↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/172

133.腕を捨て氷に活路を求め、形勢を読んで危地を離れる

シオンとは、何者なのか。


ヴェルデン山一の天才であり、たった一人で三族の勢力図を変えた人物だ。

修行を始めた頃から天下無双の才を示し、誇り高い同族の上等資質者たちにさえ、頭を下げさせた。

その名は、ヴェルデン山の隅々にまで知れ渡っている。

将来の大成を疑う者はなく、敵でさえ、それを認めざるを得なかった。


ところが今、その彼が追われ、無様な姿で逃げている。


アオたちには、まったく予想もつかなかった事態だ。

しかも、追う者は同じ一族のライン・ローデンだった。

そのことが、彼らをさらに驚かせた。


彼らの中にあるラインの印象は、以前の試合での姿や、一族のために水禍蟇(すいかがま)を追い払った一件で止まっている。

それに加え、バルガスへ自ら降参したことが、彼の本当の力をいっそう低く見積もらせていた。


(ラインは、いつの間にこんなに強くなったんだ?)


皆、すぐには受け入れられなかった。


……


ラインが、角を曲がった。


「アオ!」


アオ組の五人が視界に入り、ラインの心にも驚きが走った。


(どうやら、賭けは私の勝ちだ。シオン、今日がお前の命日だ!)


心の内ではそう考えながら、ラインは声を張り上げた。


「ライル、お前がここにいたとは!よかった、早くシオンを止めてくれ!あいつはバルガスチームの者だけでなく、私たちの一族のガルドたちまで殺したんだ。到底許せることじゃない!」


「何だって?」


「三族は、盟約を結んだはずだぞ!」


「いや、シオンなら、何をやっても不思議じゃない」


「そういうことか!だから、ラインがシオンを追い詰められたのか……」


アオたち五人は驚くと同時に、どこか納得した。

彼らの目には、シオンが見境もなく戦いを重ね、戦力を底まで使い果たしたために、たまたまラインが優位に立ったように映っていた。


(このシオンが、ほんまにここで死ぬんか?いや、まだや。今の精神力でも、氷華姫(ひょうかひめ)を自爆させるくらいは何とかなる。まだ勝ち目はある!)


