地上は…
何時もの借家。ヤマメと二人で掃除をしている。布団をベランダに干して、雑巾で廊下を掃除し、埃を一掃している最中にふとあることを思いついたのでヤマメに言ってみる。
ケン「なぁ、地上に行ってみないか?」
ヤマメ「突然ね。いいわよ」
頭に三角巾を被ったヤマメは、特に驚く様子もなく了承してくれた。
掃除をそうそうに終わらせて出かける支度をし、借家を後にする。
橋姫の居ない橋を渡って、洞窟の入口についた。
ケン「なんか、懐かしい気もするな~。数日前はよくここから逃げようとしてたっけ」
ヤマメ「その度に、私が捕まえてたわね…。もう逃げなくていいの?」
ケン「逃げられないし、逃げないよ。ちゃんと元の世界に戻る方法が確保できてるなら、ヤマメと一緒に行くのも…いいかもしれないね」
ヤマメ「死ぬまで、死んでも一緒ってことで、いいのよね?」
ケン「あぁ。そうだな」
傾斜になっている洞窟を、手を繋いで進んでいく。何時もは走って上る坂も、今はゆっくりでいい。横から見るヤマメは可愛く、その横顔を見ているだけで心が満たされていく。ジッと見ている自分に気付いたヤマメはこっちを向いて、ニッコリとほほ笑んでくる。その笑顔が、たまらなく可愛い。
ヤマメ「もうそろそろね…」
ケン「そうだな…」
そして、ついに地上の明かりが見えてきた。
ヤマメ「着くわね。外は久々だから、少し楽しみ」
地上は快晴だった。辺りには点々と木が生えており、ここが森なのだと実感させてくれる。
ケン「おぉ~。こんな森。都会じゃ見たこと無いぜ」
ヤマメ「うふふ。空から見たらもっとすごいわよ?」
ケン「へぇ。山のぼりでもするの?」
ヤマメ「いいえ、こうするの」
ケンを後ろから抱き寄せ、不意に1m程宙に浮く。
ケン「うぉお…!」
ヤマメ「空を飛ぶのは久しぶりだけど…やっぱり風が気持ちいわね」
どんどん高度を上げていくヤマメに抱かれ、一緒に空に飛ぶ。自分より3倍は高い背丈の木々を超え、雲より少し下の辺りまで来てしまった。
ケン「す、すげぇ!こんなふうになってたのか、幻想郷って…」
見渡す限りの森。点々と見える人里。そして大きな山々が、より一層その世界の美しさを引き立てている。
ヤマメ「綺麗ね…」
ケン「そうだな。でも…」
ヤマメ「?」
その時、ヤマメは思った。「嗚呼、きっとこの後は『君の方が綺麗』だと言ってくれるのだ」と。そして、その言葉に胸を躍らせながら待っていた。そして…。
ケン「でも、ヤマメの方が綺麗だよ、だから…」
だから?まさか、ここで愛の結婚の告白?確かに、今までケンとは何度も愛し合った、この美しい景色をバックに、ケンの愛の言葉が…。
ケン「だから…、早く降ろしてくれない?超怖い、落ちたら即死だよ…」
よく見ると、真っ青になってガクガクと震えている。これ以上飛び続けると、きっとケンは気絶してしまうだろう。ロマンスな雰囲気を期待していた自分が馬鹿らしく思えてくる。しかし、そんな雰囲気をぶち壊しことを躊躇しないケンが大好きだ。
ヤマメ「そうね…わかったわ。せっかくだから、人里にでも行きましょうか」
ケン「どこでもいい、降ろしてくれ、早く、早く…」
高所恐怖症なのだろう。震え方が尋常ではない。ケンを怖がらせないように…というかもう怖がっているが、ゆっくりと人里に降下していく。
人里に降り立ったヤマメがケンを離すと、ケンは地面にベッタリと身体をつける。
ケン「おぉ~、愛しの地面、母なる大地よ…その地表で俺を抱きしめたまえ~」
地面に頬ずりしているケンを軽蔑の目で見つめるヤマメは、ケンの手を引っ張って大通りを進む。
ケン「離せヤマメ、今の俺は地面が恋人だー」
ヤマメ「嘘でもそんなこと言わないで、悲しいわ…」
シュンと落ち込むヤマメを見て、ケンも正気を取り戻す。
ケン「っと、冗談はそこまでにしておいて…。そろそろ行こうか」
ヤマメ「もう…次そんな事言ったら…子蜘蛛の餌にしちゃうわよ?」
ケン「冗談に聞こえないから止めてほしいな」
ついに、ケンは地上へ!
このお話のヤマメ。ヤンデレというより、ちょっと愛し方が上級者なだけでヤンデレではないのではないのか。最近、薄々そんなことを思うようになりました…(汗
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




