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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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145.外道の本性

本話には、非常に残酷な描写が含まれます。

苦手な方は前半を飛ばし、終盤のみお読みください。


その分、本日は三話更新します。

クスリは、思わず立ち上がった。


目の前の精霊は、彼女の知る酒虫(しゅちゅう)とは違っていた。

それでも、よく似ている。

きっと、その能力にも通じるところがあるはずだった。


酒虫を錬化できなかったことは、今も心に引っかかっていた。

クスリはまだ一環中位だ。

酒虫さえあれば、精神力を精錬し、一環上位の精神力を得られるのに。


そのとき、精霊がゆっくりと飛び立ち、暗い森へ漂っていった。

クスリは慌てて茂みをかき分け、その後を追った。


精霊の体に明滅する光は、闇夜の灯台のように、進む先を示していた。

十数分も歩いた頃、ようやくその光が止まった。


クスリは喜びながら、物音一つ立てないように近づいた。

間近まで来て初めて、明滅する光が、一人の顔を照らしていることに気づいた。


「ライン・ローデン?」


言い終わるより早く、ラインが動いた。

閃くような手刀が首筋を打ち、クスリは意識を失った。


崩れ落ちる少女を、ラインは素早く抱え、脇に挟んだ。

隠鱗虫(いんりんむし)が発動し、二人の姿がその場から消えた。


……


クスリがぼんやりと目を開くと、そこは薄暗い洞窟だった。


重い頭を振り、反射的に立ち上がろうとする。

だが、体は動かなかった。

全身を縛られ、大きな岩に括りつけられていたのだ。


彼女の精霊は、すでにすべてラインの奪霊(だつれい)で奪われ、彼のものとして錬化されていた。


筋肉を強化する精霊の恩恵を受けたこともなく、クスリの体はか弱く、力もない。

指一本ほどの太さの縄が何重にも巻かれ、固結びにされている。

振りほどけるはずがなかった。


見知らぬ場所で、身動きも取れない。

恐怖が胸に湧き上がった。


気絶させられた瞬間を思い出せば、どれほど世間知らずでも分かる。

ラインは、自分に危害を加えるつもりなのだ。


(でも、何をするつもりなの?いったい何が目的なの?わたくしがおばあ様に言いつけたから、その仕返しをする気なの?)


手足は動かせなくても、思考はめまぐるしく駆け巡った。

考えるほどに恐ろしくなり、涙がこぼれた。


「おばあちゃん、どこにいらっしゃるの?早くククを助けて……」


クスリは泣いた。

これほどの孤独も恐怖も、初めてだった。


ラインは、どこへ行ったのか。

洞窟には、彼女の泣き声だけが響いていた。


しばらく泣いた後、ふと一つの考えが浮かんだ。


(まさか、ここに閉じ込めて、七、八日も食事を与えないつもりなの?さんざん苦しめて、二度と悪口を言えなくする気なのね。ひどい!ライン、絶対に許さないんだから!)


