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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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10.雨の日の錬化

ぱらぱらぱら……。


大きな雨粒が、隙間なく降り注いでいた。

竹造りの家を叩き、乾いた音を響かせている。

家の前にある池では、雨粒が水面を激しく打ち、無数の波紋を広げていた。

魚たちはその下を楽しそうに泳ぎ回り、水草は池の底でゆらゆらと揺れている。

空は厚い雲に覆われ、視界のすべてが重たい雨の幕に包まれていた。


少し薄暗い部屋の中。

窓を開けたまま、ラインは静かに降り続く雨を眺めていた。

そして、心の中で小さくため息をつく。

(三日三晩、か……)


三日前の夜。

ラインは二本の徳利を持って村を出て、いつものように周囲の探索を続けていた。

だが夜も深くなった頃、突然激しい雨が降り始めた。

全身ずぶ濡れになったこと自体は、どうでもいい。


問題は、この雨では探索を続けられないことだった。

雨は酒の匂いをすぐに洗い流してしまう。

それに、こんな豪雨の中で無理に村の周囲を歩き回れば、さすがに人目を引く。


これまでは、覚醒の儀で挫折して酒に溺れた少年を装い、本当の目的を隠していた。

だが、他人の目を甘く見てはいけない。

自分以外の人間を馬鹿だと思い込む者こそ、本当の馬鹿だ。


仕方なく、ラインは探索を中断した。

そして一度降り始めた雨は、その後も止まなかった。


激しくなったり、弱くなったり。

雨脚が細くなることはあっても、完全に止むことはない。


(これでは、しばらく酒虫は探せそうにないな)

ラインの表情は変わらなかった。

(念のため、先に月印の錬化を始めるしかない)

(その途中で酒虫が見つかれば一番いい。見つからなければ、そのまま月印で妥協すればいいだけだ)

(まあ、こんなことは珍しくもない)


何事も、思いどおりに進むとは限らない。

最初から最後まで、何の問題もなくすべてが完璧に運ぶなど、むしろそのほうが珍しい。

五百年という時間は、もともと少なかったラインの焦りや苛立ちを、とっくに洗い流していた。


ラインは窓を閉め、続いて扉も閉じた。

ベッドの上にあぐらをかいて座る。

ゆっくりと目を閉じ、呼吸を整えた。

そして意識を、自分の内側へ沈めていく。


次の瞬間。

ラインの意識の中に、自らの空界が浮かび上がった。

空界は身体の中に存在している。

だが、臓器と同じ場所にあるわけではない。

無限に広いとも言える。

同時に、無限に小さいとも言える。

そんな不思議な空間だった。


空界の外側は、白い光の膜に包まれている。

薄く、今にも破れそうに見える。


だが、この光膜があるからこそ空界は形を保ち、崩れることなく存在していた。

そして、その内側に広がるもの。


霊海(アニマ・マーレ)


海は青銅色をしていた。

水面は鏡のように静かで、水位は空界の半分近くまで満ちている。

正確には、四割四分。


これがラインの霊海の限界だった。

一環精霊使いが持つ、青銅の精神力。

海を満たす一滴一滴が、すべて精神力そのものだ。


精霊使いにとって、精神力は何より重要なものだった。

精霊を錬化するにも。

精霊を動かすにも。

すべて、この精神力がなければ始まらない。


精霊使いにとって、まさに力の源だった。

ラインは霊海から意識を戻し、目を開けた。


ポケットから、月印を取り出す。

三日月のように細く曲がった青い精霊が、静かに掌の上へ横たわっている。

小さく、美しい。

透明な青い水晶で作られた月のようだった。


ラインが意識を動かす。

その瞬間。

空界の中で、静かだった霊海が大きく揺れた。

青銅色の精神力が海面から立ち上がり、ラインの身体を通って外へ流れ出す。


そしてそのすべてが、掌の月印へ流れ込んでいった。

月印が突然、淡い青色の光を放った。

掌の上で細かく震える。

ラインの精神力を拒んでいるのだ。


精霊は天地から生まれた存在だ。

ただの道具ではない。

それぞれが自らの意志を持っている。

ラインが精霊を錬化するということは、その意志を消し、自分のものへと変えることを意味する。


危険を感じた月印が抵抗するのは、当然だった。

錬化は、決して簡単ではない。


三日月型の月印へ、青銅色の精神力が流れ込んでいく。

まず、月の両端が青銅色に染まり始めた。

そしてその色は、少しずつ中央へ向かって広がっていく。


三分もしないうちに、ラインの顔から血の気が薄くなった。

大量の精神力を流し続けているせいで、身体の奥から力を吸い取られていくような強い疲労感が、何度も押し寄せてくる。

一分。

二分。

三分。

……

一割。

二割。

三割。



時間とともに、霊海の水位が目に見えて下がっていく。

十分ほど経った頃。

ラインの霊海から、すでに一割分の精神力が失われていた。


だが月印の表面を見ると、両端から伸び始めた青銅色は、ほんのわずかにしか広がっていない。

月印の抵抗は、思った以上に強かった。


もっとも。

ラインは最初から、この程度は予想していた。

特に驚くこともなく、そのまま精神力を送り続ける。

一割。

二割。

三割。


さらに二十分が過ぎた。

ラインの霊海に残っている精神力は、わずか一割四分。


それに対して、月印の表面を染めた青銅色は、左右を合わせても全体の十二分の一ほどしかない。

残りはまだ、元の淡い青色のままだった。


(厳しいな)

