26.第一章 裏 [仕合]
服用したカプセルの効果的なのか、伊東の身体は一回り大きくなっているようだ。
表情は相変わらず目が血走り、口からは唾液が滴り落ちる。
足下に崩れ落ちた道場生を蹴り飛ばし、伊東はまっすぐこちらへ向かってくる。
「い、いぐぜぇっ!」と唸るように叫び、伊東は僕の目の前へ一瞬で移動した。
「っ!!」
今までの倍以上に速さに僕は驚き、反射で竹刀を横薙ぎに振り牽制する。
伊東はそれを地面に張り付くようにしゃがみ躱す。
そのまま四つん這いの状態でこちらへ飛びかかってくる。
木刀の動きに注視していた僕の右側頭部へ伊東の左足が飛んでくる。
寸前の所で蹴りを躱したが、足先が僕の鼻を掠めていく。
僕は後ろへ飛び退き一度距離をとった。
鼻から一滴、二滴と血が滴る。
危ながった、思った以上に伊東の速度と力は向上している。
しかも剣術家の動きというより、獣と戦っている感覚だ。
そうなると相手の行動を予測しての戦いは難しく、こちらも感覚での勝負になる。
今までの経験と反応速度を最大限活かし、相手の先を行く。
「よし」と気合いを入れ直し竹刀を軽く握る。
弛緩状態から一気に緊張状態へ、その一瞬で相手の懐へ飛び込む。
鷹柳流走法術 其の1 閃流
空手部の副部長の時とは違い、本気の閃流は相手の動きが鈍重に見える程で、伊東の動きは水中にいるように遅い。
そして閃流からの鷹柳流剣術5ノ形渦潮。
回転による遠心力と体重を乗せた一撃は伊東の胸元へ。
剣先が伊東の身体へ当たると思った瞬間、伊東の動きは水中から脱したかのように俊敏になり、ブリッジの体勢のように仰け反り渦潮は躱された。
閃流と渦潮により、勢いがついた僕の身体はそのまま前方へ流れる。
避けられる筈が無いと油断していた僕のがら空きの背中へ伊東の木刀での一撃が加わる。
『バキッ』という鈍い音を出しながら前方へ吹き飛ばされる。
背中への攻撃と道場の壁に打ち付けられ、意識を手放しかけるがなんとか持ちこたえる。
「はぁ……はぁ…」苦しい、恐らく背骨か肩甲骨にダメージを受けヒビか骨折している。
呼吸をする度に背中へ激痛が走り、それにより更に呼吸が荒くなる。
僕が痛みに顔を歪めていると、
「ゆ、雪風!加勢するっ!」と叔父さんが額に汗をかきながら叫ぶ。
僕はそれを左手で制し、大丈夫だという意思を示す。
叔父さんは強い、しかし今の伊東相手では命を落としかねない。
ここはなんとしても踏ん張らないと…。
「あ゛ぁーあ゛ぁー」と最早言葉すらも話さなくなった伊東には話をしても通じないだろうが、
「今のが真剣だったら僕は即死でしたね……はぁ、はぁ。ただ生憎今は得物が違う…どちらかが立ち上がれなくなるまでやらせてもらいますよ」と言い笑顔を作る。
「い゛ゃーい゛やー」と僕の話を聞いてなのか、伊東は興奮を更に強める。
今の僕の状態では動けてあと3分程だろう、その短時間で伊東に勝つには……。
じわじわと距離を詰めてくる伊東。
勝負は一瞬で決める、だらだらと引き延ばせばこちらが不利だ。
伊東は僕と同等以上の速さで動く、そして反応は獣並みだ。
それを踏まえると凪海での対処は危うい、伊東から受けたダメージが思いの外大きく、受けきることができるか……。
それなら相手に反撃の隙を与えること無く攻めるだけだ。
意を決し、八相に構える。
伊東が間合いに……入る!
鷹柳流剣術4ノ形 五月雨
八相の構えからの高速の切り下ろしと切り上げの連撃技。
袈裟斬り→左切り上げ→唐竹→逆風さかかぜ→逆袈裟斬り→右切り上げの六連撃。
雪風はこれにアレンジを加えており、左薙ぎと右薙ぎを加えた八連撃。
伊東はこれを三撃目までは躱し、四撃目からは木刀で受ける。
五、六、七撃目で伊東は受けきれずバランスを崩した。
そして八撃目の右薙ぎが伊東の左腕に直撃する。
『バシッ!!』という破裂音と共に衝撃でよろける伊東。
まだだ、そこから更に技を繋げる。
鷹柳流剣術6ノ形 水面
地面すれすれに太刀を振るう足払い、脚斬り技。
相手の攻撃を躱しつつの攻撃が可能だが、扱うためには身体の柔軟性が必須。
両足に水面を受けた伊東は半回転し顔面を床に打ち付ける。
まだだ、ここで意識を絶ちきる!
鷹柳流剣術9ノ形白糸
高く飛び上がり、一筋の滝の如く地面に打ち付ける突き。
飛び上がる際に雪風は壁を蹴り登り、5メートルある天井すれすれから突きを放つ。
白糸は顔から血を流しながら起き上がろうとする伊東の背中へ直撃した。
『ドッ』という鈍い音を響かせ、竹刀の剣先10センチ程がめり込む。
肺を裏から貫く形になり、一時的な呼吸困難をお越し伊東は意識を手放した。
kogetora_suguです。
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最近は仕事が忙しく中々投稿が出来ておりません。
一気に話を進めたいのですが……。
これから鷹柳くんの話は速度を上げて第一章のクライマックスまで参ります。
どうか、最後までお読み頂けたら嬉しいです。




