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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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118.迫るウルフウェーブ、三族の会盟

「そういうことか」

ラインは顎に手をやったが、やはり首を振った。

「だが、私の酒虫(しゅちゅう)は売らない。

メディシンがそこまで欲しがっているのなら、もう一匹の酒虫を買った精霊使いを探してはどうですか」


アオは困った顔になり、深くため息をついた。

「それが、誰が買ったのか分からないんだ。今も名乗り出ずに隠している。

こちらでも突き止められなくてね。だからといって、人の空界を勝手に覗くわけにはいかないだろう?

個人の秘密に踏み込むことになるし、禁忌にも触れる。

酒虫一匹のために皆の反感を買うのは、割に合わない」

彼は少し間を置き、言葉を続けた。

「もっとも、その気持ちも分かる。宝を手に入れれば、隠しておきたくなるものだからね」


本当の買い手が、今まさに目の前に座っているとは、夢にも思っていなかった。

アオは、ラインを疑ったことさえない。

すでに酒虫を一匹持っているのに、なぜ二匹目まで買う必要があるのか。

買ったところで、何に使うというのか。


四味酒虫(しみしゅちゅう)の煉成秘方を知っていれば、真っ先にラインを疑っただろう。

だが、今この時代に、その秘方を知る者はラインしかいなかった。


ラインが酒虫を買ったことを知っているのは、オスカー・ベルナーである。

ただし、オスカーにしても、誰かに頼まれて買った可能性を考えていた。

親族のためか、恋人のためか。そうした買い物は、珍しくもない。

メディシンも、孫娘のために酒虫を探し回っていたではないか。


「いずれにせよ、酒虫の件で譲るつもりはない」


ラインは最後まで態度を変えず、胸の内では冷笑していた。


これが、体制というものだ。

体制は力であり、同時に束縛でもある。


メディシンは三環精霊使いであり、実力はラインを遥かに上回る。

それでも、一族の規則に縛られ、公然と奪うことはできない。

自分の評判も考えれば、無理に売らせるわけにもいかなかった。


傍らのライルが、不意に口を開いた。

「兄さん、酒虫はもう役に立たないんだろう?どうして、ずっと手元に置いておくんだよ。

メディシンおばあ様は優しい方だし、クスリにも何度か会ったことがある。

いい子だから、きっと酒虫を大切にしてくれるよ。それに、あの精霊は彼女の修行にとても役立つんだ」

ライルは、なおも言葉を続けた。

「誰かの役に立つのは、うれしいことだろう?

兄さんが集落を救ってくれたこと、僕は本当に喜んでる。弟として誇らしかったよ。

なのに、今回はどうして酒虫を手放そうとしないんだ?そこまでこだわるなんて、少しけちじゃないかな」


ラインの顔が険しくなった。

「ずいぶん立派な弟になったものだな。私に説教するつもりか?

酒虫は私のものだ。私の手元で腐らせようと、お前に口を出される筋合いはない」


本当に腹を立てたわけではない。

表に出す態度など、本心を覆う仮面にすぎなかった。

この冷たい顔を見せてこそ、アオにも、譲る気がないことがはっきり伝わる。


アオの目が、僅かに動いた。

(どうやら、本気で売るつもりはないらしい。わざわざライルを連れてきたのは、裏目に出たな。

この兄弟は、もともと仲が悪い。かえって話をこじらせてしまった)


