レッツスイミング
ケン「脚で水を撫でるように蹴って…そうそう。いい感じいい感じ」
ヤマメの両手を掴んで、泳ぎの練習をしているが、やっぱり水は怖いみたいで、ギュッと握りしめられている手に力が入っている。
ヤマメ「は、離さないでね…?」
ケン「分かってるよ。ちゃんと泳げるようになるまでこうしてるから」
バシャバシャと水を蹴るヤマメは、着々と上達していっているようだ。
ケン「上手だね。この様子なら、きっとすぐに泳げるようになるよ」
ヤマメ「そ、そう?うふふ…その内、ケンが川を渡って私から逃げようとしても、追いかけられる程になるかもしれないわね」
ケン「それはどうかな?このプールは波が無いからこうやって泳げてるけど、波があれば簡単に流されるし、泳げるようになった程度じゃ俺に追いつくのは無理無理」
ヤマメ「いいえ、こうやって練習してれば、きっと追いつけるようになる筈よ」
ケン「諦めないのな…まぁ、俺は逃げたりはしないけどさ。元の世界に戻れる方法が分かるまでは」
ヤマメ「分からないことを祈るわ。アナタの居ない生活なんて…食事の無い人生と一緒よ」
ケン「と言うと?」
ヤマメ「…満足できない。物足りない、空腹で死にそうな人生」
ケン「そんなに俺気に入られてるのか…」
不思議そうな声を出しながらも、ケンはずっとヤマメの手を握って泳ぎの練習を手伝っている。ふと、ヤマメが手を離し、ケンの前に立ち上がる。
ケン「…?」
ヤマメ「ちょっと、休ませて?脚が疲れてきちゃった…」
ケン「あぁ、なら休もうか」
ケンの言葉を聞いて、ヤマメはケンを抱きしめる。
ヤマメ「アナタにこうしているだけで、心が休まるの…」
ケン「身体休ませればいいのに…」
ヤマメ「もう、冷たいわね。まるでこの水みたい」
片手で水をすくい上げ、それをケンの肩にゆっくりとかける。
ケン「そうか?この水、ちょっと温いような気もするけど…」
ヤマメ「あら、温水だったかしら…」
ケン「体温が少し下がって、水がそこまで冷たく感じなくなってきたんだとおもうよ」
ヤマメ「そうなの…なら、アナタの温もりでまた温め直すわ…。こうしてると、なんだか温かくて、眠くなってくるの…」
ケン「疲れただけじゃ…」
ヤマメ「『アナタの温もりで安らかになりたい』…。そう思わせて…」
撫でるように背中や腕に手で触れるヤマメ。濡れた髪や水着がよりヤマメを色っぽく見せる。疲れて焦点が少し合わなくなってきてきている両目は小刻みに震え、息も上がって肩を浮き沈みさせている。
ケン「…?顔赤くない?」
ヤマメ「はぁ…はぁ…」
ケン「まぁ…泳ぐのは体力使うからな~。上がって休もうか」
フラついているヤマメを抱いたままプールサイドに上げ、横になっているヤマメに膝枕をする。
ヤマメ「ありがとう。しばらく、このままで…」
ケン「分かってるよ」
20分後、ヤマメは未だに静かに寝息を立てて眠っている。そんなヤマメの頭を撫でながらほほ笑むケンは、自分がこの先、ヤマメとずっと過ごせるのかということだけを考えていた。
ケン(ヤマメが妖怪で、自分が人間…。子供は作らないにしても、寿命は明らかに俺の方が短いよな…。だとしたら、年取ってヨボヨボになった自分をヤマメは好きでいてくれるのか?病気にかからないってのと、あと顔と性格で選ばれたわけだが…その内の顔が無くなるんだ。最悪、痴呆でもなったら性格すら今とは全く別になるかもしれない…。だとしたら、そんな中でもヤマメが自分を好きでいてくれるんだろうか…)
小さく寝息を立てるヤマメは、どこか嬉しそうな顔をしている。そんな表情を見ていると、心配事は殆ど忘れてしまうのだが、今回ばかりはその考えが脳裏から離れない。
そしてつい、小さな声でヤマメに話しかけてしまっていた。
ケン「なぁ…俺が爺になって、ボケて、ヤマメのこともロクに覚えてないような奴になっても…ヤマメは俺の事大事にしてくれるか…?」
ヤマメ「ええ…アナタとなら、死ぬまで一緒よ…」
薄らと目を開けて答えるヤマメは、微笑んでいる。
ケン「起きてたのか?」
ヤマメ「今起きたの、アナタが話しかけてきたから」
ケン「そうか…。休めた?」
ヤマメ「ええ、ずっとアナタの温かさを感じてたわ」
ケン「ふーん。じゃ、泳ぐ?」
ヤマメ「そうしましょうか」
起き上がって大きく背伸びをするヤマメの背中を見つめる。自分より少し小さい彼女の体。この背中を、ずっと見ていたい気持ちになる。彼女とずっと居たい…。元の世界に戻りたいという気持ちもあったが、今はその考えより、ヤマメとの生活を過ごしたいという感情の方が何倍も強い。
自分より一足先にプールに浸かるヤマメを見て、自分もプールに入る。
ヤマメ「練習内容は…さっきと同じ?」
ケン「いや、バタ足はできるようになってきたから…次は引っ張りながら泳いでみよう。手だして」
ヤマメが伸ばした両手を掴み、ゆっくりと引っ張りながら後ろに下がっていく。ヤマメも足をバタバタさせながら水しぶきを上げ、導かれるように前に進んでいく。
ケン「引っ張りながらでも沈まないように泳げてる。結構上達してきたね」
ヤマメ「そうかしら…ちょっと、手を離してもらってもいい?泳げてるか見てみたいの」
ヤマメから手を離し、横に移動する。見てみると、ヤマメはゆっくりで、左右に揺れてバランスが少しとれていないが、確かに前に進めている。
ケン「やったじゃないか!進んでるぞヤマメ」
ヤマメ「私、泳げてる…。なんだか嬉しいっ」
泳ぐのを止めてケンに飛びつき、ギュッと抱きしめる。水着越しに当たる二つのものが柔らかいのが分かった。
ケン「…柔らかいな」
ヤマメ「当ててるのよ…。手で触ってもいいわよ?」
ケン「いいや。遠慮しておくよ…。ここは公共の場だ。こんなことをするために来たんじゃないだろ?」
ヤマメ「そうね…これは家でもできるものね」
ケン「ゆっくりでも、泳ごうぜ」
ヤマメ「ええ」
二人は身体を倒し、ケンは足だけをゆっくりバタつかせながら、まだ完全に慣れてないヤマメは両手を伸ばしてバタつかせている。それから二人は、2時間近くに渡って泳ぎ続けた…。
ヤマメは、水泳を習得した!泳げるっていいですよね。自分は昔、25mプールの折り返し地点で水中を飛翔する蟲に遭遇してビビり、最低記録で終わってしまったという無念があります…。どうでもよかったですね。
次回は、ヤマメではなく、プールに来ていたほかのキャラ達のお話を書いてみようと思います。お空やお燐、勇儀にさとり…あとパルスィも居たりします。
あれ?誰か忘れているような、うーん…。
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




