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【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第一部:Fランクから始める快適部屋づくり編

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第48話:静かすぎる休日と、裏で粉砕される「国家の刺客」

「……ふぅ。実に静かですね」

 私は自室の窓辺に設置したお気に入りの一人用ロッキングチェアに深く身体を沈め、しみじみと呟いた。

 部屋の温度は一年を通じて完璧な21.5度。湿度も絶妙な45%に保たれている。

 S級ダンジョンの最深部から「回収(お掃除)」してきた『古代式・極上空気浄化の真珠』が微かなマイナスイオンを部屋中に排出し、窓からは秋の柔らかな日差しが心地よく部屋を照らしていた。

 魔王軍の十万の軍勢が、何事もなかったかのように消滅してから数日。

 十万の魔獣軍団および四天王ガルバを「テラス席の美観を損なう不快な異物」として処理してからというもの、私の周りは気味が悪いほどに静穏だった。

 実を言うと、私は少しだけ警戒していたのだ。

 なにしろ十万の軍勢を一瞬で消し去ってしまったのである。物語の展開として考えれば、王宮から「王立騎士団長に就任せよ」だの「魔王を討伐する勇者として出撃せよ」だの、平穏と静寂を何より愛する私にとっては頭の痛い呼び出しやスカウトが殺到するのが普通だろう。

 だが、驚いたことに王宮や騎士団からの干渉は一切ない。

 私のもとに来る郵便物といえば、「今月の水道・光熱費の請求書」と、街のギルドから届く「今月の新刊書籍・娯楽カタログ」くらいのものだ。それどころか、実家の離れの周囲十キロメートルが、いつの間にか王国の公式文書で「特級静音・生活環境保護区域」という謎の公的区域に指定されていた。お陰で近所の工事の音すら聞こえてこない。

「素晴らしい……。国家の上層部というのは、私が思っていた以上に良識的で個人主義を尊重してくれるようですね。静かに部屋で過ごしたいという一市民の意図を完璧に察して配慮してくれるなんて、話がわかる上層部で助かりました」

 私は温かいカフェオレを口にし、満足げに文庫本のページをめくった。

 まさか、その「話がわかる上層部」の裏で、国家の根幹を揺るがすレベルの苛烈すぎる情報統制と裏工作が行われているとは、私は夢にも思っていなかったのである。


 その頃――王都の最深部、地下深くに位置する『国家裏行政監察局』の秘密取調室。

「ひ、ひぃぃぃっ! お許しを! お許しくださいレオン局長ぉぉぉっ!!」

 薄暗い室内で、血の気を完全に失った男が石畳の床にひれ伏し、ガタガタと全身を震わせながら必死に命乞いをしていた。

 男の正体は、隣国『シルフィード帝国』から密かに送り込まれた最高幹部級の暗殺者――『影縫いのジーク』である。

 彼の本来の任務は、王都で十万の軍勢を消滅させたという「Fランクの怪物(アレク)」を危険因子と断定し、暗殺、あるいは特殊な精神呪導で洗脳して帝国へ強制拉致することだった。

 だが、ジークがアレクの離れの敷地に近づくどころか、王都の第一検問所に偽造身分証で足を踏み入れたその瞬間――

『バシャッ!』

 レオンの命を受けた特務魔導隊によって背後から拘束され、叫ぶ間もなく三秒でこの地下監禁室へ引きずり込まれたのだった。

 重厚な執務デスクに肘を突き、冷ややかな眼光でジークを見下ろしているのは、ヴァルハイト伯爵家長男――レオン・ヴァルハイトである。

「……愚かな害虫め。教え込まれなかったのか? 現在、アレクの居住区域から半径十キロメートル以内は『特級静音・安眠保護区域』に指定されている」

「は……はい……!? 安眠保護……!?」

「貴様のような不快な殺気を撒き散らす薄汚い暗殺者が王都に潜入すれば、アレクの快適な読書時間が0.1秒でも乱される可能性があるのだぞ?」

 レオンの声は氷のように冷たかったが、眼鏡の奥の瞳には、常軌を逸した「弟への狂信的な保護欲」が激しく渦巻いていた。

「な……なんだその理不尽な理由はぁぁぁっ!? 俺は帝国の特A級暗殺者だぞ!? 国家的危機なんだぞ!?」

「黙れ。本来なら即刻処刑するところだが、血の匂いが風に乗ってアレクの鼻に届くのも不快だ。世界の果てにある『極寒の永久凍土大坑道』へ終身流刑に処す。二度とアレクの視界に入るな」

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」

 悲鳴を上げるジークが特務隊員によって引きずられていくのを見送り、レオンは白手袋を整えながら優雅に眼鏡の位置を直した。

「ふぅ……これで本日の『政治的・社会的ノイズ』の処理は二十三件目か。……まだまだ甘い。アレクが自室で快適に過ごすためなら、私は国家権力をフル活用し、帝国の全暗殺機関を社会的に抹殺してみせる」

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