40.第一章 裏 [鬼]
傷を負った島村さんの元へ戻った時には、救急車が到着しており、島村さんとダンス部の2人は病院へ無事向かうことが出来そうだ。
「鷹柳くん、ありがとう、君は一緒にこないのかい?」と田所さんが不安げに尋ねる。
「はい、友達や部員の皆が心配なので、皆の無事を確認出来たら避難しようと思います。ご心配頂きありがとうございます」
「そっか……君は強いようだけど、気を付けて。島村が良くなったら御礼させてくれよな」とぎこちない笑顔で田所さんは話してくれた。
「はい!またお会いするのを楽しみにしてます」
別れを告げ、救急車を見送る僕と叔父さん。
振り向き校舎へ向かう。
「叔父さん、まずは本校舎の教室から見に行ってもいいかな?」
「あぁ構わん、急ぐぞ」と叔父さんは言い、僕らは本校舎へと急いだ。
途中、部室棟を通りかかり足が止まる。
「叔父さん……」
「あぁ、恐らく仲間が来たんだろう」と目を細める叔父さん。
その先には先程まで累さんが倒れていた場所。
今は何も無い。
気を失っていた累さんは消えていた。
やはり校舎には伊東たち以外にも仲間がいるようだ。
累さんみたいに薬で強化された人が他にもいるかもしれない……部員の皆や滝くんは一般人よりは強いが、それでもあのカプセルを飲んだ人は怪物だ。
しかも帯刀令とかで皆武器を持っているとすれば、怪我だけではすまないぞ。。
「叔父さん!先に行きますっ!」と叫び、全速力で校舎へと入った。
セルカ刀の力で強化された僕は、普段の倍近い速さで走れ、感覚も鋭敏になっているようだ。
走りながら目の前の音や気配を探る。
校舎へは裏口から入った為、目の前には事務室が現れた。
すぐに中を確認するが無人だ。
事務室を出て、僕の教室がある2階へと向かう。
途中、1年生の教室前で足が止まった。
廊下には赤い液体が流れ、教室内へと繋がっていた。
鋭敏になった感覚のせいで臭いを嗅いで何があるかが解ってしまった。
足音を殺し少しずつ近づく。
教室を覗くと、そこには学生服を着た血まみれの人が積み重ねられていた。
恐らく、死体だろう。
皆うつ伏せで男女関係なく窓際に積み重ねられている。
窓の半分くらいまでの高さにまで達しており、恐らくは数十人、このクラスの殆どの生徒だと思われる。
自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
嘘だ……と現実逃避に陥る前に急いでこのクラスの教室番号を確認する。
1年D組……南さんのクラスだ、、この中に南さんがいるか確認するべきか?
教室へ足を踏み入れようとした時、後ろから肩を掴まれた。
「雪風!今は何を優先するのか忘れたのか!!」と僕に怒鳴る叔父さん。
そうだ、、まずは、今助けを求めている人を見つけないと。
心の半分を持っていかれたような気持ちのまま、2階にある自分の教室へと向かった。
途中、他の1年生の教室を覗いたが、他の教室には死体は1つもなく、何事も無かったかのように整然としていた。
もう何が起こっているのか解らない、混乱する頭を必死に冷静になれと落ち着かせる。
そして2年A組の教室へとたどり着いた。
着いた瞬間安堵する。
血の臭いがしなかったからだ。
中を覗くとやはり何もない。
「これはいったいどういう事なんだ……」先程の1年D組の惨事が幻だったかのように他の教室はなんともない。
念のため他の2年教室も見て回ったが何もなかった。
「叔父さん、僕は職員室と体育館、道場を見てきます。叔父さんは3階の3年生のクラスをお願いします」
