25.第一章 裏 [来訪]
4月25日 土曜日
学校、部活は金曜日まで何事もなく終わり週末を迎えた。
いつもより少しだけ遅く起きた僕は、朝食の最中に今週の出来事を振り返る。
部活設立前までは部員が集まるか不安だったけど、優秀な部員達と頼りになる顧問の先生と出会えるなんて、僕は運が良いな。
これからの高校生活をより良いものにする為、僕に出切ることは全力で取り組もう。
などと沁々思う。
さっ、今日と明日は道場稽古だ、気合いを入れ直さないと。
コップのお茶を一気に飲み干し、身支度を整えに自分の部屋へ。
道場に着いたのは稽古開始の2時間前、道場生は5.6人程、奥には師範の叔父さんと……もう1人、知らない男の人が叔父さんと話をしているようだ。
2人の会話の様子を伺いつつ近づき、「おはようございます叔父さん、お客様ですか?」
「雪風か、伊東さんこちらは我が道場の師範代を勤めております、高柳雪風です」と叔父さんから紹介され、促されるまま礼をする。
「ほう、君が師範代か、私は伊東武之と申します。
随分と若く見えるますが歳はいくつですか?」と伊東という男から質問される。
「16歳です、家系柄師範代の席を頂いており、日々その席に見合うよう励んでおります」
「それはそれは、そんなつもりで質問した訳ではなかったのですが良くわかりました。ありがとうございます」と、口元に手を添え話す伊東という男からは、何とも言えない嫌な雰囲気を感じた。
「それで鷹柳さん、私の申し出は受けて頂けますか?」と叔父さんに向けて話す。
「いえ、そう簡単に受けるわけにも、断るわけにもいきませんな、明日まで待っていただけますか?」いつも以上に厳しい表情で叔父さんは告げた。
「えぇ、勿論結構です。では明日の同じ時間に伺います」と言い残し、伊東は道場を出ていった。
「叔父さん、さっき伊東さんが言ってた申し出って何の事だったんですか?」
依然として厳しい表情の叔父さんから話を聞く。
「彼が来たのは雪風が来る少し前で、私がここへ来た時には既に門前に立っていた。
入門希望者かと思ったがそうではなく、彼からは殺気が漂っていてな、そこで話を聞く前に何をしに来たかを悟ったわ」
「殺気ですか…先程は感じませんでしたが、そうなると道場破りですか?」
「そうだ、こちらが負けた場合は道場の看板を貰うとの事だった。
恐らく今までにも同じような事をしているんだろ、道場側が負けた際には、言いふらされたくなければ金を出せとか吹っ掛るつもりに違いない」
「そうですか……叔父さんは伊東さんをご存知だったのですか?」
すると叔父さんは考え込む仕草をし、
「いや…話している最中も考えてはいたんだが、見たことがない顔だった。恐らく地方の道場出身だろう」
「わかりました、明日の手合わせは叔父さんがされますか?僕でも構いませんが…」
「その事なんだが、お前に頼んでもいいか?
