プールサイドのヤマメちゃん
地霊殿の横にある、背は少し低いが大きな建物。大きい建物は大抵温泉で、湯気が立ち上っているのが分かるのだがその建物だけ湯気はたっていない。
ヤマメ「ついたわ…ここよ」
紙を確認し、石造りの室内に入る。
男性「いらっしゃい」
一人の若い男性が番台のような位置に座っている。
ケン「ここって、この紙に書いてあるプールですか?」
男性「そうだよ。入場料400円ね。ロッカーは自由に使っていいけど、カギは常に身に着けて、無くさないようにね~」
おっとりとした男性をよく見ると、何か違和感を感じてきた。
ヤマメ「どうしたの?」
ケン「いや…なんでもない」
なんでもない。そうは言いながらも、脱衣所に移動する際、チラッと横から男性を見つめる。
そして驚いた。真正面からでは壁の隔たりで見えなかったが、椅子に座っている男性の膝の上に半身を乗せ、猫のように身を包めてゴロゴロと鳴いている女の子が居た。
ケン「やっぱりあの人も妖怪なのかな…」
ヤマメ「あぁ、お燐ね。確かに彼女も妖怪よ。猫の姿にもなれるって」
ケン「へ~」
正体を知って興味を無くした自分は脱衣所に入って上着を脱ぐ。ふと、横に体重計があるのを発見した。
ケン「体重計か…ヤマ」
ヤマメ「乗らないわよ」
言い終わる前に断られてしまった。薄々予想はしていたが、実際にされると傷つく断られ方だ。
ケン「だよねー…」
海パンを穿いてヤマメの方をみると、ヤマメも水着に着替え終わっていて、上下黒の水着はヤマメの白っぽい肌を…肌を…。上下黒の水着?
その水着は、どこかで見たような気がする。ヤマメの水着姿は初めての筈なのに、その水着をどこかで…。
ケン「…」
ヤマメ「なぁに?私の水着、かわいい?」
そういえば今日、ヤマメが着ていた下着も黒だったような…。
ケン「なぁ、その水着…。本当は下着じゃね?」
ヤマメ「え…。そ、そんな訳ないじゃない」
ケン「なんで目を逸らす」
ヤマメ「だ、だって…恥ずかしい、から」
ケン「嘘だ。ヤマメ…それ、下着だろ。さっき家で見たのと全く一緒だ」
ヤマメ「…。そうよ。だって、水着なんて持ってないもの。逆に、なんでケンは持ってるの?」
ケン「さっき会った男の人に言ったら貸してもらえた。ヤマメもそうすれば?200円だって」
ヤマメ「そう。じゃあそうするわ」
スタスタと歩いていこうとするヤマメを捕まえ、引き留める。
ケン「下着のままウロウロしようとするんじゃない。面倒だろうけど、もう一回服を着てくれ」
嫌そうな顔をするヤマメに無理矢理服を着せ、さっきの男性の所まで連れて行く。赤色の水着を借りて、ヤマメはさっそくそれに着替え始めた。
ヤマメ「色が派手ね…」
ケン「いんじゃないか?似合ってるぜ?」
ヤマメ「そうかしら。じゃあ、毎日この恰好で過ごしちゃいましょう」
ケン「ちゃんと服を着ようぜ」
ヤマメ「じゃあ家の中だけでもこの恰好で…」
ケン「ヤマメがいつも着てる服が可愛いんだけどな~」
ヤマメ「アナタがそういうなら…普段通りで…」
ヤマメは、ワザとらしく言う自分の手を掴み、グイグイ引っ張りながらプールのある大きな部屋に向かう。
40mはありそうなプールは、深さ1m40cmはあるだろう。かなりの人数が既に泳いでいて、角の生えた女性や、黒い翼を生やし、胸の部分に赤い球体が埋め込まれている少女が、男性と仲睦まじく遊んでいる。
ヤマメ「そんなことより…。さぁ、泳ぎましょう」
ケン「あれ?泳げないんじゃなかったっけ?
ヤマメ「アナタが泳げるように教えてくれるんじゃないの?」
ケン「あぁ、そうだったな。じゃあ早速…」
ジャポンと音を立ててプールに入り、プールサイドでしゃがむヤマメの手を引く。しかし、水に入る経験の無いヤマメは、どこか腰が引けているようだった。
ケン「どうしたんだ。温泉みたいなもんだよ」
ヤマメ「冷たそう…」
ケン「…。ほれほれっ」
ヤマメ「きゃぁん!」
水をバシャバシャとヤマメに掛けてみると、かわいい反応が返ってくる。中途半端に濡れたヤマメは、どこか色っぽく見えた。
ケン「大丈夫だって。足も着くし、溺れたりなんかしないよ」
ヤマメ「で、でも…怖いわ」
目に薄らを涙を貯めてこっちを見ているヤマメにキュンとしてしまう。とても可愛いのだ。そんな彼女を見ていると、なんだか虐めたくなってしまう。
ケン「大丈夫だよ大丈夫。全然平気だから」
自分もプールサイドに上がり、ヤマメを立ち上がらせて抱き着く。
ヤマメ「ひゃっ…ど、どうしたの?」
ケン「息、止めとけよ」
ヤマメ「どういう意味…!?」
ケン「そぉりゃ!」
ヤマメをギュッと両手で抱きしめ、一緒に跳んでプールにダイブする…いや、させる。
ザバン!という大きな音を立てて、水柱が上がり、そしてプールに落ちていく。
ヤマメ「っぷはぁ!はぁ…はぁ…」
ケン「ふぅ…いい飛び込みだったぜ」
ヤマメ「うぅ…」
一緒に水面から顔を出した二人。ヤマメは未だに水が怖いようで、そそくさとケンに抱き着く。
ケン「やっぱり怖いのか?」
コクリと頷くヤマメの髪から、ポタポタと水滴が滴り落ちる。怯える子犬のような彼女をみていると、やっぱり、どうしても虐めたくなってしまうのだ。
ケン「よーし、じゃあ慣れる為にもう一回潜ってみるか」
ヤマメ「え!?だ、ダメ。私泳げないって」
ケン「潜るくらいなら温泉でもできるだろ?」
サッと水中に体を静め、慌てるヤマメを下から見上げる。
ヤマメ「ケ、ケン…私、やっぱり見てるだけで…」
プールサイドに戻ろうと後ろを向いたヤマメの片足を掴んで、足の裏をくすぐりまわす。水中からでもヤマメが笑っているのが見て取れた。
ヤマメ「ひゃ!あはははは!ケ、ケン!こんな所でもくすぐるの止めて!あはははははは!」
くすぐったさに悶えながら、バシバシと水面を叩くが、そんなことでくすぐったさが収まるわけもない。次々と来る感覚に、ただ笑うしかない。しかし、あんまりするとあとが怖いので、一旦止めて顔だけを出してみる。
ケン「ぷふぅ…。やっぱり慣れない?」
ヤマメ「はぁ、はぁ…。い、いいえ…こんなことしてたら、少し慣れてきたかも…。もうちょっと、こうして水に浸かってみるわ」
ケン「おう。その意気だ。その内、一緒に泳げるようになろうな」
ヤマメ「ええ。頑張ってみる」
かくして、二人の水泳練習が始まったのであった。
さぁ、プール回は続きます。あるのかポロリ、それは気分次第。
今言うことでもないですが、川を汚すからという理由で、ヤマメとにとりは仲が悪いそうですね。
読者様につかの間の安らぎを
「kanisaku」




