01-10 邂逅-前編
明日更新と言って一ヶ月経ったことを謝罪します。とんだ死亡フラグみたいになってしまいました。
少し長くなってしまったのと、まだ半分上手いこと書き終わっていないので、前編のみアップします。
アリサたちが銀付き第八十七隊に入団してから日は流れ、五日ほど日が経過した。
訓練初日はバテバテだった新人たちも、流石に毎日同じことをこなしていれば、少しずつ成長の兆しが見えてくる。
覚えるべき仕事も日に日に増えて、午前中は宿舎の掃除だけでなく、隊の武器の整理や生活用品、食料品の備品の整理と管理業務を行い、午後は簡単な書類仕事と先輩兵の仕事の見学などをしてから訓練に明け暮れていた。
「お待たせしました」
軍服ではなく、ベージュの上着と黒のズボンにダークブラウンのベルトとロングブーツ。左手には金の指輪と、普段最もよく着ているスタイルの服に着替えたアリサが自室から外へと出ると、部屋の前の廊下には同じく私服に着替えたレオンハートとリックが立っていた。
レオンハートは白いワイシャツに黒のスッキリとした細身のズボン。シンプルだがシャツの袖口や襟元にはラインが入っており、よくよく見るとそれは凝った刺繍のデザインが施されている上品なもので、靴はラセットブラウンのフロントレースアップブーツを履いている。
リックは、オリーブのチュニックに濃いグレーのズボン。上下ともにアリサが着ているものと同じく柄のないシンプルなデザインで、靴は青みがかった黒の靴紐のないショートブーツを履いていた。
三人とも軍から支給されている剣を携えている以外は、休日用のラフな私服姿だ。
「よし、じゃあ行こうか?」
「楽しみだね」
初めての休暇に笑顔を浮かべてアリサを待っていたレオンハートとリックに促され、三人は歩き出す。
「城下町に下りるには、三十五隊の宿舎まで向かわないと行けないんですよね?」
自分たちの八十七隊の宿舎を出て、王宮敷地内にある別の部隊の宿舎を目指す。
王宮の敷地広い。王宮そのものは当然として、その直下には貴族が住まう貴族街の一等地があり、その更に行った先が平民の住む二等地、所謂城下町と呼ばれる場所がある。
城下町に下るには馬車を使わなければ、かなりの時間を有してしまうが、国に勤める軍人や役人はそれとは別に転移魔法を施してある施設を借りる権利があり、アリサたちはその施設を目指していた。
「転移魔法を使って移動出来るって便利だな」
「そうですね。試験や入団初日はなかなか目的地に着かなくて大変でした」
たった数日前のことなのに、幾ばくか懐かしく感じるのは、日々が濃く充実しているからだろうか。
毎日のように訓練で王宮の敷地内をマラソンをさせられているお陰で、雑談を交えながらもアリサたちの足は迷いなく目的の場所へと向かう。
「最初はどこに行く?」
「とりあえずは、部屋のカーテンが欲しいよな。布を買いに行こう」
「そうですね。後は幾つか消耗品が欲しいので、その辺りが調達出来ると嬉しいですね」
三十五隊の宿舎は王宮を中心とした南東方面で、八十七隊よりも王宮に近い。三人が少し雑談をしている間に目的地には直ぐに辿り着いた。
八十七隊の宿舎よりも一回り大きな宿舎。
表で見張りをしている三十五隊の兵士に話し掛けると、そのまま中へと案内されて三人は入口近くの小さな部屋の一角へと進んだ。
部屋の中は宿舎の自室と同じぐらいの広さがあり、奥に執務机が二つ隣り合わせで並び、それぞれの椅子に一人ずつ係りの者らしき兵士が座っていた。
「八十七隊レオンハート・ディックス、アリサ・ランディム、リック三名。二等地への外出です」
「確認します」
係りの一人、深紫色の髪の毛の兵士にレオンハートが声がけすると、彼は手元の書類とアリサたちを見比べて、書類に何かを書き始める。
「確認出来ました。新しく入団された方ですね」
確認が終わったのか、顔を上げて係りの兵士が涼やかな声で述べる。
彼は書き込みをしていた紙をそのまま机の上で回転させ、アリサたちに紙の下部を開いた手の先で示した。
