141.救援に高い代価を求め、懲罰の名で私利を図る
シオンとアオの激戦以来、シオンを追い詰めたラインの名は、一気に広く知られるようになった。
このところ、ウルフウェーブの中でも、ラインは強さを見せつけていた。
チームには彼一人しかいないというのに、外へ出るたび、驚くような戦果を持ち帰る。
まさに、一騎当千の勢いだった。
彼はすでに、近頃頭角を現した新たな世代の一人だった。
性格が偏屈で評判も悪くなければ、アオに代わり、クル、リリアと並んで「ローデン三傑」と称されていただろう。
だが、ロア一族の者にとっては、それ以上に殺人者だった。
いつも同族の前に立ち、傷を引き受けていたグリム・ロアを殺した男なのだ。
だからこそ、リネットたちはラインを見て、複雑な表情を浮かべていた。
ラインは上から彼らを見下ろし、手にした蔓を揺らして、悠然と言った。
「そのまま援軍を待ち続けてもいいし、この蔓を使って崖を登ってきてもいい」
援軍がいつ来るかなど、誰に分かる?
戦場では、何事も当てにはならない。
リネットたちは、当然、目の前の蔓を選んだ。
ところがラインは、蔓を下ろす前に、その代価を告げた。
ロア一族の精霊使いたちは、激しく憤った。
「ライン、同盟を結んだ仲間に、そんな真似ができるのか!」
一人が怒鳴った。
「熊枷を寄越せだと?よくもそんなことが言えたな!」
別の一人が、皮肉を浴びせる。
ラインは、まるで動じなかった。
「熊枷一体と霊石七百個で、お前たち七人の命が助かる。安いものだ。断っても構わない。そのときは、戻って一族に状況を報告しておく。ふふ、ただ、援軍がいつ来るか、道中で狼の群れに阻まれないかまでは、私にも分からないがな」
皆、押し黙った。
誰もが、ひどく険しい顔をしていた。
「分かった。条件を呑むよ。ライン、噂に違わぬ男だね」
結局、リネットは仲間全員の命を優先し、折れるしかなかった。
その言葉には、辛辣な皮肉が込められていた。
ラインは気にも留めず、肩をすくめた。
予想どおりの結果だった。
蔓を下ろしながら、胸の内で冷たく笑う。
この四つの巨雷狼の群れは、彼自身が引き寄せたものだった。
本来は、彼らの死後に精霊を回収し、大量の功績へ換えるつもりだった。
だが、彼らが放った合図玉は、周囲の数チームに気づかれている。
援軍は、すでにこちらへ向かっていた。
それに、熊枷を目にしたことで、ラインはある面白い精霊を思い出していた。
ここまでの手間を無駄にしないため、姿を現して救援に乗り出すしかなかったのだ。
リネットたちは蔓を使い、無事に狼の群れから逃れた。
それから間もなく、三つのチームが到着した。
一つは、クル組だった。
ただでさえ青ざめていた七人の顔が、さらに険しくなった。
リネットは、悔やんでも悔やみきれなかった。
つい先ほど、自ら熊枷に込めていた精神力を引き揚げ、素直にラインに錬化させてしまったのだ。
今さら、なかったことにはできない。
「ライン、覚えておくよ」
リネットは、恨めしげに彼を睨んだ。
「覚えていようと忘れようと、お前の勝手だ」
ラインは淡く笑い、その場を去った。
クル組が歩み寄ってきた。
クルが、礼儀正しく声をかける。
「リネットさん、またお会いしましたね」
シオンの一件で、ローデン一族はアオを、ロア一族はバルガスを失った。
共に被害を受けた両族は、そのために距離を縮めていた。
盟約はなお続いていたものの、ベル一族は、両族から共に排斥される相手となっていた。
「クル兄貴、ご無沙汰しています」
リネットは、どうにか眉間のしわを緩め、拳と掌を合わせて一礼した。
「今回は、ローデン一族に援軍をお願いしに来ました。ロア集落は、六日六晩、狼の群れに包囲されています」
このところ、ウルフウェーブはますます激しくなっていた。
雷狼の群れは、集落を包囲し、思うままに攻めかかるほどになっている。
三族の集落のうち、山の麓にあるロア集落が、最も低い場所にあった。
当然、真っ先にその脅威を受ける。
実際、包囲されるのは、すでに三度目だった。
援軍と呼応し、内と外から攻めなければ、群れを打ち破れないのだ。
