127.汚い手口、生まれながらの外道
ラインは林の中を疾走していた。
木々が正面からぶつかってくるように迫るが、巧みに身をかわし、足を止めない。
右耳から伸びた根が空中で激しく揺れていた。
背後には、わざと怒らせた一頭の巨雷狼と、数百頭の健壮な雷狼が迫っている。
雷狼の足は、ラインより遥かに速い。
特に巨雷狼は、複雑な地形の中を身軽に跳び回り、稲妻のような速さで追いすがってきた。
追いつかれる寸前、ラインの身体に水面の波紋のような光が広がり、その姿が消えた。
巨雷狼は足を緩め、怪訝そうに辺りを見回した。
ラインはしばらく走り、離れた場所で再び姿を現す。
鋭い目がすぐに彼を捉え、巨雷狼は怒りの唸りを上げて、また追いかけた。
後ろの雷狼たちも、頭領としての巨雷狼に続く。
ラインは心の中で冷笑し、逃げ続けた。
それを何度か繰り返し、ようやく目的地へ着いた。
今度は完全に姿を隠し、そのまま現れなかった。
狼の群れは、彼が消えた場所でしばらくうろついた。
だが、巨雷狼はすぐに新しい標的を見つける。
少し先の谷で、五人の精霊使いが、別の狼の群れと戦っていた。
巨雷狼には、並の獣を超える知恵がある。
だが、万物の霊としての人類に、どうして及ぶだろうか。
たちまちラインのことを忘れ、頭を上げて遠吠えを放った。
背後の雷狼たちが潮のように谷へ流れ込み、戦いに加わった。
「どうしてこんなことに!」
戦っていた精霊使いたちの顔が、土気色になった。
「狼の群れには、それぞれ縄張りがあるはずじゃなかったのか?ようやく一頭、巨雷狼を倒したのに、また来るなんて!今度こそ危ないぞ!」
「早く救援の合図を出せ!」
新たな群れが加わり、五人への圧力は一気に増した。
声にも慌てた様子が滲む。
偵察を担当する精霊使いが、急いで一体の精霊を空へ放り上げた。
金色の小さな球に、色鮮やかな翼が一対ついている。
羽ばたいて高く舞い上がると、突然弾け、鮮やかな花火となった。
周囲百里のどこからでも見えるほどの光だった。
一環の消耗型精霊、合図玉。
信号を送るためによく使われる精霊だった。
「合図は出した!皆、持ちこたえろ!援軍が来るまでの辛抱だ!」
リーダーが間を置かず声を上げ、仲間たちの士気をいくらか持ち直させた。
動揺していた皆の心も、少し落ち着いた。
(無駄だ)
ラインは高い岩壁の上で姿を現し、戦場を見下ろしていた。
胸の内には冷たい笑みがある。
このチームの周囲の状況は、すでに調べ尽くしていた。
最も近くにいるチームも、今は狼の群れに包囲されている。
そちらの群れも、ラインがわざと誘い込んだものだった。
彼らを足止めするためだ。
(雷狼を狩っても、目玉一つで十点の功績にしかならない。
だが、戦場で精霊を回収して族の上層部へ提出すれば、少なくとも千点は手に入る。
二、三度やれば、風切草を交換するには十分だ)
ラインの策によって、このチームの結末はすでに決まっていた。
(後は殺されるのを待ち、雷狼の群れを引き離して、戻って精霊を回収するだけだ)
彼は岩壁のそばにある大木の下へ歩き、悠々と腰を下ろした。
誰も、死ぬことを受け入れたくはない。
谷の精霊使いたちは、なお必死に抵抗していた。
ラインは危険を冒して千獣王の轟雷狼を誘うことはせず、巨雷狼を選んでいた。
それが、彼らにしばらく抗う時間を与えている。
しかも、その中には、かつてラインに敗れたガルド・ローデンがいた。
ストーンズスキンを持つガルドは、防御に優れていた。
一人で、多くの雷狼の攻撃を受け止めている。
だが、それもラインがこのチームを選んだ理由だった。
精霊は貴重であるほど、回収して提出した際の功績も多い。
ストーンズスキンだけで、三千九百点の功績になる。
功績順位表の順位を、一気に二十以上押し上げられるほどだ。
もちろん、クルやリリア、アオの精霊は、ストーンズスキンよりさらに貴重だった。
