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【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第一部:Fランクから始める快適部屋づくり編

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第62話:迷宮の「湿気と反響音」というジレンマ

地下大迷宮『無音の奈落』の地下八十階層。

重い鉄の扉を押し開けて一歩足を踏み入れた瞬間、私はその場の環境の酷さに思わず眉間を寄せ、その場でピタリと足を止めた。

「くっ……! 肌にまとわりつくようなこの湿気は一体何なのですか……。おまけに、ちょっとした物音や足音まで不快なほどに反響して、私の静寂を盛大に邪魔してくる……!」

私の眉間に深いシワが刻まれる。室内の快適さだけに特化して生きてきた私にとって、この空間の劣悪さは耐え難いものがあった。湿度が非常に高く、壁や床にはじっとりと不気味な苔が張り付いていて、呼吸をするだけでも肺の奥が重たくなるような不快感に満ちている。

普段の私であれば、即座に【スキル:部屋で快適に過ごす】を展開し、このエリア一帯を完璧な居住空間へと書き換えていたはずだ。しかし、今回は勝手が違った。この地下大迷宮は、どこまでも終わりのない無数の分岐通路が複雑に入り組んで構成されている。壁や天井の概念こそあるものの、空間が細かく枝分かれしすぎており、私のスキルが認識する「単一の部屋」として正しく概念を固定できなかったのだ。

……まったく、これだから仕切りのない構造は困る。壁と天井の区切りがあいまいすぎて、私の細やかな【快適化】の定義からこぼれてしまう。これでは通路全体を一つの「部屋」として綺麗に整えることができなかった。

頭の中で冷静に分析しつつも、私は内心で盛大に溜め息をつく。……はあ、実に面倒だ。

快適な空間作りの基本すらままならない広大すぎる迷宮構造が、私の平穏な作業の障壁となって立ちはだかっている。どれほど手塩にかけてきた日常魔法であっても、この果てしなく続く空間をまるごと一発で整えるのは、どうやら勝手が違うらしい。自分の小さなこだわりが、こんなところで通用しなくなるとは思わなかった。

「ギャギャギャッ……! キィィィーーッ!!」

さらに悪いことに、湿った空気とコンクリートじみた壁面が織りなす迷宮特有の最悪な音響効果によって増幅され、けたたましい鳴き声が頭上から一斉に降ってきた。

音波攻撃を主得意とするS級魔獣――『破滅の音波獣《カタストロフィ・バット》』の大群が、暗闇の中から容赦なく押し寄せてきたのだ。キンキンと耳を刺すような高周波の超音波が、狭い通路の壁に乱反射し、私の繊細な鼓膜と脳髄をダイレクトに直撃する。この殺人的なまでの不快音の奔流は、インドア派である私の精神を容赦なく削り取っていく。

「うぐっ……! 音が……不快な高周波の音が頭に直接響く……! ストレスで頭痛が……思考がまとまらない……!」

「アレク様! しっかりなさってください……!」

アリスが青ざめた顔で私の肩を必死に支えながら、周囲を警戒して叫ぶ。

ガルムも慌てて背負っていた巨大な荷物袋を地面に下ろし、私の前へと素早く躍り出た。

「このクソコウモリどもめ! アレク様の静寂な思考の邪魔をするんじゃねぇ……ッ!」

しかし、絶え間なく響き渡る高音の超音波と、皮膚にまとわりつくような不快な湿度のダブルパンチにより、私の精神的エネルギーはみるみるうちに急降下していく。

もはや華麗に魔法を放つどころか、その場にうずくまって一歩も動きたくない絶望的な倦怠感に陥ってしまった。

完璧なインドア派である私にとって、この環境は戦闘以前に精神的な致命傷となり得ていたのだった。心から安らげる空間を求める私の願いを踏みにじるこの迷宮に対し、私の内側でひそかに鬱屈したストレスが限界値を突破しようとしていた。

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