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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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144.雷球が高台を砕き、狼王が東門を破る

金色の満月が高く浮かび、幾つもの雲が影を落としていた。

精霊使いたちにとって、明るい月光は大きな助けだった。


集落の外では、凄惨な戦いが続いていた。


罠の濠には狼の屍が幾重にも積もり、防壁の半ば近くにまで達していた。

後から来る雷狼(らいろう)には、格好の足場となっている。

普通の雷狼でさえ、跳び上がって爪を掛け、壁を越えて集落へ入り込むものがいた。


ただし、内側には高さの差がある。

着地でよろめいたところへ、待ち構えていた精霊使いたちの攻撃が集中し、その場で命を落とすのが常だった。


ラインは物見塔の頂上に立ち、数人の精霊使いと共に、月刃などの攻撃を絶えず群れへ放っていた。


戦場全体を見渡せば、主な火力拠点となっているのは、これらの物見塔だった。

精霊使いたちは互いに連携し、すでに多くの巨雷狼(きょらいろう)を倒していた。


「殺せ!畜生どもを皆殺しにしろ!」


「兄弟、仇は取ってやる!」


「踏ん張れ、もう少しだ!一族の命運は、この手にかかっているんだ!」


周囲は、騒がしい声に満ちていた。

狂ったように殺せと叫ぶ者、悲しみと怒りを抱く者、標語を叫ぶ者もいる。


ラインは冷淡な顔で立ち、時折、月刃を放ちながら戦場を観察していた。


明月があるとはいえ、見通しは昼間に及ばない。

三頭の轟雷狼(ごうらいろう)は、なおも後方に留まり、その姿は見え隠れしていた。


あの三頭が無事である限り、普通の雷狼など、どれほどいようと捨て駒にすぎない。

巨雷狼でさえ、より上等な犠牲にすぎなかった。


そのとき、一頭の轟雷狼が、ゆっくりと一歩前へ出た。

大きく口を開き、一発の雷球を吐き出す。


三環精霊、雷鳴珠(らいめいじゅ)!


雷球は、それほど大きくはなかった。

石臼ほどの大きさで、全体が暗い青に染まり、大量の電気を凝縮していた。

その速さは凄まじく、ほとんど瞬く間に、ラインたちの立つ物見塔へ直撃した。


膠着した戦いが続き、多くの精霊使いは、すでに本能だけで動いていた。

思考が鈍った彼らに、突然の雷球へ対応する余裕はなかった。


ラインが水繭(みずまゆ)とシロタマズスキンを発動して防御を整えた、その直後。

目の前が、白くまばゆい光に塗り潰された。


鼓膜が破れそうな轟音が響いた。

目に見えない巨大な力が押し寄せ、ラインを高々と吹き飛ばした。


荒れ狂う雷の中で、水の盾は二呼吸しか持ちこたえられず、崩れ去った。

残る電流が体を打ち、シロタマズスキンに守られていても、幾度も痺れが走った。


彼は三、四メートルの高さから落ちた。

シロタマズスキンでは、落下の衝撃までは和らげられない。

背中に、激痛が走った。


ラインは、すぐに起き上がった。

だが、雷球の白光に目がくらみ、何度も瞬きしては涙を流した。

三呼吸の後、ようやく視界が戻り始めた。


頑丈だった石造りの物見塔は、半ばから上が消えていた。

焦げた遺体の破片が地面に散らばり、外壁にも大穴が開いている。

雷狼がその穴を抜け、潮のように集落へ流れ込んでいた。


轟雷狼が、ついに戦いへ加わったのだ!


千獣王の戦闘力は、やはり並ではなかった。

つい先ほどまで隣にいた数人の精霊使いは、まともな形の遺体さえ残していない。

生き残ったのは、ライン一人だった。


空界では、鶏の卵のような水繭が、ひどく弱っていた。

表面には、細かな亀裂がいくつも浮かんでいる。


水の盾が続けざまに何度も破られると、水繭の生命も深刻に脅かされ、ついには死んでしまう。

シロタマズスキンも、同じだった。


精霊は強大である一方、脆くもあった。


雷鳴珠も、その例だ。

雷球は威力が大きく、速さも並外れていて、防ぎにくい。

だが、連射はできない。

一発放つと、何呼吸か間を空けなければ、次を撃てなかった。


ところが、すぐにもう一発の雷球が飛来した。


(あの狼王には、雷鳴珠が二体も寄生していたのか!)


