34.第一章 裏 [はじまり]
5月3日 日曜日
今日は道場での稽古日だ。
昨日の出来事が未だに頭に浮かんでくるが、気を引き締めて支度をする。
道場へ向かう際、隣の累さんの家を見る。
最近は累さんと累さんのお母さんをまったく見かけない。
あの日公園で話したっきりだ。
何かあったのでは、と心配になりチャイムを鳴らしても家には誰もいないようだ。
何か急な事情で引っ越してしまったのかもしれないし、これ以上は深く踏み込まないようにした。
道場につき戸を開ける。
師範の叔父さんと数名の道場生が道場の掃除をしていた。
僕もそれに加わり、一通り全体の掃除が終わったタイミングで叔父さんに声を掛けられた。
「雪風、今日が最後の稽古だったな、しっかりやっていくように」と僕の肩に手を置かれ話を聞いた。
今後は剣術部の活動が本格的になる為、土日も学校での活動がはじまる。
今までは土日とも道場での稽古に当てられていた時間がなくなり、当分は道場稽古は休みとなる。
「叔父さん、別に最後って訳ではないですよ。学校の予定とかで部活が休みになる時だってありますし、そうなったらお邪魔させて頂きます。一応僕はこの道場の師範代ですから」
「おう、そうかそうか……そうだな。お前がいつでも戻ってこられるように俺が盛り上げていかないとな」
と珍しく笑顔で応える叔父さん。
その日の稽古はいつも以上に厳しかったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
道場生も僕の事情を知っているようで、いつも以上の熱量でぶつかってきた。
一つの区切りとしての稽古は終わり、叔父さんと家路につく。
「雪風、今度の学校には慣れたみたいだな」
「はい、信頼の出来る友達や仲間が出来ました」
「そうかそうか、それなら安心だな。
仲間は大事にするんだぞ、お前がどんなに強くても、必ず一人だとどうしようもない時がやってくる。
そんな時は仲間の力が、存在がきっとお前の力になる。
それはお前の友達にも言えることだからな。友達、仲間が困っていたらお前が全力で助けてやるんだぞ」と、どこか昔を思い出すよに話す叔父さん。
「俺はそれができなかったからな……」
「ん?なに?最後良く聞こえなかったんだけど」
と聞き返すが叔父さんは黙ったままだ。
浸っている様子の叔父さんを見て、それ以上は聞くことは止め、皆の事を思い出しながら帰った。
5/4月曜日
朝いつも通りに支度をしていると、叔父さんと叔母さんの様子がおかしいことに気がつく。
お互い眉間に皺を寄せて話している。
何かあったのかと話を聞くが、「なんでもないから気にしなくていい」との事で詳しく聞かせて貰えなかった。
家や道場の経営の事なら僕は何の役にも立てないし、深く考えず早めに学校へ向かうことにした。
登校途中、時間が早いからか生徒はまだまばらだ。
いつも通る公園の側で吉良先生を見かけた。
先生は公園前のマンション下、エントランスの塀の側に立っている。
僕からは見えるが、反対、公園側からは見えないような角度にいる。
先生は鋭い目付きで何かを凝視しているようで、その視線の先には……公園で遊ぶ親子連れ、ベンチに座るお爺さん、と普通の公園の風景に見えけど、、先生は何を真剣に見ているのだろう。
学校の方向だったので、自然と少しずつ先生に近づいていく。
すると僕の視線に気付いたのか、バッと素早く僕の方を向いた。
驚いたのか、その時の先生の表情は目が見開き、口が開いたままで少しの間固まっていた。
僕は側まで行き挨拶をした。
そして何を見ていたのですが?ではなく、「お知り合いですか?」と尋ねた。
「あ、いや、僕はこの公園の風景が好きでね、いつも朝学校へ行く前にここから眺めているんだよ。目立つ所だと不審者に思われるから少し隠れつつね」と頭を掻きながら答える先生。
その後は先生と一緒に学校まで登校し、
途中、部活の今後の方針や、土日の練習場所の相談等をした。
学校の正門に着き、先生とはそこで別れ下駄箱へ向かう。
今日の部活では何を中心に教えようか、と考えながら靴を履き替える。
自分の教室の席に着く。
すると、なぜだか窓の外が気になり外を見る。
窓越しに空を見上げると、青空の中に光る小さな点のような物を見つけた。
その点をほんの少しの時間見続けていると、錯覚なのか一瞬強く光って消えた。
そしてその瞬間、『ブオォーーー!!』という爆音とともに振動、衝撃が起こる。
学校全体が揺れているのかと思ったがそうではなく、音は僕の頭の中に直接流れ込んでくるようだった。
振動も周りではなく僕自身が震えているようで、次第に立っていられない程の震えが起こる。
音も次第に大きくなり、咄嗟に両手で耳を塞ぐが音は小さくなるどころか更に大きさを増す。
爆音と震えのせいか、僕はその場に倒れこむ。
朦朧としていた意識も数秒後には失ってしまった。
目が覚めた時、背中の感触から僕はベッドのような所で寝かされているんだと思った。
寝たまま見上げた天井には蛍光灯が光っている。
先程の爆音のせいか、酷い頭痛を覚えたまま身体を起こそうと横に寝返りをうつと、白い壁と白いレースのカーテン、その裏側には窓があるようで夕日が差し込んでいるようだ。
病院かな?
朦朧とする意識の中で、夕方まで寝てしまっていたのかと驚きつつ身体を起こしていく。
上半身を起こし終えあたりを見渡す。
やはり病院のような部屋に寝かされていたようで、部屋は清潔感のある個室だ。
点滴の管が腕に付けられていることに今頃気付き、外れないように立ち上がろうとする。
そこで、個室にしても辺りからまったく音が聞こえてこない事に気付く。
夜中ならまだしも、窓は橙色に染まっており恐らくは夕方だろう。
話し声は勿論、足音も一切しない。
幸い身体は問題なく動きそうなので、頭痛が残る頭を片手で押さえつつ扉へ向かって歩きだす。
部屋の扉を開けた先には誰もいない通路が広がり、蛍光灯だけが煌々と光っている。
kogetora_suguです。
お読み頂き誠にありがとうございます。
これから話は第一章 裏 の佳境へと向かって参ります。
どうか最後まで読んでいただけたら嬉しいです。




