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不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく  作者: 桜乃マヒロ
再会

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幕間 それはそれ、これはこれ 前編

 母さんとの再会も、そしてこれからの話も、色々と事前に予想とは大きく異なる形ではありながらも結果としては上手くいった。

 それから少しの間三人で特に理由も目的もない会話を交わし、外で待っていた飛鳥さんも呼んで楽しい時間を過ごす。途中、飛鳥さんが母さんに僕と姉さんのサプライズ突撃の件で詰められたりはしたものの、それ以上は何事もなく最後は自然と解散に──とは、行かなかった。


「あ、あの……柊和? 護? あのね? えっと……くぅ……!」

「お母さん……?」

「その……二人は、二人はぁ……う……」


 ある瞬間から、お母さんの態度が急によそよそしくなった。

 僕の思い当たる限りだと、何の前触れもなく、ずっと普通の会話を交わしていたはずなのに……。

 ただ突然、僕と姉さんを見比べると何かを思い出したかのようにハッとした顔を浮かべて、途端に母さんの目が泳ぎ出し、それからずっと母さんはもじもじというか、キョロキョロというか……とにかく落ち着かなくなってしまった。


「「……?」」

「あぁ~……」


 隣を見ると、姉さんは僕と同じく訳のわからなそうにきょとんとしており、反対に飛鳥さんは何か心当たりがあるのか気まずそうな表情を浮かべていた。

 今日の姉さんはずっと母さんの考えていることを先に読み当てていたのに……姉さんがわからないのに飛鳥さんが訳知り顔なのも不思議だった。


「母さん……? 急にどうしたの?」

「い、いや別に……どうかしたわけではないのだけど……」

「いや、明らかに挙動不審に見えるけど……?」

「それは……ただ、勇気もなければ閃きもないのでどうにもこうにも打開できなくて困っているというか……」

「何の話をしてるの?」


 単刀直入に訊ねてみても、返答は何とも要領を得ず、どう考えても僕に理解させるつもりのないものだった。なんなんだ一体……そう思ってこちらもどうすべきなのか悩み始めたその時……。


「だ、だから……!」


 ──急に意を決したように母さんが口を開いた。


「ふ、二人はその……こ、恋人はできたりしたのかしら⁉」

「「……え?」」


 そして、飛び出してきたのは思いも寄らない急な質問だった。


「お母さん、それ前にもう……」

「そ、そうだった! 柊和はあれよね! アレ(百合)だったからその……護は⁉ 護の方はどうなのかしらって⁉」

「お母さん⁉ だから私は別にそういうわけじゃないって──‼」

「いいから‼ お母さんわかってるから‼」

「だからわかってないって!」

「いえ本当にわかってるから‼」


 アレ? アレっていったい何のことだろう……?

 前に母さんと姉さんの間で何かあったらしく、けれどそれを知らない僕には会話の内容の半分も理解できなかった。さっきから僕だけずっと置いてけぼりなんだけど……。


「母さん、なんで急にそんな話が気になったの?」

「気になった……というよりかは、母親として確認しておく必要があるだろうと思って……?」

「僕に恋人ができたかどうかを?」

「お母さん……言っとくけど護は女の子が好きだからね?」

「わかってるわ。護までそうだとは思えないもの」

「私は()()みたいな言い方やめてもらえますかー!」

「姉さん、話が進まないから今は我慢してもらえる?」

「私が悪いの⁉」


 姉さんが悪いとは微塵も思ってないけど、今だけは堪えて欲しい。

 もし僕の考えが外れていないのなら……もしかすると今、割と大事な時間かもしれないから。


「母さん、別に好奇心で突然そんな話を始めたわけじゃないよね?」

「そ、そうね」

「母親としてっていうのも『僕に恋人がいるかどうか知る必要がある』とか、そういうレベルの話でもないよね?」

「そ、それは……」


 母さんの目が泳いだのを確認して、ただの思いつきに過ぎなかった疑問が段々と確信へと近付いていく。そして、僕はもう一歩踏み込んで母さんに迫った。


「母さん……明らかに何か知ってるよね」

「……!」

「んん……?」


 僕の言葉に明らかに反応する母さん。

 これはもう……間違いないな。

 だとすれば一体どうして……いや、考えられる可能性はほとんど一人しかいない気もするけど。


「えっと、先に答えておくと……僕には恋人がいるよ」

「護⁉」

「…………」


 こうなってしまえば、もう答えてしまって構わないだろう。

 そう考えてあっさり白状すれば、案の定母さんは『知ってました』と言わんばかりに反応が薄い。

 姉さんなんて突然の暴露にらしくもなくあわあわしているというのに。

 この反応を見ればわかる通り、明らかに聞きたかったのは『いるかどうか』ではなくて……その先。 


「もしかしてだけど母さん……その相手が誰か知ってるんじゃないの?」

「ええっ⁉」

「…………!」


 図星だったようだ。

 僕の追求からツイッと目を逸らし、肯定も否定も返さない姿を見ればもうそれが答えなのは間違いない。


 そして僕は……もう一人、母さんとは別に額に汗を浮かべるその人の方をじっと見やる。

 それはもう……裏切り者に向ける容赦のない疑いの目線を。


「飛鳥さん……話したよね?」

「ギクゥ……ッ!」

「うん、話したんだね」

「ウソっ⁉」


 母さんも中々だったけど、飛鳥さんの『図星を突かれたリアクション』は飛び抜けて一級品だった。

 そんな渾身のリアクションを見て、姉さんも全ての点と点が繋がったようだ。

 僕の疑いの眼差しと、姉さんの信じられないものを見るような眼差し。

 計四つの瞳に見つめられて……とうとう、飛鳥さんは口を開いた。


「あ……」

「あ?」

「アタシ……今回こそは本当にわるくないよ……?」

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