ラインは顔色を変え、急いで身をかわした。

水繭はできるだけ使わず、シロタマズスキンだけで身を守る。


「畜生、好きにはさせん!」


危急の瞬間、一人の人影が空中へ現れた。

全身から金色の光を放ち、雷球を正面から受け止めた。


長老が動いたのだ!


だが、一人では足りない。

すぐに、さらに二人の長老が進み出て、肩を並べた。


轟雷狼を一頭狩るには、息の合った精霊使いのチームが、最低でも三つ必要だった。

三環精霊使いであっても、最低三人は揃わなければ、その攻撃を食い止められない。


轟雷狼は、重い足取りで群れの前へ出た。

行く手の狼たちが、次々と道を空ける。

やがて小走りになり、速度を上げ、最後には頭を低くして防壁へ突進した。


一環、二環の精霊使いたちは、慌てて退いた。

残ったのは、三人の長老だけだ。

皆、息を合わせてこの一帯を空け、戦いを彼らに任せた。


三人の長老と轟雷狼が、激しくぶつかり合った。

間もなく、残る二頭も集落へ突撃し、別の二か所で戦いが始まった。


九人の長老と、三頭の轟雷狼。

三つの大きな戦場が生まれた。


戦いの及ぶ先では雷が炸裂し、竹造りの建物が倒壊した。

巻き込まれた精霊使いも雷狼も、大半が悲惨な末路をたどった。


雷狼は、なおも集落へ流れ込んでいた。

だが、ラインは戦闘へ戻らず、戦場の片隅に留まり、三か所の激戦を遠くから観察していた。


群れの攻撃は、間違いなく白熱した段階に入っていた。


しばらく観察するうちに、ラインは三頭の手の内を、おおよそ把握した。


(一頭には雷鳴珠が二体寄生していて、攻撃力が高い。もう一頭は雷翼(らいよく)を持ち、短い間なら空を飛べる。機動力は、これが一番だ。残る一頭は雷嘯(らいしょう)を持ち、音波で敵を殺す)


千獣王には、二環や三環の野生精霊が、たいてい三、四体寄生している。


その精霊さえ分かれば、精霊使いは、それに合わせた対処ができる。

轟雷狼は知恵に乏しく、攻撃は単調で、応用も利かない。

的確に対処されれば、結末は決まっていた。


案の定、間もなく何人かの長老が下がり、霊石を使って、空界で乏しくなった精神力を急いで補った。

別の長老たちが、その代わりに前へ出る。


連携と戦術の優位によって、長老たちはすぐに優勢となった。

さらにしばらく戦ううちに、戦局を掌握した。

勝利は、時間の問題だった。


「大勢は決まりました」


メディシンが、息を吐いた。


そのとき、東門から突然、咆哮が響いた。


一頭の雷狼の体が、急速に膨れ上がった。

普通の雷狼ほどだった体が、瞬く間に巨大なゾウに匹敵する大きさとなる。


「まだ轟雷狼がいたのか!」


それを見た多くの長老が、驚愕した。


彼らの注意は、それまで三つの戦場に奪われていた。

戦力も、そこへ重点的に配置されている。

そのため、東門の守りは薄くなっていたのだ。


「いけない、クスリがまだあそこに!」


メディシンは顔色を変え、即座に東門へ駆け出した。


(まだこんな展開があったか。この轟雷狼は、少なくとも三環の、気配を隠す精霊を持っているはずだ。それで姿を偽り、雷狼の群れに紛れて、東門の精霊使いたちを欺いたのだろう)


