16.第一章 裏 [道場稽古]
道場の戸を開けて入ってきた少女は一礼し、道場奥の叔父さんの前まで歩いていく。
「鷹柳師範、お久しぶりです。今日もご指導の程、宜しくお願い致しますっ!」と深くお辞儀をする。
「おうっ!良く来たな夏音!今日は雪風もいるし好きにやってもらって構わんぞ!」と叔父さんは嬉しそうに応えていた。
その言葉を聞き彼女はクルっと後ろを振り向き僕の方へ歩いてくる。
「雪風くん!お久しぶりですっ、今日はお手柔らかにお願いしますね」と笑顔で挨拶をしてくれた。
僕の心臓は大きく反応したが、なんとか落ち着かせ応えた。
「霧島さん、お久しぶりです。来るとは聞いていなかったので少し驚きました、今日は宜しくお願いします」
「よしっ!!それではこれから全体稽古の素振り斬り下ろし1000本!斬り上げ1000本!を行う!その後には師範代との立合いを行う!ではっ!はじめっ!!」と、鋭い声で道場生へ声掛けをする。
素振り1000本というのは中々にキツイ。
正直普通の人なら100本でも腕が上がらなくなる。
しかも素振りの際に用いる竹刀は立合い用とは異なり、中心に鉄を入れ重さを900g程にした物を使う。
900gは大体普通の刀(打刀)の重さであり、これを1000本素振りできるようになるまでには相当修行が必要で、初級者と中級者はここで篩にかけられる。
素振りが300、400、と続き1人、また1人と脱落者が出てくる。
その後も続き、「1000本終了!!60秒後に斬り上げを開始する!」と鬼の指令がやってくる。
ここで心を折りにかかってくる。
苦しみの先にやっと1000本が終わった!と思った瞬間に次の1000本がやってくる。。
ここで残る道場生が12,3人程になる。
1400,1500,1600,1700,ここまできて脱落者は22人。
残り300!
ここまで来た道場生の状態は極限状態で、実際に刀を振るとわかるのですが、自分の腕なのに感覚がなくなってくる。
上げているのか、握っているのか、下ろしているのか、そうなっては続かない。
手から竹刀が飛んでしまっても危ない為、そうなった者には自主的に止めてもらうことになっている。
そして遂に2000本!!
「そこまでっ!!!」と師範から終了の合図がされた時に立っていた者は、僕を含めて5人だけだった。
その中には先程の少女、霧島夏音も入っている。
「では5分休憩後、師範代との立合い稽古を行う。段位の低い者から順に並ぶように!」と師範の指示が飛び、道場生達はみんな困り眉で「はいっ!!」と応えるのだった。
あの地獄の素振りの後に師範代とのスパーリング……。
決して鬼のように厳しいという訳ではないと思うけど、昔からのやり方でやっているからか、どうも若者からの評判があまり良くないみたいだ。
現代の人からすると、まずは自分達のレベルに合わせて教えてほしい!と思って門を叩く人が多い。
僕はそういう考えもアリだと思っていて、成長速度は人それぞれだし、得手不得手もある。
皆が皆同じ事をすれば強くなれるかと言ったら違うと思う。
でも叔父さんには叔父さんの考えがあるから何も口出しはしないですが。
学校で作ろうとしている剣術部は、剣術の楽しさを知ってもらって、礼儀や作法から人間力を高めてもらい!あとは団体戦のある全国大会へ向けての合宿!!
