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断罪は婚約破棄のあとで 〜証拠を集めて、貴方を落とします〜  作者: 彼岸茸


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第18話 真の断罪

 エレノアがレグニスに対し、どのような言葉を発するのか。

 周囲の貴族たちはエレノアに見入り、耳を傾けた。


 彼女は見事なカーテシーを決めてから、階段を上り、レグニスを見上げる。

 レグニスは不敵な笑みを浮かべたまま、エレノアをじっと見下ろす。


 ふぅ、とエレノアは短く息を吐き、告げた。


「わたくしが整えた舞台はいかがでしょうか、レグニス様?」


 レグニスを責める言葉でも、罵る言葉でもない。

 令嬢らしい、穏やかな微笑みを彼に向けている。


 誰もがエレノアの言葉を理解できなかった。


 ただ一人を除いて。


「ふっ、お前のおかげでことがうまく運んだ。礼を言うぞ、エレノア」


 いつになく温かい笑みを口元に浮かべ、レグニスはエレノアの手を取り、その甲にキスをした。

 そして、周囲が戸惑う中、彼は続けた。


「さすがは、私の見込んだ女性だ」

「ふふ、光栄の至りですわ」


 見つめ合う二人に、焦りの混じった声が投げられる。


「エレノア嬢? どういうことですか? 一体、何が……?」


 困惑の表情のセドリックがエレノアに手を伸ばす。

 しかし、彼女はすっとその手を躱して、レグニスの横に並び立った。


 レグニスとともにセドリックに対し、冷たい視線を向ける。


「セドリック様、ご覧になっている通りです」

「それでは説明になっていません! 殿下の悪事の証拠をともに集めたではありませんか!」


 エレノアは静かに首を横に振った。


「レグニス様の悪事の証拠を集めるなど一言も言ったことはございませんわ」

「殿下の悪事を止めると言っていたのは……?」

「嫌ですわ、セドリック様。わたくし、いつ『レグニス様の』悪事を止めると申しましたか?」


 困ったように小さく笑うエレノア。


「なんですって?」

「最初からずっと『レグニス様を信じている』と申していたではありませんか」


 笑みを浮かべたままのエレノアが彼に向かって、続けて冷たく言い放つ。


「断罪のときですわ、セドリック様」


 顔を青ざめさせたセドリックが、慌てて違法奴隷の売買契約書を回収する。


「これは動かぬ証拠です! エレノア嬢、これがある限り、その男は犯罪者でしかない。いくら法の穴をすり抜けようと、私が必ず追い詰めてみせます!」

「セドリック様はあのように仰っていますけれど……レグニス様?」


 エレノアの言葉は疑問の形を取っているだけだ。彼への信頼が滲み出ている。

 レグニスはセドリックを見下したように笑った。


「そんなものに何の価値もない」

「言い逃れするつもりですか!」

「何を言っている? その文書そのものが、私が作った偽物だ。実に下らん餌だが、貴様が食いついてくれて何よりだ」


 心底、つまらなそうに吐き捨てるレグニス。


「偽物……?」

「そうだ。隙を見せれば、貴様は必ず私を排除しようと動くと判断したまでだ。貴様の伝手の貴族とやらも、少し脅せばよく言うことを聞いてくれたぞ。契約書の偽造など容易い。もっともその契約書も帝国法に基づく書式ではないから、契約書ですらないがな。そもそも、本当に違法取引をしているなら、そんな証拠を残すわけがあるまい」