「援軍の件なら、おそらく問題ないでしょう。前の二度も、うまく協力できましたから。ただ、先に族長様へ報告しなければなりません。皆さん、私についてきてください」
リネットたちは顔を見合わせ、軽く頷いた。
そしてクル組について、ローデン集落へ向かった。
集落には、幾重にも防御が施されていた。
外周の防壁は繰り返し補強され、数十の物見台も設けられている。
壁の下には濠が掘られ、その底には、先を尖らせた竹が何本も突き立てられていた。
壁には、数千株の鉄棘薔薇も植えられている。
一環精霊で、飼育が容易なうえに数も多い。
鋭い棘を持ち、花粉には神経を麻痺させる作用もあった。
見渡す限り、鋭い棘を備えた蔓が防壁に沿って伸びていた。
今にも開きそうな薔薇の蕾は、血のように赤かった。
門をくぐると、近くの建物は、住宅も酒場もすべて徴用され、臨時の駐屯地に変えられていた。
リネットたち七人は、ロア集落から狼の包囲を抜け、長い道のりを越えてきた。
誰もが傷を負っている。
そのため、まず竹造りの建物へ案内され、治療を受けることになった。
中には、十数人の治療精霊使いがいた。
大半が一環で、二環は二人だった。
リネットたちが少し驚いたのは、ここを取り仕切っているのが、その二人ではなく、若い少女だったことだ。
「そこの気を失っている人を、籐椅子へ運んでください。こちらは下腿の骨折です。タロウ、治療をお願いします。ジロウ、まずこの開放創の止血を。サブロウが消毒してから縫合してください。ハナコ、先にあちらの骨折に添え木を当てて、それからこちらの包帯をお願いします」
黒髪は、後頭部できちんと結い上げられていた。
瞳は水晶のように明るく、頬にはまだ幼い丸みが残っている。
薄紅色の小さな唇から響く声は、柔らかく耳に心地よかった。
それでいて指示は実に的確で、思わず感心させられる。
リネットは、ふと一人の名を思い浮かべた。
「もしかして、クスリ・ローデン?」
「ロア一族のリネット姉さん、こんにちは。わたくしの名前までご存じだったのですね」
クスリは指示を出し終えてから歩み寄り、丁寧に挨拶した。
「クスリちゃんは、今や評判の人だもの。メディシン様の慈愛の心を受け継いだうえに、医術にも優れている。環階はまだ一環なのに、ヴェルデン山の若い世代を代表する一人だと言われているでしょう。ロア一族にも、あなたに憧れている人は大勢いるよ」
リネットは、この少女に強い後ろ盾があることを知っていた。
今回はローデン一族に頼み事をしに来た身でもある。
自然と、褒め言葉が口をついた。
「リネット姉さん、褒めすぎです」
クスリは、やはりまだ若かった。
褒められて頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を伏せた。
だが、胸の内では、つい考えてしまう。
(一環……あのとき、もう少し頑張っていればよかったのに)
すると、傍らのロア一族の精霊使いが、不機嫌そうに言った。
「同じように長老から若い世代の俊英だと呼ばれていても、あのラインなんか、君とは比べものにならないな」
「ラインの話はやめろ!あいつがローデン姓でさえなければ、殺してやるのに!」
「……英雄なき世なればこそ、かような下衆まで名を馳せるか」
その言葉に、ほかの者も次々と同調した。
「ライン?今度は何をしたのですか?」
クスリが、興味を引かれて尋ねた。
「ふん、助けた報酬だと言って、熊枷を一体と霊石七百個を取られたんだよ。あんな恥知らずで、金のためなら義理も捨てる奴、初めて見たよ!」
リネットは鼻を鳴らし、不満を吐き出した。
「そんなものじゃない。もっとひどいこともしているぞ」
「あいつの腹は、石炭より黒い!生気草一枚に霊石八十個だぞ。人の窮地につけ込む、どこまでも強欲で恥知らずな奴だ!」
「思い上がりもいいところだ。友達があいつの組に入りたいと言ったら、断るだけでなく、人前で馬鹿にしたんだ。何を偉そうに。下等資質のくせに!」
