↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/172

132.精霊を捨てて時を稼ぎ、出会う者に逆転を賭ける

(ははは、ここまで追い詰められたんは初めてや!ライン、お前……ほんまおもろいわ。傷が治ったら、絶対に殺したる!)


シオンは逃げながら、心の中で吼えていた。

ラインの殺気が背後に迫り、息が詰まりそうになる。

今まで経験したことのない感覚だった。

濃密な死の気配に全身が震え、それとともに病的な興奮が湧き上がる。


背後では、ラインがますます距離を詰めていた。


「これでも食らえや!」


シオンが不意に手を振り、黒い精霊を投げた。

ラインは足を緩め、身構える。

だが、飛んでくる精霊が近づくと、それがバラ・ロアの奪霊(だつれい)だと分かった。


ラインは、その精霊を手で受け止めた。


奪霊は黒い甲虫で、大きさはありふれた甲虫と変わらない。

頭の先には鉄のような一対の大顎があり、背の甲殻には、小さな白い斑点が散っていた。


ラインは逆矢(さかや)の気配を奪霊に浴びせ、精神力を注ぎ込んだ。

瞬く間に錬化を終えて空界へ収めると、再び追いかける。


シオンがこんな手段まで使うのは、傷が重く、追い詰められている証拠だ。

だが、わずかに足を止めたことで、ようやく縮めた距離を、また少し広げられてしまった。


(惜しいな。私には、いまだに移動を補助する精霊がない。風切草(かざきりそう)さえあれば、とっくにシオンに追いついている)


ラインは心の中でため息をついた。


(ラインの奴、一瞬で奪霊を錬化しよったんか?)


シオンは驚き、戸惑っていた。

奪霊を手に入れてから、幾日もかけて錬化を進めてきた。

多少の進展はあったが、ひどく難航し、最後まで成功しなかったのだ。


バラの死には、シオンも間接的に関わっている。

奪霊に宿る意志は元々バラのものだったため、シオンへの憎悪と嫌悪がいっそう強く、錬化をさらに難しくしていた。


それを、ラインは一瞬で終わらせた。

その光景を目の端に捉え、シオンは驚くと同時に、背筋が冷えるのを感じた。


確かに、それを可能にする特殊な精霊は存在する。

だが、シオンは一度も手にしたことがなかった。


(ラインは、それを持っとるんか?)


シオンは、ますますラインを警戒した。

彼の中で、ラインはさらに危険で、得体の知れない存在になっていった。


だが、時間が経つにつれ、ラインの胸中も重く沈んでいた。

長引くほど、シオンの精神力は回復し、傷も軽くなる。

それだけ、ラインの優位は失われていくのだ。


(このままでは、今回は殺しきれない!)


ラインは、ひそかに嘆息した。


この調子では、そう遠くないうちに、シオンの傷も精神力も相当な程度まで回復してしまう。

ラインは月華印(げっかいん)を使い続け、新たな傷を負わせている。

それでも、檀雪(タンソル)の血が持つ資質は、まさに天に恵まれたものだった。

その回復速度は、ラインが霊石から精神力を吸収する速ささえ、僅かに上回っていた。


(この先で狼の群れに出くわし、あいつが足止めされるなら別だ。あるいは精霊使いのチームが現れて、少しでも足を止めてくれれば……。だが、ベル一族のチームなら、危ういのは私の方になる)