「なん、だと?」


 セドリックが愕然とした表情になるが、すぐに引き締める。


「エマは? エマのことはどう説明するのですか!」

「『手に入れた』としか言っていない。彼女は私が保護したのだよ」


 肩を竦めてレグニスが答える。

 セドリックは背後にいるエマを振り返った。


「エマ、貴女は殿下に酷使されていたのですよね?」


 急に呼ばれたエマは、躊躇いがちに頷いた。


「でしたら、今が解放される機会ですよ。非道な扱いを受けていたのでしょう?」


 しかし、今度は首を横に振った。


「……酷い扱いは受けていました。でも非道ではないと、思います」


 エマに嘘をついている様子はない。

 まして、レグニスに言わされているふうでもない。

 それを悟ったから、セドリックは狼狽える。


「どういう、ことですか?」


 彼は再び、レグニスに視線を戻した。


「どうもこうもない。孤児を拾った以上、教育を施すのは当然のことだろう? 孤児院を運営している貴様に説教するほどのことではなかろうよ」

「教育……?」


 レグニスは首肯する。


「『俺好みに教育する』と言っただろう? 故に勉学も戦闘訓練も施したまでのこと。エマは優秀だ。実に良い拾い物をしたと思っている」


 セドリックはレグニスを睨んだまま、エマに尋ねた。


「……本当ですか、エマ?」

「はい……だから昼も夜もへとへとで……でも、わたしでは使い切れないようなお給金ももらってますので、頑張ってます」


 エマにとってつらいのもきついのも本当のことだろう。だからこそ、彼女が流した涙も本物だった。


「ですが、貴女は早く解放されたい、と言っていたではありませんか」

「その……セドリック様の断罪が終われば、少しは解放されますので……」


 エマの言動の真意を理解できたセドリックは奥歯を噛みしめる。拳にも力がこもり、血の気が失せている。

 だが、まだ諦めない彼は、今度はナディアを指さした。


「その女はどうなのです? 違法売買は私の早とちりということにしましょう。ですが、それよりも魔族と通じ、帝国の情報を売り渡すことは重罪だ!」


 レグニスがちらりとナディアを振り返り、説明するよう促す。

 彼女は彼女で少しばかり面倒臭そうに首を縦に振った。


「結論から言うわ。私は魔王様からじきじきに和平交渉を頼まれているの。いわば、特使ってところね」

「特使だと……?」

「ええ。貴方も知っているはずよね? 魔王様は戦争の継続を望んでおられない」


 セドリックは知らないとばかりに首を左右に振る。

 そして思い出したように疑惑を述べる。


「殿下が魔国に送ったという物資は? なぜ、騎士の配置を教える必要が?」

「なんでも答えが得られると思うな、ローゼンフェルト卿」


 横からレグニスが口を挟んだ。


「……言えない理由でもあるのですか?」

「いいや。もっとも何も知らされぬまま裁かれるのも納得できぬだろう。教えてやるのは情けだと思え」


 そう言ってからレグニスは理由を語る。


「貴様も知っている通り、魔国は食糧に乏しい。故にこちらに和平の意思があると伝えるために、物資として食糧を送っただけのことだ。騎士については、何も疚しいことがなければ騎士の検問を通るのが筋だろう。故にその配置を教えた。得心いったか?」


 セドリックがわなわなと震え、後ずさる。

 皇太子を誤って糾弾するという大きな失態を見せるセドリックに、周囲の貴族からは好奇と憐憫の視線が突き刺さる。


「そんな……殿下の掌で踊らされていたとでもいうのですか?」


 声を震わせるセドリックに対し、レグニスは鼻で笑った。


「私ではない。正しくは私たち、だな。さて、エレノア、言ってやれ」


 レグニスのすぐ隣で成り行きを見守っていたエレノアが、階段を一段下り、セドリックを見下ろす。

 表情こそ笑みを保っているが、そこには友好的な色は一切ない。


「売国奴はセドリック様ですよね?」


 彼女の声音はこれまでセドリックには聞かせたことがないほど冷えていた。

 確認の体を取っているが、確証を得ている響きだ。


「な、何を言い出すのですか、エレノア嬢? 私は国のために働いているのですよ?」

「はい。事あるごとにセドリック様は『国のため』と仰っていましたね」


 ――レグニスを失脚させることが母国を救うことになる。

 ――孤児たちを育てることは、国を助けることに繋がる。


 彼の口からは何度もそのことが語られた。


「もちろんですとも。私は国のためを思っているからこそ――」

「ところで」


 額に汗を滲ませたセドリックの言葉を遮るように、エレノアは言葉を重ねた。


「セドリック様の仰る『国』や『母国』とはいったいどこのことなのでしょうか?」


 彼女は小首を傾げた。

 そして、笑みを深くして前言を撤回する。


「これは失礼しました。セドリック様は売国奴ではありませんでしたね」

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