と伝え、別れて行動する事にした。
別れる時、叔父さんから「雪風、今のこの状況が関係しているかわからんが、お前に伝えたい事がある。
今は時間が惜しいので詳しくは話せてやれんが、お前の出生と親に関係する話だ。
もし誰かにお前の出生に関係のある話をされ、それで自分を責めるような事になっても、それはお前のせいではない。それだけは心に留めておけ」と言われた。
僕の出生?親?「わ、わかりました」と伝え僕らは別れた。
職員室までの道すがら、人の気配を感じない。
おかしい、累さんを連れ去った人も見かけないし、生徒も殆どいないなんて。
他の皆は逃げられたのか。
まずは職員室から見てみよう。
職員室前についても異臭はしない。
その時点で安心したが、念のため中を確認した。
電気はついており、空調も回っている。
人が居た形跡はあるのに誰もいないなんて、、次は体育館だ。
一抹の不安を覚え、急ぎ体育館へと向かう。
体育館へは渡り廊下を行くのだが、その渡り廊下が見えてきた瞬間に異変に気付く。
鼻に突き刺さる異臭、そして遠くからでもわかる廊下に広がる赤い液体。
死体らしきものはなく、引きずった様な跡が体育館へと続いている。
渡り廊下に差し掛かる時、不安で走ることが出来なくなり、歩みが遅くなる。
重くなった足をどうにか動かし、一歩一歩体育館の扉へと近づいていく。
扉に手を掛け、開く。
開けた瞬間に中からの空気で息が詰まる。
濃い異臭。
息をしようとすると臭いが肺に入り苦しくなる。
その臭いの後に目にしたもので、僕は呼吸をするのを忘れた。
体育館の舞台の前、両側の窓際に積み重ねられたソレの数は数百体。
体育館の入り口から中心を開けるようにコの字型に詰まれている。
詰まれているソレは学生服を着ている者だけではなく、スーツや女性物の服装の人もいる。
年齢まで細かく確認できないが、恐らくは……生徒の親くらいの年齢だ。
全校生徒とその親を合わせた数はありそうだ、つまり、司幸学園全校生徒約360人+親600人程。
1000人にも及ぶソレが物のように積み重ねられていた。
何故学校に生徒だけではなく親が来ていたのか。
体育館に集まっていたのは何故か。
そして何故全員この場で殺されてしまったのか。
犯人の素性や人数、目的、動機、等々解らないことが多過ぎて、何から調べるべきなのか判断が出来ない。
そして一番に確認しなければならない事。
意識しないようにしていた事。
思考から除外していた事だ。
百瀬さん、滝くん、クラスメイト、剣術部の皆の安否確認だ。
この死体の山から彼らを見つけ出したくないと、身体が体育館に入ることを拒否している。
どれくらい入り口で立ち尽くしていたのかわからないが、横から気配を感じそちらを向いた。
向いた先にいた人物も同時にお互いを認識したようで、驚いた表情をしている。
「お前!生き残りかっ!!…隊長!体育館付近にて生存者確認、排除します!」とトランシーバーで連絡をとっているのは、全身を黒系統のミリタリー服でまとめたガタイの良い男だ。
連絡した後すぐに男は腰から刀を抜き放ち、僕に向かってくる。
そうか、この人達が元凶か……。
一瞬で怒りが沸点まで達するのを感じる。
セルカ刀がそれに反応するかの如く、身体全身を電流のような力がみなぎる。
彼が僕の目の前5メートル程に来た瞬間、僕は大きく踏み込み刀を抜いた。
一瞬で彼の両腕は切断され宙を舞う。
何が起こったのか理解出来ていない様子だったが、ショック死されても困るので拳打で気絶させる。
