38.第一章 裏 [逃走]
倒れている島村さん、その前に立つ累さん。
みんな一瞬目の前の光景が理解出来ず固まる、一番最初に反応したのは田中さんだった。
「いやぁーーーっ!!!」と頭を抱えてうずくまる。
その声で僕も頭を切り替え、目の前の累さんを凝視する。
右手に持った刀の刃から真っ赤な血が滴り落ちている。
累さんは刀なんて持っていなかった筈、いったい何処から……。
今最も重要なのは島村さんの容態と皆の生還だ。
その為には……。
鷹柳流走法術 其の1 閃流にて累さんの目の前まで一瞬で距離を詰め、鷹柳流剣術15ノ形懸河掌を累さんの
鳩尾に打ち込む。
打撃が累さんの身体に触れる直前、累さんが半歩後ろに下がった気がした。
打撃を受けた累さんは、吹き飛び部室棟の廊下を数メートル転がって倒れ伏した。
今まで道場での稽古では、閃流からの懸河掌に反応できた者はいなかった。
それに今回は相手の虚を着く奇襲攻撃だった。
反応できる筈は無かったのだが、、累さんの超反応によりダメージは半減しただろう。
だが好機には変わりない、
「2人とも走りますっ!!」と叫び、倒れている島村さんを抱き抱える。
部室棟の出口へ向かって走りだし、同時に島村さんの傷を確認した。
出血が多く、走りながらの確認は困難だった。
只、これほどの出血量、それだけで重症だとわかる。
一刻も早く大きな病院で然るべき処置をして貰わないと……。
「田所さんっ!お願いします!携帯で救急車を学校の裏門に!」と伝える。
田所さんは意図をすぐに理解し、走りながらポケットから携帯電話を取り出し緊急番号へ、「あ、あと、友達が斬られて、きゅ救急車を、司幸学園の裏門に、お、お願いしますっ!」
「た、鷹柳くん!救急車は手配してもらったぞ、この後はどうするんだ?!」と不安が全面に出て大声になる田所さん。
「このまま裏門へ行き、島村さんを安静にできる場所を探します。安全が確認できたら僕ができる限りの処置をしてます!田中さん!大丈夫ですかっ!?」と、後ろの田中さんに確認する。
「っはぁ……はい、、」と息を切らしながらも、必死に着いてきた田中さんは応えてくれた。
部室棟から裏門まではそう遠くない、裏門を出たら左側の大通りに近付いておこう。
少しでも救急車への搬送を早くしないと。
部室棟を出て裏門への道を走りだす。
すると後ろから『バリンッ!!』という何かが割れる音が聞こえ振り向く。
後ろには田所さん、田中さんが必死に付いてきている。
その後ろ、部室棟の前に、恐らく部室棟のガラスを突き破ってきた累さんが立っている。
表情までは判断出来ない距離だが、右手にはまだしっかりと刀が握られている。
まずい、僕らとの距離は50メートル程、
「2人ともすみません、先に行きます」とだけ伝え、閃流を使い一気に裏門の前まで辿り着く。
そこに島村さんを寝かせ、再度閃流で2人の元まで戻った。
「すみません!僕はあの人を止めるので2人でなんとか島村さんを守ってあげてください。僕もすぐに戻りますので」とだけ伝え、累さんの近くまで移動した。
説明を簡潔にしたかった理由は、
もしもの時の為、出来る限り累さんと3人との距離を離しておきたかったからだ。
さっきの累さんの超反応、そして打撃を受けたにも関わらず、何事も無かったかの如くこうして目の前に立っている事。
異常だ、累さんの事を全て知っている訳ではないけど、格闘技や、まして運動自体している印象は殆んど無かった。
何か裏があるに違いな…い。
と考えている途中、累さんの左手がスッと胸の高さまで上がる。
「コレだよ、、雪風くんが気になっている原因は」と言い左手を上向きに開く。
その掌には薬のようなカプセルが置かれている。
そこで、先程学校の正門前にいた伊東が頭を過る。
伊東は道場破りの時に服用した薬によって、超人のような身体能力を発揮した。
その時のカプセルと似ている……。
「累さん、それは」
「うん、、君が一度見た薬と同じものだよ。
……伊東さんから色々と聞かせてもらったよ。
……君がした酷い事の数々を。
……これはこの世の中を掃除するために授かったんだ。
……君はそのごみの1つだよ」
「る、累さん、どういう事ですか?何かあったのでしたら詳しく聞かせてください!」と事情を必死で聞き出そうとしたが、累さんは薬の影響か僕の言葉は耳に入っていないみたいだった。
「これは飲めば飲んだだけ強くなれる薬。
……飲めばとても幸せになれる薬。
……あの人に褒めてもらえるかな」と言い、累さんは左手の薬を飲み込む。
道場で伊東さんと立ち合った時に感じた威圧感を累さんからも感じる。
身体が一回り大きくなり、目が大きく開かれる。
ただ伊東と違う点があり、まわりの声に耳を傾けはしないが、自分の意識は失っていないようだ。
「はぁ、僕はこの為に生まれてきたんだ、母さんの為に僕頑張るね」と言い終わった瞬間、累さんは僕の目の前まで移動してきた。
速度は伊東よりも数段速く、身体が反応出来なかった。
「さっきのお返しね」と累さん。
自分の腹部を殴られたんだとわかったのは、自分の身体が宙を舞っている時だった。
先程立っていた場所から数メートル吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。
受け身をとることは出来たが、腹部への打撃により呼吸がまだ出来ない。
そのまま前屈みにうずくまり痛みに耐える。
「んっ゛、、んはぁっ、はぁっ、」
少しずつ呼吸が戻り、朦朧とした意識が戻ってきた。
ボヤけた視界で累さんを見ると、彼は刀を『ブン、ブン』と振り、「次はこっちだよ」と言い、再度僕との距離を一瞬で詰める。
僕は死の恐怖を感じつつ、地面の砂を右手に掴み累さんの目の前にばら蒔く。
そして閃流にて距離を取った。
「目潰しなんて卑怯だよ雪風くん」と背後から声がした。
kogetora_suguです。
お読み頂き誠にありがとうございます。
明日からは中々更新が出来なくなってしまいますが、第一章裏の佳境になりますので、どうか最後までお付き合いください。




