129.過ぎた才が招く死、経験に潜む殺意
「何だって?!」
トルガが、思わず声を上げた。
グリムも顔を険しくする。
「奪霊だと?ヴェルデン山であの精霊を持っているのは、私の従兄弟、バラ・ロアだけだ!」
バルガスは目を細め、その奥に凶暴な光を宿した。
他の者と同じく、彼もシオンを警戒している。
だが、警戒しているからといって、臆病になったわけではない。
一族のために命を捧げ、シオンと死闘を繰り広げる覚悟など、とうにできていた。
「シオン、奪霊は本当にお前の手元にあるのか?」
バルガスは大きく一歩踏み出した。
ラインを脇に通し、追ってきたシオンと正面から向き合う。
シオンは冷たく笑った。
「持っとるで。それがどないしたんや?」
グリムは顔を暗く沈ませ、厳しく問い詰めた。
「言え!私の従兄弟は、どうやって死んだ?なぜ、その精霊がお前の手にある!」
トルガ・ロアも、冷ややかな顔で口を開いた。
「シオン、僕はあなたを先輩として敬っている。だけど、ロア一族の精霊を勝手に自分のものにして、引き渡そうともしないなんて、明らかな盟約違反だ!」
そう言うと、トルガは手を振り、一匹の合図玉を放った。
色鮮やかな花火が上空で弾け、その光がシオンの顔を照らす。
シオンは声を上げて笑った。
「盟約なんぞ、知ったこっちゃないわ。奪霊を使うてる奴を見かけてな。その様子がおもろかったさかい、手元に置いときたくなって拾うてきただけや。」
グリムは、ついに怒りを抑えきれなくなった。
低く叫び、シオンへ襲いかかる。
「シオン!私の従兄弟が戦死するのを、黙って見ていたのか!この野郎!」
チームの五人は一蓮托生だ。
公私どちらの面でも、バルガスチームがシオンと穏便に話を収める余地は、もうなかった。
戦いは避けられず、辺りはたちまち混戦となった。
シオンは五人から攻撃を受け、その五人もまた、狼の群れの中で雷狼の牙や爪に対処しなければならない。
ラインはすでに戦場を離れ、遠くから悠然と眺めていた。
狼たちは六人を中心に、時計の針が回るように、ゆっくりと周囲を巡っている。
一撃で仕留める機会を待っているようだった。
激しく戦う六人は、少しでも隙を見せれば、狼の餌食になりかねない。
グリムは屍人鎧を発動し、その瞳を不気味な緑に染めていた。
バルガスの目は血走り、シオンの瞳は水晶のように青く澄んでいる。
戦場で最も激しくぶつかり合っているのは、この三人だった。
屍人鎧によって屍人となったグリムは、激流と氷に対する耐性が大幅に高まっていた。
そのおかげで、どうにかシオンの攻撃を受け止めている。
バルガスは豪熊紋を発動し、熊二頭の力で、人の頭ほどもある拳を振るっていた。
二、三発も叩き込めば、シオンの水盾さえ打ち砕かれる。
残る三人のロア一族の精霊使いは、この戦いになかなか手を出せず、雷狼を防ぐことに全力を注いでいた。
ラインに誘い込まれた巨雷狼など、先ほどまでは容易に仕留められるはずだった。
それが今や、大きな脅威と化している。
「シオン、自分のやったことの代償を払ってもらうぞ!」
グリムが叫び、再びシオンへ飛びかかった。
「ふん、お前ごときに何ができるんや?」
シオンは冷笑し、身軽に後ろへ跳んで距離を取った。
同時に左手を振り、指ほどの大きさの氷の錐を五本放つ。
氷の錐は次々とグリムの体に突き刺さった。
だが、彼は少しも痛みを感じない。
屍人となった今、手足を失っても、痛覚は働かなかった。
普通の人間なら動きを鈍らせる冷気さえ、彼にはむしろ冷たく心地よい。
屍人とは、肉体が死んだ後もこの世をさまよう怪物だ。
炎や烈日には弱いが、この程度の冷気には十分耐えられる。
「シオン、ここまで来ても、まだ俺たちをなぶるつもりか!本当の実力を見せろ!」
バルガスが怒鳴った。
戦い始めてから、シオンはずっと環階を抑え、二環精霊使いとしての力しか見せていない。
使っている精霊も、そのほとんどが二環だった。
それが、バルガスには自分たちを侮っているように思えてならない。
屈辱と憤りが入り交じり、怒りはますます燃え上がった。
「ははは、お前らみたいな雑魚に、全力を出す価値があるとでも思うとんのか?」
シオンは冷笑を重ね、さらに鋭く攻め立てた。
それでも力を抑えたまま、三環精霊は一匹も使わない。
