139.活路を求め、面目を失う
当事者であるラインも、当然ながら一族の調査を受けた。
一族の上層部は、日増しに深刻さを増すウルフウェーブへの対応に、ほとんどの注意を奪われていた。
ラインへの調査も、簡単な質問をいくつかして、数日間閉じ込めておく程度のものだった。
ラインが、その程度のことで何かを漏らすはずもない。
地這い耳と隠鱗虫の存在は、今も知られていなかった。
仮に知られたとしても、言い訳はすでに用意してある。
先に去ったベルナー商隊は、格好の口実だった。
ウルフウェーブによって往来は断たれ、商隊も来なくなっている。
一族は商隊に確かめることができず、調査は長引くばかりだ。
実際に結果が出る頃には、ラインはとっくに三環へ進み、ヴェルデン山を離れているだろう。
ただし、四味酒虫と逆矢の存在が知られた場合は、話が別だった。
どちらも、一体だけで集落全体を揺るがすほどの精霊である。
四味酒虫の存在は、まったく新しい煉成の秘法があることを意味する。
その重要性は計り知れない。
商隊から手に入れたと言い張ったところで、簡単に説明を済ませられるはずもなく、一族による徹底的な調査は避けられなかった。
逆矢に至っては、発見された瞬間、ウルフウェーブなど二の次になる。
何しろ六環精霊なのだ!
族長ハクでさえ、たちまちなりふり構わなくなるだろう。
身内の情も、族長の座も投げ捨てて、何としてでも無理やり奪い取ろうとするに違いない。
……
七月、盛夏。
焼けつくような暑さの中、空気には鉄臭い血の匂いが漂っていた。
数え切れない雷狼が、狭い縄張りの中で殺し合っている。
毎日、無数の雌狼が仔を産み、無数の老狼が、新たな世代のたくましい雷狼に殺されていた。
多くの巨雷狼も、より強い子孫に傷つけられ、追い払われ、棄狼へと落ちていった。
血の匂いが山全体を覆い、狼の群れは三族の集落へますます近づいていた。
ウルフウェーブは日ごとに激しさを増し、戦いも熾烈になっていく。
今回の規模が、過去の歴史を振り返ってもまれなものだと、多くの者が気づき始めていた。
巨雷狼の群れは、すでに脇役となっていた。
千頭規模の轟雷狼の群れが、次から次へと集落の周囲に出没している。
人間の生存圏は、ごく狭い範囲にまで縮まっていた。
ローデン一族も例外ではない。
一族の本拠となる集落でさえ、この有様なのだ。
山の麓で凡人たちが暮らす村々など、言うまでもなかった。
生き物の気配が消えた村も、数え切れないほどあった。
集落に知り合いのいる者は、家畜や田畑などの財産を安く売り払い、あらゆる手を尽くして集落へ移り住んだ。
それよりも多くの者は、家財をまとめ、別の住処へ移る準備をしていた。
目指すのは、遠く離れた別の山にある集落だった。
だが、道中の猛獣や野生の精霊、山を埋め尽くすほどの雷狼によって、無事にたどり着ける望みは限りなく薄かった。
それは、絶望の旅だった。
ローデン一族は、すでにこうした凡人たちを見捨てざるを得なくなっていた。
彼らは皆、旅の途中で命を落とすことになる。
猛獣の餌になるか、虫の群れに殺されるか、その違いしかなかった。
凡人も精霊使いも、生と死の間でもがいていた。
普段は高い地位と権勢を誇る長老たちでさえ、自ら戦場に立たざるを得ない。
隠居していた精霊使いも、再び招集された。
ウルフウェーブが終わるまで生き残れる者は、その一割を超えることはないだろう。
自然の残酷さが、今、余すところなく現れていた。
弱肉強食、適者生存。
温かい言葉をいくつか並べたところで、避けられるものではない。
……
ラインは寝台の上であぐらをかき、両目を閉じて、意識を空界へ沈めていた。
空界の四割四分を占める赤鉄の霊海では、波がうねり、満ちては引いている。
精神力は黒みを帯びるほど赤く、すでに二環頂位の暗紅の精神力となっていた。
二環の精神力は、総じて赤鉄精神力と呼ばれる。
ただし、初位、中位、上位、頂位という四つの段階には、それぞれわずかな違いがあった。
初位は淡紅、中位は緋紅、上位は深紅、頂位は暗紅である。
ラインは何日も前に、二環中位から上位へと環階を上げていた。
