↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/172

113.不心得な若者、鍛え直すべし

「ライン・ローデン?」


その名を聞き、長老たちは顔を見合わせた。


覚醒の儀以来、何かと騒ぎを起こしては、その名が耳に入ってくる少年だ。

彼を知らぬ者はいなかった。


「ああ、思い出した。少し前に両親の遺産を売り払い、赤鉄仏舎利(せきてつぶっしゃり)を買った小僧だな?」

一人の長老が、得心したように言った。


その言葉に、カルとコアの顔が曇った。


あの赤鉄仏舎利がクルかリリアの手に渡っていれば、どちらかが二環頂位へ進んでいた。

環階では、アオと肩を並べることになる。


カル派閥にとっても、コア派閥にとっても、それは政治的な勝利となるはずだった。


まさか、あの散財好きの小僧に、横からさらわれるとは。

大事な好機を、台無しにされてしまった。


「だが、あの子に並外れた力があるのは確かだ」

別の長老が、記憶を辿るように言った。


「年末の試験では、拳を二度振るっただけでヒスイズスキンの防御を破った。

ライルを倒し、今年の首位を取ったのだったな」


今度は、族長ハクの表情がわずかに強張った。


ライルは、彼が自ら育てている弟子である。

その敗北は、ある意味で族長派の敗北でもあった。


体制の中にいる限り、誰もがいずれかの陣営に属する者として見られる。

政治の世界には中間派があっても、真に派閥の外へ立つ者はいない。


「だが、力だけなら、まだお前には及ばぬのではないか?」

カルが、訝しげにクルを見た。


クルは恭しく答えた。

「長老の皆様は、ご存じないかもしれません。

ラインは赤鉄仏舎利だけでなく、黒イノシシの精霊も買っています。

この数か月、イノシシの肉を買い続け、精霊を養って力を増やしていました。

一度、山の斜面で巨石を動かし、自分の力を試しているところを見かけたのです。

どこまで力が増したのか、正確には分かりません。

ですが、そのとき見た限りでも、すでに私に劣らぬ力を持っていると断言できます」


「なるほど」

ハクは、ゆっくりと頷いた。

「ラインも、そこまで成長していたか……ならば、ラインのチームに、もう一度試させよう」


すると、内務院長老が気まずそうな顔をして、席を立った。

「族長様、ラインは今も一人で行動しており、どのチームにも属しておりません」


ハクは、眉を寄せた。

「どういうことだ?」


「最初の小規模ビーストウェーブで、所属していたチームがほぼ全滅しました。

生き残ったのは、ライン一人です」


「それは分かっている」


一人の長老が、問いかけた。

「だが、その後、チームを再編したとき、なぜ組み入れなかった?」


内務院長老は、深いため息をついた。

「私からも、わざわざ念を押したのです。

ですが、本人に加入する気がまったくありません。

正直に申し上げれば、私はあの小僧が気に入りません。

要領よく手を抜くことにかけては、実に巧みです。

遺産を相続したことで、一族のために働く必要はないとでも思っているのでしょう」


「手を抜く?」

別の長老が、首を傾げた。

「チームにも入らず、毎月義務づけられている任務を、どうこなしているのだ?」


内務院長老の顔が、ますます険しくなった。

「毎月、義務づけられた任務は受けています。

ですが、そのたびに失敗しているのです。

任務の履歴は、私が見た中でも最悪です。

ごく一部を除けば、ほとんどすべてが失敗の記録です。

そのことで何度も話をしましたが、相変わらず好き勝手に振る舞っています。

改める気配すらありません。

それでいて、族規には違反していない。処罰することもできぬのです!」


長老たちは、また顔を見合わせた。


これほど向上心のない若者など、見たことがなかった。

任務の失敗が重なるほど、一族からの評価は下がる。

族内での将来も、それだけ遠のいていくというのに。


「あの小僧、何を考えているのだ……ふん、まったく、不心得にもほどがある!

自分で将来を潰しているではないか!

