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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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100/132

100.半生の蓄積は水泡に帰し、残るは本源のみ

一日後。


ラインは寝台の上であぐらをかき、目の前に浮かぶ白い光球を見つめていた。


光球は洗面器ほどの大きさで、彼の顔から腕一本ほどの距離に浮かんでいる。

その中には月印と二体の微光蛍が包み込まれており、三つの影が絡み合う様子だけが、ぼんやりと見えていた。


ラインは傍らの袋から霊石を取り出し、一つずつ光球へ投げ入れていく。


霊石は白光に触れた途端、沸騰した湯に落とした雪のように溶け、純粋な天然の精神力へと変わった。

力を失った白い石粉がさらさらと落ち、寝台の上に薄く積もっていく。


吸収した霊石が増えるにつれて、光球は少しずつ収縮し、反対にその輝きはますます強くなった。


拳ほどの大きさまで縮んだ頃には、ラインでさえ目を細めなければならないほどの強い光を放っていた。


「残るは、あと一つか」


ラインは一つの霊石を指でつまみ、煉成がもっとも重要な段階に入ったことを悟る。


彼は最後の霊石を白光へ投じた。


霊石は光球の中心で瞬く間に溶け、その力は余すところなく三体の精霊に吸収される。


次の瞬間、光球が一気に膨張した。


小さな破裂音とともに白光が弾け散り、月印と二体の微光蛍がそれぞれ別の方向へ吹き飛ばされた。

一体は寝台へ落ち、残る二体は壁にぶつかった後、床へと転がる。


煉成は失敗した。


ラインは目を細め、すぐさま指を動かして三体を呼び戻そうとした。


月印と一体の微光蛍は、ふらふらと宙へ浮かび、ゆっくりと彼の手元へ戻ってくる。


だが、もう一体の微光蛍は何の反応も示さなかった。


乳白色をした五芒星の体が徐々に透き通り、輪郭から細かな光の粒へと変わっていく。

数呼吸も経たないうちに完全に消滅し、何一つ痕跡を残さなかった。


これが煉成に失敗した代償である。


秘方や煉成の段階によって、素材となった精霊は傷を負うだけで済むこともあれば、その場で命を失うこともある。


たとえラインが五百年もの経験を持ち、複数のことを同時にこなす技術に熟達し、正しい秘方まで把握していようと、失敗の可能性を完全になくすことはできない。


経験で失敗を減らすことはできても、運まで従わせることはできないのだ。


ラインは落胆しなかった。


すべての手順は正しく踏んでいた。

それでも失敗した以上、結果を受け入れるほかない。


(死んだのが微光蛍で幸いだった。値は張るが、商店で手に入る精霊だ。

月印が消滅していたら、代わりを見つけるのはずっと難しかった)


