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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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112.五環を連れた凡人、クルからの推薦

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


本文の改行や段落の区切り方を少し見直してみることにしました。本話では、同じ人物が続けて話す台詞をなるべくひとまとまりにし、改行や段落分けを減らしてみます。


読み終えたあと、よろしければ、なろうのリアクション機能で、どちらの形式がお好みか教えていただけるとうれしいです。今回の形式のほうがよければ「好き」を、これまでの形式のほうがよければ「泣いた」を選んでください。


皆さんの反応を参考にしながら、より読みやすい形に調整していきたいと思います。ご協力、よろしくお願いします!

水禍蟇(すいかがま)の腹には、それぞれ一本の大河が収まっているという。


ラインは前世で水禍蟇を使ったことこそなかったが、この精霊のことは強く記憶に残っていた。


それは、ある一人の男のためだった。

ただの凡人であり、一介の奉公人にすぎなかった男のために。


前世では、今から二百余年後の南域に、極めて特異な人物が現れた。


ハンス


多くの精霊使いを仰天させ、凡人たちがこぞってその名を語った男である。


現れたその日から、ハンスは伝説だった。

そして、その伝説を生み出したのが、一体の水禍蟇だった。


ハンスは、もともとただの奉公人だった。

主人の漁場を、一人で管理していた。


ある日、水禍蟇が川岸へ乗り上げた。

白い腹を空へ向け、手足を広げたまま、ぴくりとも動かずに寝そべっていた。


初めのうち、ハンスは恐ろしくて仕方がなかった。

遠くから様子を窺うばかりで、近づくことすらできない。


だが、長い時間が過ぎると、すでに死んでいるのではないかと思い始めた。

そうでなければ、なぜいつまでも動かないのか。


厄介なことに、その巨大な「死骸」が、上流から来る水をせき止めていた。

漁場の水揚げにも、大きな影響が出ていた。


ハンスはあらゆる方法を試し、どうにか「死骸」を引きずっていこうとした。


しかし、精霊使いでもない彼に、そんなことができるはずもない。

巨大な五環精霊を、動かせるわけがなかった。


そのうえ、主人は厳しく、残忍な男だった。


漁場からは毎月、決まった量の魚やエビを納めなければならない。

足りなければ、管理を任されている者の首が飛ぶ。

ハンスは、この事態を報告することさえできなかった。


少し前にも、決められた量を納められなかった奉公人がいた。


その男は、筋の通った理由を主人に説明した。

それでも、その場で処刑されてしまったのだ。


納入の期日は、一日、また一日と迫ってくる。


川は相変わらず「死骸」に塞がれ、水揚げも減るばかりだった。

恐怖が積もるにつれ、ハンスはますます苛立ち、怒りっぽくなっていった。


自分の力では動かせないと分かっていても、毎日川岸へ走った。

「死骸」を殴り、蹴りつける。


怒鳴り散らす日もあれば、その場へへたり込み、泣きわめく日もあった。

迫り来る死への恐怖と怒りを、ただ吐き出したかったのだ。


ところが、ある日、水禍蟇が目を覚ました。


眠たげな目をゆっくりと開き、目の前のハンスをじっと見つめる。

ハンスは恐怖で膝から力が抜け、その場へ尻餅をついた。


だが、水禍蟇はまだ半分眠っているようだった。

仰向けに寝そべったまま、起き上がろうともしない。


長い時間をかけ、ハンスはどうにか落ち着きを取り戻した。


そして、ふと思った。

もう、何も恐れる必要はないのではないか。


期限は目の前だ。自分は、じきに死ぬ。

死ぬと決まった人間が、何を恐れるというのか?


