121.最下位でも独りを貫き、再び秘洞へ
決闘大会が終わったのは、ようやく夕暮れになってからだった。
会談の丘では、三大家族の陣営が、当初ほど明確には分かれていなかった。
精霊使いたちは山坡全体に散らばり、三つの大きな人だまりが、かろうじて残っているだけだった。
決闘は、鬱積したものを吐き出す手段であり、同時に妥協の手段でもある。
力が何よりも重んじられるこの世界では、力を持ってこそ尊重され、協力の土台も生まれるのだ。
バルガスがラインに挑んで以来、彼に手合わせを申し込む者は、一人もいなかった。
ラインはまだ新人であり、他の二家の精霊使いとは接点が少なく、因縁などなおさらない。
同じ一族の者同士も、このような場で互いに挑むことはなかった。
何より、あっさり降参したことで、皆の興味を失わせていた。
こんな「怠け者」で「臆病者」の相手を倒したところで、何を自慢できるというのか。
踏みつけられたくなければ、道は二つある。
一つは、誰も踏みつけようとはしないほどの強者になること。
もう一つは、誰も踏む気にならない糞になることだ。
ラインは、自分が強者と思われようと、糞と思われようと、気にしなかった。
手段を選ばず、結果だけを見るのが、彼のやり方だった。
誰も挑んでこないなら、その方が気楽である。
周囲から向けられる侮蔑や軽蔑の視線も、意に介さなかった。
こんな視線すら耐えられずに、どうして外道の道を歩めるというのか。
会盟は滞りなく終わり、ローデン、ベル、ロアの三族は、ひとまず盟約を結んだ。
第一に、共通の法令を公布した。
三族は過去の因縁を一時棚上げし、共にウルフウェーブへ立ち向かう。
危急の際には互いに援助し、内部での殺し合いを厳禁としたうえで、調査・督戦班を設置する。
殺人が確認された者は、まず一族から追放され、その後、三家による制裁を受ける。
奪った命は、自らの命で償わなければならない。
犯人が逃亡した場合は、その親族の命で償わせる。
精霊使いの死体から回収した精霊も、必ず提出しなければならなかった。
無断で自分のものにしたり、使用したりすれば、すべて殺人罪として処罰される。
提出した精霊は、功績と引き換えることができた。
第二に、功績順位表を設けた。
チームを単位として、三大家族の各チームの戦績と順位を、随時表示する。
雷狼の眼球一個につき、十点の功績を得られ、その功績で精霊や霊石などの物資を交換できた。
功績順位表の登場は、精霊使いたちの意欲を大いに掻き立てた。
手合わせでの勝敗が、そのまま実戦の結果を示すわけではない。
グリムとエリアスを例に取れば、エリアスには、渦錐以外にも遠距離攻撃手段がある。
一方、グリムの共命影は、有効範囲が十メートルしかない。
そもそも実戦では、勝敗を左右する要素が、一つや二つではなかった。
それに比べれば、功績順位表は、より公平に競い合える場だった。
三大家族の精霊使いたちは、より高い順位を目指して、競って雷狼を狩った。
個人の栄誉だけでなく、一族の面目もかかっているのだ。
とりわけ上位三位の争いは、かつてないほど激しかった。
ほとんど一日おきに、順位が入れ替わっていた。
そうして、一か月余りが過ぎた。
冬が去り、春が訪れ、万物が芽吹き始めていた。
一つの戦いが、終わったばかりだった。
ラインは残雪を踏み、わずかに息を弾ませながら、周囲を見渡した。
十数頭の雷狼が息絶えて倒れ、血と千切れた死骸が散らばっている。
空気には、濃い血の臭いが漂っていた。
アオォン……
そのとき、遠くない場所から、また狼の遠吠えが聞こえた。
ラインの顔色が、わずかに変わる。
経験から、別の狼群が急速に近づいていると分かった。
他の精霊使いなら、激戦を終えたばかりで、空界の精神力も残り少なく、とうに退く気になっていただろう。
ラインは構わずにしゃがみ、狼の死体から眼球を摘み取っていた。
手際は慣れたもので、無駄もない。
それでも採取を終えた頃には、狼群が半ば包囲を完成させていた。
百頭を超える、中規模の棄狼群だった。
緑に光る目が凶気を帯び、ラインをじっと睨んでいる。
彼は狼の眼球をしまい、微笑みながら立ち上がった。
次の瞬間、その姿が水面のように揺らぎ、ゆっくりと消えた。
駆け寄ってきた狼群に、たちまち動揺が広がった。
足を止め、戸惑いながら様子を窺う棄狼も多い。
所詮は野獣であり、目の前の出来事を理解できなかった。