ライルは言い返そうとしたが、アオが手を上げて止めた。

「ライル、少し外を歩いてきてくれ」


ライルは歯を食いしばったものの、結局は従った。

戸に手をかけながら、言い残す。

「とにかく、兄さんがどうしてそんなことをするのか、僕には分からないよ」


「ライル、私の行動をお前に理解してもらう必要などない」


ラインは、無表情のままだった。

ライルの手が一瞬止まる。だが、振り返らず、そのまま足早に出ていった。

戸が乱暴に閉められ、室内には、ますます気まずい空気が残った。


「アオ先輩、ほかに用がなければ、お引き取りください」


ラインは、はっきりと退出を求めた。

「はは……」

アオは乾いた笑いで空気を和らげようとしたが、ラインの冷たい顔は少しも変わらない。


幸い、アオは温和な男だった。

腹を立てることもなく、鼻に手をやり、気まずそうに笑った。

「実は、もう一件あるんだ。九葉生気草(くようせいきそう)についてなんだが……」


「九葉生気草は売らない」

ラインは、呆れたように目を上へ向けた。


「分かっている、分かっている」

アオは、何度も頷いた。

「話したいのは、生気草(せいきそう)の方だ。

今回は、私の組のために来たんだよ。君が生み出す生気草を、すべてこちらへ回してもらいたい。

もちろん、相応の対価は払う」


商売の話なら、ラインも拒む理由はない。

「構いません。一枚につき、霊石六十五個です」


アオは、その値段に言葉を失った。

以前、一族が売っていた生気草は、一枚につき霊石五十五個だった。

一環の消耗精霊であり、一度使えば失われる。

それでも、命を救うものなのだから、多すぎて困る者などいない。


今はウルフウェーブが近づき、一族も値を六十個へ引き上げていた。

値上がりしているのは、生気草だけではない。

多くの物資が高騰しており、不満はあっても、精霊使いたちは受け入れるしかなかった。


だが、ラインが一族より高い値をつけるとは、アオも思っていなかった。


「高いと思うなら、買わなければいい。

ただ、私の知る限り、ウルフウェーブが始まれば、一族は物資を厳しく管理する。

生気草は必ず不足し、値段もさらに上がるでしょう。

その頃には、霊石を出しても買えるとは限らない。違いますか?」


ラインの口調には確信があり、少しも焦りはなかった。

アオはすぐに答えられず、しばらくしてから、困ったように言った。

「よく先を見ているね。だが、そこまで値を上げるのは、少しやりすぎじゃないか。

人に恨まれるとは思わないのかい?」

彼は、穏やかに諭すように続けた。

「少し値を下げれば、この機会に一族の者たちと親しくなれるし、人脈も築ける。

逆に値を上げれば、危機に乗じて儲けようとしていると、反感を買うだけだよ」


ラインは、顔を上げて笑った。

「ウルフウェーブは目前だ。私のような小物は、いつ死ぬかも分からない。

そんな枝葉末節まで、気にしていられません」


「君はもう、小物ではない。人付き合いも、枝葉末節などではないよ」

アオはラインをじっと見つめ、静かに首を振った。

「もっとも、人にはそれぞれ考えがあり、選ぶ道もある。

無理に変えさせるつもりはない。ただ、気をつけた方がいい。

メディシン様は、そう簡単に諦めないだろうからね……では、失礼する」


彼は、生気草の買い付けの話に、二度と戻ることはなかった。

ラインの値段は、想定していた額を超えていたのだ。


アオは、理性的な男だった。

買い物をする前には、自分なりに値を見積もっている。

許容できる額を超えれば手を引く。一時の勢いで、無理に買うことはなかった。


一族の売値と比べれば、ラインが上乗せしたのは一枚につき霊石五個にすぎない。

だが、アオが必要としているのは、一枚や二枚ではなかった。


ウルフウェーブは、少なくとも丸一年続く。

組が消費する生気草は膨大な数になる。

一枚につき五個の差も、積み重なれば、決して小さくない出費だった。


「ご忠告、どうも。お気をつけて」


ラインはアオを見送りながら、すべてを冷静に見通していた。

アオは、また来る。

今回のウルフウェーブがどれほど深刻になるか、彼は大きく見誤っているからだ。


その時が来れば、誰の身にも、いつ死が訪れるか分からなくなる。

生気草の買い手に困ることなど、あり得なかった。

ラインの記憶では、一枚の生気草が、霊石百個にまで高騰したことさえある。


もちろん、それはウルフウェーブが最も激しかった時期の話だ。

今は、状況に合わせ、少しずつ値を上げていけばよかった。