ハンスは水禍蟇の白く柔らかな腹へよじ登り、仰向けに寝転がった。

一緒に、夜空を見上げる。


「なあ、ガマ爺さん、お前も俺と同じで、もう虫の息なのか?じきに死んじまうってことか?」


ハンスは、水禍蟇が眠ることを好むとは知らなかった。

今にも死にそうな様子を見て、この巨大な精霊も余命僅かなのだと思っていた。

話しているうちに、涙が止まらなくなった。


水禍蟇は目を半分閉じ、話を聞きながら満天の星を眺めていた。


それから数日、ハンスは毎日川岸へ通った。


水禍蟇の腹へ寝転がり、泣きながら話し続ける。

ただの人間として生きる苦しさも、恐怖も、胸に押し込めてきた思いも。

何も答えないその聞き手へ、すべてを打ち明けていた。


ついに、納入の期限が来た。


番頭が集落から漁場へやってきて、今月分の魚やエビを受け取ろうとした。

ハンスには、必要な量を用意できなかった。


まだ仕分けに時間がかかると嘘をつき、どうにか番頭を待たせた。


それから一人で川岸へ走る。

唯一の友人に、別れを告げるためだった。


ハンスは水禍蟇の柔らかな腹を、軽く叩いた。

「ガマ爺さん。俺の方が先に逝くことになっちまったな。お前と会えたのも、何かの縁だ」


「残りの日々くらい、俺より幸せに過ごしてくれよ」


そのとき、水禍蟇が動いた。


ハンスは、びくりとした。

その動きが次第に大きくなり、慌てて白い腹から飛び下りる。


ドボン!


水禍蟇はようやく寝返りを打ち、腹を下に、背を上に向けた。

完全に目が覚めたのだ。


跳ね上がった水で、ハンスは全身ずぶ濡れになった。


起き上がった水禍蟇を見て、ハンスは腹立たしげに足を踏み鳴らした。

「ガマ爺!何だよ、動けるじゃないか!お前のせいで、ひどい目に遭ったぞ!

何日か早く起きてくれりゃ、こんなことにはならなかったのに!」


水禍蟇は、文句などまるで気にしていなかった。

あまりに長く眠ったため、腹が減っていた。


巨大な体をゆっくり川へ沈め、口を大きく開く。

そして、川の水を呑み始めた。


ハンスは、呆然とその光景を見つめた。


川の水位が、目に見える速さで下がっていく。

大量の水が、底なし穴に吸い込まれるように、水禍蟇の口へ流れ込んだ。


それでも、白い腹は少しも膨らまなかった。


長い時間が過ぎ、水禍蟇は悠々と食事を終えた。

川の水は、すでにひどく少なくなっていた。

泥の積もった川底が、広い範囲で露わになっている。


川の真ん中に人が立っても、水は膝まで届くかどうかだった。


ハンスは岸に立ち、呆然としていた。


水禍蟇は彼の方を振り向き、大きなげっぷをした。

腹がぐっと膨らみ、すぐに縮む。


開いた口から、大量の川の幸が岸へ吐き出された。


魚、エビ、カメ、スッポン、タニシ、タウナギ、カニ……

ありとあらゆるものが、水禍蟇の口から凄まじい勢いで飛び出してくる。


水禍蟇が食べるのは、水だけだった。

水と一緒に呑み込んだ生き物は、すべて吐き出したのだ。


空から、魚やエビの豪雨が降ってくるかのようだった。


瞬く間に、岸には大量の獲物が積み上がった。

魚やカメがびっしりと重なり、小山のようになっていた。


ハンスは、飛び上がって喜んだ。

「助かった!これだけあれば、三か月分は納められるぞ!ガマ爺さん!お前のおかげだ!」


急いで魚やエビを集め、受け取りに来た番頭へ渡した。


番頭は、その量に驚き、同時に疑いを抱いた。

一介の奉公人が、短い時間でこれほどの魚を捕れるはずがない。


隠すわけにもいかず、すぐに集落へ戻り、主人へ報告した。


集落の精霊使いたちも、すでに川の水位の異変に気づいていた。

調査を行い、ほどなく水禍蟇を発見した。


五環精霊だったのだ!


その知らせが広まり、集落全体が恐慌に陥った。

大勢の精霊使いが集められ、水禍蟇を追い払うための部隊が編成された。


だが、ハンスは水禍蟇が傷つけられるのを見たくなかった。


この数日の間に、ハンスは、この精霊を唯一の友人と思うようになっていた。

一度も返事をしてくれなかったとしても、その思いは変わらない。


精霊使いたちの前へ跪き、何度も額を地につけて頼んだ。

どうか、水禍蟇を見逃してほしい、と。


だが、高みに立つ精霊使いたちが、ただの人間の願いに耳を貸すはずもない。


一人がハンスを蹴り倒した。

精霊使いたちが手を出そうとした、そのとき、水禍蟇がそこへやってきた。


水禍蟇も、ハンスを友人と思っていたのかもしれない。

あるいは、話好きの人間をそばに置けば、長く退屈な日々も少しは面白くなると思っただけかもしれなかった。


理由は、分からない。


それでも、水禍蟇は動いた。


ハンスを背に乗せ、口から滔々たる水を吐き出した。


凄まじい洪水が大地を覆い、たちまち集落全体を呑み込んだ。

周囲の山も大半が、水に沈んでしまった。


この一戦は、南域全土を震撼させた!