遠くで腕を組んで見ていたラインには、その理由がよく分かっていた。
(使いたくないわけではない。三環精霊を使う代償が大きすぎるから、避けているだけだ。シオン……ふっ、その身に流れているのは、檀雪の血なのだからな)
この世界で最も古い伝説によれば、人類はすべて人祖の子孫だという。
だが、十人十色という言葉もある。
どれほど近しい肉親でも、たとえ双子であっても、完全に同じにはなり得ない。
この世界で、人々が最も注目する違いは、資質だった。
精霊使いの資質があり、精霊使いになれれば、人の上に立てる。
資質を持たない凡人は、社会の最底辺で、踏みにじられ、好きなように扱われるしかない。
修行の資質には、上等、中等、下等、末等がある。
それは誰もが知っている。
だが、上等のさらに上にも、優れた資質は存在していた。
そこから先は、秘められた知識だ。
一族は決して大々的に知らせず、一定以上の地位に就いた者にしか、知る機会はない。
バルガスたちが知らないのは当然で、長老や族長でさえ、知っているとは限らなかった。
だが、前世で六環に至り、凡身を脱して聖使となったラインは、よく知っている。
上等を凌駕する資質は九種類あり、総じて「原初の血」と呼ばれていた。
ラインは、それらの伝説を思い返した。
(人祖が完全に死ぬまでに、もうけた子は全部で十人。
長男は天照彦命、二番目の子は娘の望舒……その中には、檀雪という子もいた。
人祖の伝説は虚実が入り交じり、精霊使いの修行にまつわる数多くの秘密を暗示している。
最初の九人の子供の血、それが原初の血だ)
(原初の血は、どの一種であっても上等資質を凌駕する。
最も優れた上等資質でも、空界に蓄えられる精神力は九割九分まで。
だが、原初の血を持つ者の精神力は、例外なく満杯の十割に達する!)
ラインはため息をつき、それから小さく笑った。
(だが、万物は均衡の上に成り立つ。十割の精神力を持つ原初の血は、あまりにも完璧すぎる。
天地はその存在を許さず、凡身を脱することでしか、宿命からは逃れられない。
人祖の物語でも、最初の九人の子供は、それぞれの理由で早くに命を落としている)
(ただ一人、第十子――「名もなき祖」と呼ばれる者だけは違った。
人祖から受け継いだ血液を二等分し、その片方を使って、女性の自分自身を造り出した。二人は無数の男女をもうけ、そこから人類はこの世界で急速に増えていった。
名もなき祖は自分の名を残さず、子供たち一人ひとりに違う姓を与えた。その姓はどれも、名もなき祖の兄や姉たちの名とは、大きく異なっていた)
ラインは、遠くの戦場を見下ろした。
(とはいえ、時おり先祖返りによって、原初の血を再び宿す精霊使いが現れる。現代の精霊使いには、あの名もなき祖のような力はない。檀雪の血を持つシオンも、その一人だ)
(十割もの精神力は、あいつの空界に重すぎる負担をかけている。いつ崩壊してもおかしくない。
危険を減らすには、修行を続け、精神力を費やして空界の竅壁を温養し、その基盤を強固にして、十割の精神力に耐えられるようにしなければならない。
だから、あれほど驚異的な速さで修行が進むのだ)
ラインの顔に、嘲るような笑みが浮かんだ。
(だが、環階が上がれば、精神力の質も高まり、空界への負担はさらに増す。危険はかえって大きくなる。
海で遭難し、小舟に取り残された者と同じだ。真水がないから、海水で喉を潤そうとする。だが、塩分を含む海水を飲めば、体はさらに水分を失い、飲むほどに渇いていく)
(シオンは修行すればするほど、自滅へ近づいていく。
だが、やめることもできない。一族からの期待も、ロアとローデン両族による暗殺の企ても、彼に強くなることを迫っている。檀雪の血を持つ以上、自分の置かれた状況も分かっているはずだ。
余命が短く、必ず死ぬと知っているからこそ、あんな性格になったのだろう)
そこまで考え、ラインは心の中で嘆息した。
何とも皮肉な話だ。
優れすぎた資質は、彼らがこの世で生きていく助けになるどころか、滅びへと導く元凶となっていた。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
人は水を飲み、食事を取らなければ生きられない。
だが、度を越して飲み食いすれば、それで死ぬこともある。
