39.第一章 裏 [得た力]
後ろから聞こえた声の主は累さん。
声が聞こえた瞬間、驚きで身体が硬直し反応が遅れてしまった。
言葉を認識した時には背中が燃えるように熱く、熱は次第に痛みに変わり、自分が斬られたのだと実感する。
背中に熱を感じた瞬間に前方へ閃流で飛び退いたが、あとからくるこの痛み、目眩、傷は深そうだ。
背中はまだ生暖かく、それは自分の血液によるもであり、出血量からしてこのまま立合いを続行することは困難だろう。
目眩が酷くなりふらつく、片膝を地面につきなんとか倒れずに持ちこたえるが、息も荒くなってきた。
ふと累さんを見上げる。
彼はいつも見せないような笑顔で僕を見下ろしていた。
「ククッ、雪風くん、悪は滅びないとね」と言い刀を振り上げる。
自分の死が今、目の前にある。
何もやり遂げる事が出来ず、全てを失う恐怖。
人が死ぬ時はこんなにも恐ろしいものなのか、人を殺めるという事はこんなにも恐ろしい事なのか。
僕は何の為に剣術なんてやってきたんだ……こんな恐ろしい事の為に…と瞳からは涙がこぼれる。
「さよなら」と累さんの言葉が響く。
『ガキン!』という音とともに自分の目の前に人影が現れた。
それは、見慣れた胴着を身に纏い、累さんの切り下ろしを受け流す。
「叔父さん?……」
「すまん、雪風、長くは持たぬ、これを持て」と叔父さんは語気を強め、背中の刀袋ごと僕に投げつける。
朦朧とする意識の中、なんとか受け取り、袋から一振の刀を取り出す。
「これは……」いつも神棚に飾ってあった……刀
「早く抜けっ!!」と力強く怒鳴る叔父さん。
力を振り絞り刀を鞘から抜き放つ。
その刀は、通常の刀よりも刃が厚く太い、刃渡りは短めであり、羅国の刀とは少し形状が異なっていた。
ただ、どこか懐かしさを感じる……。
抜き放った刀を持つ右手から、電流のような衝撃が身体を伝う。
「う゛っがぁ゛っ」と声が漏れる。
身体中が熱い、苦しい。
いや、、
苦しさはすぐに治まり、先程までの背中の激痛すら消え失せていた。
何が起こったんだ。
苦しみで閉じていた瞼を開き、刀と自分の身体を確認する。
斬られたのが背中の為、傷口を確認することは出来ないが、そっと背中に触れたが痛みが無い。
患部を手でなぞってみると、、傷が塞がり、傷痕もなくなっているようだ。
そんな筈は……。
とその時、「雪風っ!」と叔父さんから大声で呼ばれ、意識を思考から現実に引き戻す。
そうだ、今の最優先事項は、なんとしても累さんを止めること。
そうしないとダンス部の皆や、今も学校に隠れているかもしれない皆に危険が及ぶ。
閃流にて一瞬で叔父さんの横まで移動する。
移動した瞬間に自分自身に驚く。
今までの倍近くの速さで動くことができた。
「いけるなっ!?」と叔父さんから聞かれ、
「はいっ!」と応える。
「その刀はセルカ、お前の父親の物だ。今は詳しく説明してやれんが、その刀は感情が力となる。使いこなせないと俺らは死ぬ。覚悟して挑めっ!」と語気をさらに強め話す叔父さん。
「はいっ!!」とだけ応える。
僕はこの刀を知っている。
小さい時に触れた。
その頃は、不思議と怪我の治りが早くなったり、子供としては異常な程素早く動くことができた。
ただその反動で身体中が痛み、動けなくなった。
そのせいで鷹柳流剣術も稽古をやらせてもらえなかった。
そう、この刀はあの時の。
今の僕なら……使いこなしてみせる。
皆を守るという感情を前に押し出すよう集中する。
「いくよ、累さん」
僕は刀を鞘に収め、一歩一歩累さんへと近づいていく。
「叔父さんと2人同時に襲ってくるなら僕も奥の手だ」と累さんは言い、先程服用したカプセルをさらに一錠口に含んだ。
「ああ゛ぁーーーーーーっ」と大声で叫び、目を見開く累さん。
「い、いくよ、雪風く、ん」
累さんは刀をダランと下げたままこちらへ一歩踏み出し、その瞬間目の前から消えた。
いや、見えている。
一度左へ数歩移動し、僕の左手側へ一直線に進んでくる。
僕まであと数歩の所まできた…|鷹柳流剣術3ノ形漣。
技が放たれた瞬間、『ドオォン!』という音と共に累さんは後ろにあった部室棟の壁に身体を半分まで埋め、失神した。
漣を通常通り打つと累さんの身体は胴と足が寸断されるが、今回は刃ではなく柄の部分で腹部を打った。
自分の動きの速さに驚きつつ、気を失った累さんの元へと移動する。
呼吸を確認するが、薬で強化された身体のお陰か一命はとりとめている。
最初から殺さずにいたいとは思っていたが、力の加減がわからなかった為気が気ではなかった。
「良く踏ん張ったな雪風」といい叔父さんが僕の肩に手を置く。
「ありがとう、叔父さん。叔父さんのおかけでなんとかなったよ……」
「お前身体は平気か?反動で動けないんじゃないか?」
「うん、今は全身が痛みで痙攣してる、でも何故だか少しずつ良くなってる気がするよ。
それもこの刀のおかげなのかな」と右手に持つ刀を見下ろす。
「それにしてもお前の意識が戻って良かったぞ、それにお前のいた病院へ行くか迷っていたんだが、途中で学校へ寄って正解だったな」と額の汗を拭いながら話す叔父さん。
「叔父さんは僕が意識を失っていたことを知ってたのっ?!」と叔父さんに詰め寄る。
「あ、あぁ、あまり時間がないから詳しくは後だ。まずはお前が助けた生徒さんを病院へ連れていってからだ」
「そうですね、今頃救急車が来ていると思います」と応え島村さん達の元へと急いだ。
kogetora_suguです。
お読み頂き誠にありがとうございます。
雪風の新しい力、これから少しずつ明らかになって参ります。
是非最後までお付き合いください❗