「これも、雷狼が鼻より目を頼りにしているからだ。この世界の雷狼は不思議な生き物で、鷹のように鋭い目を持つが、嗅覚は人間と大して変わらない。隠鱗虫は雷狼には有効だが、犬の鼻まで欺くことはできない」
ラインは、その特性をよく理解していた。
隠鱗虫は、決闘大会より前に、すでに煉成を終えていた。
透明な虫の体が、空界の霊海を楽しげに泳ぎ、幾重もの波紋を広げている。
不足していた巨鱗魚は、もちろん、黒イノシシの精霊と引き換えに、アオから手に入れたものだった。
隠鱗虫を使い、ラインは狼群の目の前から、何事もなく立ち去った。
このところ、同じような状況を何度も経験していた。
普通の狼や犬は、鋭い嗅覚を持つ。
だが、雷狼は違った。
あまりに速く走るため、鋭い視力がなければ、木や岩にぶつかってしまうのだ。
自然は公平だった。
雷狼に鋭い目を与えると同時に、敏感な嗅覚を奪っていた。
ただし、王としての雷狼頭狼は別である。
隠鱗虫があれば、普通のウルフウェーブの中では、余裕を持って行動できる。
しかし、頭狼のような万獣王を相手にすれば、姿を隠し通すことはできなかった。
頭狼の両眼には、二環精霊の澄眼が寄りついていることが多い。
その力は、隠された姿を見破ることができる。
澄眼のほかにも、ラインの存在を察知できる精霊は多かった。
熱を感知する蛇舌の精霊。
野獣と会話し、情報を得られる獣語り。
風の流れから動きを察知する風拾いなどが、その例だった。
隠鱗虫を持っているからといって、安全が保証されるわけではない。
命を守るための小さな手段が、一つ増えたにすぎなかった。
集落へ戻ったとき、まだ昼時だった。
春の日差しは明るく、門前では人々が行き交っている。
ただ、例年と違い、その大半が精霊使いで、凡人の姿は少なかった。
ウルフウェーブによって、野外は危険になっていた。
狩人は山へ狩りに入れず、田畑も荒れたままである。
一方、街を行く精霊使いたちの士気は高かった。
血の染みをつけて帰ってくる者もいれば、意気揚々と出発する者もいる。
功績順位表の順位を語り合い、雷狼を狩る経験を交換し、他の二つの集落の優れた精霊使いを話題にしていた。
ラインは人々に紛れ、族長の屋敷前にある広場へ向かった。
広場には台が設けられ、功績の登録と交換が行われている。
大勢の精霊使いが集まっていた。
一環精霊使いが記録を担当し、二環精霊使いたちは台の前に詰めかけ、血のついた狼の眼球を功績と交換していた。
別の者たちは、功績を使って、霊石や精霊、食料を受け取っている。
広場の中央には、巨大な旗が高々と掲げられていた。
旗の表面では、この世界の文字が絶えず動き、変化している。
風が吹いて旗が波打つと、文字もそれに合わせて変わった。
これが、功績順位表だった。
旗には、十数体の風墨が付着している。
後方の業務を担当する一環精霊使いたちが操る、一環精霊だった。
文字へと姿を変え、順位表を随時書き換えることができるのだ。
「ふん、どうしてまだベル一族のエリアスチームが一位なんだ?」
順位表を見上げ、眉をひそめる者がいた。
また、順に目を走らせ、黙々と数える者もいる。
「どれどれ……エリアスチームが一位、うちのアオ組が二位、バルガスチームが三位。自分のチームは……百三十七位か」
不意に、一人が声を張り上げた。
「変わったぞ!アオ組が一位になった!ベル一族のあの病弱男を追い落としたぞ!」
風は吹いていなかった。
それでも旗は、強風を受けたように激しく膨らんだ。
やがて旗が静まると、首位には、はっきりと「アオ組」の文字が現れていた。
自分たちの一族のチームが首位に立ち、広場に歓声が沸き起こった。
人々は、その場にいたアオ組へ親指を立て、口々に称賛した。
風墨を操る一環精霊使いたちまで、顔を紅潮させ、興奮している。
「アオ様、さすがは我が一族の二環精霊使いの第一人者です!」
「アオ様、お見事です!」
アオは微笑みを浮かべ、人々の間を歩いていた。
その後ろでは、ライルが拳を握り、興奮した顔で、ぴったりとついて歩いている。
四方から降り注ぐ称賛が、栄誉を求める少年の心を満たした。
自分は、明るく開けた道を歩んでいる。
そんな気持ちになり、一族の一員であるという思いも、知らぬ間にいっそう強くなっていた。
「兄さん……」
ふと、人々の中にいるラインが目に入った。
ラインは黙って立ち、腕を組んで、ただ眺めていた。
「兄さん、相変わらず一人きりで動いているんだね。だから、兄さんのチームは、最初から順位表の最下位なんだよ。自分から心を開いて、皆の輪に入ってこそ、一族の温もりや喜びを感じられるのに」