僕は宙を舞う元々彼の腕だった手から刀を奪い、近くの金属に高速で刀を何度も振り下ろす。
大きな火花が散り、近くの木板に小さな炎が立った。
すかさず彼の腕だった物から衣服を剥ぎ取り、炎の中に放り込んだ。
炎が少し大きくなる。
その木板を刀で切り取り、彼の出血患部に押し付ける。
片側の処置をした時には目を覚まさなかったが、反対側を焼いている時に彼は目を覚ました。
「う゛がぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあーーっっ!!!」
目と鼻、口から体液を流す彼を僕は見下ろし告げる。
「止血しましたので死なずにすみましたよ。良かったですね。
所であなた達は何者で何が目的か教えてください。
そうしたらこれ以上の痛みを与えずにすみますので……」
僕の目を見た彼は大きく目を見開き、その後すぐに震えだした。
「う゛っ、ぅ゛っじにたくない、ずまなかった、、どうがゆるじてくれ」と目、鼻、口から体液を垂らしながら命乞いをする。
「2度は言わないので聞いてください。
あなた達は何者で何が目的ですか?」
「んがっ、あぁ、いうよ、いうからぁ!」と声を荒げる男。
「俺達はある人から雇われた傭兵だ……ほがのやつとは今日初めて会った。目的はあるガキを殺す為らじい、、いでぇよ……ごれなら死んだ方がマシだ、だのむ、ころじてくれ……」と言い僕の足下まで這ってくる男。
「ある人とは誰で、あるガキとは誰ですか?」と足下の男に問う。
「じらねぇーじらねぇんだよ、おれらは、隊長が道場に籠ってるガキどものどこにいるがらぞっちに聞いてくれぇ」と泣きじゃくる男。
道場に籠るガキども?……。
僕は男の首を撥ね飛ばし、急ぎ道場へ向かった。
この時、何故気づかなかったのか。
自分がしている行為が異常である事に。
武道場の前には約70名程の黒ずくめの男達が集まっている。
数人が武道場の前に座り込み、その辺りではその他の男達が立ち話をしている。
中には笑いながら談笑している様子すら伺える。
セルカ刀を強く握り、意識を聴覚に集中する。
すると黒ずくめの男達の話し声が微かに聞こえだした。
「あの人らまだやってんのか、一思いに殺してやればいいのにな」
「まぁあの女だったら俺も混ざりたかったけどなー、隊長と部隊長様がいなかったらワンチャンあったかもなー……」等という声が聞こえてきた。
あの女?、混ざる?……よくわからないな。
全部……聞き出さないと。
感情の強さが自らの強さに変換されるセルカ刀。
この時の感情の起伏が力となって現れる。
『ドンッ!!』という音と共に地面が揺れ、それに驚いた黒ずくめの男達。
音の方向へ全員が注目する。
そこには学生らしき少年がうつむき、地面を踏みしめている姿があった。
踏みしめた右足を中心に地面が凹んでいる。
音と震動の発生源は彼か、と男達が気付いた瞬間。
少年は黒ずくめの男の1人の側まで一瞬で移動していた。
側まで来た事に驚いた男は一歩後ずさる。
少年は逃げることを咎めるかのように、後ずさる男の腕を掴んだ、と次の瞬間には男が地面にうつ伏せにされ、腕を締め上げられている。
少年と男は一言二言話しているようだが、他の者には聞こえない。
この時、何故自分達が動こうとしなかったのか、自分達に危害を加えるかもしれない少年を捕らえにいかなかったのか、その理由に誰も気付いていなかった。
「や、やめっ、うぐぁっ!」『メキッ』という音がした。
誰もが腕を掴み折られたのだと思った。
しかし、実際は少年に足で踏みつけられ、男の首が折られていた。
