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【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第1部:『Fランクから始める快適部屋づくり編』

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第43話:アリスの論文と、勝手に結成された「アレク様教」

魔王軍の十万の軍勢が、何事もなかったかのように消滅してから数日。

 私は相変わらず、実家の離れにある自室で最高のインドア生活を堪能していた。

【快適化】の力で常に温度二十二度、湿度四十五%に保たれた聖域。

ふかふかのクッションに身を沈め、温かい紅茶を口に含みながら文庫本をめくる。

「ふぅ……やはりここが地上最高の場所だな」

 文庫本のページを静かに一頁めくる。……今日の私にとっての運動量は、これで十分すぎるほどだ。

 世界がどれほど騒がしくなろうと関係ない。部屋を快適に保ち、余計な労力を使わずにダラダラと過ごす。それこそが至高の日常なのだから。

 だが――私が完璧なインドアライフを満喫しているまさにその瞬間、私のあずかり知らぬ場所で、とんでもない「大騒動」が巻き起こっていた。

 同時刻。王立魔法アカデミー、第一講義室。

「アレク様の素晴らしさを、皆さまが誤解されたままにしておくなんて出来ません! 私が正しくお伝えしなければ……!」

 そう意気込んで自作の論文を携え、母校のアカデミーへ突撃したアリスであったのだが――

 第一講義室には、国中から集まったエリート魔導士や教授陣、そして優秀な生徒たちが詰めかけ、酸欠になりそうなほどの熱気に包まれていた。

 壇上に立っているのは、アレクの「専属掃除係(自称)」であるアリス・フォスターだ。

 彼女は黒板いっぱいに見たこともない複雑な魔法陣と数式を描き連ね、その澄んだ瞳に怪しい情熱の光を宿しながら大演説を打っていた。

「――以上の観察結果から導き出される結論は、ただ一つです!!」

『バン!!』と指示棒で力強く黒板を叩くアリス。

「アレク様の【部屋で快適に過ごす】というスキルは、既存の系統魔法の枠組みなど遥かに超えた――『絶対領域を統べる時空間概念改変術』であります!!」

「「「な……なんだってぇぇぇぇっ!?」」」

 講義室に、地鳴りのような衝撃とどよめきが駆け抜ける。

「ふぁ……少しクッションの高さが合っていないな」

 私は文庫本から目を切り、腰の裏にあてていたクッションを三センチほど上へずらした。

「よし、収まりが良くなった。これで体幹への負荷がさらに減少する」

 最高の姿勢を再構築し、私は満足げに再び本へと視線の焦点を戻した。

「皆さま、思い返してみてください! 先日の四天王ガルバ率いる十万の軍勢の消滅――あの時、アレク様がなさったのは『一本のパラソルを立て、お茶を飲んだ』……ただそれだけです!」

 アリスは手に持った厚さ十センチはあろうかという分厚い論文――『アレク様における絶対空間の構築と概念的環境清掃に関する考察』を誇らしげに高く掲げた。

「なぜか!? それはアレク様が『パラソル下の空間』をテラス席として認識した瞬間、周囲十キロメートルの世界そのものが『アレク様の自室』へと上書きされたからです! その領域内において、アレク様の静寂を脅かす殺気、攻撃、果ては敵の存在そのものが『不快なホコリ・雑音』と判定され、世界の法則によって強制消滅せしめられたのです!!」

「「「……っ!!!(絶句)」」」

 アカデミーの重鎮たる教授たちが、滝のような汗を流しながらガタガタと震え上がった。

「ば……バカな……! 空間を『自分の部屋』と認識するだけで、世界の物理法則そのものを改変しているというのか……!?」

「何という恐ろしい……いや、何という美しく完璧な理論だ……!」

「そうです!」アリスは満足げに胸を張り、両手を高く掲げた。「これぞ、世界を一切傷つけることなく、不快な悪のみを『お掃除』なさる……神の領域! 我らはこの偉大なるアレク様の『快適なる教え』を学び、世界に真の平和をもたらさねばなりません!」

「「「アレク様ぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 感極まったエリート魔導士たちが、次々とその場にひざまずき、涙を流して信仰の声を上げた。

 その日、王立アカデミーの知識層を中心に、恐るべき秘密結社――通称『アレク様教(正式名称:絶対領域快適空間研究会)』が結成されたのだった。

「……なんだか、寒気がするな」

 私は不意に身震いをし、カップの紅茶を一口啜った。

「部屋の湿度が0.1%ほど下がっただろうか……? いや、気のせいか」

 私は首を傾げつつ、そのまま静かに文庫本の次のページをめくるのだった。

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