ラインは小さく息を吐いた。

そして精神力の供給を止めた。


ここまで、ちょうど三十分。

空界の霊海は半分以上を消耗し、残った精神力は一割四分。


それだけ使っても、錬化できたのは月印全体の十二分の一にすぎない。

しかも。

さらに面倒なことがある。

精神力の供給を止めたというのに、月印はまだ淡い青色の光を放っていた。


ラインが錬化を止めても、月印は抵抗を止めない。

すでに内部へ入り込んだラインの精神力を、今も少しずつ外へ押し出している。

それに合わせて、月印の両端を染めていた青銅色もゆっくりと小さくなっていた。


ラインはその変化をはっきりと感じ取ることができた。

(この速さなら……六時間ほどで、私の精神力は完全に追い出される)


そうなれば。

次に錬化を始めても、また最初からやり直しだ。


(精霊の錬化は、二つの軍が陣地を奪い合うのと同じだな)

ラインは月印を眺めながら考えた。

(こちらが精神力を送り込んで場所を奪い、向こうはそれを押し返す)

(今回は月印の十二分の一を奪うだけで、精神力を三割も使った)

(錬化を進めるなら、霊海を回復させながら精神力を送り続け、奪った部分を守らなければならない)


(必要なのは、精神力を扱う技術だけではない)

(長く続けるための根気も必要だ)

そう考えながら、ラインは袋から霊石を一つ取り出した。


消耗した精神力を回復する方法は、基本的に二つある。


一つは、自然回復。

時間が経てば、霊海の精神力は少しずつ戻ってくる。

ラインのような下等資質なら、一時間で四分ほど。

六時間あれば、二割四分の精神力を回復できる。


そしてもう一つ。

霊石から、天然の精神力を取り込む方法だ。

霊石は天地の力が凝縮して生まれたもの。

その中に含まれる精神力は、精霊使いが直接吸収することができる。


ラインは霊石を握った。

その中から、天然の精神力を少しずつ引き出していく。

流れ出した精神力はラインの身体へ入り、そのまま空界の霊海へ注ぎ込まれた。

霊石の表面にあった柔らかな光沢が、少しずつ失われていく。


反対に。

空界では、霊海の水位が目に見えるほどの速さで上昇していった。

およそ三十分後。

霊海は再び四割四分まで回復した。


そこでぴたりと止まる。

空界にはまだ空いている場所がある。

しかし、どれほど精神力を取り込もうとしても、それ以上は霊海に蓄えることができない。

これが下等資質の限界だった。


ここからも、資質がどれほど重要なのかが分かる。

資質が高ければ高いほど、空界に蓄えられる精神力は多い。

そして、自然に回復する速度も速くなる。


ラインの場合。

月印を錬化し、せっかく奪った部分を維持し続けるには、霊石を使わなければならない。

自然回復だけでは、月印がラインの精神力を押し出す速さに追いつかないからだ。


だが、上等資質のライルなら話は違う。

ライルは一時間で八分ほどの精神力を自然回復できる。

六時間なら、四割八分。

対して月印が同じ六時間で押し出せる精神力は、およそ三割分。


つまりライルなら、霊石の力を借りなくてもいい。

錬化を続け、疲れたら休む。

それを何度か繰り返すだけで、数日もあれば月印を完全に錬化できるだろう。


だからラインは、最初から分かっていた。

今回の「本源精霊を誰が最初に錬化するか」という試験。

自分が一位になる可能性は、ほとんどない。


これは経験や技術の問題ではない。

この段階では、何よりも資質の差が大きい。


そして二番目に重要なのが、霊石の量だった。

霊石を大量に使えるなら、話は変わる。

多少の消耗を気にせず精神力を補充し続ければ、中等資質の者が上等資質を追い抜き、一位になることだってあり得る。


(私の手元にある霊石は、六個だけ)

(ノア・ローデンやメル・ローデンのように、後ろから支援してくれる長老もいない)

(資質も下等。ライルの上等資質には遠く及ばない)

(どう考えても、この試験に勝ち目はないな)


ラインは手の中の月印を見つめた。

(なら、無理にここへ時間を使う必要もない)

(それより酒虫を探すほうがいい)

(酒虫を本源精霊にできれば、月印とは比べものにならない)


そのとき。

ラインの耳が、わずかな変化を捉えた。

窓の外。

さっきまで激しく鳴り続けていた雨音が、いつの間にかかなり弱くなっている。


(……ん?)

ラインは窓へ目を向けた。

(雨が弱くなった)

(止みそうだな)


三日三晩も降り続いたのだ。

そろそろ止んでもおかしくない。

ラインは月印をしまい、ベッドから下りた。

窓を開けようとした、そのとき。


コンコン。

扉を叩く音がした。

続いて、外からミラの声が聞こえてくる。


「ライン様、わたくしです」

「この三日間、ずっと雨でしたでしょう? 少しでも気が晴れるようにと思いまして、お酒とお食事をお持ちしました」

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