だが、クル組には偵察精霊使いのリンゲルがいる。
彼の蛇舌の精霊は熱を感知でき、ラインが姿を隠しても通用しない。
リリアは、リンゲルを上回る偵察精霊使いで、手段も多彩だった。
族から命じられた狼の巣の監視任務を、何度も一人で成し遂げている。
アオ組には、優れた偵察精霊使いはいない。
だが、ライルがいる以上、必ず長老が陰で護衛についている。
そこへ狼の群れを誘い込むなど、自分から死にに行くようなものだった。
ほかの二つの集落の精霊使いについては、よく知らない。
人を陥れるのも、簡単なことではなかった。
慎重にいくつかのチームを選び、長く尾行を続け、ようやく今という好機を得たのだ。
……
シオン・ベルは眠っていた。
そこへ、激しい戦闘の音が届く。
薄く目を開くと、その隙間に冷たい光が覗いた。
「また、こんな退屈なもんか」
崖の縁に寝ていた彼は、わずかに身を横へ向けただけで、谷の光景を見渡せた。
もう一度目を閉じようとしたとき、一つの姿が視界に入った。
「ん?」
瞳に、かすかな驚きが浮かぶ。
ラインがいた。
大木に背を預け、摘んできた野の実を食べながら、下の戦場を冷めた目で眺めている。
何の感情も動かされていないようだった。
シオンは、たちまち興味を覚えた。
こんな人間には、今まで会ったことがない。
幼い頃から、周囲にいた者は誰もが一族に忠実で、感情に浸って生きていた。
だが、ラインからは、ひどく馴染みのある孤独と冷淡さが感じられる。
(誰や、あいつ?)
疑問と好奇心が、一緒に湧き上がった。
……
野の実は、ラインがその場で摘んだものだった。
彼の経験があれば、毒の有無など一目で分かる。
果肉は汁気が多く、程よい甘酸っぱさがあった。
食べていると、右耳がふいに動いた。
何かが動いた。
しかも、すぐそばだ。
シオンは、それまでさらに上の崖で眠り、身動きしていなかった。
そのため、地這い耳では捉えられなかったのだ。
だが、動き始めた今、ラインはすぐに気づいた。
目を光らせ、横へ顔を向ける。
白い髪に白い衣の少年が、氷刃の先端を岩壁へ突き立て、滑り降りてきた。
そうして、ラインから少し離れた場所へ降り立つ。
(シオン!)
ラインはわずかに目を伏せ、すぐに相手を見抜いた。
ヴェルデン山で、誰もが認める第一の天才。
ベル一族の台頭を象徴する存在だった。
二環の頃には、他家の三環長老を斬り殺している。
今は若くして三環に達し、一人の力でヴェルデン山の勢力図を変える、重要な人物でもあった。
ほかの精霊使いなら、シオンと一対一で向かい合えば、必ず顔色を変えただろう。
緊張するか、警戒するか、そのどちらかだ。
だが、ラインは一瞥しただけで、再び谷へ目を戻した。
表情は平淡で、気にした様子もない。
シオンの素性も秘密も、彼はすべて知っていた。
「ほおぉ……」
シオンは近づき、口を少し開けて、間の抜けたようにラインを見つめた。
声を長く引きながら、見たこともないものに出会ったかのように、好奇心を隠さず眺めている。
距離が縮まるほど目は輝き、興味も強まっていった。
(なんや、この馴染みのある感じは?どっかで会うたことがあるような、ずっと昔から友達やったような……)
シオンの心が揺れた。
友達
その言葉を、彼はいつも軽蔑し、見下し、唾棄してきた。
自分に友達ができるなど、考えたこともない。
周囲の凡人どもは、ただ彼を見上げるだけの存在だ。
友達になる資格など、どこにあるというのか。
一生、友達など持たない。
ずっと、そう思っていた。
それなのに今、こんな感覚が生まれている。
言葉にし難い、不思議な感覚だった。
だが、その確かさには疑いがない。
ラインを見ていると、自分自身を見ているようだった。
シオンは、少し近づきすぎた。
ラインが漆黒の瞳を向け、静かに見据える。
何の説明もなく、シオンにはその意味が分かった。
警告だ。
足を止めた。
それでも、まじまじとラインを見つめ、観察を隠そうとはしない。