ライルは、胸の内でため息をついた。
ふと、兄の姿が哀れで、悲しくも思えてきた。
彼にとって、ラインのように一人で生き抜こうとする者は、仲間もおらず、一族の情など感じられない。
まして、戦場で育まれる仲間との絆など、知るはずもなかった。
すべてに一人で立ち向かうのは、危険なだけでなく、つまらないことでもある。
友情も、恋愛も、家族の情もない人生に、どんな意味があるのだろう。
ラインは人々の中に立ち、高く掲げられた功績順位表を、黙って見上げていた。
疑う余地もなく、その最後には「ライン組」と記されている。
他の精霊使いなら、必ず恥じただろう。
ラインの目は淡々としており、何も気にしていなかった。
ハクにリーダーへと任じられて以来、彼は一度も、他のメンバーを募ろうとは考えなかった。
一人で、一つのチームをなす。
ヴェルデン山の三大家族の中でも、他に類を見ない編成だった。
一人しかいないのだから、日々の狩りの成果が、他のチームに及ばないのは当然だった。
もちろん、今の実力を存分に発揮すれば、最下位に甘んじることはない。
だが、彼にとって、そんなことには何の意味もなかった。
功績を、それほど必要としていないのだ。
生活に必要な物資も、精霊の餌も、すでに蓄えてある。
当初は功績で巨鱗魚を手に入れるつもりだったが、その必要もなくなっていた。
毎日、雷狼を狩りに出る理由は、二つあった。
一つは、形だけでも働いているところを見せ、長老たちの注意を引かないため。
もう一つは、少しだけ功績を貯め、月蘭の花びらと交換するためだった。
月華印には、やはりその餌が必要なのである。
さらに半月余りが過ぎ、春は深まっていた。
木々には若葉が芽吹き、道端では野の花が咲いている。
暖かな風が頬を撫で、うっとりと酔いそうな心地にさせた。
精霊使いたちは戦いの中で凱歌を上げ、情勢も日ごとに好転しているように見えた。
ラインが街を歩けば、目に入るのは、笑みを浮かべた顔ばかりだった。
耳に入るのも、互いを称え、勇武を誇る言葉が多い。
もちろん、不安を抱え、眉を寄せている者もいた。
そうした者の大半は、経験豊かな年長の精霊使いだった。
本当に恐ろしいウルフウェーブは、夏と秋に訪れる。
彼らは、それを知っていた。
ラインには、その事情がはっきりと分かっていた。
「今の状況には、三つの理由がある。
まず、三家が結盟し、互いへの警戒を緩めたことで、より多くの精霊使いをウルフウェーブへの対抗に回せるようになった。
次に、今討伐しているのは、まだ棄狼にすぎない。そして春になり、狼群は交尾と繁殖に忙しい。夏になれば、本当に強壮な狼群が、四方八方から潮のように押し寄せ、三家の集落に甚大な犠牲をもたらす」
そう考えたとき、彼の目に冷たい光が走った。
今年のウルフウェーブは、過去のどの狼潮よりも激しくなる。
一族の上層部でさえ、その規模を大きく見誤っていた。
記憶の中では、大半の精霊使いが命を落とした。
三大家族が長年蓄えてきた力も、ほとんど使い果たしてしまう。
だが、ラインは、一族の上層部に警告しようなどと、一度も考えなかった。
第一に、警告したところで、重く受け止められるとは限らない。
もし本気で受け止められれば、かえって厄介だった。
情報をどこから得たのか、説明できないからだ。
第二に、警告しても、双方の力の差は変わらない。
そして何より、一族に警告することは、彼自身の利益を最大にする選択ではなかった。
我、人に背くとも、人、我に背かせじ。
家族の情も、友情も、恋愛も、人生を彩るわずかな飾りにすぎない。
永生という大業と、比べられるものではなかった。
そんなものに縛られて、どうして大事を成せるというのか。
真に高みに上り詰めた者で、両手を血に染め、屍を踏んで進まなかった者がいるだろうか。
ただ、成功者の多くは過去を飾り立て、その醜い部分を覆い隠す。
成功者の自伝に騙される者こそ、愚か者だった。
そう考え、ラインは、傍らを行き交う精霊使いたちへ目を向けた。
彼らには腕があり、中には、彼より環階の高い者もいる。
だが、それが何だというのか。
枠にはめられた駒であり、縄に繋がれた犬も同然の奴隷にすぎない。
そんなことを考えながら、彼は何度か冷笑した。
集落の門を出ると、ラインはそれまでの思索を切り上げ、気を引き締めた。
今日は、重要な用事があった。
再び、岩の裂け目の秘洞へ入るのだ!