雪風に一度相談してから決めたくてな、それで猶予を貰ったんだ。
地方の道場の出、道場破りの常習犯、滅多に相手できる機会はないからな、良い経験だと思って頑張ってくれ」
「わかりました。道場の名に恥じぬよう精一杯挑みます」
「あぁ、お前なら本気を出さずにいても負けんだろうが、油断は禁物だ。今日は私とみっちり立会稽古だ。いいな?!」
「はい!宜しくお願いします」
そして僕らはいつもの稽古メニューに加え、立会稽古を20戦程こなした。
「今日はここまで!礼っ!」と皆に声を掛け解散した。
帰り際叔父さんから声をかけられた。
「明日は頼んだぞ、まぁ気楽にな」
「はい」と返事をし叔父さんと家路につく。
4月26日 日曜日
昨日より早く道場についた。
道場にはまだ誰もおらず、鍵を開け胴着に着替える。
床を軽く掃除してからストレッチ、素振りをし身体を温める。
その後、叔父さんや他の道場生も続々とやってきた。
いつもならお昼過ぎに全員が集まるのに、今日は既にほぼ全員が集まるのに集まっていた。
「師範代!今日は頑張って下さい!」
「師範代っ!信じてます!」
「師範代!必要な物があったら言ってください!」等々、皆気を遣ってくれたり応援してくれる。
「皆さん、ありがとうございます。鷹柳流剣術の名に恥じぬよう頑張りますね」
そんなやり取りをしていると、道場の門から伊東武之が現れた。
「おはようございます、今日はお返事をお伺いに参りましたが……なるほど」と言葉を聞かずとも僕の身なりや雰囲気で察したようだ。
「お受け頂きありがとうございます。出来れば師範にお願いしたかったのですが……まずは師範代にお相手頂き、海舟さんの気が変わるのを期待するしかなさそうですね」
すると叔父さんから
「いえいえ、ご心配には及びませんよ。師範代の雪風は私よりも、この道場の誰よりも強いですので。
もし雪風が負けるときは、この道場が負けたと思って頂いて構いませんよ」
「ほぅ、、それは楽しみですね。最強の16歳がお相手ですか。それでは」と伊東は言い、上着を脱ぐ。
伊東の身長は170センチ後半だろう、自分との身長差はさほどないな。
相手の得物は木刀、こちらはいつも通り特殊竹刀。
武器の重さはこちらが上か、相手の木刀の方が軽い分振りの早さには注意しないと。
流派がわからないのでまずは様子見か、それとも仕掛けるか。
「ご紹介が遅れました。伊東武之、神斗一刀流を少々齧っております」
それに習い、
「鷹柳雪風です。鷹柳流剣術、師範代です」
名乗りが終わり、立合い人の叔父さんが始まりを告げる。
「はじめっ!」
……数十秒、お互い相手の様子を伺っている。
最初に仕掛けたのは伊東。
脇構えから距離を詰めてくる。
僕は相手の身体の動きと目線に集中し中段に構える。
伊東は近づいてくると同時に構えを変えていく。
そもそも構えというのは、攻撃の出所であり、構えからどのような攻撃、防御方法かを推察することが大事になる。
伊東はまず脇構え→上段→八相の構え……そして霞構えと変えていく…と思った瞬間、高速の突きが放たれた。
僕はその突きを前へ体重移動をしながら竹刀の剣先で受け流す。
霞構えから捻るように放たれた突きは、剣先は横を向いている。
それを剣先で受け、僕の向かって右側へ逸らせる。
相手は急には止まれず、僕の右側へ流れてくる。
そして無防備に晒された右側頭部を打つ。
『バシッ!』という打突音が響き、伊東の右耳からは血が滴る。
「そこまでっ!」と叔父さんから止めが入った。
「……今のが真剣だったら私は即死でしたね。だが生憎今は得物が違う、どちらかが立ち上がれなくなるまでやらせてもらいますよ」
「おい!そんな話はしていないぞっ!貴様の負けだ、往生際が悪いぞ」と叔父さんが諌めるが、、
「おいおい、つまんねぇこと言ってんじゃねーよ。お飾りの師範のくせしやがって……」と先程までの丁寧な物言いはどこへやら、表情まで豹変した伊東がゆっくりと叔父さんの方へ歩いていく。
「おい…お前、逃げたな。師範のくせに、卑怯なやつだ。」
「なんとでも言うがいい、お前の負けは変わらん」
「面白い…」と言い伊東は懐から小さなケースを取り出す。
そこから取り出された物は、小さなカプセルに見える。
伊東はカプセルを口に含み強く噛み砕く。
……何だ?…何も起きないと思った瞬間、伊東の身体が痙攣しだす。
目は白目をむき、口からは泡を吐いている。
応急処置をしようと近づく一歩、そこで僕の足が止まる。
助けないと、理性ではそうおもうが本能がそれを拒否する。
今は近付くべきではないと。
見かねた道場生が近付いてしまう。
「待ってっ!!」そう叫んだときには遅かった。
道場生は腹部を抱え膝から崩れ落ちる。
ヨダレを垂らしながら立ち上がった伊東の目は血走っており、獲物を見つけた猛獣の様だ。
「が、ガッカリさせんなよ…お、お、俺は全てを……」
kogetora_suguです。
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