ラインは思案を重ね、撤退も考え始めていた。


二人は、かなりの距離を走ってきた。

だが、その間、巨雷狼(きょらいろう)が率いる群れにも、精霊使いのチームにも、一度も出くわしていない。

逃げる方向を選べるシオンも、偵察精霊を持ち、前もって避けているということだ。


ヴェルデン山は広く、逃げ道は四方にある。

ラインには、シオンを一つの方向にだけ走らせることはできなかった。


……


アオは移動しながら、隣のライルに言い聞かせていた。


「ウルフウェーブで何より大切なのは、まとまって行動し、狼の群れに分断されないことだ。散り散りになれば危険だからね。

巨雷狼率いる群れなら、地の利を活かして守りを固め、正面から撃破できる。

だが、轟雷狼(ごうらいろう)率いる群れに出会ったら、まずは撤退だ。それから合図玉(あいずだま)で信号を送り、近くのチームが合流してくれるのを待つ。

少なくとも三つのチームで力を合わせなければ、轟雷狼率いる群れには勝ちを見込めない。

もちろん、ウルフウェーブで相手にするのは、雷狼(らいろう)だけではない。精霊使いもいる」


アオはここで、いったん言葉を切った。

他の四人には、誰のことを言っているのか分かっていた。


シオン。


このところ、シオンはあちこちで戦いを仕掛けていた。

わざと環階(ランク)を抑え、二環の赤鉄精神力だけを使い、バルガスやクルたちにも次々と挑んでいる。

次の標的はアオだと、公言もしていた。


アオは話を続けた。


「もしシオンに遭遇したら……戦わずに済むなら、それに越したことはない」


聞いていたライルは、どこか納得のいかない思いを抱いた。

アオは外見こそ温和だが、芯が強く、筋を通す人だと思っている。

彼と接していると、深い家族の情を感じる。

敬い、慕っているからこそ、シオンに後れを取るところなど見たくなかった。


「みんなシオンの話をしてますけど、いったいどんな人なんですか?」


ライルが眉を寄せて尋ねた。

組の他の三人も、口を閉ざす。


アオは穏やかに微笑んだ。


「ヴェルデン山一の天才だよ!ライル、よく聞いておくんだ。

君はまだ若く、上等資質を持っている。いずれ彼を超えることだって、できるかもしれない。

だから、成長しきるまでは、正面からぶつからない方がいい。

前に話した物語を覚えているかい?頭を下げることと、頭を上げること――人には、頭を下げなければならないときもあるんだ」


ライルはアオの温かな眼差しを見つめ、思わず頷いた。


「分かりました。アオ兄さん、心配しないでください」


「それならいい……」


アオが言いかけたとき、組の偵察精霊使いが不意に口を開いた。


「この先、そう遠くないところを、精霊使いが一人、かなりの速さで走っています」


皆の表情が、僅かに変わった。

赤髪の治療精霊使い、ベニが険しい顔をする。


「どこかのチームが、狼の群れに分断されたんでしょう。急いで救援に向かいましょう」


ところが、ライルは思わず口にした。


「シオンかもしれませんよ?あの人、いつも一人なんですよね?」


「彼かどうかは、まだ分からない。だが、本当に仲間とはぐれた精霊使いなら、どの集落の者でも、今は私たちの盟友だ。助けに行くべきだよ」


アオはそう言い、率先して進路を変えた。

他の四人も、その後に続く。


ほどなく、偵察精霊使いが再び告げた。


「一人ではありません。先ほどの精霊使いの少し後ろに、もう一人います」


「二人だったんですね。それなら、ベニ姉さんの言うとおり、狼の群れにチームを分断されたんでしょうね」


ライルは思わずほっとした。

アオの表情は変わらないが、他の三人も、いくらか緊張を解いた。


上空から見下ろせば、険しい山道を進むアオ組と、ライン、シオンの二人が、刻々と近づいているのが見えただろう。


「ん?」


シオンの顔色が、僅かに変わった。

偵察精霊が、五人のチームが正面から近づいてくるのを捉えたのだ。

シオンは即座に進路を変えた。


偵察精霊はあっても、相手の素性までは正確に分からない。

精霊の能力は一体につき一つであり、どれにも長所と限界がある。


ラインの地這い耳(じばいみみ)も同じだ。

音を聞き取ることができ、とりわけ足音には敏感だが、そこから相手の性別などの詳細を判別することはできない。

誰かが忍足(しのびあし)を使って足音を消せば、ラインには、その動きを察知できなくなる。


相手が誰なのか分からない以上、シオンが安全を優先して避けるのは当然だった。

だが、今度は勝手が違う。

アオ組は全員が精鋭であり、偵察精霊使いにも相応の腕があった。


「人がいる!」


少し遅れて、ラインもアオ組の存在に気づいた。

走る彼の右耳から伸びた根が、空中で揺れている。

地面に根を張っていないため、偵察範囲は最大時の半分にも届かなかった。


シオンがまた逃走の方向を変えると、アオ組も進路を変えた。

これで、シオンとラインの表情が、揃って引き締まる。


二人とも、頭が切れる。

正体不明のチームこそ最大の変数であり、この戦いの結末を左右すると、即座に悟った。


(ベル一族なら、即座に隠鱗虫(いんりんむし)で退く。だが、他の二族なら……ふっ)


ラインの目に、冷たい光が走った。


この選択に危険が伴うことは、分かっている。

ベル一族のチームで、しかも姿を消した相手を見破る手段まで持っていたら、絶体絶命になる。

だが、この機会を逃せば、シオンを殺す好機は、もう訪れないかもしれない。


単純に数学的な確率だけを見れば、ラインの勝率は三分の二、シオンは三分の一だ。

賭けない理由はなかった。


走るうちに、双方の距離はさらに縮まった。


「もうすぐ姿が見えます。あの曲がり角の向こうです」


偵察精霊使いが、山道の曲がり角を指した。

一行は足を緩め、相手との合流を待つ。


白い人影が、不意に角を曲がって現れた。


「シオン!」


ライルが思わず叫んだ。

彼もシオンの肖像画は見たことがある。

アオを含む他の四人も、揃って顔を曇らせた。


「シオンがあれほど無様な姿になるとは。轟雷狼の群れにでも遭遇したんだろう」


「ふん、いい気味だ。ウルフウェーブの中で、一人で何を粋がってるんだ」


誰も、自分から迎えに出ようとはしなかった。

シオンの様子も動きも、明らかに命からがら逃げている者のそれだ。

アオたち五人はそれを見て、どこか痛快な気分になっていた。


そのとき、曲がり角の向こうから、ラインの怒号が響いた。


「シオン、逃げるな!今日こそ、必ずお前を殺す!」


これは、探りを入れるための言葉だった。

地這い耳によって、正体不明の五人が曲がり角の向こうにいることは把握している。

ベル一族なら、この言葉に激しく反発するはずだ。


ところが、アオたちは聞いた途端、目を丸くした。


「どういうことだ?」


「シオンを追って、殺そうとしてる奴がいるのか?!」


「冗談だろう。そんなことがあるのか?」


「シオンをあそこまで追い詰めるなんて、いったい誰なんだ?」


ベニたちは顔を見合わせた。

どの顔にも、同じ驚きが浮かんでいる。


ライルも驚き、戸惑いながら呟いた。


「この声……どこかで聞いたことがあるような……」


声の主を思い出すより先に、ラインが角を曲がって姿を見せた。


「ん?!」


アオの険しい表情が、一瞬、凍りついた。

他の四人は、ただでさえ丸くしていた目を、飛び出さんばかりに見開く。


「こ、こ、これは……」


ベニは、卵が一つ入りそうなほど、口を大きく開けていた。


「兄さん!」


ライルは、呆気に取られて立ち尽くした。


「彼が……?」


アオほど落ち着きのある男でさえ、この瞬間ばかりは驚きを隠せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://syuiro-buta.fanbox.cc/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。