「軍の転移魔法での移動は幾つか決まりがありますので、簡単に説明致します。外出時転移する場所、戻る場所は規定があります。今回向かうのは二等地なので、ご自身で到着場所を指定出来ます。指定出来る箇所は五つです」
示された紙に記載されているのは、二等地の大まかな地図だ。
東西南北に一ヶ所ずつ。それ以外は中央に一ヶ所の計五つをそれぞれ指差した。
「王宮、一等地、その他は向かう場所の許可が出ている場合のみ、使用が可能です。また、戻りの場合は基本的にはこちらの部屋に戻り、その報告をお願い致します。今回の外出届けは夕刻までになっております。定刻までに戻らない場合は、トラブルが発生したとみなされご自身部隊に連絡がいきますので、時間内に戻れない場合は何かしらの報告を行って下さい。連絡がない場合は緊急時を除き罰則もありますので気を付けて下さい。ご質問は?」
少し長めの説明ではあったが、少し女性的な澄んだ声はまるで詩でも聴いているようで、耳に入りやすい。
また、内容も簡潔で特に問題なかった三人は、互いに目配せをした。
「問題ありません」
代表してレオンハートが再び答えると、係りの兵士は再び書類を回転させてサインを施し脇に寄せると、テーブルの引き出しから深緑色の薄い箱を取り出した。
「剣をこちらへ」
執務机に剣を置くように促され、三人はそれに従う。
箱を開け、兵士が言霊を唱えると、三本の剣が淡い緑の色を帯びて僅かに光り、瞬間光りは雲散する。
「貴殿方の剣に二回分の転移魔法を施しました。間違えて一度に二回使わないように。またあり得ないと思いますが、盗難には気を付けて下さい」
最後の説明が終わると、アリサたちは魔法が込められた己の剣を再び装備した。
手続きをしてくれた兵士に礼を言うと、彼はにっこり笑い会釈する。
「じゃあ行くか!」
「二等地中央へ!」
張り切る二人にアリサも頷き、それぞれ剣のガードに触れる。ジワリと剣に触れた手から温かな熱を感じたかと思うと、白緑の光が漂い始めた。
――――そう言えば、これの使い方聞いてないような。
転移魔法ってどうやって使うんだと疑問に思いながら、アリサの体は光に包み込まれていった。
*****
目映い光に包まれて、アリサは一瞬だけ目を瞑った。
瞼の向こう側から眩い光が収まったのを感じで、アリサがゆっくり目を開ける。
「……凄いな」
直ぐ隣からレオンハートの声が聞こえ、アリサは頷いて同意した。
三人が立っていたのは、先ほどの部屋の中ではなく白いガゼボの中だった。
「ここが二等地の中央なのかな?」
「そのようですね」
「街中に転移する訳じゃないんだな」
辺りを見渡しながら、アリサたちはガゼボの中から出る。
周囲にあるのは、手入れの行き届いた庭とそれを囲む白い柵、後方には青白いレンガ造りの建物。
建物は国の施設だろうか。正門に兵士が数名見張りの番に立っており、アリサたちを見て軽く会釈をする。
同業者であるのは間違いない彼らに同じく会釈を返しつつ、アリサたちは正面の門を出て町へと足を進めた。
「お店の場所、二人は分かりますか?」
「何となくの場所は俺が知ってるよ。知り合いから話を聞いた店がある筈なんだ」
「じゃあ、最初はそこに行ってみよう!」
建物の門を出ると目の前は広場になっていた。そこから三又に道が分かれており、一番右の道に向かうレオンハートに続いて、アリサとリックもその後に続いた。
「そう言えば、ルーディアは来ないのか?」
ポツリと先を歩くレオンハートが、今更ながら浮かんだ疑問を呟いた。
今回の買い物の一番の目当ては、部屋の内装に使用する仕切り代わりの布を購入するのがメインだ。
元々は買う予定はなかったのだが、レオンハートの実家から取り寄せるにしても時間がかかるし、リックとルーディアも部屋の仕切りが欲しいと言う話を聞き、ならば日用品の買い出しもあるし、アリサたちも安ければ買ってしまおうと言う話になったのだ。