?……辺りにいた男達全員が目の前の光景を理解出来ていない。
一瞬の静寂、ただそれは本当に一瞬だった。
少年が腰の刀の柄を握った時、辺りの音がまったく聞こえなくなった。
その1秒後、少年から突風のような衝撃波が放たれる。
近くにいた者は吹き飛ばされ、遠くの者は尻餅をついた。
そして男達には少年の一言だけが何故か耳に聞こえた。
「ゆるさない……」
そして武道場前にいた70人程の男達は、全員赤い液体と肉片に分離された。
武道場の入り口に着き、一歩中へ入る。
右手のセルカ刀から、耐えきれない程のエネルギーが自分の身体に送られてくる。
今にも爆発しそうな力を必死で抑え、なんとか身体の震えだけで済んでいる。
目の前の光景、
地獄というに相応しい光景だ。
剣術部の神宮寺くん、榊原くん、高津くんの三人は足を切り落とされ、道場の壁に張りつけにされている。
空手部の須田くんと他の部員のは道場の端にぼろ雑巾のような姿で捨てられている。
武道場の中心には黒ずくめの男10人程と、仰向けに寝かせれている剣術部の南さん、福居さん、空手部の北山部長、桜井先生がいる。
彼女らは衣服を着ておらず、表情は虚ろで焦点が定まっていない。
奥にいるのは……全身血だらけで、右腕を失くした滝くんと、同じく全身血だらけになっている百瀬さんが数人の男達に囲まれている。
僕は自分の声が聞こえなくなる程の大きさで叫んでいた。
そして一歩踏み出そうとした瞬間。
その声に気付いたある男が腰の棒に触れると、
中心にいた男達は、行為の途中で刀を彼女たちに振り下ろす。
僕の踏み出した一歩が地面に着く。
次の一歩が踏み出せず、膝から崩れ落ちる。
手が地面に着く。
前を見れない。
これは夢だ、悪い夢だ。
皆とはこれから剣術部として青春を謳歌するんだ。
そしてたまに空手部の皆とも合宿なんかして。
そして、日本の学生大会を総なめにする!
司幸学園の剣術部は日本中に知られるんだ。
そう……皆との、、これからが。
なんとか顔を上げる……仰向けにされた彼女達の胸には、銀色の剣が突き立てられ、彼女達の瞳からは光が消えていた。
再び地面に顔を落とす。
立ち上がる気力を失いかけた時、希望が聞こえてきた。
「ゆ、きかぜぇっ!!」「鷹柳くんっ!!」
滝くんと百瀬さんの声。
鷹柳流走法術 其の1 閃流。
ある男の「早くその女をやれ!」という声が回りの黒ずくめの男達に届くより早く、僕は滝くんの目前まで移動した。
「ごめん……遅すぎて……」
「ほ、ほんとだぜ、、ヒ、ヒーローに、しちゃ遅刻だ……」と言い、滝くんは倒れる。
「滝くんっ!」と僕が叫ぶと同時に、
「大丈夫だから!……私が、、いるから」と百瀬さんが滝くんを支える。
2人とも満身創痍だ、長引かせたら命も危険だ。
2人が生きていてくれた事だけが僕の救い…だ。
他の皆…は……。
「ちっ、遅かったか、おめぇらが早く殺っちまわねーからだろ」と腰に棒を差した男が怒鳴り出す。
恐らくこの男がこの集団の中心人物だろう。
南さん……達を襲うよう、殺すよう指示を出していた。
先程の光景が頭をちらつき、セルカ刀が怒りの感情をエネルギーへと変換していく。
身体には抑えられない程の力が漲る。
「ったく、早く殺せっ!!」と言い、その男は腰の棒を振りかざす。
すると回りの黒ずくめの男達の目の色が変わり、奇声を発しながらこちらへ向かってくる。
人というより獣のような男達。
四足で走る者もおり、その移動速度は人の動きを越えている。
只、俺の敵ではない。
鷹柳流剣術4ノ形 五月雨。
本来は六連撃の五月雨だが、雪風だけは八連撃まで繰り出せる。