ラインが目を凝らすと、東門の状況は極めて悪かった。


轟雷狼は、突然の攻撃で東門を突き破り、巨大な突破口を開いていた。

数頭ずつ入り込む巨雷狼の後に、無数の雷狼が、狂ったように吼えながらなだれ込んでいる。


クスリは、潮のように迫る群れを見て、恐怖に立ち尽くしていた。


幸い、傍らにはリネットのような経験豊かな者がいた。

危急の場に、リネットはためらわず指揮を引き受けた。


「急いで、窓も扉も閉め切りな!ここを守って、援軍が来るまで持ちこたえるんだ。それしか、生き延びる道はない!」


言い終えるやいなや、轟雷狼の猛撃が屋根へ落ちた。

頭上が、崩れた。


クスリが悲鳴を上げた。

突然の変事に、少女は完全に我を失っていた。


彼女は、やはり若すぎた。

環階(ランク)も一環にすぎない。

ここに残ると言い張ったのも、安全だと思っていたからだ。

こんな危機に陥るなど、考えたことさえなかった。


「畜生め、やめろ!」


メディシンは、走りながら叫んだ。

轟雷狼が竹造りの建物へ突っ込むのを、目の当たりにしていた。

愛する孫娘が危機にあるというのに、遠すぎて手が届かなかった。


この危急にも、身を挺したのはリネットだった。


彼女が意識を向けると、残ったヒグマが咆哮し、轟雷狼へ突進した。


轟雷狼は右前脚を振るい、四百キロ余りのヒグマを吹き飛ばした。

続けて口を開き、閉じる。

それだけで、ヒグマの頭を噛み砕いた。


千獣王に、普通の獣などが抗えるものか。


そのわずかな隙に、リネットはクスリを引っ張って走り、少しだけ距離を稼いでいた。


轟雷狼が吼えた。

狙いをつけた獲物を、逃がすはずがない。

一跳びで十数メートルを越え、リネットの前へ着地した。


突然、目の前を塞がれ、クスリの脚から力が抜けた。


リネットは彼女をつかみ、正面から突破するのを避けて、集落の外に通じる方向へ急いで退いた。


轟雷狼が飛びかかろうとした、その瞬間。

メディシンが、ついに間に合った。


淡い紫の月刃が、狼の背を斬りつけた。

月刃はふわりと霧に散り、その鼻へ吸い込まれていく。

轟雷狼は二度咳き込み、毒に侵された。


三環精霊、月毒印(げつどくいん)の力だった。


激怒した轟雷狼が、首を反らして吼えた。

凄まじい音の波が四方へ打ち寄せ、目に見えない力となる。


雷嘯は、威嚇に用いるものだ。

今、使ったのは、鳴動(めいどう)だった。

音で空気を振動させ、目に見えない推力を生む。


リネットとクスリは、その力に押され、そろって宙へ舞い上がった。

空中で、二人は別々の方向へ飛ばされた。

リネットは竹造りの建物に激突し、それきり動きを見せなかった。

クスリは壊れた東門から外へ吹き飛ばされ、集落の外に落ちた。


頭がくらくらした。

どうにか起き上がろうとすると、大口を開けた雷狼が噛みついてくるのが見えた。


「ああ――!」


悲鳴とともに、一枚の月刃が飛来し、雷狼を殺した。


クスリは、慌てて立ち上がった。

助けてくれたのは、若い男の精霊使いだった。

下半身が、崩れた壁の下に埋まっている。


顔は血に覆われ、はっきりとは見えなかった。

男は、彼女へ微笑んだ。

次の瞬間、押し寄せる雷狼に喉を食い破られた。


クスリの目から、涙があふれた。

泣きながら、逃げた。


戦場は、混乱の極みにあった。


クスリの身分と後ろ盾ゆえに、折に触れて、精霊使いたちが手を差し伸べた。

だが、多くは自分の身さえ危うく、彼女を危地から連れ出せない。

離れた場所にいるクスリを、気を揉みながら見守るしかなかった。

メディシンも轟雷狼に足止めされ、彼女にまで手が回らなかった。


一頭の雷狼が闇から飛び出し、クスリの目の前で急停止した。

土埃が、舞い上がった。


「あっ!」


クスリが、たった一人で雷狼に立ち向かうのは初めてだった。

相手がすでに跳びかかってきてから、ようやく右手に宿る月印が、弱い青い光を灯した。


月刃が、雷狼の前脚の皮膚を大きく切り裂いた。

雷狼は痛みに空中で体をひねり、そのまま地面へ落ちた。


離れた暗い森の中で、ラインはその戦いを注意深く観察していた。


(この月刃の威力……一環中位の水準でしかない。メディシンは、商隊からもう一体、酒虫(しゅちゅう)を無理に買い取らなかったのか?

それはないはずだ……となると、こいつの根気は、中の下程度でしかない。商隊が処理する暇もなかった酒虫すら、錬化できなかったわけか)


雷狼は前脚の傷を舐め、クスリへ低く唸った。

残る三本の脚の筋肉が、張り詰める。

自慢の速さを生かし、クスリへ突っ込むつもりらしかった。


そのとき、闇の森から、極めて速い月刃が飛び出した。

前脚を傷めた雷狼は、かわす間もなく、真っ二つに斬られた。


クスリは、その場にへたり込んだ。

暗い森へ目を向けたが、誰が助けてくれたのかは分からない。

ただ、今の月刃は、少なくとも二環精霊使いのものだった。


とにかく、助かったのだ。


クスリは深く息を吐き、傍らの木へ目を向けた。


木には、蚕の幼虫に似た精霊が、静かにとまっていた。

その体が、四つの異なる色に輝いている。

このときになって初めて、周囲に濃い酒の匂いが漂っていることに気づいた。


「酒虫?」

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