同室で使用するものなので、アリサとレオンハートは一緒に見るべきと思って共に出てきたのだが、リックの方は同室のルーディアが何故か来ていない。
「ボロキレじゃなければ、何でも言いから適当に買ってこいって、面倒だから一緒には行かないってさ」
「それで選んだやつが気に入らなかったらどうするんだ?」
流石に入団初日ほど六人の仲は悪くない。毎日嫌でも顔を見合わせれば最低限の会話や礼儀だって弁える。
仲良くとまでは難しいものの、それでもリックとルーディアは同室故か二人だけの時は会話も幾分か増えているらしい。
しかし、貴族出のルーディアと平民出のリックの好みが、そうそう簡単に一致するとは思えない。
「流石にそこまで我侭じゃないみたい。一応、兵士になる自覚はあるみたいだし、部屋も自分の部屋だけど、実家とは違うからって割り切ってるみたい」
リックと二人だけで会話していると、宿舎の部屋が狭いだの、内装がダサいだの、風呂が誰かと一緒で有り得ないと、ブウブウ文句も言うらしいが、だからと言ってどうにかしろと喚かない分、意外にも仕方がないと割り切る部分も多いようだ。
文句を一度でも言わなきゃいけないのは、ただの性分だと語るリックの物言いで、思ったよりも二人が打ち解けていることを知り、アリサとレオンハートは少し驚いた。
「多分だけど、ルアムが側にいると甘えちゃうんじゃないかな? うちの弟も妹も甘えられる人間が側にいる時は、結構ずるいから甘えたりするんだよね」
「あぁ、それ何となく分かるな。ついつい下は甘やかしちゃうよな。アリサは?」
「私は……自分が一番下なので、その辺りの感覚は分からないですね」
苦笑いを浮かべつつ、アリサは二人のお兄ちゃんトークの聞き役に徹する。
――――そっか、二人とも兄弟のいるお兄ちゃんなのか。
弟も妹も可愛いが狡賢い面もあり、時に喧嘩をしたり、仲良く遊んだりもして、貴族出だろうが平民出だろうがその関係性に差はあまりないようだ。
アリサは、自分はどうだっただろうかと思い返す。
元の世界では兄弟はいなかったし、こちらの世界の兄弟、つまりランディム家には年の離れた兄がいるらしいが顔を合わせたことがない。
知り合いに弟のような存在はいなくもないが、彼をレオンハートやリックが可愛がる家族のような弟に当てはめて考えたことはなかった。ただ、弟っぽいなと思えばぐらいの感覚だ。
そんな彼ももう五年は会っていない。
――――あの子は弟とか言ったら、滅茶苦茶嫌がりそう。
「そう言えば、ルアムとユディは今日何してるんですかね?」
兄弟談義が落ち着いた頃を見計らい、アリサは残り二人の同僚について訊ねた。
「ルアムは実家に帰る用事があるらしいけど、ユディは適当にブラブラしたいから、俺たちとは別に外に行くって」
「えっ? クディダランの実家って遠いんじゃないの?」
アリサやレオンハート同様に、クディダランの領地も王都からはやや距離が離れている。
連休のタイミングならともかく、一日しかない単発の休みに帰省するのは物理的に不可能だろう。
驚くリックにレオンハートは笑いながら首を横に振った。
「遠方に領地を構える家の中には、王宮に勤める貴族と同じように王都に別邸を建ててる人もいるんだ」
「一等地の貴族街ですね」
三人がいる二等地よりも王宮近く、貴族の家が立ち並ぶ場所。
特別な許可を得た店と、王族に使える貴族でも限られた人間しかその土地に住まうことが出来ないその場所は、関係者以外は殆ど足を踏み入れない謂わば高級住宅地だ。
「クディダランも歴史ある家だから、別邸があるんじゃないか?」
「実家が近いって便利だね」
「実家と言うんですかね。この場合?」
別邸を持たない貴族であるアリサとレオンハートは、その利便が分からず首を傾げる。
ただ、何となくだが、休みの度に実家に呼びつけられるのは便利なのは本人ではないだろうなと、思わずはいられない二人だった。
書きたいものが沢山あったり、物理的に時間がなかったりで進みはのんびりですが、夏になる前に一章が終わるように頑張ります。




