138.思いを継ぐ一通の手紙、未来を閉ざす一体の石冠
「こう伝えた。人が生きる理由は、幾千、幾万とある。お前が何のために生きるのか、その答えは与えられない。答えられるのは、お前自身だけだ。自分で探してみなさい、と」
ハクが答えた。
「では、族長様ご自身の答えは、何なのですか?」
ライルは不思議そうに瞬きをして尋ねた。
ハクは小さく笑った。
目の前のライルが、記憶の中のアオと重なって見える。
かつて、アオも同じようなことを尋ねていた。
しばらく考え、当時の言葉を思い返した。
そして、あの日と同じ答えを口にする。
「組織に犠牲はつきものだ。人は生まれた瞬間から、いつか死を迎える定めにある。生と死を前に、人はあまりにも脆い。だが、人の心を温め、照らしてくれるものがある。それが愛――これが答えだ」
犠牲は、珍しいことではない。
アオはハクの養子であり、長年育ててきた子だった。
育ての父として、その死を悲しまないはずがなかった。
だが、族長としては、すでにあまりに多くの犠牲を見てきた。
生と死に向き合う覚悟ができれば、悲しみも痛みも、受け入れられるものになる。
ライルは再びうつむき、黙り込んだ。
何かを考えているようだった。
ハクは微笑み、机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
それを、ライルへ差し出す。
「アオの手紙だ。長年考え続けて辿り着いた答えが、ここに書かれている。今、お前に渡そう。読んでみるといい」
ライルにとって、その手紙ほど心を引かれるものはなかった。
すぐに封を切り、一行目へ目を通しただけで、涙が止まらなくなる。
見慣れた筆跡だった。
文字の一つ一つに、アオらしい優しさが滲んでいた。
初めには、アオの迷いと苦しみが綴られていた。
その後には、何年も考え続けた過程と、心を動かされた出来事が記されている。
読み進めるライルは、まるでアオの足跡を辿り、その人生を共に歩んでいるようだった。
やがて、手紙の末尾へ辿り着いた。
そこには、こんな言葉も記されていた。
「一族に、ラインという後輩がいる。幼い頃から詩を吟じる子だ。彼も弟も、優れた資質に恵まれ、一族に新たな血をもたらしてほしい。私も思わず、一篇の詩を作った」
「我らみな
森の木として
枝を伸べ
嵐をしのぎ
若き芽を
庇い育てる
老木も
雲を突く木も
いつか伏し
土へと還る
次の芽が
森を広げる
天地は
名をとどめぬが
若木には
我が影残る
死は怖い
その日は知れず
朽ちるのか
斧に伏すのか
その時は
悔いなく眠る
我でありたい」
最後には、こうあった。
「父上、かつてお尋ねしたあの問いに、答えを見つけられたように思います」
読み終えたライルは、声も出せないほど泣いた。
頭の中を、アオとの思い出が埋め尽くしていた。
間違いを犯しても、責めずに慰めてくれた。
挫折したときには励ます眼差しを向け、落ち込んでいると、温かな手で頭を撫でてくれた。
ハクは手紙をしまった。
「いつか答えが見つかったら、お前も手紙に書いて知らせてくれ。さあ、帰ってゆっくり休みなさい。ウルフウェーブの危機は、まだ終わっていない。お前の力も必要なのだ」
「いいえ」
ライルはゆっくりと顔を上げ、両拳を握り締めた。
「どうした?」
ハクが尋ねる。
「僕の答えは、もう見つかりました」
言葉では言い表せないほどの強い意志が、その声に宿っていた。
「僕は力が欲しい!身近な人たちを守り、もう傷つかないようにしたい。一族を守り、栄えさせたい!僕たちが、もうウルフウェーブに苦しめられずに済むようにしたい。仲間たちが安心して笑い、幸せに暮らす姿を見たい!こんな悲しみを、これ以上続けさせたくない。二度と繰り返させたくない。僕はこの手で、この体で、魂のすべてで、そばにいる人たちを守るんだ!」
ハクは意外そうな顔をした。
この瞬間、再びアオの姿を見たように思えた。
輝くライルの瞳を見つめ、胸の内で長く息をつく。
(アオ、お前の死は無駄ではなかった……)
一本の老木が倒れ、少しずつ朽ちていく。
その下の土では、一本の新たな苗木が、すでに勢いよく育ち始めていた。
……
人祖は孤独の心に耐えられず、両目を抉り出した。
その目が一人の息子と一人の娘へ変わったことで、ようやく孤独も少し和らいだ。
だが、幸せは長く続かなかった。
二人は次第に世の景色に心を奪われ、父である人祖を忘れがちになった。
遊びに夢中になっては、時間も、父の世話も忘れてしまう。
人祖には何も見えず、目の前は闇に包まれていた。
だが、ときおり、かすかな光が見えることがあった。
不思議でならず、態度の精霊に尋ねた。
態度の精霊は答えた。
「ああ、それは信念の精霊が放つ、不滅の光だ」
「信念やて?」
そこまで読み進めたシオンは鼻で笑い、古い伝承を記した本を無造作に放り投げた。
ちょうど扉が開き、入ってきた人物は、危うく顔に本が当たるところだった。
「シオン、何をしている?」