しかし、セルカ刀により増幅された力で、今は一瞬のうちに16連撃を放つことができた。
目の前に迫る黒ずくめの男14人は、胴体と下半身が両断されながら一瞬で吹き飛ばされる。
「な、に、、やつらは事前に強化したはず、それが一瞬で?……ありえん」と狼狽する男。
「鷹柳くん、気を付けて、あの男ステッキみたいものを振ると人をおかしくするみたい」と百瀬さん。
「ありがとう」と伝え刀を鞘に収める。
それを見た男は「さ、察しが良いじゃねぇか、俺も今交渉しようと思っていた所だったんだ。
なぁ少年、ここは見逃してやるよ。
その二人も助けられるし満足だろう、一時休戦としようじゃないか。なっ?」と手を大きく動かしやれやれというポーズをする。
「あぁそうだな……少し懺悔する時間をくれてやろう」と伝え、技を放つ。
鷹柳流剣術3ノ形漣
彼は俺の動きを目で捉える事も出来ずに右手を失った。
男は自分の腕がステッキごと無くなった事に気付いていない。
「さ、お前には聞きたいことが山ほどあるんだ、色々と話してもらうぞ」と言い彼の吹き飛ばされた右腕を本人の足下へ放り投げた。
投げられた物が自分の右腕だとわかり、目を見開き自らの右肩を見る。
右腕があった場所からは大量の血液が流れだし、それを見た男は失神しかけ倒れこむ。
流石にこのままでは死んでしまうので、閃流で近づき、彼の服を切り裂いた簡易的なヒモで男の腕を縛り止血する。
痛みとショックで朦朧とする男の頬を叩き意識を保たせる。
「おい、寝るな。もって数分だ、それまでに話せ。全部話せば助けてやる」と伝え彼の目を凝視する。
男の歯がカチカチと音をたて震えだす。
「わ、わわかった。なんでも話すから助けてくれ」
「じゃまず……お前は誰だ」
「俺はブライト シェスター、この部隊の分隊長だ」
「次の質問だ……み、皆を、殺すように指示を出したのはお前か?」
「……あ、あぁそうだ」とブライトが口にした瞬間、俺は男の右足首から下を切り落とし、すかさず止血する。
「ぐがあ゛ぁっ、やめろっ……やめてくれ……」痛みに耐えられずもがく男を地面に押し付ける。
「次の質問だ……何故こんなことをした」
「シ、シェスター家のため、凛太郎様の指示で仕方なくやったんだ、お、おおれは望んでやったんじゃない!」
シェスター家?凛太郎?
ダメだ、これだけじゃよく解らないな。
「目的は?」とブライトの頭を鷲掴みにして問う。
「シェスター家のた、ために、ラミールのガキを見つけて殺すためだ」
ラミールのガキ?
「ラミールのガキってなんだ、誰の事だ」
「し、しらねぇんだ、エトキラの野郎がここにいるらしいって情報を流したから来ただけだ」
エトキラ?……まったく話が繋がらない。
今わかることは、ラミールのガキっていう人?を探して殺すためにコイツらは此処に来た。
その原因を作ったのがエトキラって奴か。
話の流れはわかったが内容がまったく理解できない。
滝くんの容態も心配だ、あまり長くは時間をかけたくないな。
「とりあえず最後の質問だ、お前の上には何人いて名前は何て言うのか教えろ」
「俺に指示を出したのは……」とブライトはそこで言葉を止める。
ブライトの目線の先には、黒ずくめで目出し帽を被った男が立っていた。
その男は音もなく手を前に突き出す。
俺の目の前を風が通りすぎる。
「う゛っ……」という呻き声が聞こえ、そちらを見るとブライトの額に穴があきそこから血が流れ出している。
殺された、見えなかった……恐らくあの男が殺したのだろうが、どんな武器で殺したのかすら見えなかった。
