幕間 責任の取り方 後編
「結局のところ、どうしたってこれからも母さんには心配かけると思う」
「はっきり言うのね」
「だって例え僕らに問題がなくたって、母さんはきっとなにかにつけ心配してくると思うんだよね。違うかな?」
「……ええ、きっと違わないわね」
僕の問いかけに、母さんは自嘲気味に苦笑を浮かべる。
そして、そんな母さんだから……僕にもいくらかやりようがあるのだ。
「だから、心配かけない選択をするっていうよりも……安心できるようにしっかりした姿を見せるしかないと思うんだよね」
「……護?」
そこまで言っても、僕が何を言いたいのか母さんはまだわかっていないみたいだった。
僕と姉さんには譲れない答えがあって、母さんはそれを理解したいのに飲み込めない事情があって……でも、そうなってしまえば母さんだけが努力しても諦めない限り答えは見つからない。
ただ、僕らと母さんがお互いに歩み寄ればきっと答えは見つかるはずで。
「そのためにもさ。住む家が違っても……これからも僕らのことを見守っててほしいな」
「……!」
「例えば、僕らからそっちの家に帰るだけじゃなく、たまには母さんの方からこっちに来ても良いし。高校でも、文化祭とか、保護者も学校まで来られる機会とかあるし……忙しい飛鳥さんの代わりに、三者面談とか来てくれる人がいると助かるんだよね」
「わ、私がそんなこと参加できるはずが……」
「できるよ。本来は、母さんが僕らの保護者でしょ?」
今更そこで疑問を持たれても困る。
僕らの母であると口にしたのは母さんなのだから、違うわけがないのだ。
「ま、アタシは好きでやってることだし? 三者面談やら文化祭の度に、毎度喜んで地球の裏側からでも飛んで帰ってくるから、義姉さんは気にしなくていいけどね!」
「学校行事のためだけに海渡るんだもん……私たちより楽しみにしてるよね?」
「だって柊和も護も優等生の人気者だもん。面談とか、毎回超先生から褒められるから、アタシの鼻は高いし、二人の照れてる顔は見れるしで嬉しいんだよな~? ……義姉さんも、一度くらい経験するべきとは思うけどねぇ」
そう言って飛鳥さんはさりげなく僕の提案に肯定的な態度を見せる。
姉さんが中学生になる直前のタイミングで倒れた母さんは、三者面談も文化祭も保護者としての経験は一度もなかった。このまま僕が高校を卒業してしまえばそれきりチャンスなんて一度もなくて……そんな寂しいこと、あっていいわけがない。
「お母さんは贖罪するって言ってたけど、実際に何するかは決まってなかったよね? そうやってお母さんに見守っててもらえるなら、私たちも嬉しいし助かるんだけど?」
「そんなの……私が嬉しいばかりで、贖罪にならないわ……」
「さっきのこともそうだけどさ……けじめとしてあの家に帰るのは納得するけど、必要以上に距離を取る必要はないと思うの。贖罪だからって、ジメジメしてて苦しんでないとダメってわけじゃないでしょ? 少なくとも、それが贖罪なら私も護もそんなのは求めてない」
姉さんの言葉を受けて、母さんが僕にも視線を向けてくるので、コクリと同意の首肯を返した。
「お母さんは贖罪以外にも、自分のためにも生きていいんだからね?」
「うん……まだ難しいかもしれないけど、自分で納得できるようになったら、いつかは僕もそうして欲しいな」
きっと今はまだ、その提案をするには時期が早すぎると思うけれど……それでもいつかはそうなればいいという思いだけは、今の内に伝えておくのも悪くないだろう。
「本当に……護も柊和も甘すぎるから、つい自分が何をしでかしたのかわからなくなる時があるわ」
「甘すぎる……そうなのかもね」
「私も、自分から二人のことを見に行ったり、会いに行ったりしてもいいのかしら」
「だから、僕らがそうして欲しいんだってば」
「…………」
今答えは出せそうになくとも、それでもちゃんと自分のペースで飲み込もうとしている母さんを見て、僕はそれ以上の言葉はひとまず控えることにした。
その代わり、最後に伝えておかないといけないこともあったし。
「ああ、それと」
「え?」
「僕らのこと、納得してもらわなくていいっていうのは……急に無理しないでって話だから。いつかはきっと納得させてみせる……だから、そのためにも納得のいかないことがあるなら、一人で黙って飲み込もうとしないで、ちゃんと一つ一つ解消させてね?」
「……!」
「母さんに認めてもらえるよう、それから、母さんに安心してもらうためにも……必ず、姉さんを幸せにするよ」
僕がそこまで言い終えると、やはり何故か母さんよりも姉さんの方がリアクションが大きく、僕の肩をポカポカと叩いてくる。今度は全然痛くなかったけど……力加減ができるのなら、いつも痛まないようにやって欲しかった。
「……そんな結婚の挨拶みたいな言葉、護から言われるとすごく複雑だわ」
「!?」
え、うわ本当だ……。
なんか気付いちゃったら、僕から母さんに言う分には違和感が凄いセリフだな……。
「でも、いいわ……」
「えっ?」
一瞬結婚を認められたのかと思ったけど、法律の問題で難しいのでそんなわけがなかった。
「二人の望むとおり、ちゃんと私も見守らせてもらうから」
そう告げる母さんの顔は、一旦、自分の中で納得のいく答えが見つけられた表情。
「必ず、二人で幸せになりなさい」
思うところはあるはずで……それでも、僕と姉さんを信じて口にしてくれたその言葉。
母さんに少しでも認めてもらえたことは……予想よりずっと嬉しくて、満たされる。
「必ず」
たった一言に万感の思いを込めて……僕は、今一度決意を固めるのだった。