クスリは、恨めしげに歯を食いしばった。

もともと悪かったラインへの印象は、今や底まで落ちていた。

生まれてから一度も、これほど誰かを憎んだことはなかった。


そのとき、足音が聞こえた。

やがて、暗がりからラインが姿を現した。


「ライン、何をするつもりですか?早く放してください!でないと、おばあ様があなたを懲らしめますから!」


クスリは必死にもがき、両脚で地面を蹴った。

罠にかかった小鹿のようだった。


「ずいぶん元気だな」


ラインが鼻を鳴らした。


クスリがさらに罵ろうとしたとき、その背後から大きな熊がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


「く、熊……」


目を見開き、恐怖のあまり言葉を失った。


ラインは冷たく笑い、クロクマの毛並みを撫でた。

その声が洞窟に響いた。


「ウルフウェーブの中で、こういう主のいない熊を見つけるのは容易ではない。ずいぶん時間を取られた」


クスリは、すぐに思い出した。

ラインはリネットから、一体の熊枷(くまかせ)を要求していた。


「噓……」


だが、それより早くラインが歩み寄り、目の前にしゃがみ込んだ。


「何をするんですか?!」


クスリは必死に身を引こうとした。


ラインは、その頬をたやすく掴んだ。


「可愛くて清々しい顔立ちだ。確かに人を惹きつける」


そのまま右手を下へ滑らせ、クスリの襟首を掴むと、勢いよく引っ張った。

衣が裂け、中の桃色の肌着が露わになった。


「あああっ!!」


クスリは一瞬固まった後、激しく悲鳴を上げ、狂ったようにもがいた。

細い肌に縄が食い込み、血痕がいくつも浮かんでも、構わずに暴れた。


ラインは冷笑を浮かべたまま、さらに引き裂いた。

あっという間にクスリの衣はぼろぼろになり、わずかな切れ端だけが残り、白く柔らかな肌が露わになった。


「やめて、やめて!」


彼女は恐怖に駆られ、大声で泣き叫んだ。

ラインが自分をどう「お仕置き」するのかを想像し、全身が震え始めた。


しかしラインは彼女の予想通りには動かず、立ち上がってゆっくりと後ろへ下がった。


クスリの泣き声は、啜り泣きに変わった。

そのとき、クロクマが大きな掌で地面を踏みしめながら、ゆっくりと近づいてきた。

クスリは、瞳孔が針の先ほどに縮むほどの、強烈な死の気配を感じた。


熊の掌が振り下ろされ、空を裂く風が響いた。

凄まじい力で、細い首が即座に折れた。

頭は異様な角度にねじれ、横へ折れ曲がった。


直前まで生き生きとしていた美人が、一瞬で命を落とした。

まだ温かい死体は、巨石に縛られたまま、壊された人形のようになっていた。


ラインが熊枷を指揮するまでもなかった。

空腹の本能に従い、クロクマはすでに頭を下げ、豊かな獲物を味わい始めていた。

まず喉元に噛みつき、血が噴き出して黒い毛皮に飛び散った。


次は、白く細やかな胸だった。

クロクマは、まだ咲ききっていない花の蕾のような右の胸を一口で噛み切り、肉を引き裂いて、真っ白な肋骨を露わにした。


続けて掌を振り下ろし、肋骨を折った。

内臓が押し潰され、大量の血がどっと溢れ出た。

邪魔な骨がなくなると、クロクマは口を体内へ深く差し込み、まだ鼓動する心臓に噛みついて、一口で飲み下した。


心臓は喉を通って腹へ落ちた。

ウルフウェーブに追われ、長く食事ができていなかったクロクマは、満足げに咆哮した。

一声吼えた後、再び頭を下げ、内臓を貪り始めた。

口を開閉するたび、大量の血が口からこぼれ落ちた。


しばらくして、クロクマは顔を上げた。

胸腔はすでに空で、大きな傷口が腹部まで広がっていた。

白い腸には、あまり興味がないようだった。


次に目を向けたのは、白く細長い手足だった。

少女の手は、どれも華奢だった。

クロクマはそれを一口で噛み切り、数回咀嚼して飲み込んだ。


大腿部もまた、美味だった。

肉は細やかで、少女特有の香りが漂っている。

クロクマは名残惜しむように味わい、白い腿骨だけを残した。


正直なところ、彼女は本当に可愛かった。

黒く澄んだ大きな瞳、丸みを帯びて少し上を向いた鼻、花のように淡いピンクの肌、桜色の小さな唇の中に並ぶ真っ白な歯。


だが今、彼女の顔から血の気が引き、肌は青白く変じていた。

黒髪が散らばって顔の大半を覆い、見開かれた目には、恐怖と怨みがこもっている。

死しても目を閉じず――!