俺はブライトを手放し、瞬時に臨戦態勢をとる。
しかし、先程まで立っていた目出し帽の男は消えている。
集中しまわりの気配を探るが俺と滝くん、百瀬さん以外に気配を感じない。
逃げたなら無理に追う必要はない、まずは滝くん、百瀬さんを安全な場所へ連れていく事を優先しないと。
俺は2人の元へ移動し声をかけた。
「遅くなって本当にごめん……みんなも助けたかったんだけど……」とそこで百瀬さんが俺の手を握る。
「鷹柳くん、大丈夫。私がいるから、私と滝くんがいるから」と強く俺の手を握ってくれる。
「ありがとう、百瀬さん」と伝え、なんとか笑顔をつくる。
滝くんの応急処置は百瀬さんがしてくれていたが、俺も手を加え、なんとか命を繋ぎ止めるよう試みる。
「滝くんは危険な状態だ、俺がおぶって行くから百瀬さんは後をついてきて貰えるかな?」
「うん、わかった。急ご」と応える百瀬さんはどこか不安げで、笑顔もぎこちないように見えるが……滝くんの容態は一刻を争う。
不安を振り払い滝くんを背負う。
「じゃ行くよ」と伝え、歩き出す。
武道場を出て本校舎の方へ向かう。
シェスター家とかいう奴らの生き残りがいるかもしれないので警戒しながら進む。
校舎の中を通り、裏口の方へと向かう途中、前から見知った人物が現れた。
その人は俺に笑顔で手を振りながら近づいてくる。
俺の目の前5メートル程まで近付いた時、後ろにいた百瀬さんが叫んだ。
「気を付けて鷹柳くん!!」
俺はその声を聞き、滝くんは背負ったまますぐにセルカ刀を抜き放ち片手で構える。
続けて百瀬さんが声を荒げながら話してくれた。
「吉良先生は私達を騙してあいつらを武道場に引き入れたの!」
百瀬さんからの言葉に驚愕する僕に、目の前の男が語りかける。
「そんなことある訳ないだろーももせー、先生は皆が心配だったから助けを呼びに行ったんだぞー。それを犯人扱いなんて酷いじゃないか……ックックク、ハァーッハッハ、生き残ったのはお前らだけか!他のやつらは気持ちよく死んでいったのか?……はぁ、邪魔な奴らも居なくなって、あとは鷹柳くんさえ消えれば、僕の計画が完遂したのに、百瀬さんのせいで台無しだよ。
君ももうすぐ死ぬんだから、無理しなくていいのにさー」と話すのは、俺ら剣術部の顧問で1年D組の副担人の吉良先生だ。
「先生……今の話しはどういう事ですか。先生は何故そんな事を」
「なんだ!知らないのかっ?!ったく、それならさっさと片付ければ良かったなー。まぁ、知らなくてもいいいさ、今ここで消えるんだからっ!」と言い彼は背中から一振の直剣を抜き放つ。
滝くんを背負ったまま、力の計れない相手と戦うのは不利だ。
俺は滝くんを下ろそうとしゃがむが、身体がしゃがむ途中に固まってしまう。
「うぐっ……な、にを」指一本動かせなくなる。
セルカ刀に意識を集中し力を増幅させるが、それでも微動だにできたない。
「あれ、今頃気付いた?ックク、この力を使うには相当の準備が必要でねー苦労したよー。わざわざムカつくガキどもの先生にまでなって君に近付いたんだから……あぁなんで動けないかって?
これが僕のアーティファクトのサジェスだよ」といい手に持った直剣を見せる。
「能力はある一定時間対象に近づき、一定時間触れ、一定の暗示を聞かせる事で相手の動きを封じる事ができるってものだよ。
実践向きじゃないからって皆バカにしやがって、、ヘッ、僕が王位継承権を得たら皆はどんな顔をするか楽しみだ……」
動けない、、アーティファクト?武器の事か。
俺のセルカ刀やブライトのステッキみたいな物か?