もともと深紅だった精神力も、四味酒虫による精錬と霊石からの補充を経て、今ではすべて暗紅に変わっている。
空界を囲む壁も、もう波のような光が流れる水膜ではなかった。
白い光の斑点が幾重にも重なった、分厚い膜へ変わっていた。
シロタマズスキンは、赤鉄の霊海に静かに沈んでいる。
四味酒虫と隠鱗虫は海の中で戯れ、時折、岸辺の九葉生気草を頭で軽く突いていた。
ところが、逆矢の姿が次第に浮かび上がると、四味酒虫はたちまち海底深くへ潜り込んだ。
まっすぐ伸びていた九葉生気草の茎も、地面にぴたりと伏せる。
そのたびに、霊海全体が逆矢の気迫に押さえつけられ、鏡のように平らになった。
さざ波一つ立たなくなるのだ。
逆矢の状態は、ますますよくなっていた。
二枚の翅は、すでに完全に回復している。
羽ばたくたびに、周囲の精霊へ大きな圧力を与えていた。
ただ、胴体だけは以前と同じく、干からびてひび割れていた。
ラインは定期的に、逆矢の状態を確かめていた。
二度目の人生が進むにつれ、その回復速度が速まり続けていることを、今でははっきりと感じ取れる。
以前の逆矢は、瀕死の病人のようなものだった。
口を開くこともできず、流動食だけで命をつないでいたのだ。
今では、その病人は寝床を離れ、口を開けて、より多くの食事を取れるようになった。
栄養を補えるのだから、回復がますます速くなるのも当然だった。
逆矢のほかに、ラインの空界には二体の新入りがいる。
いずれもシオンから得たものだ。
一体は、水色の卵のように海中を漂う水繭。
もう一体は、赤鉄仏舎利だった。
中位から上位へ進めたのは、四味酒虫による精神力の精錬と、それまで続けてきた空界への鍛錬が、ついに質的な変化をもたらしたからだ。
この赤鉄仏舎利は、まだ使っていなかった。
環階だけで比べれば、ラインはすでに、ローデン一族の二環精霊使いで三番手となっていた。
バルガスとアオが命を落とした今、ヴェルデン山全体を見渡しても、上位五人には入る。
クルとリリアは、もともと同じ二環上位だった。
だが、少し前に二人そろって頂位へ進み、アオの死で沈んでいた一族の士気を、いくらか奮い立たせていた。
ラインが進歩しているように、ほかの者も進歩している。
クルとリリアは、すでにしばらく上位に留まり、頂位のアオに一歩先を行かれていた。
ウルフウェーブによる死の脅威は、精霊使いたちに一層強く力を求めさせる。
自らの潜在能力を限界まで絞り出し、環階を押し上げているのだ。
(だが、戦闘力でいえば、私は今やヴェルデン山の二環精霊使いで最強だ。
ここで赤鉄仏舎利を使い、環階を頂位まで上げれば、豊富な経験を生かして、三環精霊使いともある程度は渡り合える)
ラインは、胸の内で考えた。
これまで目立つのを避け、耐え忍んできたことが、今や大きな実りをもたらしていた。
下等資質でこれほどの進境を遂げたと知られれば、一族の者たちは皆、驚愕するだろう。
上等資質を持つライルでさえ、今はまだ二環中位にすぎない。
もちろん、頂位へ進んだとしても、三環精霊使いに勝てるわけではなかった。
シオンが環階を超えて三環精霊使いを斬れたのは、檀雪の血があったからだ。
アオにも同じことができたが、それは木傀という、強力で特殊な三環精霊の力によるものだった。
そう考えれば、ラインには彼らを上回る切り札がある。
逆矢だ。
だが、この六環精霊は極めて特殊だった。
どうしても必要にならない限り、使うつもりはない。
まだ完全には回復しておらず、無理に発動させたところで、再び生をやり直せるかどうかも分からなかった。
赤鉄仏舎利は、二環精霊使いにしか効果がない。
使わずに残しておくだけでは、何の価値もなかった。
ラインが、まさにこの精霊を使おうとしたとき、扉を叩く音が聞こえた。
「ライン様、私です。キバ・ローデンです」
ラインは眉をひそめた。
このキバは、最近ますます度を越している。
何度も押しかけては、もっと生気草を買い取りたいと言ってくるのだ。
死者や負傷して体が不自由になった者が増えるにつれ、生気草の値も上がり続けていた。
今では、金を出しても品が手に入らないほどだった。
