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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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104.婆さん、まだまだ青いな!

「酒虫……」


ラインはその名を小さく呟き、中央のカウンターへ歩み寄った。


もう一只の酒虫さえ手に入れ、酸味、甘味、苦味、辛味を持つ四種の美酒を揃えれば、四味酒虫(しみしゅちゅう)の煉成に挑戦できる。


もちろん、煉成には常に失敗の危険が付きまとう。


だが、二匹目の酒虫すらなければ、挑戦する資格さえ得られない。


人生とは、そういうものだ。


努力したからといって報われるとは限らず、必ず成功できるわけでもない。

しかし、挑戦することすら恐れるなら、その時点ですでに失敗は決まっている。


外道の道も同じだった。


外道として遠くまで歩み続けられる者は、その多くが危険を冒すことを恐れず、荊を払い、困難へ立ち向かう覚悟を持っている。


世間の大多数から見れば、そうした選択は偏っていて、狂気じみたものに映るのだろう。


(つい先ほどまで、二只目の酒虫をどこで探すべきか悩んでいた)

(それが、向こうから私の目の前へ運ばれてきたか)


ラインの目に強い決意が宿る。


(好機が目の前にあるというのに、見逃せるはずがない)


今のラインに五環、六環の力があれば、堂々と奪い取ればいい。

邪魔する者がいれば、まとめて力で押さえつければ済む。


三環、四環であったとしても、人知れず盗み出し、誰にも気づかせない手段はいくらでもあった。


残念ながら、今のラインは二環初位にすぎない。


そこまで考え、ラインは胸の内で小さくため息をついた。


(仕方がない。大人しく買うしかないな)


視線を落とし、カウンターの前に掲げられた値札を確認する。


酒虫――霊石五百個。


酒虫の通常の市価は、およそ霊石五百八十個。

ここに掲げられた値段は、市価よりも八十個も安かった。


もっとも、本当に霊石五百個を差し出すだけで酒虫を買えると思うようなら、ラインが前世で生きた五百年はすべて無駄だったことになる。


この値段は、あくまで最低入札額にすぎない。


オスカー・ベルナーはわざと安い値をつけ、多くの客をカウンターの前へ引き寄せ、購買欲を刺激しようとしているのだ。


この三星窟(さんせいくつ)はオスカーの所有物である。

どのような方法で商品を売るかも、当然ながら彼が決められる。


「おばあちゃん、この酒虫、霊石五百個しかしないよ!」


すぐ隣から、少女の弾んだ声が聞こえた。


一人の少女がカウンターへ駆け寄り、中にいる酒虫を見て、目を輝かせる。


彼女は隣に立つ老人の腕を掴み、甘えるように揺らした。


「おばあちゃん、明日は覚醒の儀でしょう?贈り物をくれるって約束してくれたよね?

この酒虫を買って!」


少女の隣に立つ老人は、腰に白い帯を締めていた。


帯の正面には四角い銀板がはめ込まれ、その表面には、はっきりと「三」の文字が刻まれている。


精霊使いは三環へ到達すると、自動的に長老の身分を得る。


もっとも、同じ長老であっても、その立場は一様ではない。


実権を握り、一族の重要な事務を預かる長老もいる。


一方、重要ではない役目に置かれ、権力も資源もほとんど持たない長老もいた。


目の前の老人が、後者でないことは明らかだった。


(メディシン・ローデン……)


