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断罪は婚約破棄のあとで 〜証拠を集めて、貴方を落とします〜  作者: 彼岸茸


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第14話 二度目の密会

「……ご主人様がフードを被った女性とこっそり話しているのを聞いたんです」


 エマの言葉に、エレノアとセドリックは息をのむ。

 近くの騎士にすら聞こえないほどの小さな声なのに、はっきりと二人の耳に届いた。


 雨夜の公園でレグニスが密会していた女に違いない。


「何を話していたのですか?」


 セドリックが尋ねたが、エマは首を横に振った。


「……申し訳ありません。そこまでは分かりません。でも……『公園で』という言葉は聞き取れました」

「日時は分かりますか?」


 詰め寄る勢いのセドリックに、エマが少し後ずさった。

 エレノアがすっとセドリックとエマの間に腕を伸ばした。


「セドリック様、エマが怖がっていますわ」

「……すまない。殿下を追及できるかもしれないと思うと、つい……私としたことが失礼しました」


 後ろに下がり謝るセドリックに、エマはどう反応していいか分からず固まってしまった。


「エマ、怖がらなくても大丈夫です。ですので、日時を知っているのなら、教えていただけませんか?」

「は、はい……たぶん、明日の夜かと……」


 エレノアとセドリックは目を合わせ、互いに頷く。

 そして、セドリックが今度は距離を保ったまま、優しく言った。


「エマ、貴女からの情報は必ず有効活用しますよ」


 エマはじっと彼を見つめ、おずおずと口を開く。


「……悪い人には罰が必要だと思うんです」

「そうですね。もしもの時は貴女からも証言をいただきたい」


 首を縦に振ったエマを見て、エレノアが彼女の手を軽く握った。


「大丈夫ですわ。きっとうまくいきますから……エマ、先ほどの手紙を確実にレグニス様に届けてくださいね。悪行を止めるのに、きっと役に立つはずです」

「は、はい……」


 エマは二人に向かって深々と頭を下げ、皇宮へ駆けていった。

 セドリックは彼女の背中を見送ったあと、レグニスがいる皇宮へ睨むような視線を向けた。


「エレノア嬢、私は殿下の密会場所に赴くつもりです。危険もあるかもしれません。貴女はどうされますか?」

「もちろん、わたくしも向かいますわ」

「……分かりました。では明日、お迎えにあがります」


 二人はもう一度、頷き合った。


     ◆


 翌日の夕刻、セドリックがヴァルシュタイン公爵邸までエレノアを迎えに来た。

 レグニスと魔族の女の密会を確かめるため、目立つ行動は取れない。


 ゆえに、馬車は使わず、歩いて公園に向かう。


「覚悟はできていますか、エレノア嬢?」

「……ええ」


 二人は夕暮れに沈む貴族街の通りを公園に向かって進んだ。

 やがて公園に辿り着く。


 エマからは「公園」としか聞いていないが、前回の密会と同じガゼボを使うだろうと当たりをつけた。

 人気のない公園で、なるべく足音を立てないように気をつける。


 エレノアはちらりと池に目をやった。

 日中でも濁って水中が見えないのに、魔導灯と西の空に浮かぶ三日月の明かりだけでは、一段と見通しが悪い。


「確か……あのガゼボでしたね」


 小声のセドリックが、少し先にあるガゼボを指さす。


「そうですわね……まだ、レグニス様はいらっしゃっていないようです」


 周囲を見渡すが、人影はない。

 身を潜めることができるので、二人にとってはその方が都合が良かった。


 近すぎると見つかる恐れがあり、遠すぎると声が聞こえないだろう。

 二人は程よい位置にあり、かつガゼボからは死角になる木陰に身を隠した。


 向こうからは影になって見えないが、こちらからはガゼボの中がよく見える。


 待つことしばらく。

 レグニスも魔族の女もやってこない。


 エマからの情報は大雑把なものだったので、公園の具体的な場所や細かい時間までは分からなかった。


「……もしかして別の場所なのでしょうか?」

「もっと遅い時間なのかもしれませんわ。もう少し待ってみましょう」


 セドリックの声をかなり抑えた問いに、エレノアも小さな声で答えた。

 闇雲に探したところで、意味がない。

 密会場所をここだと当たりをつけた以上、動くわけにはいかない。


 そして、ついにその時はやってきた。


「あれは……」

「しっ、静かに」


 思わず声を漏らしたエレノアをセドリックが制した。

 視線の先、ガゼボに外套を纏った女が現れた。フードを深く被って顔はよく見えない。


