↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第一部:Fランクから始める快適部屋づくり編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/91

第53話:アレクの制約と「究極の目標」

「……ダメですね、このマットレス。頭と首の隙間に『0.5ミリの違和感』があります……」

 爽やかな朝の光が差し込むベッドの上で、私は重い溜息をついた。

 我がヴァルハイト伯爵家の離れにある自室は、私の【部屋で快適に過ごす】スキルによって常に完璧な環境に保たれている。

 室温は最も心地よい22度、湿度は喉や肌に優しい45%。ホコリ一つ許さない自動清掃の効果も相まって、まさに至高の引きこもり空間だ。

 だが、私のスキルをもってしても、家具そのものが持つ物理的な限界までは覆せなかった。

 どれほど環境を整えようと、土台となるマットレスの内部密度が不足していれば、頭を預けた瞬間にわずかな沈み込みの偏りが生じてしまう。

 この『0.5ミリの違和感』――これこそが、私の健やかな目覚めを阻む巨大な壁だった。

 それに、私には一つ困った弱点がある。

 私のスキルは発動さえすれば、どんな劣悪な環境であっても一瞬で快適な空間へ上書きできる。だが、私のメンタルは自分でも呆れるほど極度に繊細だった。

 スキルを起動するまでのほんの数秒であっても、湿度が50%を超えていたり、空気にわずかな埃っぽさを感じたりしただけで、私の繊細な神経は激しいストレスを感知してしまう。

 すると、一瞬でテンションがどん底まで急降下し、まるで精巧な置物のように一歩も動けなくなってしまうのだ。

「快適さを追求し続けるあまり、不快な環境に置かれると即座に機能停止する」という、インドア派としてあまりにも致命的な体質と言えた。

「アレク様、おはようございます! 朝食のフレンチトーストをお持ちいたしましたよ……あら? どうなさったのですか、そんなに難しそうなお顔をされて?」

 コンコンと控えめなノック音とともに、専属メイドのアリスさんが銀のトレイを手に部屋へ入ってきた。

 トレイの上には、香ばしく焼き上げられたフレンチトーストから甘いバターと蜂蜜の湯言が立ち上っている。

 いつもなら真っ先にフォークを伸ばすところだが、今の私にはそれ以上に解決しなければならない重大な問題があった。

 私はベッドからゆっくりと腰を上げ、真剣そのものの面持ちでアリスさんに向き合った。

「アリスさん。私は決めましたよ。私は……『移動式・絶対不可侵の究極幻影鑑賞室(ホームシアター)付き要塞(マイホーム)』を創り上げることにします」

「……要塞でございますか? いえ、その……げんえいかんしょうしつ……とは……?」

 アリスさんがスープカップを置く手を止め、パチクリと可憐な目を丸くする。

「ダンジョン最深部に眠るという伝説の触媒『創世の神座』を核とし、世界中のあらゆる極上素材を集めて、外敵も不快感も一切寄せ付けない最高の引きこもり空間を完成させるのです。そのために必要な第一の素材を得るため……私は外へ出ます」

「あ、あのアレク様が……『お外』に出られるのですか……!? 太陽の光が差す、あの恐ろしい外の世界に……!?」

 アリスさんは目を見開いたまま、スープカップを手に固まっていた。

 普段まったく屋敷から出ない私が「外出する」と言い出したのだから、無理もない反応だ。

 だが、私の決意は固かった。

 目指すは前人未踏と呼ばれる『S級深層ダンジョン』。

 そしてそこにしか生息しない伝説の超巨大魔獣――『天界龍(グラン・ドラゴン)』の極上綿毛……!

 あの超高密度かつ柔らかで弾力に満ちた綿毛さえ手に入れば、私の頸椎を完璧な角度で包み込み、あの忌々しい0.5ミリの違和感を完全に消し去ってくれる「究極の低反発マットレス」が完成するのだから。

「アリスさん、紅茶のおかわりは帰ってきてからいただきますね」

 理想の安眠を手に入れるため、私は嫌々ながらも、ついにその重い腰を上げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。