その日から、ハンスの名は十万の山々へ知れ渡った。

水禍蟇は、彼のもとへ留まった。

空界を開いたこともなく、修行もできない人間が、五環の精霊を手にしたのである!


五環の精霊使いでさえ、五環精霊を持つとは限らない。


そもそも、五環まで達する者自体が、極めて稀だった。


ローデン一族の全歴史を見ても、二人しかいない。

初代族長と、四代目の族長である。


しかしハンスには、空界がなかった。


体内には、一滴の精神力さえない。

初めから終わりまで、ただの凡人だった。


その存在は、精霊使いの世界を根底から揺るがした。


後にハンスは、かつての集落の廃墟に、新たな村を築いた。

人に寛大で、虐げられる凡人たちへ深い同情を寄せていた。


誰もが平等で、隷属も抑圧もない場所を作ろうと志したのだ。


やがて、ハンスは人々の希望の旗印となった。


周辺の集落から、主人のもとを逃げ出した凡人たちが押し寄せた。

誰もが、彼の庇護を求めていた。


だが、ハンスは最後には暗殺された。


五環の水禍蟇がいるだけでは、彼自身が強者になれるわけではなかった。


精霊使いではない彼には、水禍蟇の動きを常に把握し、制御することはできない。

闇に潜む襲撃を防ぐ力もなかった。


ハンスが死ぬと、水禍蟇も去っていった。


精霊使いたちは、彼の築いた村を跡形もなく破壊した。

秩序に逆らった凡人たちも、皆殺しにされた。


一介の凡人が、社会全体の仕組みに挑んだのだ。

精霊使いたちから、一斉に敵視されるのは当然だった。


一人の力には、限界がある。

五環精霊の庇護を得たとしても、長い年月をかけて続いてきた秩序を、根本から揺るがすことはできなかった。


「私が未来を変えた今、ハンスはまた現れるのだろうか」

回想を終え、ラインは軽く笑った。


……


ラインには笑えても、クルには笑う余裕などなかった。


暗い顔をして、任務から戻ってきた。


山麓の村人たちは、精霊使いが水禍蟇の脅威を取り除いてくれると、ずっと期待していた。

だが、クル・ローデンが自ら赴いても、追い払うことはできなかった。


その知らせが伝わると、村人たちの恐怖は瞬く間に広がった。

ついには、限界に達する。


家族を連れ、大きな荷物を背負い、皆がローデン集落へ向かってきた。


もちろん、勝手に集落へ入る度胸などない。


門の外に跪く人々は、増える一方だった。

泣きながら、精霊使いたちへ慈悲を乞う。

どうか中へ入れて、避難させてほしい、と。


……


広間にも、重苦しい空気が満ちていた。


「あの賤民(せんみん)ども、集落の門を塞ぐとは、何たることだ!」

牢獄長老が卓を叩き、怒鳴りながら立ち上がった。

「ますますつけ上がりおって!殺せ!皆殺しにしろ!」


メディシンの顔も、陰鬱だった。

「あの賤民どもなど、死んだところで惜しくはありません。

ですが、全員を殺す必要はないでしょう。

わたくしなら、特に騒いでいる者を何人か選び、人前で処刑します。

見せしめがあれば、残りも散っていくでしょう。

ただ、話が広まれば、他の集落の笑いものになってしまいますね」


カルが、低い声で言った。

「今、問題なのは、門の外の凡人たちではありません。

クルにすら水禍蟇を押して起こせぬなら、我らの中の誰にできるというのです?」


「やはり、外部に助けを求めるべきでしょう。

ロア一族は、力に優れています。

集落の安全のためなら、多少の代価を払ってでも、手を借りる価値はあります」


多くの長老が、その意見に賛同した。

上座に座る族長ハクも、心を動かされた様子だった。


「族長、長老の皆様」

広間の中央に立っていたクルが、不意に一歩前へ進んだ。


拳を掌で包み、一礼する。

「一つ、申し上げたいことがございます」


ハクは頷いた。


彼は以前から、クルを高く評価していた。

優れた実力だけでなく、落ち着いた人柄と、責任を引き受ける姿勢を認めていたのだ。