こんな怠け者が身内にいたら、とうに一撃で叩き殺している!」


「もうよい」

ハクが手を上げ、議論を止めた。


その顔からは、喜怒のどちらも読み取れなかった。

一同を見渡したあと、内務院長老へ目を向ける。


「ライン・ローデンに強制命令を下せ。

水禍蟇(すいかがま)のいる河道へ赴き、力を尽くすようにとな。

この子は不心得で、言うことを聞かず、勝手気ままに振る舞ってきた。

少々、鍛え直す必要がある。

今回も失敗したなら、それを機に少し懲らしめてやればよい」


「承知いたしました、族長」

内務院長老は、すぐさま応じた。


……


酒場は、大勢の声で賑わっていた。


「聞いたか?一族がクル組を山麓へ送ったが、やはり駄目だったらしい。

村人たちは皆、門の外へ逃げてきたぞ。

そこら中に跪いて、泣きながら中へ入れてくれと頼んでいる」


「ふん、何も知らぬ賤民どもめ。水禍蟇は五環精霊だぞ。

集落に入れば安全だと、本気で思っているのか?」

そう言いながらも、酒場の空気は次第に不安を深めていた。


精霊使いたちも、平静を装っているだけなのだ。


ラインは、もうしばらく話に耳を傾けた。

新しい情報はないと分かり、席を立とうとする。


そのとき、大柄な精霊使いが酒場へ入ってきた。


上半身は裸で、肌は燃えるように赤い。

肩も背も広く、全身の筋肉は鉄塊のように盛り上がっていた。


クル・ローデンである。


酒場の声が、たちまち小さくなった。

幾つもの視線が、彼へ集まる。


クルは誰にも構わず、店内を見渡した。

すぐにラインを見つけ、その前へまっすぐ歩み寄る。


「ここにいたか……来い。一族から強制命令が出た。

詳しいことは道中で話す。まずは、山麓まで同行してくれ」


ラインの目が、かすかに動いた。


この種の命令は、簡単には断れない。

それに、水禍蟇と向き合うこと自体、大した危険はなかった。


ラインは頷き、クルと共に酒場を出た。

二人が見えなくなると、店内は再び騒がしくなった。


「番頭、天はちゃんと見ていたんですね!こんなに早く、罰が当たるとは!」

店の隅では、数人の奉公人が老番頭を囲み、声を潜めて話していた。


「相手は五環精霊でしょう?

ほかの精霊使い様にも手が出ないのに、あんな若いラインが行ったところで、死にに行くようなものですよ」


「ほかの精霊使いとは違って、俺たち下働きの苦労も分かってくれると思っていたのに……結局、同じだったんだ。

死んじまえばいい。死んでも惜しくはないさ!」


「番頭、殴られた甲斐がありましたね。あいつの命と引き換えなら、安いものです」


老番頭の頭には、白い包帯が巻かれていた。

壁に力なくもたれ、ときおり低く呻いている。


その言葉を聞くうち、目の奥に怨念が宿った。

気分も、少しだけ晴れた。


それでも、しばらくすると、体裁を繕うように声を落として叱った。

「黙れ!そんなことを、俺たちが口にしてよいと思っているのか?

ほかの精霊使いに聞かれたら、首が飛ぶぞ!」


奉公人たちは、くすくす笑った。

「番頭は、慎重すぎますよ。

酒場はこんなに騒がしいし、俺たちの声はこんなに小さいんです。

誰が聞いているっていうんですか?」


「俺には聞こえたぞ」

最も近い卓に座っていた男の精霊使いが、不意に口を挟んだ。


老番頭も、奉公人たちも、瞬く間に青ざめた。

「だ、旦那様……」


老番頭は、眩暈も忘れて立ち上がろうとした。

どうにか身を起こし、慌てて許しを請いに行く。


男は、片手を上げて止めた。

「いいことを言うじゃないか。もっと聞かせろ!

ラインのクソガキなんぞ、死んで当然だ!