今のラインは、もはや数日前までの、霊石を五つすら用意できない貧乏人ではない。


微光蛍を一体失ったことは惜しいが、致命的な痛手ではなかった。


彼は月印と生き残った微光蛍の状態を慎重に確認する。


二体とも光沢を失い、飛ぶ姿も弱々しい。

煉成の失敗によって、明らかに傷を負っていた。


この状態で再び煉成を強行すれば、成功率がさらに下がるばかりか、今度は月印まで失う恐れがある。


「最低でも三日は休ませる必要があるな」


ラインは二体を空界へ戻し、すぐに再挑戦しようとはしなかった。


急いては事を仕損じる。


その日の夕方、彼は商店へ向かい、新たな微光蛍を一体買い求めた。


月華印(げっかいん)の煉成は、月印と元からいた微光蛍が回復してから行うしかない。


しかし、待つからといって、何もすることがないわけではなかった。


部屋へ戻ったラインは、左手を開いた。


白い手のひらの中央に、濃緑色をした小さな草の印が刻まれている。

まるで墨で皮膚に描き込んだ刺青のようだった。


ラインが意識を向けると、空界の赤鉄精神力が引き寄せられ、淡紅色の霧となって腕を伝い、手のひらへと流れ込んだ。


緑の印が、たちまち生命を得たように脈動する。


まず翠色の草の先端が皮膚から顔を出し、続いて半透明の茎と、丸みを帯びた九枚の碧色の葉が現れた。


人参のひげ根に似た根だけは手のひらの中に残り、濃緑色の細い筋となって、ラインの掌紋と交差している。


二環の草精霊――九葉生気草(くようせいきそう)。


ラインの手のひらが小さな大地へと変わり、その上に九葉生気草が根を張っているように見えた。

精霊の全身は透き通るように艶やかで、まるで一塊の翡翠から彫り出されたかのようだった。


ラインは右手を伸ばし、二本の指で一枚の葉をつまむ。

そのまま軽く引き抜くと、髪を一本抜いた程度の小さな痛みが手のひらに走った。


母株を離れた丸い葉は淡い緑色の光に包まれ、すぐに丸まりながら形を変えていく。


やがて、一環の消耗型精霊――生気草(せいきそう)へと変わった。


ラインは残る八枚の葉も順番に摘み取った。


最後の一枚が離れると、葉の生い茂っていた九葉生気草には、半透明の茎だけが残された。


ラインは再び赤鉄精神力を動かす。

淡紅色の霧が手のひらから立ち上り、むき出しになった茎を包み込んだ。


九葉生気草が精神力を絶えず吸い上げると、茎の根元がわずかに膨らみ、小さな突起が生まれた。


そこから淡い桃緑色の新芽が顔を出す。


新芽は細く脆く、少し触れただけで壊れてしまいそうだった。

だが、精神力が注がれ続けるにつれて、目に見える速さで葉を広げ、色も徐々に濃くなっていく。


ほどなくして、茎の上には深い碧色の葉が一枚、十分に育っていた。


ラインは意識の一部を空界へ向け、霊海の状態を確認した。


「葉を一枚育てるのに、空界の二割分もの精神力が必要か」


彼の空界に蓄えられる精神力は、最大でも四割四分である。


つまり精神力が満ちている状態でも、連続して育てられる葉は二枚が限界だった。

その後は一度手を止め、精神力を回復させなければならない。


ラインは二枚目の葉を育て終えると、霊石を取り出して手の中に握り、そこに含まれた天然の精神力を素早く吸収した。


赤鉄の霊海が四割まで回復すると、再び葉の育成に取りかかる。


それを何度も繰り返し、半日近くを費やした末、九葉生気草には再び九枚の葉が生えそろった。


ラインが精神力の供給を止めると、手のひらの草精霊は急速に縮み、再び濃緑色の印へと戻っていった。


先ほど摘み取った九株の生気草は、それぞれ小袋に収め、丁寧に保管する。


生気草一株の相場は、およそ五十個の霊石。


九株ならば四百五十個となる。

精神力を回復させるために消費した霊石を差し引いても、実質的な利益は四百個を超えていた。


しかも、これはわずか半日で生み出した収益にすぎない。


もちろん、ラインは九株すべてをすぐ市場へ流すつもりはなかった。


短期間に大量に売れば、相場を下げるだけでなく、余計な注目まで集めることになる。


薬堂へ何度かに分けて売るか、酒場の伝手を通じて少しずつ捌けば、九葉生気草は今後も安定した収入をもたらしてくれる。


家産の中でも、間違いなくもっとも価値の高い一品だった。


農地は不作になることがあり、酒場も客足が遠のく可能性がある。

竹楼も定期的な修繕が必要だ。


だが、九葉生気草は日光と清水さえあれば容易に生き続ける。


本当に必要なのは、葉を育てるための精神力だけだった。


この精霊を手にしていることは、何度でも採掘できる鉱脈を所有していることに等しい。

他の家産は、必要とあらば捨てても構わない。


だが、九葉生気草だけは、必ず自分の手元に置いておかなければならなかった。


幸い、この精霊を所有しているのはラインだけではない。


集落には他にも九葉生気草を持つ精霊使いが数人おり、一族そのものも五株を保有している。