ラインは一目で彼女の正体を見抜いた。


メディシンは薬堂長老である。

薬堂は一族全体の治療と後方支援を担う、最も実入りのよい部署の一つだった。


彼女は長老の中でも古株で、族長を前にしても座ったまま言葉を交わせるほどの資格を持っている。


それ以上に重要なのは、彼女がローデン一族随一の治療精霊使いであることだった。

これまで何人もの長老の命を救っており、その人脈の広さは一族でも指折りである。


「はいはい。可愛い孫娘が欲しがっているんだ。おばあちゃんが買ってあげよう」


メディシンは顔中に深い皺を刻み、背中もわずかに曲がっていた。

片手で杖をつき、口では困ったようにため息をついているものの、その表情は慈愛に満ちている。


「やった!おばあちゃん、大好き!」


少女は歓声を上げ、その場でメディシンへ抱きついた。


さらに背伸びをして、彼女の頬へ口づける。


「それじゃあ、早く奉公人を呼んで、この酒虫を買おうよ!」


しかし、メディシンは首を横に振った。


「可愛い孫よ、ここにある精霊は、そんなふうには買えないんだよ。

おばあちゃんが教えてあげよう。

カウンターの脇に竹紙と筆が置いてあるのが見えるかい?」


少女は事情を理解できないまま、素直に頷いた。


「うん、見えるよ」


「竹紙を一枚取って、この酒虫に自分が支払ってもよいと思う値段を書くんだ」


メディシンは根気よく説明を続ける。


「その下へ名前を書き、紙を折り畳んで、カウンターの横にある穴へ入れる。

入札が締め切られたあと、商隊の者がすべての紙を開く。

最も高い値をつけた者が、この酒虫を買えるという仕組みさ」


「へえ、そうなんだ、何だか面白いね」


少女は嬉々として竹紙を一枚取り、筆を手にした。


しかし、いざ書こうとしたところで、ふと手が止まる。


形のよい眉を寄せ、しばらく真剣に悩んでいたものの、最後には唇を尖らせて祖母を見上げた。


「でも、おばあちゃん、いくらって書けばいいの?

安すぎたら、ほかの人に酒虫を買われちゃうでしょう?