「親の遺産を食い潰しただけの、ろくでなしだろ。商隊から赤鉄仏舎利を高値で買って、そのうえシオンからも一体奪ったんだ。あの二体があれば、同じ環階にくらい届くさ!」
「やはりアオ様が一番だった。謙虚で優しくて……あまりにも早く亡くなられた」
「弟のライルは、正義感が強いぞ。誰かが危険に陥ると、真っ先に駆けつける。アオ様のような謙虚さもあって、兄とはまるで正反対だ」
リネットは、自分が漏らした愚痴一つに、これほど多くのローデン一族の者が激しく反応するとは思わなかった。
ラインにこれほど人望がなく、多くの者に憎まれていることに驚いた。
不思議に思い、尋ねる。
「そこまで嫌われているのに、誰も懲らしめようとしないのかい?」
臨時の治療所となっている建物が、たちまち静まり返った。
ローデン一族の者たちは顔を見合わせた。
誰も、答えなかった。
実際、ラインのやり方を気に入らない者はいた。
生気草の値を吊り上げて得る利益を、妬む者もいた。
文句をつけに行った者は大勢いたが、そのたびに、当人がさらに大きな面倒を抱え込むことになったのだ。
それが重なるうちに、ラインへ手を出す者はいなくなった。
そしてラインは、今回のウルフウェーブで頭角を現した新星の中で、最も輝く星だと認められていた。
あらゆる地位は、力に根差している。
新星の中で戦闘力が最も高い以上、ラインこそが最も優れた存在だった。
どれほど評判が悪く、人望がなくとも、それは変わらない。
「ライン……」
クスリは眉を軽くひそめ、その名を呟いた。
実際に会ったことはない。
だが、名前は何度も聞いており、よい印象は持っていなかった。
(先輩とはいえ、あまりにもやり方がひどいし、人としてもどうかしているわ。今度はリネット姉さんを脅して、熊枷を要求するなんて、両族の盟約もお構いなしじゃない。駄目だわ。おばあ様にお話しして、きちんと叱っていただかなくては。このままでは、ローデン一族の恥だもの)
そう考えると、少女は、一族のためにもラインを懲らしめる必要があると思った。
もちろん、彼女自身にそんな力はない。
だが、祖母である薬堂長老メディシンなら、必ずできると信じていた。
彼女の目には、祖母はほとんど何でもできる人だった。
……
「わたくしに、ライン・ローデンを懲らしめてほしいのですか?」
メディシンは孫娘を見つめ、一瞬、きょとんとした。
だが、すぐに緊張した顔になり、慌てて尋ねた。
「クスリ、まさか、あの者にいじめられたのですか?」
「わたくしではありません。でも、またほかの人をいじめたのです。今度はロア一族のリネット姉さんを脅して、熊枷を一体と、霊石七百個も要求したのですよ。ひどすぎます!このままでは、一族の面目をすっかり潰されてしまいます」
「ええ、事情は分かりました」
メディシンは、しばらく考えた。
「クスリ、いい子だから、先に戻っていなさい。がっかりさせるようなことはしませんよ」
「ありがとうございます、おばあちゃん!あの人は本当にひどいんです。ウルフウェーブに乗じて値を吊り上げたり、弱い人をいじめたり、悪いことばかりしているんですもの」
少女が去った後、メディシンは物思いに沈んだ。
彼女は、とっくにラインを懲らしめたいと思っていた。
もちろん、クスリのような幼い理由からではない。
手を出すだけの利益が、ラインにはあるのだ。
まずは、酒虫だった。
以前、彼女は商隊から一体を買っていた。
だが、調達を急いだため、酒虫がもともと持っていた意識は消されていなかった。
そのせいで、クスリが錬化を試みた際に、反撃を受けたのだ。
孫娘の精神力や資質が損なわれないよう、メディシンは酒虫を殺し、錬化を中断するしかなかった。
次に、九葉生気草がある。
一族にある九葉生気草の大半は、メディシンが握っていた。
生気草の販売を通じて、自らの権力と地位を大きく固めてきたのだ。
(あのライン、思い上がりも甚だしいわ!以前、わたくしが酒虫を買うと言ったときも、売るのを拒むなんて、ずいぶんといい度胸だわ。今度は生気草の値を好き勝手に吊り上げて、霊石を荒稼ぎしている。薬堂長老であるわたくしを、ただのお飾りとでも思っているのかしら?ふん!)