ラインがさらに熊枷を使うまでもなかった。

飢えたクロクマは頭を下げ、食らい始めた。


この熊はウルフウェーブのため、長い間身を隠すことを余儀なくされ、何日も食べていなかった。

しばらく飲み下すと、満足げに一声吠え、再び頭を下げた。


ずいぶん経ってから、ようやく顔を上げた。

毛皮は血にまみれ、大岩の前には、欠けた亡骸だけが残っていた。


クスリの頭がぐらりと揺れ、地面へ転がり落ちた。


血の気を失った顔は、乱れた髪に大半を覆われていた。

両目はなおも見開かれ、恐怖と、恨みを帯びた怒りを残していた。


死してなお、その目は閉じられていなかった。


ラインは腕を組んだまま、その顔に凍りついた表情を眺めていた。

地球の仏教の言葉が、思い出された。


我相(がそう)なく、人相(にんそう)なく、衆生相(しゅじょうそう)なく、寿者相(じゅしゃそう)なし。紅顔(こうがん)もまた、皮と肉をまといし白骨に過ぎぬ。


「我」とは、自我のことだ。

自我をなくし、自己中心的な考えを打ち破り、自分もありふれた平凡な存在なのだと知る。

「我相なく」とは、人は皆等しく、違いなどないということだ。


「人」とは、人間のことだ。

人間を高貴な存在と考え、ほかの生き物を卑しいものとして扱うことをやめる。

「人相なく」とは、あらゆる命は等しく、違いなどないということだ。


「衆生」とは、すべての命を指す。

命あるものだけが尊いとは考えず、命のない山や岩、流れる水にも霊性があると認める。

これが「衆生相なく」であり、世のすべては等しく、違いなどないということだ。


万物には、それぞれ寿命がある。

「寿者相なし」とは、存在するものも、存在しないものも、等しく、違いなどないということだ。


どれほど美しい男も女も、最後には白骨となる。

白骨と皮や肉は、もともと一つのものだ。

それなのに、世の人々は皮や肉に惹かれ、白骨を恐れる。

これこそ相への執着であり、その中にある平等を見抜けていないということだった。


この仏教の言葉は、あらゆる相を打ち破り、真実の姿を見よと説いている。


美色も相であり、人も我も、衆生も寿者もまた相だ。

諸相を相にあらずと見れば、すなわち如来を見る。


見通し、見破り、分け隔てなく見る。

すべての衆生は平等なのだ。


だからこそ、仏陀は捨身飼虎(しゃしんしこ)、割肉貿鴿(かつにくぼうこう)を行った。

大いなる慈悲を胸に、万物を我が子のように見なし、すべてをあまねく愛していたからだ。


己も他人も、動物も植物も、命のない山や岩、水や土も、さらには存在しないものまでも、すべて愛する。


普通の人間がここに立ち、熊が人を食らう光景を見たなら、どうするか。

血気にはやる正道の少年たちは、きっと飛び出し、怒鳴るだろう。


「やいやい、そこな畜生め! 人を食うてはならぬぞ!」


これが、普通の人間の愛憎だ。

少女を愛し、大熊を憎む。

なおも相に囚われたまま迷い、紅顔の本質を見抜けていない。


仏陀がここに立ち、熊が人を食らう光景を見たなら、ため息をつき、こう唱えるだろう。


「我(われ)若(も)し入(い)らずんば、阿誰(あすい)か汝(なんじ)を教化(きょうげ)せん」


そして少女を救い、自らをクロクマに食わせる。


これが、仏の愛憎だ。

少女も大熊も、分け隔てなく愛する。


だが今、ここに立っているのはラインだった。


少女の無惨な死を見ても、その心は少しも揺れなかった。


これは、生死を見慣れた末の麻痺ではない。

相を打ち破って抜け出し、もはや囚われていないのだ。

彼は万物を分け隔てなく見ていた。

すべての衆生は、平等だった。


だから、少女の死も、一匹のバッタ、一匹のキツネ、一本の木の死も、何も変わらなかった。


ところが、凡夫の目には違って映る。

少女の死は、怒りや憎しみ、惜しむ気持ちを呼び起こす。

逆に少女が熊を食べるのなら、それほどひどいことだとは思わない。


食われるのが老婆なら、惜しむ気持ちはずっと少なくなる。

魔王と呼ばれる外道が食われるのなら、今度は手を叩いて快哉を叫び、大いに喜ぶだろう。


本来、万物は平等だ。

天地は仁ならず、万物を以て芻狗(すうく)と為す。


自然は公平であり、愛憎を持たない。

万物を無情に扱い、決して区別しない。


一つの命が消えたところで、広大な自然にとって、深く果てしない星空にとって、滔々と流れゆく歴史の大河にとって、何ほどのことがある?


死んだものは死んだのだ。

いったい、誰が死なずにいられる?


少女も、大熊も、バッタも、キツネも、木も、老婆も、外道も。

すべてちっぽけで、すべて卑しく、すべて無価値の芻狗なのだ!


これを知り、あらゆる相を打ち破って真実を見れば、そこに神性が宿る。


その神性から、光へ小さく一歩踏み出せば、仏となる。

闇へ半歩踏み出せば、魔となる。


魔(・)性(・)!


これこそが……ラインという外道の本性だった。

すみません、今回のお話は少し自分の趣味が強く出すぎてしまったかもしれません。


仏教用語や『道徳経』からの引用など、馴染みのない言葉や故事を色々と盛り込んでしまったので、少し読みにくく感じられた方もいるかと思います。


次回からは、またこれまでの文体に戻りますので、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
2回頭が落ちていませんか?
とても面白かったです。特にラインの外道が、仏教由来であるという理屈付けが他の小説とは違って、確かなバックボーンを感じられて、ラインがライン足らしめるものが少しだけ理解出来た気がしました。この小説の奥行…
こぐまのビスケット
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