「クル、案があるなら、遠慮なく言ってくれ」

クルはすぐには答えず、逆に問いかけた。

「水禍蟇を押して起こすには、必ず一人の力だけでなければならないのでしょうか?」


ハクが、説明した。

「先代族長から偶然聞いた話では、水禍蟇は温和で、眠ることをひどく好む。

人に体を押されて眠りから覚めても、普通は怒らない。

だから、集落で最も力の強い君を送り、押して起こしてもらおうとしたのだ。

だが、結果は明らかだ。君にはできなかった」


クルは頷き、それから言った。

「剛牛紋(ごうぎゅうもん)を一体お授けいただければ、短い間だけウシ一頭分の力を上乗せできます。

それなら、必ず水禍蟇を動かしてみせます」


「ならん!」

クルが言い終わるや、一人の長老が即座に退けた。

「精霊の力を使ってはならない!その気配で、水禍蟇が警戒するではないか!

脅威を感じ、突然暴れ出したら、誰が責任を取るのだ?」


「そのとおりだ」

ハクが、僅かに頷いた。

「精霊の力で押して起こしても、あれは君を認めない。

一人の人間が、自分の体に備わる力だけで押して起こすのだ。

それで初めて、負けを認め、自らこの地を去る」


クルは眉を寄せ、訝しげな顔をした。

その様子を見て、ハクはさらに説明を続ける。


「精霊は天地の精にして、人は万物の霊なり。

だが、多くの精霊には、獣とよく似た習性が残っている。

獣には、それぞれ縄張りがある。

流浪する猛獣が、ほかの獣王の縄張りへ入れば、争いになるものだ。

勝った方が土地を得る。負けた方は立ち去り、再び流浪するしかない」


ビーストウェーブが起こるのも、同じ習性による。


強い群れが勢力を広げ、周囲の縄張りを奪っていく。

追い出された弱い群れは、別の場所へ移るしかない。

移動先でも、また他の群れの縄張りを侵すことになる。


そうして多くの群れが互いに影響し、追い立て合う。

やがて、初期のビーストウェーブが生まれるのだ。


水禍蟇を追い払うにも、この習性を利用しなければならなかった。


水禍蟇は温和で、争いを好まない。

一人の人間が、自らの力で押して目覚めさせる。


それによって、ここには自分より強い「獣王」がいると認めさせるのだ。

そうすれば、自ら退き、ほかの棲み処を探しに行く。


だから、精霊を使うことはできない。


その気配に警戒すれば、結果は予測できなくなる。

また、大勢を集めて押すこともできなかった。


たとえ集団の力で目覚めさせても、囲まれて襲われたとしか思わない。

その中の誰かを、この縄張りの「獣王」と認めることはないのだ。


それが、族長がクルを派遣した理由だった。

生まれ持った力だけなら、クルはローデン集落で最も強い。


「なるほど」

クルはようやく、事情を理解した。

俯いて少し考え、あらためて礼を取る。


「でしたら、長老の皆様に、一人、推挙したい者がおります。

その者も、並外れた力を持っています。

私には及ばぬとしても、そう大きな差はないはずです。

一度、試させてみてはいかがでしょうか」


長老たちの顔に、驚きが浮かんだ。

「ほう、それは誰だ?」


「クルに匹敵する力の持ち主が、族内にいるというのか?なぜ、今まで聞いたことがない?」


「クル、もったいぶらず、早く言え!」

長老たちに促され、クルは顔を上げた。

そして、一つの名を、ゆっくりと告げる。


「ライン・ローデンです」

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誤字報告で修正入れましたけどかなり「」残ってましたよ 連続して台詞を喋るなら前みたいな「」1つ1つわけて書いてるのは違和感でしたのでコチラの書き方の方が良いですね しかもそのやり方だと状況説明挟まな…
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