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36.第一章 裏 [凪の街]


電子時計の表情は5月5日の18時05分。

自分が1日以上意識を失っていた事に驚き、思考が停止しかける。

すぐさま昨日の最後の記憶を思い出す。


朝早やめに家を出て吉良先生に会った。

その後学校へ着き、自分の教室へ向かう。

窓の外を見ていたら凄まじい光と轟音が起こり、目と耳を塞いだ。

その瞬間からの記憶がない。


あの光や轟音が何だったのかはわからないが、僕が意識を失った原因はその現象のせいだろう。


この病院で起こっている惨劇(さんげき)と僕との関係性は未だにわからないが、まずは外に出て現状の確認と、然るべき所への報告をしなければ埒(らち)があかない。


地図を確認し、出口へのルートを辿(たど)っていく。


出口までの道のりにも、やはり死体が所々に放置されている。

生存者の確認と、この惨劇を起こした者への警戒をしつつ出口へ。

遺体の死因は数人だけ確認したが、裂傷(れっしょう)、刺傷(ししょう)のような刃物で刺されたか、切られた跡が複数箇所。

大量出血によるショック死だろうか。


出口であろう自動ドア前へと着いた。

ドアの前には死体が少ない。

恐らく犯行を起こし者は外から来たのだろう。

病院内の人は病院の奥へと逃げるしかなかった、だからエレベーター前に集まっていたのか。


自動ドアは片側が割られているが反応はする。

片側だけが自動で開き、僕は外へ出ることができた。


外に出た瞬間、深く深呼吸をした。

張り詰めていた緊張が少し弛む。


頭の中にはある大きな不安を思い出し、すぐに意識を切り替える。


確認するべき項目は、家族と大事な友人達の安否だ。


病院内の惨劇が、この病院だけで起こっていたのか、街で、国で何かが起こっていたのだとしたら、皆にも危害が加わるかもしれない。

今まだに感じたことの無い不安が身体中を駆け巡る。



まずは現在の場所の確認と目的地までの経路を調べる。

途中で警察署でもあればこの病院の現状を伝えられる。


この病院の名前は……穂雑中央(ほぞちゅうおう)病院か、来たことは無かったが街では大きな総合病院だ。

場所はたしか、、穂雑駅の西側にあったはずだ。

学校は東側になるので駅の反対側か。


夕日が沈みかけている、あまり遅い時間だと動き回るにも効率が悪くなるな。

僕は駅の反対側へと急いだ。



駅までの道中、人は殆んど見掛けなかった。

唯一駅の近くで見掛けた人影に向かって声を掛けたが、こちらを振り向く事なく、反対方向へ走っていってしまった。

僕自身焦ってはいたが、声色(こわいろ)はできる限り柔らかくしたつもりだ。

それでも逃げるように去ってしまったという事は……。


原因に思考を巡らせつつ、僕は駅内を通り反対側へ出た。

駅は無人になっており、車両も停まってはいない。


不安が蓄積され、冷たい汗が背中をつたう。

駅から近いのは、家よりも学校だ。

まずは学校目指して走り出す。


すると、ふと小さな街病院が目に止まる。

目に止まった理由は、中から人が出てきたからだ。


距離は僕から60m程なので顔までは判別出来なかったが、男性のようだ。

手には筒状の傘?のような物を持っている。

少しフラつきながら学校の方角へ歩いていく。

その後、もう1人病院から男が現れ最初に出てきた男の後を付いていく。

その男も筒を手に……傘、ではない。

今は夕方だが雲は少なく晴れている。

と考えている時、男の動きによって筒が光を反射させた。

か、刀?……。

少しずつ距離を詰めていた為、少しずつ形状が明らかになった。


僕が向かう学校と同じ方角の為、男達の後を追うように歩きだす。


途中、先程男達が出てきた病院の横を通る。

ガラスの自動ドアは、横縞(よこしま)に曇りガラスと透明なガラスが交互に装飾されている。

僕の目線だと丁度曇りガラスの面しか見えない為、少し屈(かが)んで中を覗(のぞ)いてみる。


中には……人はいない?と前を向き直そうとした時、床に目がいく。

床には赤い足跡がいくつもあり、足跡は奥の処置室のような部屋から、僕の目の前の自動ドアへと向かっている。


迷ったが、もしもの事を考え病院内へ入る。

足跡を逆に辿り奥の部屋へ。


入った瞬間に息をのむ……そこには5~60代の男性医師と同年代くらいの女性看護師、親子連れだと思われる女性と子供の合計4人が倒れていた。

すぐに呼吸を確認したが、全員息はしていない。

部屋の床は血で満たされ、床の材質の判別ができない程だ。

遺体の死因は穂雑病院と似ている。

裂傷、刺傷、大量出血。


酷い、、犯人は明確だ。

先程の2人組か、穂雑病院もやつらの犯行なのだろうか。

だがもし2人で犯行に及んだのだとしたら、あれだけの人数を殺める事は困難ではないだろうか。

逃げ出すか、取り押さえられる可能性はあるだろう、余程そういった経験が無ければ、数十人を2人では難しいのでは……。


そこでハッと意識を戻す。

さっきの2人組は学校の方角へ向かっていった。

学校の誰かに危害を加えるかもしれない。

僕は急ぎ病院を出て2人の後を追うように学校へ急いだ。


程なくして2人の背中が見えてきた。

彼らは急ぐ事なく、辺りを見渡しながら歩いている。


声をかけるべきか、通り過ぎるべきか、隠れて追い越すか、三通りのうちどれを選ぶべきか。


近付いた事で、彼らの手に握られているものがハッキリとした。


紛れもなく刀だ。

抜き身の刀には赤い液体がまだ付着しており、何かを斬った事がうかがえる。


自分は丸腰だが……どうする。


相手の素性がわからない為、いきなり攻撃は加えられない。

声を掛けた場合、悪人であれば2対1の構図になり不利になる。


ここは遠回りになるが、見つかる事なく先回りする方が良さそうだ。


すぐさま裏の路地に入り、全速力で彼らを追い越し学校へ向かう。

仮に目的地が同じならば後で再会する事になるだろう。


3分程走り学校の正門が見えてきた。


すると正門前に立っている人影がいくつか見えた。


良かった、生きている人がいるということは、きっと皆も無事なん……だ…ろう。


不安が身体中をさらに駆け巡る。


正門の前に立っていたのは、以前道場破りに来た伊東武之と見知らぬ6人の男達。

皆抜き身の刀を手にしており、その刃には赤黒い液体が付着していた。







kogetora_suguです。


お読み頂き誠にありがとうございます。


是非最後までお付き合いください。

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