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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
再会

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笑顔(と苦労)が絶えない我が家です

 ── 1月4日 昼過ぎ 橘護 ──


 思っていたより長かったような、短かったような入院生活。

 クリスマス。

 年末。

 お正月。

 例の暴行の件で警察が話を聞きに来て、退院どころか無事に年を越せるかすらも不安だったあの時期。

 ──どれも病室で姉さんと二人で思い思いに過ごす内、いつの間にか過ぎ去っていった。

 クリスマスとか、姉さんと結ばれてから初めての機会だったのに、最後までなにもなかったなぁ……。


 ……そして結局年が明けるまで退院の予定が決まることなく、これはいよいよ三学期に合わせての復帰も怪しいかと困り始めていたある日のこと。

 その日、意外にもあっけなく退院の予定が決まった。

 それが今日、1月4日。

 それも僕と姉さん同時にという、これ以上ないタイミングでのことだった。


「……本当に退院したんだね、僕たち」

「私、余りにもあっさりしすぎて実感湧いてないかも」

「ね。僕も」


 走行中、微かに揺れる車の後部座席。

 スピーカーから流れる飛鳥さんの好きなバンドの曲を聴きながら、姉さんと言葉を交わす。

 一ヵ月近く過ごしたというのに、終わってしまえばあまりにも呆気ないもので。退院の準備と手続きを済ませれば、後は流れるように飛鳥さんの運転する車に放り込まれ、気付いたときには家までの帰路を辿っていた。


「~~~♪ ~~~!!!」

「ご機嫌だね、飛鳥さん」

「運転してる時は大抵ああだけど、今日は特にそうみたい。ゲームでもプレイしてる感覚なんじゃないかって、こっちは気が気じゃないんだけど」


 激しいロックに合わせて楽しそうに歌詞を口ずさむ……というか、もはや熱唱してる飛鳥さん。

 サビに入った途端アクセル全開で突っ走りそうな様子に僕もハラハラしてきた。


「ちょっと飛鳥さん、事故起こさないでよ?」

「あ~? んなの起こすわけないって! アタシのハンドル捌き舐めてんのか~?」

「スピード出さないでって話なんだけど」

「はは! 退院からの帰り道で事故ってとんぼ返りとか、笑い話にもならないしな~!」


 なら笑ってないで安全運転を心がけて欲しい。

 ……まぁ、今のところ暴走してるわけでもないんだけど。


「柊和と護を乗せて運転すんのも久しぶりじゃん? 三人でのドライブが楽しくないわけないんだよなぁ」


 休日に家族三人でドライブして、適当な買い物に向かうのが飛鳥さんの楽しみの一つだ。

 帰国してから今日まで、ずっとトラブル続きでお預けだったので、ただ家に帰るまでの道でも飛鳥さんのテンションは最高潮だった。


「二人もずっと病院から出られなくて退屈だったっしょ? どうせならどっか寄り道して帰っても良くない? アタシ、今日は相当ご機嫌だし、財布の紐も緩くなってるぞ~?」

「財布の紐はいつもそうだと思うけど」

「頼むまでもなく、あれこれ買いたがるからねぇ」


 いきなりの提案だけど、確かにそれも悪くない。

 欲しいものがあるわけじゃないけど、三人で当てなくウィンドウショッピングをするだけでも楽しいものだから。


「今日は特別だって!義姉さんのことも上手い具合に計らってくれたし……アタシからのご褒美だよ!」

「それについては、どっちも飛鳥さんにご褒美をもらうようなことでもない気はするけど?」

「義姉さんのことはアタシも心配だったから。被害者とも呼べる二人が、それでもアタシと同じく心配して、それどころか解決までしてくれて、義妹の身としては感謝せずにはいられないって」


 母さんは、僕らと違ってもう暫く入院が続く。

 数年単位眠りに就いて衰えた体は、体力を取り戻すのにまだまだ時間がかかる。

 ……とはいえ、あの調子ならもう心配は必要ないだろう。

 心が万全なら、体の方が追いつくのもきっとすぐのはずだ。

 飛鳥さんだけでなく、時折僕や姉さんも様子を見に行くのだから、頑張ってもらわないとね。


「恩に着せるつもりはないけど……そうだな、寄り道ついでに近くのショッピングモールに寄ってくれる?」

「護が希望とか珍しいな? 何か欲しいもんでも?」

「少し遅いけど昼食を摂りたいのと……あとは夕飯の材料と、掃除に使ういくつかを適当に」

「昼食も夕飯の材料もわかるけど……掃除?」

「うん……まず間違いなく、必要になると思うんだよね」

「確かに一ヵ月くらい空けてたし、多少は気になるかもだけど……そんなに気にすること?」

「それはそうだよ。だって、姉さん……」


 事態を甘く見て、僕の言動に理解が追い付いていない姉さん。 

 家事ばっかりは僕の領分だし、それは仕方ないとして……そんな姉さんにもこの()()()()がわかるように、脅すような口調で重々しく口を開く。


「僕らがいない間、飛鳥さん()()()()()()()()家がどうなってるか……姉さんは想像つく?」

「……いっそ空き家だったほうが、まだマシだったかもね」

「おぉい! アタシそんな家が荒れるような真似してないって‼」

「これまで夕飯は?」

「そりゃ、外食とか、弁当とか……」

「それ以外でも、出たゴミはどうしてた?」

「処理の仕方がわかんないから、適当にまとめて……」

「分別は?」

「…………」

「また無理に慣れない家事やろうとして、家電や家具を壊してない?」

「…………」

「「…………」」


 車内には相変わらず曲だけが垂れ流されて、今はそれが空虚に響いて聞こえる。


「……必要なら、家電も見て帰らないとね」

「私、帰りたくなくなってきた……」

「マジでごめぇぇぇぇえええぇぇええん‼」


 打ち上げの日程……もうしばらく様子見ることにしといて正解だったなぁ。

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