続けろ。うまく言えたら、褒美をやる!」


男は霊石を一個取り出し、パシン、と卓上へ叩きつけた。


ラインがここにいれば、すぐに正体が分かっただろう。

かつて小規模ビーストウェーブで救援に来た、治療精霊使いだった。


ラインは、彼が想いを寄せるエリナを盾にして、雷狼の牙を防いだ。


それ以来、男はラインを深く憎んでいた。

今も、その恨みを捨てられずにいる。


奉公人たちは、顔を見合わせた。


そのうち、比較的胆の据わった一人が、卓上の霊石を見つめた。

目が、次第に輝いていく。


男の三人の仲間は、皆、眉をひそめていた。

だが、人前では止めにくかった。


奉公人たちは、我先にと知恵を絞り、ラインへの罵声を並べ立てる。


三人は、それを聞いているしかなかった。


……


初秋の山々は、美しい景色を見せていた。


木々の葉には濃淡があり、緑の中に淡い黄色が混じっている。

黄色い葉の間には、薄紅色もちらほら覗いた。


山麓では、黄金色の稲穂が秋風に揺れていた。

波が幾重にも寄せるように、田一面をうねっていく。


近くの畑は、なお青々としていた。

肉厚でみずみずしい葉が、陽光を受けて艶やかに光っている。


ラインは、山腹から足早に下った。

クル組と共に山麓へ着き、ようやく五環の水禍蟇を目にした。


小山のような巨体が、河床の中央で仰向けになっている。

河道は、ほとんど塞がれていた。


上流には水が溜まり続け、もう少しで岸を越えそうになっていた。

下流では、ほぼ流れが途絶えている。

ごく浅い水が、かろうじて河床を潤しているだけだった。


空を向いた腹は、雪のように白く、きめ細かい。

表面には、柔らかな光沢が浮かんでいた。


背は、晴れた空のように青い。

こちらも滑らかで、普通のヒキガエルにあるようなイボはなかった。


水禍蟇は、静かに眠っていた。


いびきもかかず、余計な動きもしない。

温和で、害などないように見える。


だが、その気配を感じた途端、ラインの空界にいる二体の酒虫(しゅちゅう)は、身を縮めた。

黒イノシシの精霊も、楽しげに飛び回るのをやめた。

霊海のすぐ上を、低く旋回している。

右の掌に宿る月華印(げっかいん)も、光を抑えていた。


ただ一体、逆矢(さかや)だけは、変わらず安らかに眠っている。


ラインは、月華印も空界へ収めた。

自ら発動させず、空界の中へ置いておけば、精霊の気配は外へ漏れない。


その方が、最も確実だった。


「ライン、あとは、お前次第だ」

傍らに立つクルが、低い声で言った。


ここへ来る間に、大方の事情は説明されていた。

ラインも、この追い払い方には納得している。


もっとも、彼にとって最も簡単なのは、逆矢を使うことだった。

六環精霊の気配をほんのわずかに漏らせば、水禍蟇は慌てて逃げ出す可能性が高い。


だが、それも水禍蟇が温和で、争いを好まないからこそだ。

血河大蛇(けつがのおろち)のような凶暴な精霊なら、逆矢の気配がかえって凶性を刺激し、襲いかかってくるかもしれない。


ラインは川岸へ歩み寄り、まずは手を伸ばして押してみた。


水禍蟇の肌は、ぬるりと滑る。

掌を押し当てても滑ってしまい、うまく力をかけられなかった。


そのうえ、巨体は途方もなく重い。

いくら力を込めても、少しも動かなかった。


「お前、本当にできるのか?」

傍らのメルが、堪えきれずに嫌味を言った。


ラインは無視し、クルへ顔を向けた。

「黒イノシシの精霊で力を増やしたとはいえ、あなたと比べれば、互角といったところだろう。

だが、水禍蟇を動かす望みがないわけではない。

少しだけ、手を貸してほしい」


「何をすればいい?」

クルは、すぐに尋ねた。


ラインは、自分の考えた方法を、ゆっくり説明した。


聞き終えると、クルの顔に疑念が浮かんだ。

「それでは、結局、私たちが力を合わせることになるのではないか?

それで目を覚ましても、お前に負けたと認めて、進んで立ち去ってくれるのか?」


ラインは、かすかに笑った。

「心配はいらない。十分に離れて、気づかれなければ問題ない。

相手は精霊だ。そこまで利口だと思わなくていい」

本業では日頃から大量の文章と向き合っているせいか、ネット小説を書いていても、どうしてもその癖が出てしまうようです。


趣味で書いているはずなのに、文章のあちこちから本業の匂いが漂ってくるのは、なかなか困ったものですね(笑)。


今後は皆さんからいただいたご意見を参考にしながら、自分なりの書き方も大切にしつつ、少しずつ改善していきたいと思います。


いつも貴重なご意見やご指摘をくださる皆さん、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://syuiro-buta.fanbox.cc/
― 新着の感想 ―
本業で文章書いてる人なら確かに癖は出ますね! ストーリー小説とそうじゃない本とか記事や雑誌など、その分野での書き方はそれぞれ変わって来ますし 本業で書いてるだけあって元から読み易くて面白いので、前話…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。