 彼女は警戒するように周囲に視線を巡らせた。

 隠れているのが露見するのではないかと緊張が走ったが、杞憂に終わる。


 ほっと安堵の息を漏らしたが、これで終わりではない。


 ほどなくして、もう一つの影が現れた。

 エレノアにとって見慣れたシルエットは、確かにレグニスのものだった。


 彼がガゼボに入りフードを取ると、いつもの冷酷な顔が現れた。

 女もフードを頭の後ろに下ろした。両側頭部から生えた小ぶりの角が露わになる。


 二人が挨拶もなく話し始めたので、エレノアは耳を澄ませた。

 今日は雨が降っていないので、前回よりも声を聞き取りやすい。


「まずは、殿下に礼を。殿下が手配してくださった物資は、魔国にとって非常に役立ちました」

「なに、当然のことをしたまでだ。礼には及ばん」


 レグニスと魔国が繋がっているという確かな会話だ。


「どのような関係でも礼儀は大事ですよ。ですので、見返りに殿下の役に立ってみせましょう」

「ふっ、今でも十分くらいだ」


 エレノアの隣で、セドリックが顔を強張らせている。


「時に、例の計画の進捗はいかがですか?」


 魔族の女がレグニスに尋ねた。


「首尾は上々だ。今、餌を撒いているところだ。遠からず、食いついてくるはずだ」

「それは重畳。殿下と私たちの友好関係を妨害する者は排除しないといけませんからね……ですが、油断は禁物ですよ。私たちの計画を失敗に終わらせるわけにはまいりません」


 その言葉に、レグニスは鼻を鳴らした。


「分かっている。案ずるな。首尾は上々だと言っただろう」


 女の進言にも、彼は淡々と答える。

 その様子に、女は浅い溜め息をついてから、話題を変えた。


「そうそう、騎士の配置を教えていただいたおかげで、私も魔国本国との情報のやり取りが随分と楽になりました」

「それは何よりだな」


 そして、女はにやりと口元を歪めた。


「本国と情報交換をしていた際に、教えてもらったのですが、どうやら魔国でいいものが見つかったそうです」

「いいものだと?」


 レグニスが腕を組んで、先を促した。表情は変わらず冷え切ったままだ。


「はい。必ずや殿下のお役に立つことでしょう。なにせ、殿下が探していたものなのですから」

「ほう? それは良い報せだな」


 公の場では滅多に笑わないレグニスの口角が僅かに上がったのが、遠目にも分かった。


「そうでしょう? 本国から取り寄せ、お持ちしますよ」

「それは助かる。これで不要な輩を排除できる」

「それだけだと不十分では?」


 訝しげな魔族の女に対し、レグニスは首を横に振った。


「餌を撒いたと言っただろう。それに他の手も既に打っている。お前はお前のやるべきことをやればいい。なに、私と魔国の関係を盤石にするためのものだ。必ず成功させるさ」


 彼は不敵に笑うと、星明りを返す池面に視線を向けた。


「であれば、魔王様にとっても願ったり叶ったりです。そのための助力なら、惜しみませんよ」

「期待している。進展があれば、連絡を寄越す」


 その言葉を最後に、二人は背を向け合い、夜の闇に姿を消す。別れの挨拶もなかった。


 確実にレグニスと魔族の女の姿が見えなくなってから、エレノアは深く息を吐いた。

 隣のセドリックを見上げると、いつになく険しい顔つきになっている。


 いや、レグニスに対しては、怒りや焦燥といった表情が多いかもしれない。


「セドリック様……」


 エレノアが名を呼ぶと、彼はハッとして表情を緩めた。


「失礼しました。淑女にお見せする顔ではありませんでした」


 しかし、すぐに顔を引き締めた。


「ですが、先ほどの殿下と魔族の女の話を聞いたでしょう」

「……ええ」


 エレノアは目を伏せた。


「殿下は着実に魔族との繋がりを深めています。早く対処しなければ、大変なことになるかもしれません」


 彼は握った拳に力を込め、レグニスが姿を消した方をじっと睨んだ。


「彼を止めなければ……証拠集めを急がせます。彼が何かを仕出かす前に、必ず彼を失脚させます。それが我が母国を救うことになるのです」


 視線をエレノアに戻したセドリックは、改めて彼女に問いかける。


「レグニス殿下と魔族の繋がりは確実です。これでも貴女は彼を信じられるのですか?」


 エレノアは顔をあげ、はっきりと答えた。


「それでも、わたくしはレグニス様を信じます」

「それが妄信だと――」


 忠告しようとするセドリックを遮り、彼女は続けた。


「けれど、悪事は明らかにされ、罪には罰を与える必要があります。たとえ、それが誰であっても」


 その言葉には断罪をするという確かな覚悟が滲んでいた。

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