「何度言わせる。余分な生気草はない。失せろ」
ラインは鼻を鳴らした。
たかが霊石の儲けのために、自分の修行を遅らせるつもりなどない。
扉の向こうで、キバが愛想笑いを浮かべた。
「ライン様、どうかお怒りをお鎮めください。
今の状況は、ライン様もご存じでしょう。私も、どうしようもないのです。
ここで生気草を売っていると知って、大勢の精霊使いが押しかけてきて、私も苦しい立場でして。買い取り値を、さらに一割上げます。ライン様、どうかお情けを。急場をしのぐため、十数枚だけでも譲ってください」
最後には、ほとんど哀願になっていた。
その声には、泣きそうな響きさえ混じっている。
ラインは、まるで心を動かされなかった。
「それはお前の事情だ。私に何の関係がある?ふん、この頃、ずいぶんいい度胸になったな。私との取り決めを忘れたのか。勝手に他人まで連れてくるとは」
「う……」
キバは扉の前で苦笑し、隣に立つ老いた精霊使いを見やった。
彼にも、どうしようもなかった。
相手があまりに強引で、無理やりついてきたのだ。
老人が口を開いた。
「ライン君、フェイス・ローデンじゃ。名くらいは聞いたことがあるじゃろう。今回は、生気草を少し買い求めたくてな。わしの顔を立てて、少しばかり時間を割き、作ってもらえんか」
「お前の顔を立てろと……ふっ、何様のつもりだ?」
ラインは、せせら笑った。
確かにフェイスは、それなりに名の知られた男だった。
すでに隠居していたが、ウルフウェーブのため、一族に呼び戻されたのだ。
最盛期には三環に達していたものの、その後、負傷によって二環頂位まで落ちていた。
年を重ねた今では、さらに二環上位まで下がっている。
環階こそラインと同じだが、今の戦闘力など、たかが知れていた。
フェイスは、怒りに顔を青ざめさせた。
ラインは人を寄せつけない変わり者で、ひどく気難しく頑固、そのうえ傲慢無礼で、誰も眼中にない男だとは聞いていた。
来る前から覚悟はしていたのに、それでも相手を見くびっていたらしい。
年長者として、顔を立ててもらうつもりだった。
これまでなら、いつでも通じてきたやり方が、ラインには通用しない。
顔がかっと熱くなり、恥ずかしさと怒りが胸に満ちた。
これでは、面目丸つぶれではないか!
(この、目上を敬うことも知らん畜生め!)
フェイスは胸の内で罵ったが、その場を離れなかった。
生気草が必要なのだ!
長年、世間を渡ってきた彼は、その重要性をよく知っていた。
たった一枚の生気草が、自分の命を救うこともある。
人は年を取るほど、臆病になる。
若い頃の彼も、人に煽られれば血をたぎらせていた。
一族の者を守りたい、世界を変えたい、一族の大英雄になりたい。
そんな思いを抱き、死さえ恐れない覚悟があった。
だが、今は年を取り、冷静になった。
長年の間に多くの物事を見抜き、ようやく、その仕組みが分かってきたのだ。
とりわけ、息子や娘が皆、犠牲になってからは、心はさらに冷えていた。
どんな組織にも、犠牲が必要だ。
資源には限りがある。
絶えず生み出されている一方で、絶えず消費されてもいる。
増える分と減る分を差し引けば、総量は結局、限られていた。
人が生きるには、衣食住や移動の手段が欠かせず、そのすべてに資源が要る。
精霊使いの修行にも、精霊、霊石、食料が必要であり、やはり資源なしでは成り立たない。
強くなりたければ、より多くの資源が要る。
他人が犠牲にならなければ、自分の取り分はどこから増える?
他人が死のうと、自分さえ死ななければいい!
守るという使命も、栄誉も、身内の情も、夢も、情熱も、すべては犠牲に大義名分を与えるためのものだ。
自己犠牲を奨励しない組織などない。
ただ、上に立つ者は、それを露骨には口にしない。
代わりに「栄誉、身内の情、幸福」などを掲げ、さまざまな恩恵を与える。
だが、死んでしまえば、そんな恩恵など何の役に立つ?
死んだ「大英雄」が、いったい何を享受できるというのか?
アオを見ればいい。
同族を守る戦いの中で、彼は幸せを感じながら死んだ。
土に埋められ、墓碑に名を刻まれた。
その志は今も、後に続く「英雄」たちを感化している。