ベル一族の族長だった。
眉をひそめ、なだめるように言った。
「気が晴れないのは分かる。だが、右腕を失ったことは、そう大きな問題ではない。この世には、その傷を治せる精霊がいくらでもいる。以前、長老をそばにつけて守らせようとしたときは、いつも拒んでいたな。長老に手を上げたことさえあった。今度は痛い目を見ただろう?だが、これも悪いことではない。これまで、お前は何もかも順調すぎた。命さえ落とさなければ、この程度の失敗は大したことではない。傷の方はもう大事ないが、ウルフウェーブはますます激しくなっている。一族は今、お前の力を必要としているのだ!」
「たかが畜生の群れやろ。どうってことあらへん」
シオンは目を閉じ、寝台に横たわったまま、どうでもよさそうに答えた。
だが、族長の表情は重くなった。
「状況は良くない。楽観できるものではないのだ。偵察によれば、集落の周囲には、轟雷狼が率いる狼群が少なくとも三つ出没している。お前の敗北は、一族に大きな影響を与えた。今日の夕方には、皆の前に姿を見せてもらいたい。お前が健在だと分かれば、それだけで一族の士気は大きく高まる。分かったか?」
「分かった、分かった。そんなん、どうってことあらへん」
シオンは面倒そうな顔で、ぶつぶつと答えた。
ほかの者が族長にそんな態度を取れば、厳罰は免れなかっただろう。
だが、シオンは別だった。
ベル一族の族長は、困ったようにため息をつき、部屋を出て扉を閉めた。
部屋には、再びシオンだけが残った。
ゆっくりと目を開く。
瞳には、孤独と戸惑いが浮かんでいた。
自分の体に起きている問題も、死の予感も、誰にも話していなかった。
偶然手に入れた書物から、檀雪の血という名を見つけていた。
限られた資料の中で、原初の血は「必ず死に至る資質」とも呼ばれている。
空界が限界に達したときの自爆は、凄まじい威力を持つ。
ベル一族の族長は育ての親であり、これほど大目に見てくれてもいた。
だが、檀雪の血について話せば、真っ先に殺そうとするのも、その族長だろう。
シオンは、それを少しも疑っていなかった。
(人は、いったい何のために生きとるんやろな?)
以前は、この問いを考えると、戸惑いが生まれ、退屈や苛立ち、憤りへと変わっていた。
だが、今は心に静けさがあった。
人は成長する。
まして、彼ほどの天才なら、なおさらだった。
かつては、必ず死ぬと知りながら、絶望の中で生に執着していた。
心の奥には、なお死への恐れが隠れていた。
だが、実際に死の淵へ立ってみると、かえって吹っ切れた。
三環の白銀の精神力が絶えず空界を鍛えていても、もう苛立たない。
死を恐れなくなったからだ。
生きる意味は、まだ分からない。
だが、その答えがどこにあるかは分かっていた。
答えは、とっくにシオンの心にあったのだ。
言葉では説明しようのない感覚だった。
それでも、確信していた。
しかも、今は石冠までラインの手に落ちている。
「ライン……また必ず会うことになるで」
小さく呟き、瞳にダイヤモンドのような輝きを宿した。
……
「石冠……」
借家で、ラインは手の中の精霊を見つめ、考え込んでいた。
石冠は甲虫に似た姿をしており、全身が灰白色で、極めて硬かった。
一度使えば消える消耗型精霊である。
その働きは、空界の光膜を、硬い石壁へ変えることだった。
これは、空界の底力と潜在能力をすべて絞り尽くし、現在の環階の頂位へ、一気に到達させる力だった。
たとえば、ラインは今、二環中位にいる。
石冠を使えば、瞬時に二環頂位へ達することができた。
だが、代償として、一生三環へ進めなくなる。
同時に、精神力を自力で回復する能力も失われた。
以後は、霊石に頼って補うしかない。
石冠は、追い詰められた精霊使いのための精霊だった。
空界がひどく傷つき、亀裂が入って治療のすべもなくなった者が、やむなく使う。
また、特殊な事情で環階を上げる望みを失い、それでも生き延びるために、短期間で現在の環階の中で力を高めなければならない者も、石冠を選ぶのだった。
(石冠の煉成には、かなりの費用がかかる。シオンは空界を石壁に変え、死を防ぐつもりだったのだろう。だが、この方法でできるのは、死を遅らせることだけだ。自身の破滅そのものは止められない。檀雪の血をそれほど簡単に克服できるのなら、「必ず死に至る資質」などと呼ばれるはずがない)
石冠は、ラインには役立たなかった。
だが、シオンから奪った赤鉄仏舎利と水繭は、大いに役立つ。
ガルド・ローデンたちの遺体から回収した精霊は、どれもさほど優れたものではなかった。
集落に戻ると、一族の上層部へ納め、大量の功績に換えていた。
ウルフウェーブのため、三族は暗黙のうちに、アオとシオンの激戦を表沙汰にせず、互いに堪えていた。
難局を乗り切るには、三族とも互いの力を必要としていたのだ。
トルガの報告で、ラインがシロタマズスキンを持っていることは明るみに出た。
だが、商隊から買ったと説明し、ひとまずは追及をかわしていた。




