・ローデンは、胸の内で感嘆していた。
二、三年前、まだラインが学堂に通っていた頃のことを思い出した。
ラインは、コアの家の使用人を一人殺していた。
その使用人の名は、もう覚えていない。
だが、ラインが亡骸を箱に詰め、ひそかに屋敷の裏口へ置いていったことは、よく覚えていた。
脅しであると同時に、友好の意思を示してもいた。
そのやり方が、強く印象に残っていたのだ。
あの日から、コアはラインに一目置くようになった。
ただ、下等資質という限界がある以上、大きな期待までは抱いていなかった。
それが、ここまで来るとは!
一族の制度では、精霊使いが三環に達すれば、新たな長老となる。
長老が一人増えれば、既存の政治的な勢力図も、必ず影響を受ける。
(先に味方へ引き入れておけば、この新たな力を利用して、一族内の政治闘争で優位に立てただろうに。惜しいことをした……)
そう思い、コアは向かいへ目をやった。
長年のライバルであるカル・ローデンが、右列の筆頭に座っていた。
その顔は陰鬱で、目には、何を考えているか読み取れない暗い光が浮かんでいた。
(このラインには、必ず何か秘密がある。赤鉄仏舎利が二体あったとしても、三環へ進むのがあまりに早い。アオやライルさえ上回る速さだ)
ハクも、ひそかに考えを巡らせていた。
養子のアオを思い出し、胸の内でため息をついた。
まだ生きていれば、今頃は三環へ進んでいただろうに。
だが、現実はいつも残酷だった。
「薬堂長老、メディシン・ローデン様のお着きです!」
入口に控えた少年が、突然声を張り上げた。
一人の老女が入ってきた。
顔は青白く、皺に覆われていた。
垂れた瞼の下で、眼差しだけは恐ろしく鋭かった。
入ってくるなり、その視線がラインを捉えた。
「ライン、あなたが三環へ進んだというのですか?信じられません!こちらへ来なさい。わたくしが直々に調べます。空界を見せなさい!」
メディシンは、言いながら足早に近づいてきた。
空界は、精霊使いにとって最も重要な秘密だ。
そう容易く、他人に覗かせてよいはずがなかった。
ラインはわずかに身をずらし、近づいてくる老女を見て冷笑した。
「メディシン、長老の空界を調べるというのか?何の権利があって?」
修行を始めたばかりの頃は、学堂長老による定期的な検査を受けなければならなかった。
だが、今は違う。
ラインも三環の精霊使いであり、学堂長老や薬堂長老と、対等な立場にある。
そもそも、環位を確かめること自体は難しくない。
白銀精神力を偽るのは容易ではなく、三環の気配も、紛れもない本物だった。
「無礼者!若造の分際で、わたくしを呼び捨てにするとは!」
メディシンが目を見開いた。
「わたくしが調べて何が悪いのです?この身分が、その資格です!わたくしは薬堂長老であり、あなたより年長でもあるのですよ!」
「ふん、ばば、名を呼んでやっているだけ、ありがたく思え。お前とは、きっちり清算すべきことがある。以前、私の酒虫を買おうとして、断られたからと恨みを抱いたな。そのうえ、九葉生気草まで巻き上げようとした!私が風切草を交換しようとすれば、裏で妨害する。今は私も三環だ。目の前で偉そうにするのは、いい加減にしておけ!」
ラインは目を細めた。
刃のような言葉で、遠慮なく決裂を突きつけた。
一環、二環のままでこんなことを口にすれば、必ず押さえつけられただろう。
周囲から一斉に攻撃されてもおかしくなかった。
だが、今は三環であり、長老たちと対等な地位にある。
状況は、当然違っていた。
二人が広間で言い争っても、ほかの長老たちは黙ったまま、傍観していた。
高い地位にある者が、浅はかなはずはなかった。
もともと腹芸を心得ていなくとも、嫌でも身につけさせられる。
そうでなければ、とっくに一族からひそかに切り捨てられていたはずだ。
彼らは、まだラインを十分には知らない。
この機会に、ひそかに見極めようとしていた。
「若造が、よくもそんな言いがかりを!」
メディシンは、恥をかかされた怒りを爆発させた。
ラインの言葉は事実だった。
だが、皆の前で認めるはずもなかった。
席に着く長老たちは、なおも黙って成り行きを見守っていた。
九葉生気草の件を知る者は多く、メディシンと利益の交換を行った者もいた。
だが、政治の場に、永遠の敵も、永遠の友もいない。
変わらず存在するのは、利害だけだった。
逆に非難してきたメディシンに、ラインは冷笑しただけで、言い返さなかった。
広間には、メディシンの叱責の余韻だけが残った。
その体が、わずかに震えた。
この静けさが、自分の孤立をはっきりと教えていた。
違う。
もう、状況が違うのだ。
ラインが一環、二環のままなら、この長老たちはすぐに立ち上がり、メディシンとともに若手を制裁しただろう。
上に立つ者の権威へ、下の者が挑むことなど、決して許されない!