シオンは心の中で叫んだ。

前にはアオ組、後ろにはラインが迫っている。

状況は、彼にとって極めて不利だった。


実際には、ラインとライルの間には溝があり、ライルが兄の言葉に従うはずもなかった。

だが、他族のシオンに、そんな事情は分からない。

よく似た兄弟の顔を見て、迷わず決断した。


突如、右腕を高く掲げた。

空界にようやく回復させて蓄えた精神力を、すべて右の掌に宿る氷華姫へ注ぎ込む。


右腕の血肉が、再び淡い青の堅氷へ変わった。

その中には、白い腕の骨がくっきりと透けて見える。


轟音が響き、シオンの右腕が丸ごと爆ぜ飛んだ。


濃い霧が一気に噴き上がり、凄まじい冷気が四方へ広がった。

真夏の暑さに包まれていた狭い山道を、白い霜が瞬く間に走っていく。

土を覆い、木々を呑み込み、辺りの気温を一気に引き下げた。


「右腕を、丸ごと捨てたのか!」


自分にも容赦のないシオンのやり方に、ライルは呆然とした。


「下がる!」


アオはライルを掴むと、一気に後方へ退いた。

大量の霜が、波のように押し寄せてくる。

凍りつかされれば、厄介なことになる。


ラインも退き続けた。

百歩以上離れたところで、ようやく霜の広がりが収まる。


つい先ほどまで草木が生い茂り、野草の香りが漂っていた山道は、氷霜の世界に変わっていた。

木々はすべて凍りつき、地面は厚い氷と雪に覆われている。


ラインは厚い雪を踏み、山道の中央へ戻った。


シオンは、全身を氷晶に封じられていた。

まるで、琥珀の中に閉じ込められた虫のようだ。

顔には、直前の獰猛さと決意、容赦のなさが、そのまま凍りついている。


アオ組も駆けつけた。

それを見たライルが、小さく尋ねる。


「あの人……自殺したんですか?」


アオは険しい顔で答えた。


「違う!シオンはすでに氷の肉体を手に入れている。この氷晶では死なない。それどころか、身を守る鎧となり、回復する時間を稼いでいるんだ」


ラインはシオンを見据え、手を振って月刃を放った。

月刃は氷晶に当たり、宝石同士を打ち合わせたような、澄んだ音を立てる。


高さ三メートル、縦横各二メートルの氷晶には、浅い刃の跡が一本残るだけだった。

だが、内部から冷気が広がり、その傷を塞いで、すぐに元通りになった。


「ライン、先ほどの話は、すべて本当なのか?」


アオが振り向いて尋ねた。

ラインは頷く。


「もちろん。バルガスチームでは、トルガ・ロアがまだ生きている。彼が証人になれる。ここに長居はできない。詳しい話は後にして、まずは離れよう」


ラインは、すでに撤退を考えていた。


彼には、この氷晶を砕けない。

皆で力を合わせたところで、多くの時間と精神力を費やすことになる。

シオンが氷を破って出てくる頃には、こちらは戦力を落とし、向こうは精神力を満たしている。

そうなれば、戦況は楽観できなかった。


「離れる?どうして離れなきゃいけないんですか?」


ライルが、思わず声を上げた。


「シオンは右腕を失って、何度も戦い続けて、心も体も疲れきっているじゃないですか。氷晶を壊しながら、一族の合図玉(あいずだま)で信号を送ればいいんです。一族の者の力を集めて、あいつを倒すんです!千載一遇の機会なんですよ!」


その言葉に、皆の心が動いた。


(ラインでさえシオンを追い詰められたんだ。こちらにできないはずがない)


精霊使いたちは顔を見合わせ、それぞれ思惑を巡らせた。


「シオンを殺せば、ローデン一族の大英雄だ!」


「だが、ベル一族が怒って戦を仕掛けてこないか?今はウルフウェーブの最中だぞ……」


「いや、ウルフウェーブの最中だからこそだ。シオンを殺されても、ベル一族は涙を呑んで受け入れるしかない」


「そのとおり。死んだ天才は、もう天才じゃない!」


メンバーたちは次々と言葉を交わした。

その目には、功名と栄誉への憧れが満ちている。


(愚かだな。檀雪(タンソル)の血がどれほど恐ろしいか、お前たちに想像できるものか)


ラインは目を細め、胸の内で冷笑した。

彼らが死にたいなら、勝手にすればいい。

付き合うつもりなどなかった。


アオも、迷わずにはいられなかった。


シオンのことは、他の者よりはるかによく知っている。

原初の血の秘密までは知らない。

だが、シオンを討って得られる名声にも、大して興味はなかった。


元々、名誉や利益には淡泊な男だ。

ハクは次代の族長候補として育てていたが、アオはライルのために、自らその立場を譲った。

彼が本当に気にかけているのは、いつも一族の利益だった。


(ベル一族が台頭したのは、すべてシオンの存在があったからだ。彼を殺せば、ローデン一族はヴェルデン山の覇者であり続けられる!

彼の環階(ランク)は三環だが、私には木傀(もくかい)がある。三環精霊使いとも十分に戦える。

しかも、右腕を失ったばかりだ。すぐには慣れないはずだ。生死を懸けた戦いでは、それこそが最大の隙になる!)