でも、ほかの人よりずっと高い値段を書いたら、わたくしたちが損しちゃうよ」


メディシンは声を上げて笑い、わざと少女をからかった。


「酒虫が欲しいからといって、そう簡単に手に入るものではないよ。

そこから先は、お前の腕次第さ」


「おばあちゃん!」


少女はすぐに彼女の腕へ抱きつき、甘えながら何度も揺らした。


「分かった、分かった、もう揺らすんじゃないよ。

おばあちゃんの老いぼれた体が、ばらばらになってしまう」


メディシンは困ったようにため息をつく。


「仕方がないね、おばあちゃんが代わりに書いてあげよう」


少女はぱっと顔を輝かせ、その場で小さく飛び跳ねた。


「やっぱり、おばあちゃんはわたくしに一番優しい!」


メディシンは筆を取り、竹紙に金額を書き込んだ。

その下には、自分の名前も記す。


少女は隣から一心に覗き込んでいたため、そこに書かれた数字をはっきりと見ていた。


書き終えると、メディシンは竹紙を折り畳み、少女へ目配せする。


「さあ、入れておいで」


少女は素直に紙を受け取り、カウンターの側面に設けられた四角い穴を見つけ、そこへ差し入れた。


それを終えると、すぐにメディシンのもとへ戻ってくる。

それでも、まだ少し不安そうだった。


「おばあちゃん、これで本当に大丈夫?」


メディシンは頷いた。


「まあ、まず大丈夫だろうね、世の中、何が起こるかは分からない。

もしかすると、おばあちゃんより高い値をつける者もいるかもしれないよ」


そう言いながら笑う声には、十分な自信が込められていた。


「だが、この値よりあまりに高い金額を出すようなら、落札した者が大損するだけさ。

心配しなくていい、この酒虫は、十中八九こちらのものだよ」


「そっか」


少女は頷き、ようやく完全に安心したようだった。


「さあ、上の二階も見にいこう」


「うん、おばあちゃん」


祖母と孫は楽しげに言葉を交わしながら、一階を離れていった。


ラインは遠ざかる二人の背中を見送り、目をわずかに細めた。


メディシンは間違いなく、手強い競争相手だった。

決して軽く見ることはできない。


もっとも、このような状況になること自体は、ラインも予想していた。


酒虫は一環精霊にすぎない。

しかし、精神力を精錬し、その質を一つ上の小境界へ引き上げることができる。


精神力が精錬されれば、実質的に使える精神力の量が増える。


それだけでなく、空界を温養する効率も上がり、精霊使いの修練を速められる。


唯一の明確な欠点は、現在知られている煉成先に、あまり将来性がないことだった。


広く伝わっている秘方では、酒虫は煉成材料として、別の高環精霊へ取り込まれる場合が多い。

そうして得られた新たな精霊は、ほとんどの場合、精神力を精錬する能力を失ってしまう。


それでは、あまりにも惜しい。


場合によっては、得るものより失うもののほうが大きい。


だからこそ、多くの一族は酒虫を手に入れても、安易に煉成しようとはしない。

学堂に置いておき、優秀な新入生たちへ交代で使わせるのが一般的だった。


もしラインの知る四味酒虫の秘方が世に広まれば、酒虫の価格は一気に跳ね上がることだろう。


(この酒虫を手に入れるのも、やはり簡単ではないか)


ラインは再びカウンターへ目を向けた。


(あの祖母と孫は、競争相手の一組にすぎない。

これまでに何人が、どのような値をつけて紙を入れたのか、誰にも分からない)


酒虫ほどの精霊であれば、欲しがる者はいくらでもいる。


ただし、入札へ参加する者たちの考えは、それぞれ異なっていた。


何としても手に入れようとする者もいれば、安値で買えれば儲けものだと、幸運に期待する者もいる。


豊かな財力を持ち、霊石を多少多く支払うことなど気にしない者もいた。

メディシンは、まさにその一人である。


反対に、懐が寂しく、霊石一個ずつを慎重に計算しなければならない者もいる。

たとえば、ラインだ。


(両親の遺産を取り戻しておいて助かった。

このところ、生気草、酒場、三棟の竹楼から得た収入で、それなりの霊石を蓄えることができた。

そうでなければ、この競争へ加わる資格すらなかっただろう)


とはいえ、ラインが財を蓄え始めてから、まだそれほど時間は経っていない。

そのうえ、複数の精霊を同時に養わなければならなかった。


純粋な財力の勝負になれば、メディシンのような実権を握る長老に勝てるはずがない。


「行こう、今のはメディシン様が直々に入れた札だぞ」


「俺も見ていた。この酒虫は、もう諦めるしかないな」


「あれほど自信を持っておられるのだ。私たちが値を入れたところで、無駄に価格を吊り上げるだけだろう」


カウンターの周囲に集まっていた精霊使いたちは次々に首を振り、その場から離れていった。


間もなく、酒虫のカウンターの前に残ったのは、ライン一人だけとなった。


ラインは静かにその場へ立っていた。

瞳は深い泉のように底知れず、その奥では冷たい光がかすかに揺れている。


ほかの者たちは、メディシンの名声と自信に気圧され、自ら競争から降りた。


だが、ラインがそれだけで退くはずもない。


多くの場合、好機は確かに目の前へ置かれている。

それなのに、人は自分で自分を恐れさせ、進んで諦めてしまうのだ。


(まだ、私にも勝機はある)


ラインはその場を動かず、頭の中で素早く考えを巡らせた。


正面から財力を競えば、メディシンには決して勝てない。

しかし、より多くの財産を持っているからといって、必ずより高い値をつけるとは限らなかった。


酒虫がどれほど珍しいとはいえ、所詮は一環精霊である。


どのような商品にも、相応の価格帯というものがある。

需要と供給によって多少は上下しても、際限なく高騰するわけではない。


今、最も重要なことは一つだけだった。


(メディシンはいくらと書いた?)