だが、今のラインは三環だった。
族長がまだ正式に宣言していなくとも、長老になることは決まっている。
メディシンとの争いは、上層部内部の対立になったのだ。
ラインは上層部へ入ったばかりで、基盤も浅く、後ろ盾もない。
だが、それこそが強みでもあった――失うものがない者は強い。
一方のメディシンは、すでに老いていた。
薬堂を掌握し、高い地位と広い人脈を持つ。
それらが、かえって弱点になっていた。
彼女には、もはや負ける余裕がなかった。
薬堂の後継者であるクスリも、行方知れずだ。
その手に握る膨大な利権を前に、少なからぬ長老が動き始めようとしていた。
平時なら、まだよい。
だが、今はウルフウェーブのさなかだ。
長老であろうと、いつ命を落とすか分からない。
情勢が揺れ動き、新しい者が上に立ち、古い者が退く。
そんな変動の中で、無事を保証できる長老などいなかった。
族長でさえ、命を落とすことはある。
ローデン一族の歴史でも、ウルフウェーブで死んだ族長は、決して少なくなかった。
長老たちも、自分を守るだけで精いっぱいなのだ。
よほど大きな利益でもなければ、誰が他人の争いへ首を突っ込むだろう?
メディシンは、厄介な状況に陥ったことを感じていた。
広間は、なおも静まり返っていた。
孫娘のため、三日三晩、一睡もしていない。
今ここに立つ彼女の心身を、見えない重圧が包んでいた。
額には、細かな冷汗が浮かび始めた。
まるで、傷つき衰えた老狼となり、群れの中に一頭だけ取り残されたようだった。
周囲の狼は陰に潜み、深い緑の目で、冷ややかに彼女を見つめている。
目の前のラインは、狩りで頭角を現したばかりの雄狼だった。
若く、身軽で、力強く、野心に満ちている。
まさに――後の雁が先になり、新しき者は古き者に取って代わる。
この瞬間、メディシンは自分の老いを、痛切に感じた。
瞼はいっそう垂れ下がり、気迫も次第に弱まっていった。
だが、再びクスリの姿が脳裏に浮かぶと、霞む老眼を無理に見開いた。
気迫が、一気に戻った。
「ライン、なぜこの三日、姿を消していたのです?薬堂の死傷者報告では、すでに戦死した精霊使いとして名を載せられていましたよ。三日三晩も姿を消し、帰ってきたら三環になっていた。この間、いったい何があったのですか?ふふ、ここにいる皆様も、さぞお聞きになりたいでしょうね」
ラインを以前のように扱えないと悟り、メディシンは口調を和らげた。
一方的に詰め寄る姿勢も改めた。
だが、その言葉はかえって陰険で、対処の難しいものになっていた。
長年、高位にあり続けた老練な政治家だけのことはある!
長老たちの目にも、次々と光が宿った。
はっきりと興味を示していた。
ここに、愚か者はいない。
ラインが突然三環へ進んだことには、確かに不審な点があった。
下等資質であることは、誰もが知っているのだから。
メディシンは、わずかな言葉で、長老たちを再び自分の側へ引き寄せた。
だが、ラインも堂々と帰ってきた以上、当然備えはしていた。
皆の目が注がれる中、顔を上げて大笑いした。
「ばば、お前が知りたがれば、私が教えてやらねばならないのか?だが……孫娘を亡くして、哀れな有様だからな。慈悲をかけて、教えてやろう。私はこの数日、カル長老の屋敷に籠もり、三環への突破に専念していた。このことは、カル長老が間違いなく証言してくださる!」
「何ですって?」
メディシンが、驚愕を露わにした。
ほかの長老たちも、表情を変えた。
一斉に、カルへ視線が向けられた。
カル派閥を率い、ローデン一族の二大長老の一角を占める男。
その顔は、これ以上ないほど暗く険しくなっていた。
だが、皆に見られている以上、説明しなければならない。
カルは、やむなく口を開いた。
「確かにそうだ。ラインはこの数日、当家の密室に籠もって修行していた。その件は、証言できる」
その言葉に、広間がざわめいた。
長老たちは、自制を心得ていた。
皆の前で声を張り上げ、取り乱しはしない。
それでも、席のあちこちから、低い話し声が次々と聞こえ始めた。
「カル・ローデンが、ラインと繋がっていたとは!」
「三環へ進んだことにも、カルが関わっているのか?」
「恐らく、深く関わっているぞ。以前から、ラインの背後には何らかの勢力がいるのではないかと言われていた。カル派閥だったとはな」
「修行がこれほど速いのも、カル派閥が相当な資源を注いだからだろう。ラインはライルの兄だ。カル長老も、ずいぶん先を見据えた手を打ったものだ」
小声で話す長老がいる一方、胸の内で算段を始める者もいた。
(なるほど、何の基盤もない若造ではなかったわけだ。すでにカル派閥へ身を寄せていたのか。これからは、接し方に気をつけねばならん)
(さっき口を挟まずにいて正解だった。ラインとメディシンの争いに巻き込まれずに済んだ。カルと薬堂、どちらを敵に回しても割に合わん)
(メディシンも厄介なことになったな。後ろ盾のない新参の長老を相手にするつもりが、その背後にカル派閥がいたとは!)
メディシンの顔は、真っ白になっていた。
カル・ローデンが自ら認めた瞬間、驚きのあまり一歩後ずさっていた。
全身が、微かに震えていた。
孤立無援の長老を相手にするのと、カル派閥を後ろ盾に持つ長老を相手にするのとでは、まったく話が違う!