薬堂では毎日、後方支援を担う精霊使いたちを交代で配置し、精神力を注がせて生気草を生産していた。


それは、むしろラインにとって都合がよかった。


もしローデン一族で九葉生気草を持つ者が彼一人だけなら、一族上層部は間違いなく共有財産として取り上げようとしただろう。


以前、アオが一族を代表して酒虫の買い取りを持ちかけたのと同じだ。


酒虫、黒イノシシの精霊と白イノシシの精霊、そして九葉生気草。


多くの一族の者に影響を与えられる精霊や、安定して資源を生み出せる希少精霊は、一族としても自らの管理下に置いておきたい。


だが、九葉生気草はラインの一株しか存在しないわけではない。


だからこそ、彼は自分の精霊として安心して保有できるのだった。


――三日後。


月印と微光蛍の傷が癒えると、ラインは再び煉成に取りかかった。


新しく買い入れた微光蛍も光球へ投入され、三体に残されたラインの意念が、彼の操作によって少しずつ一つに重なっていく。


霊石が次々と溶け、白い光球も再び収縮を始めた。


今度は最後まで、光球に乱れが生じることはなかった。

眩い白光が内側へ崩れ落ちるように収束し、やがて小さな青い三日月へと凝縮される。


それは青い水晶から削り出したかのように透き通り、静かに宙へ浮かんでいた。


外見は月印とよく似ているが、大きさは二回り近く増しており、放たれる気配も明らかに強い。


二環精霊――月華印(げっかいん)。


今度の煉成は成功した。


月華印は、一体の月印と二体の微光蛍から煉成される。


微光蛍を一体だけ月印に使えば、月刃の威力を二倍に高めることができる。


しかし、二体を同時に使っても、その強化は重ならない。

月印そのものが、同じ性質の強化を二重に受け止めることができないためだ。


月華印へ煉成したことで、三体の構造は完全に一つとなり、以前の制限も消え去った。


新たに生まれた月華印が放つ月刃は、通常の月印が放つものの三倍もの威力を持つ。


ただし、攻撃距離は変わらず十メートルだった。


月印には数多くの煉成秘方が存在し、それぞれの系統によって強化される方向が異なる。


ラインが選んだのは、射程や軌道の変化を捨て、破壊力を極限まで高める系統だった。


月印と微風の精霊(びふうのせいれい)を煉成すれば、広月印(こうげついん)となる。

月刃の威力はほとんど変わらないが、射程は十メートルから二十メートルまで伸びる。


もう一つの系統は、月印と旋風の精霊(せんぷうのせいれい)を組み合わせ、月旋(げっせん)へ煉成するものだ。


月旋が放つ月刃は青から緑へと変わり、直線ではなく、宙に弧を描いて飛ぶようになる。

アオが選んだのは、この系統だった。


ライルは月印とヒスイズスキンを素材にして、月華羽衣(げっかはごろも)を煉成している。

これは比較的珍しい防御系統であり、一族は五環まで続く完全な秘方を保有していた。


だが、五環秘方を持っているからといって、必ず五環精霊を得られるわけではない。


秘方は、進むべき方向を示すものにすぎない。


本当に終着点へたどり着くには、膨大な資源と長い積み重ね、そして人の手では制御できない運が必要となる。


五環の精霊使いでありながら、真の五環精霊を一体も持たない者さえ珍しくない。


その原因は、素材が希少だからというだけではない。

高環精霊の煉成は、成功率そのものが絶望的なほど低いのだ。


一環精霊の煉成に失敗したところで、失うのは数十個の霊石で済むこともある。


だが、四環、五環ともなれば、煉成に用いる精霊の一体一体が、数年、あるいは数十年を費やしてようやく手に入れた至宝である。


一度の失敗で、半生の蓄積が水泡に帰すことすらあった。


ラインが前世で逆矢(さかや)を煉成した時、その成功率は一パーセントにも満たなかった。


秘方には複数の五環精霊と、大量の希少素材が必要だった。


失敗するたびに、その一部が失われる。

運がもっとも悪かった時には、煉成に用いた精霊が一体残らず消滅した。


再び素材をそろえるため、ラインは探索し、狩り、取引し、ときには奪い取らなければならなかった。


一つの素材を得るために遠征中の隊商を襲ったこともあれば、一体の五環精霊を捕らえるため、魔教の分隊を丸ごと犠牲にしたこともある。


失敗を重ねるほど、必要な資源は増えていき、それに伴って殺戮の規模も大きくなった。

仇敵は各地に増え続け、配下たちの心も、終わりのない消耗の中で徐々に離れていった。


最後には魔教が内側から崩れ、正道が連合して包囲討伐へ乗り出した。


無数の屍が、ラインの歩んだ道を埋め尽くした。


それは、ラインが半生の蓄積と数え切れぬ命を代償として、ようやくつかんだ一度きりの機会だった。


幸運にも、彼は最後に成功した。


だが、不運なことに、逆矢が完成した直後、待ち構えていた正道の強者たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


