他の女(蜘蛛)
ケ「あ、蜘蛛だ」
風呂を掃除していると、窓と壁の間にできた微妙な段差の上にちょこんと居座る小さな蜘蛛を発見する。
ヤ「チリグモね…。よく家に出てくるのよ」
気がつくといつの間にか後ろに立っていたヤマメに気付いて振り向く。やはり蜘蛛なだけあって、仲間の蜘蛛の事については詳しいのだろう。
カ「へぇ~。毒とかあるの?」
ヤ「あるわよ。と言っても、小さい虫とかにしか効かない毒だけど。人を襲うようなこともないし、放っておいてあげたら?」
カ「そうだな。放置だ放置」
そう言ってカズヤは風呂掃除を再開する。
・・・・・・・・・。
その晩、ケンは夢を見た。一人の大人の女性が、暗闇の中でこっちに手招きをしているのだ。黒い和服を着ている女性はほほ笑んでいる。
ケ「…誰?」
女「そんな事…どうでもいいじゃない。こっちにおいで…」
ケ「…」
ため息交じりで面倒くさそうに、座り込んでいる女性に歩み寄る。周りは真っ暗で何も見えないというのに、不思議とその女性だけははっきり見える。身体はヤマメよりも大人っぽく、表情も艶めかしい。
進める足は止まらなくなっていた。
女「そうよ…こっち…もっと来て…」
女性が言うがままに近づくと、目の前まで来たときに突然抱き着かれ、そのまま吸い寄せられるように一緒に座ってしまう。
女「可愛い…」
ケ「ちょ、ちょっちょっちょ…。何何?どういうこと?」
女「言ったでしょ?そんな事はどうでもいいって…今は、二人だけの自分を楽しみましょ?」
ケンをゆっくりと寝かせ、その上に乗ってアツいキスをする。撫でるようにケンの顔を掴み、舌を這わせて入れてくる。何ともいえない妖艶な行動に何もできないでいると、女性は口を離してニコ~っとほほ笑む。
女「私、アナタに一目ぼれしちゃったみたいなの…ねぇ、このままずっとここに居て?」
ケ「そんな事言われても…俺ヤマメと一緒に居たいし…」
女「冷たいわ…。私だって、その女よりずっとアナタの事が好きなのに…」
ギュッと豊満な胸を押し付けるように上寝そべり、上目遣いで魅了してくる。
ケ「っ…」
女「ふふ、その子と私…どっちが良い?身体、比べてみる…?」
片手を掴まれ、無理矢理胸に押し付けられる。大きく柔らかい感触が手先から伝わってくる。少しでも離そうと抵抗をすると、つい指が動いてしまい、その胸を刺激する。
女「ん…、良いわ…もっと、していいのよ?」
ケ「どこの誰かも分からない人と…そんな事はできないな…」
女「酷いわね…じゃあ、無理矢理にでも試してあげるわ…」
着物をはだけさせる女性に馬乗りにされ、何故こんな状況になってしまってるんだと考えていると、突然女性が後ろに強く引っ張られ、吹き飛ぶように離れた。
ケ「?」
ヤ「ケン…誰?この女は…?」
ケ「いや、俺も知らない…突然こんな所に…」
糸で女を捕まえているヤマメは、顔に影を作りながらケンに近づく。完全に怒っている時の表情だ。
女「なんで、夢の中まで…」
驚く女性に振り向きジッと見つめる。そして小さく舌打ちをして、思いっきり女性を踏みつけた。
女「あぐぅぁ!?」
ヤ「私のケンに…!色目使ってるんじゃないわよ!」
グリグリと踵で強く踏みつけ、憎悪の念を込めて罵声を浴びせる。
後ろから見ていることしかできないケンも、とても恐怖を感じていた。
ヤ「ん…?あぁ、アナタ、あの時のチリグモね?」
女「な、なんでそれを…?!」
ヤ「あの時のチリグモはメスだったわ、それに…ケンには私以外の女をなるべく見ないように言ってるもの。風呂場でケンの事をずっと見てたのね、このゴミ虫!」
女「っぁがあ!」
強く女性の腹をヤマメが踏みつけると、女性は口から血を吐き、目を大きく見開いて気絶した。そして、着物の内側から4対の茶色い蜘蛛の脚が飛出し、女性の顔も目が複眼になって4つに増えていた。
ケ「これが、あの女の正体…?」
ヤ「そうよ。夢の中でも私のケンに近づこうなんて…油断も隙もない奴…」
ケ「…あれ?夢?え、なんで俺の夢の中にヤマメがいるの?」
ヤ「妖術を使えば、大抵の事はどうにでもなるわ。特に…愛する人になら…ね」
その言葉を最後にケンは目覚める。窓からは明るい地底の光が差し込み、大通りのガヤガヤとした賑わいの声が聞こえてくる。
ふと横を見ると、自分と同じ布団にくるまってヤマメがスヤスヤと寝ている。きっと、まだ自分が出てくる夢を見ているに違いない。
ケ「夢の中まで、一緒に居てくれてありがとうな。ヤマメ…」
そっと頭を撫でてあげると、それに気づいているのかいないか、ヤマメはエヘヘ、と笑顔になった。
時間などが飛躍する場合に「・・・・・・・。」を使わせてもらうことにしました。ご了承ください。
嫉妬するヤマメ、かわいいですね。「アナタには私だけ!」って、可愛い子から嫉妬されたいですよね。
あ、とてもどうでもいい話ですが、自分は衣玖さんの方が大好きです。しかし、何故書いているのはヤマメなんだろう…。
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




