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【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第一部:Fランクから始める快適部屋づくり編

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第45話:天才の背中を追う、狂信の十年

ヴァルハイト伯爵家長男、レオン・ヴァルハイトは、幼少期から絶え間ない葛藤と――そして弟に対する深遠な敬愛の中に生きてきた。

 幼い頃のレオンは、誰もが認める神童であった。あらゆる魔法理論を瞬時に理解し、剣を握らせれば大人を打ち負かし、学術の場においては教師すら言葉を失う才覚を示した。周囲の大人たちは彼を「ヴァルハイト家の栄光」と持ち上げ、レオン自身もまた、己がこの国の未来を担う天才なのだと信じて疑わなかった。

 しかし――その自負は、弟アレクが五歳を迎え、教会で『神託の儀』を行ったあの日を境に、変質することになる。

 五歳になったアレクに授けられたスキルは、『部屋で快適に過ごす(ランクF)』という、聞いたこともないような外れスキルであった。

「ヴァルハイト伯爵家からランクFが出た」「何の役にも立たない引きこもりスキル」と、周囲の大人や貴族たちは一斉に失望し、アレクを嘲笑した。

 だが――長男であるレオンだけは、その評価を真っ向から拒絶していた。

(愚かな……教会の測定器ごときが、アレクの内に眠る真の才能を認識できるはずがない。あまりにも高次元すぎる力ゆえに、既存の測定限界を超えて『ランクF』などという不本意な数値が出力されたに過ぎないのだ)

 それからの十年間、アレクは離れに引きこもり、誰とも競わず、ただ黙々と自分のスキルと向き合い続けていた。周囲からは「無能が部屋でいじけているだけ」と見放されていたが、レオンの鋭すぎる知性だけは違った。

 アレクが十年の歳月をかけ、途方もない試行錯誤と地道な検証の末に、自らの『部屋で快適に過ごす』というスキルを「概念そのものの改変」へと昇華させていく過程を、レオンは影からずっと観察し続けていたのだ。

 小さな部屋の清掃から始まり、空間の快適化、温度の最適化、そして概念の遮断――。

 アレク本人は「10年かけてちょっと部屋を過ごしやすく工夫しただけ」という省エネな感覚だったが、レオンの目にはそれが「10年という歳月をかけ、たった一人で世界の物理法則と概念を再構築する神域の術式を作り上げた業」として映っていたのである。

(やはり私の見立てに狂いはなかった……! アレクは10年かけて、世界そのものの概念を書き換える不滅の理論を完成させたのだ……!)

 アレクが世界史の理そのものを塗り替える至高の存在であることを確信したレオンだったが、同時にその胸には一つの巨大な障壁が生まれていた。

(私のような凡庸な兄が、安易にあのアレクの静謐な領域に入っていいはずがない。私の無能な存在そのものが、アレクの至高の世界を汚してしまう……!)

 異常なまでの謙遜、敬愛、そしてリスク回避。

 レオンは弟を愛するがゆえに、直接触れ合い、談笑するという兄としての幸福を自ら封印した。そして「影から至高の弟を支える」という道を選んだのである。

 彼が王立魔法アカデミーを歴代最年少かつ全科目首席という不滅の記録で卒業したのも。

 弱冠二十二歳という異例の若さで王国の情報・行政権力の頂点に上り詰めたのも。

 すべては――ただ一つの目的のため。

(アレクが10年かけて作り上げたあの平和な空間を、誰にも邪魔させない。……そのためならば、私は国家権力だろうと、世界の理だろうと、いくらでも悪魔に差し出してみせる)

 眼鏡の奥で冷たく美しい瞳を光らせ、レオンは今日も弟の平穏を守るため、国家の権力を容赦なく振るい続けているのだった。

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