8.
人々は、ジスが「誰の妹なのか」を知った瞬間から、彼女をまるで芸能人のように扱い始めた。
SNSに投稿された写真や配信用の動画を拾い集め、記者たちは刺激的な見出しをつけて記事を書く。
その様子を、姉が知らないはずがなかった。
けれど姉は、妹に関することだけは固く口を閉ざしていた。
一方のジスは、息を潜めるように世間の反応を見つめ続けていたが、ある日ついに自分から口を開く決心をする。
リアルタイムで視聴者と話す配信を始めることにしたのだ。
『ジスです。みなさんとお話ししたいです。』
挑発的でもない、ごく普通のタイトルだった。
それでも「ジス」という名前だけで、数十人もの視聴者が次々と配信へ入ってくる。
コメント欄は、すぐに埋め尽くされた。
『今日は生放送で脱ぐ日?』
『どんな下着着てるのか気になる。』
『結局こういうことしかできないんだな。情けない。』
『なんでこんなに目立ちたがるの? 消えてしまえ。』
『死ね。』
ジスはまだ何もしていなかった。
ただ画面に向かって、
「みなさん、こんばんは。」
と挨拶しただけだった。
それなのに、悪意と性的な冗談が次々と浴びせられる。
視聴者と少しでも分かり合いたい。
そんな気持ちで始めた配信だった。
だが、ジスの胸に残ったのは深い傷だけだった。
泣きそうな顔のまま、用意していた言葉をひとつも口にできず、彼女は配信を終えようとする。
そして最後に、かすれる声でこう言った。
「……みなさん、私のこと、そんなに嫌いにならないでください。」
真剣な表情でそう告げたあとも、
SNSと配信のコメント欄には、なおも無数の悪意が降り注ぎ続けていた。
明るく、自信に満ちていたジスは、いつしか自分の人生を悲観するようになっていた。
部屋に閉じこもって酒を飲む夜が増え、外へ出るときは帽子とマスクで顔を隠した。
姉はすべてを知っているはずなのに、最後まで何も言わなかった。
義兄も以前のように連絡をくれることはなく、両親までどこか他人行儀だった。
ジスは、世界に一人取り残されたような気持ちになっていた。
ある夜、彼女はSNSに短い文章を投稿した。
『こんにちは。少し疲れてしまいました。』
しかし、その言葉にさえ人々は冷たい反応を返した。
画面を閉じたあと、ジスは長い間動けなかった。
誰かに気づいてほしかった。
誰かに「大丈夫」と言ってほしかった。
そんな小さな願いだけが、静かな部屋に取り残されていた。