身体がどんどん動かなくなっていく、どうにかしないと俺だけじゃなく2人が危ない。
「あぁ、先に言っとくけど、僕は優しいからね、鷹柳くんが死ぬところを女の子に見せるような事はしないよ!ックク、まずは百瀬さんで楽しんでから、次は滝くん、最後に君を始末して完了かな」と言い、吉良先生は百瀬さんに一歩ずつ近付いていく。
「んっん゛んっ!」声も出せなくなり、逃げろと伝えるべく唸るような声を上げる。
百瀬さんは一歩ずつ後ずさる。
「百瀬さん、僕から一つ提案だよ。もし僕を喜ばせる事が出来たら皆を殺さないであげてもいいよ」と歪んだ笑顔で話しかける吉良先生。
「ん゛ん゛っー!ん゛ー!」
「うるさいよ鷹柳くん」と言い、吉良先生は俺の後頭部を剣の腹で打ち付ける。
俺は衝撃で地面に顔を押し付けられ、起き上がることも出来ない。
「あぁ、これじゃ見えないよね、ごめんごめん」と言い、吉良先生は俺を横向きに寝かせる。
そして俺の耳元で語りかける。
「次そのうるせぇ声を上げたら、その瞬間にこの女を殺すからな」
息を飲み込むことしか出来ず、ただ後ずさる百瀬さん、それににじり寄る吉良を見ている事しかできない。
考えろ、今出来る事を考えろ。
感情が力になるセルカ刀、今最も強い感情を思い起こせ。
『怒り』、武道場での皆の姿を思い返す……心では泣いている筈なのに涙が出ない……力は漲っている筈なのに動けない。
目の前では押し倒される百瀬さんの姿、暴れようとする百瀬さんの頬を殴る吉良。
百瀬さんは気を失ったようでピクリともしなくなった。
吉良は乱暴に百瀬さんの衣服を破く。
「ックク、ガキにしたらいい身体の女だと思ってたんだよなー」と言いながらこちらを振り向く吉良。
そして吉良が自身のズボンを下ろし始めた時、吉良にぶつかる人影が現れる。
「んっ?!お前……」吉良に身体をぶつけたのは滝くんだった。
「お……れの…百瀬…ちゃんに……なに、してくれてんだ……」とふらつきながら話す滝くん。
止血した腕からは再び血が流れ出してしまっている。
「たきー、お前は本当にこの学校には不必要な存在だなー?順番は逆だがお前を先にしてやろう」と言いなごら、背中の直剣に手を伸ばす吉良。
それを見た滝くんは、再び吉良に体当たりをする。
よろめく吉良の足元には百瀬さんのスカートの切れ端があり、それを踏んで滑り吉良は地面に手を着いてしまう。
そこへ片腕の滝くんが上から覆い被さる。
俺からは二人がどうなったのか見えない角度にいってしまった。
俺は音だけを頼りに二人の動きを探る。
俺はただ唸る事しかできない。
2人の争う声と俺の声を聞いてか、百瀬さんが目を覚ました。
彼女は自分の衣服を見て驚き、辛そうな表情を見せるが、すぐに目の前の滝くん達が彼女の目に入ったようだ。
彼女は一瞬思考を巡らせるように固まっていたが、その後パッと俺の方を向いた。
彼女は俺に今まで見せてくれていたような笑顔を作り、立ち上がる。
自身の服装の事も気にせず俺に近づく彼女、そして俺の腰元からセルカ刀を抜き、顔を近付けてつぶやく。
「今度は私が守る番だね」と言い、俺の見えない所へと歩き出す。
俺は必死に呻き声を上げるが、彼女の足は止まらない。
ただ三人の声だけが聞こえてくる。
「ゴフッ……」
「滝くんっ!」
「も、もせ、ちゃん……に、げ」
「おぉー女神様のご登場かぁ?!その格好に刀とはそそるねー」
「ゆ、ゆるさないっ!」
「おっとー、危ないよーももせー、怪我するからそんなもの捨てなさい」
『ザンッ!』
百瀬さんは死に物狂いで吉良に切りつける。
「うっ!、、いてぇな……ガキが」
