23.第一章 裏 [赤]
病室らしき部屋を出て、左右に広がる通路をどちらに進むべきか迷う。
未だ頭痛は治まらず、思考能力が低下している。
痛みに耐えながら左側へ通路を進んでいくと、右手に小さな受付のようなカウンターが現れた。
カウンター上には[ナースステーション]と表記されていた。
やはりここは病院だと確信し、誰もいないナースステーション内の地図を確認する。
今僕がいるのは別棟の2階のようだ。
別棟は病室が殆んどで、基本的には入院患者しかいない建物なのだろう。
只それにしても今の状況は普通ではない。
使われていない病院だとしたら、設備や室内が綺麗すぎるし、ましてや自分は点滴等の処置が施されている。
誰もいないとは考えられない。
恐らく誰かはいる。
僕をここまで運び治療した人間が。
ただそれがこの病院の関係者かどうかはわからない。
地図を参考に屋外へ出る道順で進もうと、まずは1階へ行く方法を探す。
一階に降りる方法は、自分の体調を考えエレベーターにした。
エレベーターが1階から2階へ到着し、扉が開く。
扉が開いた瞬間、エレベーター内の光景に驚き一瞬息が詰まる。
エレベーター内の床には赤い足跡がいくつもついていた。
それは液体を踏み、そのまま歩いたような足跡だった。
赤い液体と言われて思い付くものは一つしかないが、病院という事もあり、様々な状況を想像し気持ちを落ち着ける。
一呼吸置き、決心してエレベーターへ入る。
1階のボタンを押し扉が閉まった。
一瞬の浮遊感を感じ、すぐに1階へ到着した。
扉が開く。
扉の先の光景は、先程の光景をさらに上回る程驚愕し、声を出すことも出来ずただ立ち尽くす。
扉の先の光景は、時間が止まったままのようだが、エレベーターの扉が閉まりかけ、僕は現実に引き戻された。
すぐに開くボタンを押す。
とにかく外へ出なければと思い、エレベーターから一歩踏み出した。
『ぴちゃ……』という音を立て僕は一歩進んだ。
目の前の光景は、
普段は白いであろう壁は赤く染まり、床全体は赤い液体で覆い尽くされている。
床の所々に液体溜まりがあり、赤黒く固まっているようだ。
自分が息をしていない事に気付き、意識的に呼吸をする。
すると鼻から入る空気はとても不快な香りで、吐き気が起きる。
血なま臭さ。
剣術の修行で血が流れる事はあり、血液の臭いには慣れている筈だが、量と濃度が比べ物にならないのか、鼻で呼吸することが困難な程だ。
すぐさま着ている服を口元に当て、口での呼吸を意識する。
そして、気付かないふりをしていた自分がいたと気付く。
血溜まりは複数あり、血溜まりの側には物体が横たわっている。
物体、生き物だったもの。
頭痛のせいなのか、勝手に投与された薬の影響なのか、ハッキリとしない意識を強制的に活性させる為、自分の頬を殴る。
口を切ったようで血が滴る。
意識はハッキリとした。
そのまま顔を上げ、目の前の光景を改めて確認する。
死体の山。
通路の真ん中は血の海になっており本来の床は見えない。
通路の両側には、白衣であっただろう服を着た人が何人も横たわっていた。
その他には子供、老人、制服を着た学生、男、女、数十人もの人で廊下が埋め尽くされている。
ここである事に気付いた。
血が固まっていない。
ここまで大量の血液ならば、すぐには固まらないのかもしれないが、もしかするとついさっきの出来事なのかもしれない……。
そう考えた瞬間、自分の中の感覚を研ぎ澄ますべく目を瞑る。
目を閉じるのは一瞬で良い、冷静になり集中する。
ぱっと目を開き周囲を注意深く観察していく。
動きがないか、音がしないか、気配はないか……。
ぴちゃ、ぴちゃ、と自分が濡れた床を歩く音だけが聞こえてくる。
通路を少しずつ進み、病院の受付らしき場所に着いた。
そこでも辺りを見渡し、勿論生存者を探しつつ、怪しい物、人がないか確認する。
そこである物を見つけ身体が固まる。
置き型の電子時計だ。
時間は18時05分……日付は5月5日。
僕は半日ではなく、30時間以上意識を失っていた。
kogetora_suguです。
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