「なあ、お前、ほんまおもろいな」
もしシオンをよく知る精霊使いがここにいて、この言葉を聞いたなら、驚きのあまり気が狂いそうになっただろう。
シオンが生まれてから、ここまで人を褒めたことなど、一度もなかったからだ。
ラインは相手にしなかった。
野の実をかじり、谷の激戦を眺め続ける。
シオンは彼の周りを回り、細かく観察した。
世界で一番珍しいものでも見つけたかのようだった。
あらゆる角度から見た後、ふいにしゃがみ、ラインの顔を見上げる。
水晶の糸を思わせる、汚れ一つない白い髪が泥の上へ垂れた。
だが、気にしない。
白い長衣が地面を引きずっても、構わなかった。
今の彼は、無邪気な子どものようだった。
遊び相手を不思議そうに眺め、何度も話しかけようとする。
だが、言葉が出てこない。
ラインに話したいことは、たくさんある気がした。
それなのに、口にしようとすると、その必要はないと思えた。
ラインなら、すべて分かる気がしたからだ。
しばらく黙った後、シオンは不思議そうに尋ねた。
「谷の戦いなんて、ちっともおもろないやろ。何をそんなに見てるんや――」
言い終わる前に、眉が跳ね上がった。
分かった、という表情になる。
「分かったで!この狼、お前が連れてきたんやな。あの精霊使いらを殺すつもりか。
せやけど、なんで自分で手ぇ下さへんのや?
ああ、証拠が残るんが嫌なんか。慎重すぎるやろ。
気配からして、もう二環なんやろ?それやったら、殺したい思うた時点で、とっくに手ぇ出してるわ!」
ふいに、楽しげに笑い出した。
眉を躍らせ、世の中で一番面白いおもちゃを見つけた子どものように、顔を輝かせる。
「お前、ほんまおもろいな。やることまでおもろい。ははは、好きになってきたわ!」
その喜びには、少しの偽りもなかった。
前にこれほど嬉しかったのは、幼い頃、遠くから来た商隊に、この面白い喋り方を教わったときだった。
ラインは谷から目を離し、再びシオンを見た。
この男のことは、理解している。
シオンは、生まれながらの外道だった。
生まれながらの外道とは、何か。
世俗を捨て、衆生を顧みず、孤独に囲まれ、感情を取るに足らないものと見なす者だ。
この男は、ラインの鏡像に似ていた。
ただ、ラインの方が底知れず、シオンの方がいくらか純粋だった。
結局、二人は同じ道を歩む者同士なのだ!
前世の記憶では、三族が辛うじてウルフウェーブを乗り越えた後、三族を皆殺しにしたのは、この男だった。
生気に満ちたヴェルデン山を、氷に閉ざされた死の牢獄へ変えた男だ。
(シオン、シオン……)
ラインは心の中で溜息をつき、ゆっくりと言った。
「孤独なんだろう」
シオンは目を見開いた。
しゃがんだまま何度も頷き、深く共感したように溜息をつく。
「せやねん、毎日ほんま退屈でな。この前、ロアの精霊使いを一人殺したんは、ちょっとおもろかったわ。そのとき、この精霊も奪ってきたんや。ほら、見てみい」
奪霊を取り出した。
新しく手に入れたおもちゃを遊び相手に見せる、可愛らしい子どものようだった。
ラインは手の中の奪霊を一瞥し、小さく笑った。
「だから、私を殺したいんだろう?」
シオンの漆黒の瞳が、突然、水晶のような青へ変わった。
勢いよく立ち上がり、天を仰いで三度、声を上げて笑う。
そして、興奮を隠しきれない様子でラインに言った。
「やっぱり分かってるんやな!
せや、殺したいんや!お前も殺しに来いや!生死を懸けた戦いが、一番おもろいんや。
そこへ、お前みたいなおもろい奴が出てきた。誓って言うけど、こんなおもろいこと、今まで一度もなかったわ!」
話すほどに興奮が増し、ふいに両腕を大きく広げ、顔を上げて長く息を吐いた。
「ああ――!生きてきて、こんなにおもろかったこと、一度もないわ!
ありがとうな、ほんまありがとう!
名前もまだ知らんけど、殺させてくれてありがとうな!あははははっ……」