『ドスッ……ガシャン!』
吉良の一撃で百瀬さんは刀を手放してしまった。
「うっ……コホッ、コホッ……うぅ……」
「あーごめんごめん、痛かったかー?俺も痛かったんだぞー?さっ、さっきの続きをしようなー?」
「…や、やめてっ……」
『パシッ』
百瀬さんの頬を強く叩く吉良「黙ってろ!」
「そうそう、大人しくしてれば楽しませてやるからー」
「や……んっ……」
「…うっ……うぉ……最高だぜ……殺すのは……もったいねーな……」
『ドズッ…』
「も、も、せ、ちゃ、ん、に……さわる、、な」
『ドサッ』
虫の息の滝くんが最後の力を振り絞り吉良の腹部へ剣を突き刺し倒れた。
「カハッ……糞ガキ、、がぁ!!」
『グサッ!グサッ!グサッ!グサ……』
自らに突き刺さった剣を抜き、その剣で滝くんを滅多刺しにする吉良。
「いやああぁぁーーーっ!」
『ドス…』
百瀬さんは床に落ちていたセルカ刀を拾い、泣きながら吉良の背中に突き刺す。
「お、お前もか……糞…ガキ……」
『ザシュ!』
『ドサッ、ドサッ……カラン……』
ズズっと身体を引き摺る音が聞こえてくる。
音は目の前まで来て、それが百瀬さんが這ってきたのだとわかった。
「……た、かやなぎくん……ごめん、なさい。わたし……せっかく、助けてもらったのに……」
彼女の口からは血が滴り、息も荒い。
彼女は俺の手にセルカ刀を握らせる。
俺は唸る事しかできず、ただ彼女の目を強く見つめる事しか出来ない。
「わたし、たち、のこと……忘れ…ないで……お願い……だい…す……き……」彼女は言葉の最後に笑顔を作ってくれた。
目の前の彼女は目をつむったまま動かなくなった。
俺の中の何かが壊れる音がした気がした。
「う゛がっう゛ぅあ゛ぁーーー!!!!」
身体の硬直は解け、叫びながら立ち上がる。
セルカ刀は眩い光を輝かせ、俺の身体へと溢れる程の力を注ぐが、俺はそれを拒絶する。
セルカ刀の光が段々と鈍くなり、次第に黒い霧のような物を発するようになる。
黒い霧は俺の回りを取り囲み、俺の中に入ってくる。
俺はそれを全身で受け入れ続ける。
力……全てを、消し去る為の力を……手に入れる。
どれくらいそこにいたのだろう。
百瀬さんと滝くんを連れて、武道場に戻った俺は、弄ばれた剣術部の皆と空手部の皆を道場の真ん中に寝かせる。
その場で俺は一人一人の顔を見る。
そして誓う。
この世の全てに復讐する。
皆が果たすことの出来なかった夢、将来、全てを奪った世界に復讐すると誓う。
「みんなの未来がなくなったのに……他の人に未来があるなんて……おかしいよね……みんなにまた会う時は……世界を終わらせた時……少しだけ待っててね」
そう皆に別れを告げていると、武道場の外から足音が聞こえてきた。
『バンッ!』と勢いよく扉が開かれる。
「生存者はいますかっ?!……お、君!大丈夫か?!……こちら佐々木、生存者1名発見、武道場に1名発見!直ちに救護班を要請します。繰り返えします、こちら佐々木……。
今応援を呼んだから大丈夫だ、少年!早くこっちに来るんだ!」と警官らしき男が話しかけてきた。
「ここから、はじめるよ……」
俺は武道場を出て学校の外へと向かう。
武道場には警官らしき男の死体が転がっていた。
kogetora_suguです。
お読み頂き誠にありがとうございます!
なんとか第一章[裏]の最後まで書き終える事が出来ました……。
次回は、悲惨な事件が起こる少し前のお話、どのようにして事件が起こったのかを書いて参ります!
是非今後もお付き合いのほど、宜しくお願い申し上げます。