そう考え、アオの眼差しが定まった。

その表情を観察していたラインには、彼の選択が分かった。


(アオが後先を考えず木傀を使えば、普通の三環精霊使いをはるかに上回る。格上にも挑めるだろう。

だが、檀雪(タンソル)の血を持つシオンを相手にするのは、そう簡単ではない。

精神力を薄めて環階(ランク)を抑えられるなら、三環の力に戻すこともできるはずだ。

今は氷晶に隠れ、抑制を解く時間も十分にある。氷を破って出てきたときには、すでに三環の力を取り戻している可能性が高い)


シオンは、資質に恵まれている。

環階を抑え、二環の力しか使わない状態でも、ラインは外の力を借りてようやく対抗できた。

三環の力を取り戻せば、その戦闘力は数倍に跳ね上がる。


しかも、右腕を失わせた元凶は、ラインだ。

好き放題に振る舞うシオンのことだ。

戦いになれば、真っ先にラインを狙うに違いない。


アオの前では警戒も必要で、本当の戦闘力をさらすわけにもいかなかった。


ラインは即座に、去る意思を告げた。

他の者が引き留めても譲らず、きっぱりと戦場を離れる。


「本当に行ったのか。やっぱり臆病者だな」


「ふん、行かせておけばいい。加わられても、連携を乱されるだけだ」


「ははは、シオンを追ってきたのを見たときは、さすがに驚いたがな。やっぱりラインはラインだ。決闘大会で自分から降参した腰抜けさ!」


「そのくらいにしておこう。人にはそれぞれの考えがある。少なくとも彼は、立ち去る前にシオンの新しい情報をいくつも教えてくれた。それに、集落へ知らせに戻れば、こちらも後援には困らない」


アオはラインの背中を見送り、僅かに眉を寄せていた。


「リーダーは人がよすぎますよ。どうしてラインみたいな臆病者を庇うんですか?」


「まったくです。ライルはあいつの弟ですが、あの二人は天と地ほど違いますよ」


「ぼ、僕はもう、兄さんとはほとんど話してません」


ライルは顔を赤くした。

戦いを前に逃げた兄を、恥ずかしく思っていた。


「ライル、君もここを離れるんだ」


アオが不意に言った。


「えっ?!」


ライルは、たちまち目を見開いた。


「君は一族でただ一人の上等資質の天才だ。失うわけにはいかない。シオンは片腕を失っても、この先の戦いは間違いなく厳しいものになる。

一族のためなら、私たちは皆、死ぬこともできる。だが、ライル、君は駄目だ」


その言葉に、他の四人は一様に胸を打たれた。


「よく言った!」


朗らかな笑い声とともに、年老いた精霊使いが姿を現した。


「長老様」


ライルは、すぐに一礼した。

その長老のことは知っている。

一族の中でも、特に古参の長老だった。


長老は近づき、アオへ賞賛の眼差しを向けた。


「ハクは、よい養子を迎えたものだ。一族のために命を懸けて戦う。その覚悟さえあれば、ローデン一族が栄えぬはずはない!」


ライルは、まだ十分に成長していない。

ビッグ・ジャックによる暗殺未遂以来、一族は長老を一人つけ、常に陰から護衛させていた。


「だが、ライル、戦う必要もなければ、帰る必要もない。ここに残り、後方に控えておれ。

たかがシオン一人ではないか。どれほど凄いだの、もう長老に匹敵するだのと、よく聞かされたものだが……ふん、見ればただの青二才だ。どれほどの戦闘経験があるというのだ?すぐに己の体を傷つけるなど、まだまだ青い!」


老者は、見下すように鼻を鳴らした。


アオは、なおもライルを帰したかった。

だが、長老へ面と向かって反論するわけにもいかない。


年長者を敬い、幼い者をいたわるのは、後輩たる者の当然の心得だ。

むやみに年長者へ反論し、疑問を突きつけてよいはずがないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://syuiro-buta.fanbox.cc/
― 新着の感想 ―
>>トルガ・ロアがまだ生きている。彼が証人になれる。 でもそれ、まともに証言してくれるだろうか? トルガの目の前でシオンに傷を与える為とはいえグリムの首刎ねているので… このシオン戦にアオ達が成功し…
そう簡単に死ぬとは思えんし、2章以降も一族抜けた後のライン追って案外長い付き合いになったりしてw それか1章のラスボスなのかな?その場合は死ぬね 他にも色々考えられるが、はてさてどのパターンになるのや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。