幕間 責任の取り方 前編
「お母さん……どうして、そんな申し訳なさそうな表情してるの?」
「それはだって……結局要領を得ない話になってしまったわ。正面切って反対しておきながら、自分の言い分もちゃんと伝えられないようではダメなのよ」
姉さんが尋ねれば、母さんは反省するみたいな態度でそう答える。
「……それは、話は確かに少し不格好だったかもしれないけど。でも、言いたいことはちゃんと伝わったよ。母さんが真剣に僕らのことを案じてくれてるんだってわかって、嬉しかった」
僕の口からそう素直に伝えると、母さんの表情はほんの少しだけこそばゆそうに歪んで、けれど申し訳なさそうな曇り顔が晴れるほどではなかった。
「……本当だったら、申し訳ないって思わないといけないのは、私たちの方だと思うよ?」
「……二人のこれまでを思えば、二人の想いには納得するしかないじゃない。私と歩さんによく似てしまったあなたたちなら、尚のことよ」
「そっか……まぁ、それはともかく」
僕らとしても、子どもとして申し訳ない気持ちはあれど、自分たちの関係を反省するような発言は……本意じゃない。なので、その点についてはこれ以上触れないことにする。
「……さっきお母さんの言ったこと、全てその通りだよ。確かに私も護も、この関係について胸を張ることはできないというか……わざわざしないもん。お母さんが心配するリスクは至極当然のもので、誰彼構わず公表できることではないのもその通り」
「そもそも、僕は誰よりも近く姉さんに寄り添い続けたいだけで、それをひけらかしたりする気はさらさらないしね。まぁ……秘密にすることで姉さんにちょっかい出されるのは、凄く嫌だけど……」
姉さんの言葉に僕も続くと、何が不満だったのか脇腹を肘で小突かれた。しかも割と強めに。
「私のセリフなんだけど」と聞こえたのは一体どういう意味なんだろうか。
「んんっ……えっと、ささやかな幸せだけだから、周りからも許されたい──なんて言うつもりはないんだ。ごく僅かな親しい人たちから認められるのは凄く嬉しいことだったけど……それはそれとして、自分たちが本来祝福される関係じゃないということは一度も忘れたことはないし」
生徒会の皆に喜んでもらえたのは本当に奇跡のようなことで、そのありがたさを理解しているからこそ、当たり前だと思ったことなんて一度もない。
誤解を恐れずに言うのなら……生徒会の皆は異例中の異例なのだ。
僕と姉さんにとって、その他大勢の中には入れられない存在だから。
皆の大切さを今一度理解した上で、厳しい現実を真っ直ぐに見つめて。
それでも変わらない答えを、母さんに伝える。
「それを踏まえた上で僕が確かに言えるのは……僕はこの選択に後悔しないということ」
「私も……!」
「だって、必ず姉さんを幸せにすると決めているし、それは僕の生涯をもって絶対に叶えてみせる」
「…………ぅぅ!」
「たとえささやかであろうと……それが僕の望む全てだから」
僕は真っ直ぐ母さんを見つめて告げているのに、どうしてか隣の方から流れ弾が当たったような声が聞こえてくる。心配でちらっと横目で確かめてみると、姉さんは頬を赤く染めて何かを堪えている……ひとまず、心配する必要はなさそうかな。
「母さんの言う通り、僕は姉さんが不幸になる選択はしない。だからこそ僕は迷いなく、姉さんと共に生きると決めたし……その道で生じるリスクは全て上手く対処してみせる」
「…………」
「僕の決意は死に物狂いだ。そんな簡単に、不幸になんてなったりしない」
僕の言葉に静かに耳を傾けている母さんに向けて、僕は思いを口にする。
まだ実際に問題が発生してるわけでもないから、具体的な話をできるわけでもないけど……それでも、この想いが伝わらなければ、例えどんな言葉を伝えても意味がないと思うから。
「僕は姉さんを幸せにしたいし、姉さんと幸せになりたい」
「わ、私も! 私も護を幸せにしたい! 護と幸せになりたい!」
まだどこか情緒は乱されていたみたいだけど……それでも、姉さんも僕と同じ思いを口にしてくれた。少しあわあわとした口調でも、僕にはこの上なく頼もしく聞こえる。
「とはいえ……母さんには無理に納得してくれとは言わないよ。正直、反対される理由が心配だからってだけで、本当に幸せになれるなら構わないとか、そんな風に思われてるだけで出来過ぎなくらいだし」
「ね……後悔するつもりはなかったけど、お母さんに辛い思いをさせるかもって思うと、流石に申し訳なかったし……」
「幸せなら何でもいいというわけではないけれど……そんなに曇りなく幸せそうにされたら、反対する気なんて湧かなくなるじゃない……」
そう答える母さんの表情は、先ほどより幾らか困惑が和らいで見える。
まだ少しだけ悩みは残りながらも……それでも段々と、自分の感情を整理できつつあるように見えた。




