第66話:概念の再定義と、要塞の起動
黄金の光が私を中心に爆発的に広がった。
その光は単なる魔力の輝きではない。私の内側にある「住環境への執念」と「絶対的な快適性へのこだわり」が具現化した、世界の再構築そのものだった。
重力の歪みによって身体が押しつぶされそうになり、四十度の熱気と硫黄の悪臭が鼻腔を焼き尽くす――その過酷を極めた環境のすべてが、スキルの概念干渉によって「快適性を脅かす最悪なゴミと歪み」として一括消去されていく。
『シュウゥゥゥゥ……ッ!!』
空間の法則が書き換わる心地よい響きとともに、神座から溢れていた過剰なエネルギーは瞬時にろ過されていく。
たちまち室温は理想的な21.5度に落ち着き、態度は肌に最も優しい45%へと固定され、空間全体がほのかに天然アロマの香る極上環境へと上書きされていった。
「な……なにぃぃぃっ!? 我が絶対的な空間支配が……『上書き』されただと!?」
先ほどまでの圧倒的な威厳はどこへやら、ヴェルゼが信じられないものを見る目で絶叫する。彼の築き上げた絶対的な領域が、私の生活空間としての論理の前に崩れ去っていく動揺がその声色にありありと滲んでいた。
「……ヴェルゼさん。人のマイホーム計画を邪魔する空間の歪みは、お引き取り願います」
私は静かに、だが冷徹にそう告げた。
私の平穏な暮らしを脅かす者に、慈悲の余地はない。
【自動清掃(全空間歪み矯正&害虫完全消去):実行】
私の意志に呼応し、スキルが最終段階の執行に入る。
「ぎゃあああああっ!?」
空間の覇者として君臨していたヴェルゼは、拡張された領域の中で「居座る不快な異物」として強制認識された。抵抗する暇すら与えられず、彼は悲鳴を上げる間もなく、眩い光の粒子となって四散し、綺麗に消滅したのだった。
静寂が戻った神殿の中心で、完全に浄化された『創世の神座』が、私の持つスキルと完全に同期を果たした。
『――領域構築。創世の神座を核とし、絶対不可侵要塞を形成します』
頭上に響く厳かな魔導の響きに頷きながら、私はこれまでの冒険で手塩にかけて収穫してきた『天界龍の綿毛』と『サイレント・オパール』を取り出し、次々と神座へと投入した。
神座から放たれたまばゆい光の奔流が、地下深くの遺跡全体を優しく、かつ力強く包み込んでいく。それを合図に、遺跡の無機質な石造りの構造そのものが轟音を立て、外敵の侵入を徹底的に拒絶する巨大な「移動式要塞」へとその姿を劇的に変貌させていく。
正面の壁面には、外の景色や要塞の詳細な稼働状況を神秘的な光の粒子で鮮明に映し出す大型の魔導投影盤が滑らかに展開され、外部のどんな喧騒や魔獣の咆哮をも完全にシャットアウトする絶対防音の結界壁が隙なく構築される。
さらに、一歩足を踏み入れるだけで日々の旅の疲れが嘘のように溶けていく天界龍の綿毛を使った極上のソファが優雅に配置され、室温21.5度と湿度45%の極上環境を常に完璧に維持する環境調整の付与術式が、静かなる魔力の循環とともに稼働を開始した。
外敵の侵入を一切許さない絶対不可侵の安全性と、私がこれまで夢にまで見たすべての理想和機能性を、この限られた空間の隅々にまで極限まで詰め込んだ。




