幕間 それはそれ、これはこれ 中編
観念した母さんと飛鳥さんから全ての話を聞かされる。
すると、姉さんとの会話で全てを察した母さんが、飛鳥さんに迫って答え合わせをした──という一連の事実を告げられた。
なんでも、姉さんはかなり攻めた意味深な匂わせ発言をしたらしく。母さんはその発言で諸々察したものの、流石にすぐには受け止めきれず誤解したフリをしてやり過ごしたんだとか。
つまり、どういうことかというと……。
──この一件、やっぱり姉さんが悪かった……。
「ごめんね飛鳥さん、ちょっとでも疑っちゃって」
「いや、いいんだって! 今回はすぐに誤解も解けたし。やっぱ護は話がわかるな!」
「ほとんどバレてるのに誤魔化し続けるのも、母さん相手じゃ難しかったもんね。飛鳥さんが悪くないのは当然だよ」
「あ~! やっぱ護最っ高! 護しか勝たん!」
なんでも久しぶりに優しくされたようで、飛鳥さんは──ほんの少しではあるけど──本当に目に涙を浮かべて喜んでいた。そしてまた加減なく抱きしめられるので息が苦しい。
そして今度は窒息寸前のところで解放されたと思ったら、飛鳥さんはある方向へと白い目を向けた。
「……それに比べて」
「な、なにさ。言いたいことでもあるっての?」
……その視線の先には、姉さんが居心地悪そうにして椅子に腰かけていた。
「あるに決まってんだろー⁉ アタシが義姉さんに理不尽に詰められたのも、護に疑われたのも全ての元凶は柊和だったんだぞ! なのにお前ずっと知らん顔してぇー! 何気ない表情でアタシに罪擦ってんじゃねーぞ!」
「ぐぅ……だ、だって! お母さんにばれてるなんて思いもしなかったんだもん!」
「馬鹿かお前はー! 柊和みたいなブラコンが一生恋人できない宣言とかもう可能性はほぼ一つだろうが! それも実の母親ともなれば尚更だろうに! 急に護みたいな鈍感発揮してボロ出してんじゃねえわ!」
「え、急に僕まで傷つけられたんだけど……?」
「それにあの日も柊和が主犯で入れ替わったのに、義姉さんに怒られるのはアタシだけだし! 一人で超怖かったんだぞ! いくらアタシでも泣くぞバーカ!」
「ご、ごめんなさい……」
飛鳥さんも本気で怒っているわけではないようだけど、ただそれはそれとして文句を言いたい気持ちはあるらしく、姉さんのことを容赦なく責め立てていた。
なんか子供みたいな怒り方になってるのは、この場の年長の母さんがいるからだろうか?
……元々、子どもっぽいとこあるもんな、飛鳥さん。
「まぁまぁ、飛鳥ちゃんもそれくらいにしておいて」
「えぇ、アタシはまだ……」
「それに……まるで鬼のように言われると、いくら私でも傷つくのだけど?」
「止めます! すみませんでした‼」
にこやかな表情を浮かべているように見えて、その目の奥には闇が広がっていた。
それを見た飛鳥さんは流石の危機察知によってすぐさま掌を返してみせた。
……鬼のようではなく、まさしく鬼じゃないか。
「護、柊和、何か言いたいことでも?」
「「いいえ、なんでも」」
姉さんも僕と同じ考えだったようだ。
母さんはそれを見抜くと飛鳥さんへ向けたのと同じ圧を僕らに向けてきた。
こわ……。
「飛鳥ちゃんには申し訳ないけれど、今は……大事なお話をしないといけないもの」
と、それまでの表情が一転して真面目な顔つきになった母さんが、飛鳥さんから僕と姉さんの二人に向き直った。
「正直、まだ私に二人のことに口を出す権利があるとは思えていないわ。それでも、知っていながらそれを知らなかったことにするのはあまりにも不誠実だし……それに、母として無責任だと思うから」
「……そっか」
「だからまず……二人の関係については、私の勘違いでも、飛鳥ちゃんの冗談でもないのよね」
「うん。飛鳥さんが話したことは、全部事実だよ」
「なら……」
母さんの疑問に対し、一瞬だけ姉さんとアイコンタクトを取る。そして『僕に任せて欲しい』と願えば姉さんは頷きを返してくれた。
一連のやりとりを一瞬で済ませると、僕は母さんの目をまっすぐ見て口を開いた。
「僕は姉さんと、姉弟というだけでなく……恋人として好き合ってる。そして、これから先もずっと一緒に生きていくと約束したよ」
「…………」
「僕らの選んだ道が非常識なことも、周りには子どもの言う説得力のない戯言に聞こえるのも理解してる」
いくら丁寧に言葉で説明しても、伝わるものには限界がある。
飛鳥さんや美咲さんたちが理解してくれたのは、それまでずっと僕らのことを見ていてくれたから。
万の言葉にも勝る積み重ねの日々が僕らと彼女たちの間にあったから。
今の母さんとの間には、そんな蓄積はほとんどないに等しい。
「……でも、それでも」
たとえこの場で理解を得られずとも、いつか認めてもらえるように言葉を重ね続けよう。
今この瞬間は、そのいつかのための初めの一歩とするため。
心からの想いを込めて言葉を伝える。
それが今僕にできる全てだから。
「僕も姉さんも、二人で思い描いた未来を叶えるためなら……自分の全てを懸けられる」
僕の口から伝えた言葉は、僕と隣に座る姉さん二人分の想いだった。
その想いを受け止めた母さんは……一度ギュッと目をつぶって何か思案するかのように沈黙する。
そうして、体感ではその何倍にも感じられる数秒が経過すると、母さんは目と口を開いた。
「……私にも、ちゃんと想いを伝えてくれるのね」
「当然だよ……誰よりも、伝えないといけない相手だから」
「……そう」
僕の言葉に母さんは表情を緩めなかった。
その顔にはただ難しそうに、真剣に悩み抜く緊張が表れているだけ。
「なら、私から母として言わせてもらうなら──」
そうして、僕らに告げられた母さんの答えは──
「当然、賛成することはできないわ」