日々は過ぎ、冬の風は、ますます冷たくなっていった。

ヴェルデン山にある三つの集落にとって、今年の冬は、例年よりも厳しく感じられた。


ローデン集落の周囲には、棄狼がますます増えていた。

一族から出される任務も、ほとんどが棄狼の討伐である。


十二月に入ると、棄狼の群れは最も多くなり、情勢も一気に悪化した。

山の麓にあった村の一つが、大群に襲われ、村人は皆殺しにされてしまった。


村に駐屯していた十数名の精霊使いは、早めに撤退していた。

そのことに、一族の上層部は、密かに胸を撫で下ろしている。

精霊使いが一人死ねば、長く惜しむ。だが、凡人など、ただの下僕だ。

死んだなら、それまでだった。


この世界には、人権などというものはない。

精霊使い一人の命は、凡人百人の命よりも重い。

それが、誰もが認める価値観だった。


しかし、犠牲そのものを避けることはできない。

夜になると、集落のどこかから、かすかな泣き声やすすり泣きが聞こえてきた。

悲しみと重苦しさが、街路を覆っていた。


棄狼の群れは、まだ前触れにすぎない。

本当のウルフウェーブは、さらに恐ろしいものになる。

今年は、例年とは違うのではないか。そう気づく者が、日ごとに増えていった。


その圧力を受け、長く停滞していた交渉も、ようやく急速に進んだ。

三族は、同盟に合意したのである。


一月、冬の終わり。

会談の丘で、三族は正式に顔を合わせた。


白い綿毛のような細雪が、ゆっくりと降っていた。

数百、数千もの精霊使いが、この地に集まっている。

その規模は、壮大だった。


会談の丘は、もともと、ごく普通の斜面にすぎなかった。

遠い昔、ローデン一族の二代目族長が、この場所で初めて三族の同盟を成立させた。

それ以来、三族の会談は、いつもここで開かれている。


長年にわたって拡張され、今では面積も、当初の数十倍になっていた。

巨大な広場と呼ぶ方が、ふさわしいほどだ。


山壁に近い広場の一角には、高々と巨岩がそびえていた。

その上には、石造りの楼閣が築かれている。

石の卓も椅子も揃っており、三族の上層部は、今、その中で話し合っていた。


楼閣の下では、精霊使いたちが、それぞれの一族ごとに集まっている。

三つの大きな集団は、はっきりと分かれていた。

似通った武服に腰帯を締め、互いの環階は、一目で見て取れる。


ラインも、その中で、密かに周囲を観察していた。

台の下に集まっているのは、二環精霊使いたちである。

一環は、主に後方支援を担う。戦いの主力となるのは、二環だった。


三環精霊使いとなれば、皆、長老である。

ローデン集落のような中規模の一族でも、代々苦労を重ねてきて、長老は二十余名しかいなかった。


観察しているのは、ラインだけではない。

周囲の者たちも、互いを見ていた。

憎しみ、好奇心、警戒。様々な感情を含んだ視線が、あちこちで交差する。


ローデン一族の精霊使いは、全体的に細身の者が多い。

ロア一族は、がっしりとした体つきが目立ち、どこか熊を思わせる野性味があった。

ベル一族は、山の裏手の滝の近くに長く住んできたためか、肌の白い者が多い。

冷ややかな雰囲気を漂わせていた。


「濃い青の長髪をした男、あれがアオ・ローデンだ。

二環頂位で、ローデン一族の二環では最強とされている」

人混みを指し、声を潜めて教える者がいた。


一方、かつての敵を睨みつけ、胸の内で毒づく者もいる。

(リリア、あの女め。俺の腕を一本奪いやがって。

ウルフウェーブが終わったら、必ず落とし前をつけさせてやる!)


「あっ、あの大きな熊に乗ってる女、ロア一族のリネット・ロアだろう?

可愛い顔に騙されるなよ。あれは、筋金入りの戦闘狂だ」


「肌が白くて、大柄な女が見えるか?ベル一族のグルダだ。

二環上位で、水撃象(すいげきぞう)という二環精霊を持っている。

世間の決まりなど眼中になく、男漁りが大好きな奴だ。

お前たち新入りは気をつけろよ。家へさらわれるぞ」


……


同じ山で、数百年にわたって暮らしてきた三族。

その間に積み重なった恩と恨みは、もはや解きほぐせないほど複雑に絡み合っていた。


会談の丘の話し声は、次第に大きくなり、広場全体のざわめきへと変わっていった。

経験豊かな精霊使いたちが人混みを指し、傍らの新入りへ、ほかの二族の強者を教えている。

今後、彼らに出会った時には、十分に気をつけるようにと。

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