彼女は霊石に困っておらず、何より孫娘をひどく可愛がっている。

当然、市価よりも高い金額を提示したはずだ。


ただし、その金額も、常識を逸するほど高くはない。


メディシンの値をわずかに上回ればいい。

たとえ霊石一個の差であっても、最後に酒虫を手にするのはラインとなる。


これは、刀光の見えない戦いだった。


勝敗を決めるのは、財力だけではない。

判断力、度胸、そして人の心を読む力。


強者が必ず勝つとは限らず、弱者にも決して機会がないわけではなかった。


(先ほど、メディシンはわざと人前であのようなことを口にした。

自分の名声を利用して、ほかの入札者を脅し、競争から降ろすためだ)


ラインの口元がゆっくりと持ち上がり、自信に満ちた笑みを形作る。


(相手がほかの者なら、本当にあの言葉で退いたかもしれないな)


この世界の商取引は、実に興味深いものだった。


地球で酒虫のような希少品を売るなら、普通は公開競売が用いられる。


買い手同士を直接競わせ、価格を可能な限り引き上げるのだ。


しかし、この世界では公開競売があまり盛んではない。


その大きな理由の一つが、それぞれの一族が持つ強い結束だった。


外から来た商人であるオスカー・ベルナーが、ローデン集落で酒虫の公開競売を行えば、参加するローデン族の者たちは、外敵を前にしたかのような連帯感を抱きやすい。


価格がある程度まで上がれば、多くの者が進んで競争から降りる。


同族同士で争い、外から来た商人に大量の霊石を稼がせることを避けるためだ。


親しい買い手同士なら、その場で話し合うことすらある。

別の利益を譲ったり、あとから補償を与えたりして、誰が商品を買うかを決めるのだ。


彼らにとって、同族へ競り負けることは恥ではない。


しかし、内部で競い合った結果、外来の商人に莫大な利益を与えることは、一族全体の面目を傷つける行為と見なされる。


事情が変わるのは、一つの競売に複数の一族が参加した場合だった。


異なる一族同士であれば、簡単に譲り合うことはない。


互いに張り合い、競売は自然と激しさを増していく。


ただし、そのような競売を開くこと自体が、極めて難しい。


根本的な原因は、交通の不便さにあった。


商いの根は、物と人の流れにある。

交通が発達するほど交易は栄え、閉ざされるほど商業の発展も妨げられる。


各集落はそれぞれ異なる山に築かれ、互いの距離も遠い。


道中には断崖や悪天候だけでなく、野獣、毒虫、危険な野生精霊まで存在している。


複数の一族に属する精霊使いたちを同じ場所へ集め、十分な規模の競売を催すことは、決して容易ではなかった。


同じヴェルデン山にあり、比較的距離の近いローデン、ベル、ロアの三族でさえ、オスカーは三族合同の競売を簡単には開けない。


野外で開催すれば、安全を保証できない。


どこか一族の集落で開けば、残る二族が警戒して参加しない可能性がある。


まして、オスカーは四環精霊使いにすぎない。


三族の族長もまた、同じ四環だった。


各勢力を力で従わせるだけの実力を持たない以上、争いが起きたところで、オスカーには場を制御できない。


だからこそ、公開競売ではなく、互いの入札額が見えない封印入札のほうが、今の環境には適していた。


ラインは前世で地球の商業知識に触れただけではない。

自ら産業を経営し、莫大な利益を得たこともあれば、手痛い損失を被ったこともある。


五百年にわたって積み重ねた無数の経験と教訓は、すでに彼の骨身へ染み込んでいた。


商いと人心を読む目にかけては、この世界の頂点に立てるとさえ自負している。


一生をヴェルデン山の中で過ごし、外の荒波を本当の意味で見たこともない老人が、たった数言でラインを競争から追い出そうというのか。


メディシンが去った方向を見つめ、ラインの口元に浮かぶ笑みが、次第に冷たさを帯びていく。


(婆さん、まだまだ青いな!)

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初めにある柜台の文字も日本語じゃないのよな カウンターって意味みたいだけど ちょくちょく中国の漢字になってる部分あって、その都度誤字報告してたけど、流石に多いよ…
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