窮地を脱し、逆矢を発動させるため、ラインは自らの肉体を滅ぼし、すべてを時間逆行の力に賭けるほかなかった。


そして彼は、五百年前へ戻った。


煉成の失敗は、その者の地位が高かろうと、経験が豊富だろうと、決して容赦しない。


長い歴史の中で、最後の一歩に届かず、すべてを失った精霊使いがどれほどいたか分からない。

前半生を費やして集めた精霊と資源が、たった一度の失敗で跡形もなく消えてしまう。


その失敗率を完全に消し去る手段は存在しなかった。


ただし、精霊使いにとってもっとも重要な根幹だけは、守ることができる。


本源精霊(ほんげんせいれい)。


本源精霊は煉成の成功率を高めない。


しかし、煉成が成功しようと失敗しようと、その過程で死ぬことはない。


どれほど深い傷を負っても、瀕死の状態に陥るだけで、なお回復する可能性が残される。

一緒に煉成へ用いられた他の精霊には、そのような守りは存在しない。


なぜ本源精霊だけが死を免れるのか。


その理由は、今なお解明されていなかった。


もっとも広く信じられている説は、本源精霊が精霊使いによって最初に煉化された精霊であり、覚醒の時から空界、精神、そして生命そのものと特別な繋がりを築くというものだ。


精霊使いが生きている限り、その繋がりが本源精霊に残された最後の命の灯を守り続ける。


だからこそ、本源精霊はすべての精霊使いにとって、もっとも重要な財産だった。


本源精霊さえ残っていれば、それまで築いてきたものが完全に断たれたことにはならない。

他の精霊をすべて失っても、本源精霊を起点として、自らの修行体系を一から組み直すことができる。


また、本源精霊の能力は、精霊使いが未来に進む方向を大きく左右する。


そのため、人々は自らの本源精霊に適した煉成秘方を探し求め、ともに成長させようとする。


低環の段階で目先の利益だけを追い、その先の秘方が存在しない系統へ本源精霊を煉成してしまえば、一時的には力を得られるかもしれない。


だが、長い目で見れば、自らの手で未来の道を塞ぐことになりかねない。


ラインが逆矢を自らの本源精霊だと知った時、あれほど喜んだのもそのためだった。


逆矢は時間を逆行させ、人に二度目の生を与える力を持つ、世にも稀な六環精霊である。


もし逆矢が本源精霊でなければ、今後さらに高い段階へ煉成しようとするたび、失敗によって完全に消滅する危険を背負うことになる。


だが、今なら、将来何度失敗しようとも、逆矢は少なくとも命だけは失わない。


世界を見渡しても、六環は大多数の精霊使いが生涯を費やしてなお触れられない領域である。

高環の精霊使いでありながら、完全な六環秘方を一つも持たない者さえ数多い。


今のラインは環階が低すぎるため、逆矢の真の力を引き出すことなど到底できない。


それでも逆矢が、彼の持つ最大の財産であることに変わりはなかった。


農地も、酒場も、九葉生気草も、酒飲のカイが遺した五環伝承さえも、目の前の困難を乗り越え、より速く、より安定して進むための助けにすぎない。


ラインが再び前世の高みへ到達し、その先にある永生へ進めるかどうか。


それを決めるのは、逆矢だけだった。


家産は人手に渡り、精霊は死に、半生の蓄積さえ一度の失敗で水泡に帰すことがある。

だが、本源だけは精霊使いとともに幾度もの破滅を越え、廃墟の中から再び歩き始める。


そして、ラインの本源は――


逆矢だった。

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