のぼせる
銭湯の大浴槽に浸かって日頃の疲れを抜き出しているケンは、入ったばかりだというのにのぼせた顔をしている。
ケ「あ~…やっぱりいいなぁ…、来てよかった…」
ヤ「そんなに温泉好きなの?」
ケ「本当は、金払って風呂入るくらいなら家で入った方がマシだ。って思ってたんだけどな、この地底に来てだいぶ変わったよ。ここの銭湯、入ってるとなんだか家の風呂に入るより落ち着けてさ。不思議だよな、人目もあるし自分の土地じゃないから自由にできないのに、なんだか自由になれた気分だ」
ヤ「広いからじゃないかしら、風呂が小さければ考えも小さくなるものよ。だからここの妖怪達は、みんな自由に暮らしてる。生き生きしてるわ」
ケ「ヤマメに似合わず随分マトモな事を言うな。何時もなら『そんな事どうだっていいじゃない、私はケンと一緒に居れれば~』みたいな事いうのに」
ヤ「ふふ、そうかしら…。ケンと居れるのが一番だけど、ケンと風呂に入ってるって事も大事よ」
ケ「へー」
半分興味の無さそうに言うケンに、少し膨れっ面になったヤマメが抱き着く。
ヤ「もうちょっとロマンがあってもいいんじゃないかしら?」
ケ「え~っとなんだっけ…あれだ、花より団子っていうだろ、ロマンより現物だよ」
ヤ「じゃあ、私と居るだけよりも、私とした方がいいの?」
ケ「まぁ…ぶっちゃけてしまえば、そうかな。あ、でもここでしようなんて思うなよ?」
ヤ「分かってるわよ…。残念」
ボソリとつぶやいたヤマメの言葉を聞いてないフリをして大浴槽に肩まで浸かる。ヤマメも同じように身体を沈ませ、その温かさを体感する。二人揃ってリラックスの吐息を漏らし、より脱力しながら風呂に浸かった。
・・・・・・・・・・・・・。
ヤ「良かったわね、あの温泉」
ケ「そうだな、次の温泉もあれぐらい気持ちいと良いな」
ヤ「そうね~…」
手を繋いで歩く二人からホカホカと湯気が立ち上る。その煙は一瞬だけハートの形を描き、二人の愛情を表していた。それに気づかない二人はそのまま別の温泉を目指す。
ヤ「ねぇケン」
ケ「何?」
ヤ「未だにアナタに私の病気が効かない理由分からないわよね…」
ケ「そういえばそうだな…。なんでだろう、愛のパワー…とか?」
ヤ「ふふ、なにそれ」
少し小馬鹿にしたような口調で言うヤマメに対し、ケンは真面目な顔をしている。
ケ「いや…病気にかかってるよ、俺」
ヤ「どんな?見たところ、体調が悪そうなわけでも、内臓がボロボロなわけでもないんでしょ?」
ケ「まぁな…けど、ここが苦しくなりそうな時はあるな」
そう言ってケンは心臓のある左胸辺りを手で押さえる。それを見てヤマメは不思議そうな表情をしている。ヤマメ自身、心臓に関係するような病気は出していないのだからケンの言っていることがよくわからなかったのだ。そんなヤマメにケンは言う。
ケ「感染してるよ、ヤマメ大好き病に」
ヤ「っ!もう…上手なんだから…」
顔を真っ赤にして照れるヤマメは俯いたが、とても嬉しそうだ。それを見届けてケンもニコニコとほほ笑む。
ケ「さ、次の温泉探そう」
ヤ「今のでのぼせそうよ…」
ケ「そうか、じゃあ…」
ケンはヤマメを軽々と持ち上げ、お姫様抱っこをする。
ケ「お、なんか軽い…」
ヤ「こうしてもらうのも久しぶりね」
ケ「そうだな。じゃあ行こう」
ヤ「ええ」
ケンの首に両手を回して抱き着くヤマメを意気揚々と連れて行くケン。二人の温泉巡りは、あと3軒も続いた。
アツアツですねお二人さん。こんな素敵な女性がいればいんだけどなぁ…。混浴とか良いですよね、何時か理想の女性と一緒にしてみたいものです。
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