見方を変えれば、どの世界にも、本当の完璧など存在しないのだ。
完璧すぎれば、かえって滅びを招く。
前世では、ウルフウェーブが終わってから二年後、シオンは避けようもなく四環に達した。
その空界は、ついに精神力の重圧に耐えきれず、凄まじい自爆を起こした。
原初の血は、凡身に収まりきるものではない。
その自爆は、シオンの命が奏でた最後の絶唱にも似て、恐るべき威力を放った。
三族の者は一人残らず命を落とし、ヴェルデン山全体が、氷に閉ざされた死地と化したのだ。
幸い当時のラインは、実力も資質も平凡で、一族から疎まれ、冷遇されていた。
やむなく商隊に加わって山を離れていたため、かろうじて難を逃れられた。
死を先延ばしにするため、シオンは自ら精霊を使い、三環の白銀精神力を、二環の赤鉄精神力へ薄めていた。
三環精霊をめったに使わないのも、そのためだ。
三環精霊を一度使うだけで、大量の赤鉄精神力が必要となり、その後が続かなくなりやすい。
それよりも、複数の二環精霊を続けて使う方が、戦いでは役に立つ。
それが、環階を抑えている本当の理由だった。
実力があるのに自分で手足を縛り、危地に飛び込むのは、愚か者のすることだ。
シオンは頭の回転が速く、幼い頃から一族の手厚い支援を受け、十分な教育を施されている。
そんな馬鹿な真似をするはずがない。
まだ若いのに、その性格は常人とは大きく異なる。
だが、死期の迫った者に、いったい何を遠慮する必要があるのか。
何を気にすることもなく、好き放題に生きる。
そのあり方が、彼を組織の体制に染まらせなかった。
生まれながらの外道である彼は、こうして本当の意味で、外道の心を手に入れたのだ。
そうでなければ、衆望を担い、手厚い薫陶を受け、前途洋洋たる将来を約束された環境に育った彼は、とっくに組織に同化され、指導者にふさわしい心構えを養っていたはずだった。
シオンは、本当は哀れな子供なのだ。
ラインも、初めから彼に手を出すつもりはなかった。
だが、向こうが自分を殺そうとするなら、まずは利用し、その後で、この災いの種を早めに摘むことに、ためらいはない。
戦いは、まだ続いていた。
その間にも、戦況は変わっている。
巨雷狼はシオンに斬り殺され、狼たちは散り散りに逃げていた。
バルガスチームの治療精霊使いも、彼の刃に倒れている。
ただし、シオンも大きな代償を払っていた。
右腕にバルガスの重い拳を受け、どうやら骨折したらしい。
その後の激戦でも、右腕は力なく脇に垂れたままだった。
だが、それでも彼の優勢は揺るがない。
バルガスは、二環精霊使いの中でも一流の精鋭であり、実力はアオやクルと肩を並べる。
グリムは新たに頭角を現した防御の名手だ。
トルガも、その年のロア一族で優秀な新人であり、今では二環の戦闘力を備えている。
さらにもう一人の精霊使いを加え、四人で力を合わせていた。
それでもなお、シオンに押されている。
シオンは、すでに前の戦いで相当量の赤鉄精神力を消耗していた。
この戦いでも巨雷狼と治療精霊使いを斬り殺し、右腕まで使えなくなっている。
利き手の右を諦め、左手で氷刃を持つしかない。
これまで左手で氷の錐を放っていた手段も、そのため、今は使えなくなっていた。
攻撃能力は、ほぼ半減している。
それでも彼は優勢を保ち、その優位はますます揺るぎないものになっていた。
(さすがは檀雪の血だ。精霊で精神力を薄め、この血が本来持つ強みも封じてはいるが、精神力の回復速度はそのまま残っている。戦いが長引くほど、あいつが有利になる)
ラインは戦場を眺め、ひそかに感嘆した。
(今の私の戦力では、まだあいつに勝てない)
そのことを、彼は平然と認めた。
下等資質の彼の精神力は、最大でも四割四分にすぎない。
中等資質のバルガスやトルガ、グリムたちでさえ、力を合わせてもシオンに押されている。
ライン一人で相対すれば、さらに厳しい状況になるだけだ。
(だが、お前に勝てないからといって、殺せないわけではない)
そう思い、ラインは冷笑した。
それこそ、五百年の経験が培った知恵だった。
二人には、確かに似通うものがある。
だが、数百年を生き、「魔王」と呼ばれた外道のラインに比べれば、シオンなど、残酷な運命によって早々に心を成熟させられた、まだ駆け出しの外道にすぎなかった。