楽しみが溢れてくるなー!と1人で妄想していると、
「よしっ!立合い稽古はじめっ!!!」と声が掛かった。
最初の立合い稽古の相手は、まず入門して1年ほどの男性(26歳)からだ。
「師範代!よ、宜しくお願い致します!」
「宜しくお願い致します」
お互い礼をし、竹刀をおへその前、中段に構える。
僕は相手の身体の動き、表情、目線を順に確認していく。
立合いの最中に相手の目を見るかどうかは、良くもあり悪くもあるので迷うところだ。
身体の動きだけに集中するとフェイントにかかりやすく、目を見すぎると相手に呑まれかねない。
とそうこう考えている間に、上段からの綺麗な打ち下ろしがやってきた。
僕はそれを左へ躱し喉元を突く、勿論寸止めで。
「そこまでっ!」止めが入り、お互い元の位置へと戻る。
「三浦さん、今の打ち下ろしはとても基本に忠実で良かったです!今は一撃一撃に集中しがちですが、打った後にどう動くか、それは自分も相手も同様ですが、それを考えられると立回りの幅が広がると思いますよ」と一人一人にアドバイスをしていく。
その後順調に稽古は進み、霧島さんの番になった。
「雪風くん、今日は本気でやってもらえないかな?」と、いつになく鋭い口調でお願いされる。
目を見ると、なにか覚悟を決めたような意思を感じる。
「わかりました。でも怪我をするかもしれないですし、本気でやるなら僕に理由を教えて頂けますか?」
「…うん、実は来週に特殊隊員採用試験があるの。そこの受験者は雪風くんみたいに強い人ばかりだと思うから、自分の今の限界を知っておきたいの」
「わかりました」と言い、いつも以上に集中力を高めていく。
霧島さんは強い。
僕が中学に上がる前からずっと大人達と渡り合っていたし、同い年では一番師範に近い力を持っていると思う。
鷹柳流剣術の技を全て扱える霧島さん。
この立合いでどう闘うのか、考えよう。
霧島さんが最初に選んだ技は、鷹柳流剣術5ノ形渦潮この技は遠心力と足捌きを組合せた回転、突進技だ。
威力が体重に左右される突進技を選んだのは霧島さんの意思表示か。
女の子である自分の力が大人達に通用するかどうか試しているんだ。
それなら、と僕も渦潮を放つ。
2人の技がぶつかり合う
。
回転した特殊竹刀同士がぶつかり『ドドドドッ』と鈍い音を出す。
やはり体重と腕力に勝る僕が霧島さんを押しきった。
「くっ、」と飛び退きながら体勢を立て直す霧島さん。
次に彼女が繰り出した技は鷹柳流剣術2ノ形瀑布。
大きな滝を意味する瀑布、高く飛び上がり身体を斜めに回転させながら縦に三連撃。
今日の霧島さんは一貫して力押しを意識しているようだ。
なんだか悩み、悔しさをぶつけられているみたいだな。
そんな霧島さんの剣術は見たくないのに。
それなら、
鷹柳流剣術8ノ形凪海。
霧島さんの体重と回転を加えた全力の三連撃を一撃一撃を音もなく絡めとる。
そして最後の一撃を絡めとった後、今まで受けた力を一撃で返す。
その一撃は凄まじく、受けた力が大きければ大きいほど強力になる。
凪海はカウンター技であり、強力な防御技である。
ただ、相手の攻撃を寸分の狂いなく受けきるには強靭な動体視力と集中力が必要不可欠だ。
凪海の一撃は霧島さんを道場奥の壁際まで吹き飛ばし、霧島さんが持っていた竹刀を破壊した。
「そこまでっ!」と叔父さんから止めが入った。
「師範っ!私はまだっ!」と悔しさを露にしながら抗議する霧島さん。
「もうよいっ!自分の剣術を忘れた者に雪風の相手は務まらぬ。このままでは何時間やっても雪風には一太刀も浴びせられぬ」と厳しい表情で霧島さんを諭す。
「今から休憩とする、その後は各自自由稽古をするように」と叔父さんは道場の奥の部屋へと下がっていく。
「霧島さん、僕は立合いを続けてもいいけど、どうする?」と声をかけた。
「雪風くんありがとう。でも自分でも酷い立合いだったってわかってる。ごめんなさい、頭冷やしてくる」と言い残し霧島さんは道場を出ていった。
……どうしたら霧島さんの悩みを解決できるんだろうか。
kogetora_suguです。
読んで頂きありがとうございます!
高柳くんルートでも活躍していた霧島さん登場回でした!
霧島さんの過去、接する人による内面の変化が少しずつではありますが描くことが出来ました。
霧島さんに対する鷹柳くんの反応も気になりましたね!
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